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第48話 人探し
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着いたのは、質素な石造りの小さな家だった。丸い塔が付いていた。
おばあさまのことだから、ゴージャスな屋敷を想像していたので、拍子抜けした。
とは言え自分が育った館も、大きかったけど華やかではなかった。大体、使用人がいなかった。そのせいで、村人との交流が順調に進んでしまって、平民根性が染みついてしまったのだけど。
町の真ん中からは少し外れていて、隠密活動には、とても都合がいい家に思えた。だって、通りから玄関は見えない。家自体も、木々に覆われて、目立たない。秘密基地だ。何より移動用の絨毯がある。
「よし。ベースは確保できた。順調!」
私は荷物を置いて、外に出た。
今日の私は、町民の格好でしかも男の子。絶対目立たない。保護魔法も軽くかけている。完ぺきだ。
もう、夕方だった。
レイビックは、そこそこ大きな町だったが、悪獣騒ぎがあるせいか、なんとなくざわついていて、人も多かった。
だが、今の時刻は、飲食店が軒を連ねているあたりだけが賑わっていて、店の灯りで明るかった。
戦場はどこかしら。通信魔法を習っておけばよかった。
だが、おばあさまにしろ殿下にしろ、大物過ぎて手紙なんか出せる気がしなかった。
それに、二人とも、超多忙だろう。
一番の小物が、大魔術師のセス様だなんて、どうしたらいいのか。
まず、どこかでご飯にしよう。夕食を食べなくちゃ。
それに、お店での今時の話題は、絶対に、悪獣の話だろうから、情報収集にはぴったりだ。この格好なら、どこへでも気楽に入れるしね。
客が大勢いて、照明の明るい賑やかな店を選んで、ドアを開けて中を見渡した。
ガヤガヤと賑やかで、食事をしながら、ビールのジョッキを傾けているオッサンが、驚くほどたくさんいた。
大きな声の笑い声や話し声が充満していて、私はホッとした。
ドアが開いたからチラ見する人もいたが、すぐに視線は逸らされてしまう。
よかった。
私、その他大勢。
私とちょうど同じくらいの年齢の、茶色の目と金色の巻き毛がとってもかわいい女の子がサービスに走り回っていた。客たちからチョコチョコ声をかけられている。
うん。可愛い女の子はどこでも大人気だよね!
おっさん連中の皿の上には、おいしそうな脂が垂れている肉の串刺しや、皮に焦げ色がついているローストした鶏が乗っかっていた。これはどちらにするか、悩みどころだ。庶民男子の格好ならガブリついても文句は出ない。いつかやってみたかったの。チャンスだわ。
「あら?」
にもかかわらず、店の給仕の女の子が大注目してきた。
「あなた、女の子よね?」
ああああ……?
なぜ気付く?
まわりにいた男どもが、たちまち関心を寄せ始めた。
「どうした、メアリ」
「なになに? その子、女の子なの?」
この町は、どの店も客の男性比率がやたらに多かったのだ。
同じ年ごろの女性が給仕をしている店があったので、そこに入ったのだ。
だって、男ばっかりって怖いんだもん。
しかし、女性は目が鋭くて……顔を見られた途端にバレてしまった。
「珍しいわね。しかも男の子のなりじゃない」
「男の子よ!」
私は強く抗議した。だが、彼女の方が強かった。
笑い出した。
「時々来るのよね~。大体が恋人を追ってやって来るの」
いえ。それだけは違います。
「間違いないわ」
彼女は決め付けた。
「もしかして、片思い?」
「とんでもありません!」
「じゃあ、恋人同士なんじゃない!」
ちょっと嬉しそうだ。
全然違います!
だが、どんどん的外れになっていく……。いいですか? 私は戦況を見るに見かねて、やって来たんです!
共に戦おう!……の精神なんです!
まあ、戦力はないので、何言ってるんだになりそうだけど。
「そうじゃないかって、思ってたんだよね」
ドア近くで、ビールを飲んでいた髭面の男がでかい声で言った。
ええええ?
「男にしちゃ、細すぎるし、顔がかわいいもん」
ええええ?
保護魔法の威力、どこいった?
ニヤニヤしながら、ビールの泡を髭にくっつけたままの男と、その周りのお連れ様たちが一様にうなずいた。
「女の子に手を出さないで! このお店は、そんな店じゃありません!」
メアリ嬢がえらそうに叫んだ。
よかった。穏便にすみそう。
戦闘系の魔術はどうも苦手だが、一応研究はしてみたのよ。人をハゲにする魔法と、踊ってみたと歌ってみたの魔法は出来そうな気がする。授業でそんな魔法、教える訳ないので、本で勉強しただけだけど。
ただ、人体実験出来なかったので、すごく残念だったの。
今日トライしたら結果が出せるわ。あと、巻き爪になる魔法も地味に効くと思う。
どれも決定力はないと思うけど、「踊ってみた」と「歌ってみた」は、本人の戦闘能力がゼロになるから、特に有効だと思うな。ちょっとやってみたい。
もし、誰かが手を出してきたら、やってみてもいいよね?
「お客さまは大切に!」
メアリ嬢に注意された。
おお、しまった。ビールの髭面も客だった。
「この女の子は当店のお客様です!」
うお、客って私のことか。そりゃそうか。
彼女は親切そうな子だった。この店の店主の娘だと言う。
「どこから来たのか知らないけど、あなたの恋人も魔力持ちなんでしょう? 今度の相手は悪獣ですものね」
彼女は親しげに私に向かって言った。
「ええ。まあ」
恋人ができるとしたら、魔力持ちかな。でないと、私には付き合いきれないと思うんだよね。
あと、私の知り合いは全員魔力持ちだ。バスター君も含めて。
「私のルイも魔力持ちなの」
得意そうだ。
「ルイって?」
誰やねん。
「私の恋人よ。すごい魔力持ちなの」
ものすごく誇らしげだ。
「ルイは漆黒の闇の帝王、ルロード様の第一舎弟なのよ! 取り立てていただいたの。今では紅蓮の懐刀と言う二つ名を名乗ってるの」
「え?」
それって……何かを思い起こさせる。そう。知り合いに、そんなこと言い出しそうな人物がいるんですが? 仲間?
「ルロード様は類まれなる魔力の持ち主で、黒地に銀のマントを羽織ってらして、眼帯をしているの。邪眼は人前に出せないって。すごくすごくカッコよくてー」
「え……そうかな?」
私は言葉を濁した。
その安易なネーミング。まさかと思うけど……セス様じゃないよね?
おばあさまのことだから、ゴージャスな屋敷を想像していたので、拍子抜けした。
とは言え自分が育った館も、大きかったけど華やかではなかった。大体、使用人がいなかった。そのせいで、村人との交流が順調に進んでしまって、平民根性が染みついてしまったのだけど。
町の真ん中からは少し外れていて、隠密活動には、とても都合がいい家に思えた。だって、通りから玄関は見えない。家自体も、木々に覆われて、目立たない。秘密基地だ。何より移動用の絨毯がある。
「よし。ベースは確保できた。順調!」
私は荷物を置いて、外に出た。
今日の私は、町民の格好でしかも男の子。絶対目立たない。保護魔法も軽くかけている。完ぺきだ。
もう、夕方だった。
レイビックは、そこそこ大きな町だったが、悪獣騒ぎがあるせいか、なんとなくざわついていて、人も多かった。
だが、今の時刻は、飲食店が軒を連ねているあたりだけが賑わっていて、店の灯りで明るかった。
戦場はどこかしら。通信魔法を習っておけばよかった。
だが、おばあさまにしろ殿下にしろ、大物過ぎて手紙なんか出せる気がしなかった。
それに、二人とも、超多忙だろう。
一番の小物が、大魔術師のセス様だなんて、どうしたらいいのか。
まず、どこかでご飯にしよう。夕食を食べなくちゃ。
それに、お店での今時の話題は、絶対に、悪獣の話だろうから、情報収集にはぴったりだ。この格好なら、どこへでも気楽に入れるしね。
客が大勢いて、照明の明るい賑やかな店を選んで、ドアを開けて中を見渡した。
ガヤガヤと賑やかで、食事をしながら、ビールのジョッキを傾けているオッサンが、驚くほどたくさんいた。
大きな声の笑い声や話し声が充満していて、私はホッとした。
ドアが開いたからチラ見する人もいたが、すぐに視線は逸らされてしまう。
よかった。
私、その他大勢。
私とちょうど同じくらいの年齢の、茶色の目と金色の巻き毛がとってもかわいい女の子がサービスに走り回っていた。客たちからチョコチョコ声をかけられている。
うん。可愛い女の子はどこでも大人気だよね!
おっさん連中の皿の上には、おいしそうな脂が垂れている肉の串刺しや、皮に焦げ色がついているローストした鶏が乗っかっていた。これはどちらにするか、悩みどころだ。庶民男子の格好ならガブリついても文句は出ない。いつかやってみたかったの。チャンスだわ。
「あら?」
にもかかわらず、店の給仕の女の子が大注目してきた。
「あなた、女の子よね?」
ああああ……?
なぜ気付く?
まわりにいた男どもが、たちまち関心を寄せ始めた。
「どうした、メアリ」
「なになに? その子、女の子なの?」
この町は、どの店も客の男性比率がやたらに多かったのだ。
同じ年ごろの女性が給仕をしている店があったので、そこに入ったのだ。
だって、男ばっかりって怖いんだもん。
しかし、女性は目が鋭くて……顔を見られた途端にバレてしまった。
「珍しいわね。しかも男の子のなりじゃない」
「男の子よ!」
私は強く抗議した。だが、彼女の方が強かった。
笑い出した。
「時々来るのよね~。大体が恋人を追ってやって来るの」
いえ。それだけは違います。
「間違いないわ」
彼女は決め付けた。
「もしかして、片思い?」
「とんでもありません!」
「じゃあ、恋人同士なんじゃない!」
ちょっと嬉しそうだ。
全然違います!
だが、どんどん的外れになっていく……。いいですか? 私は戦況を見るに見かねて、やって来たんです!
共に戦おう!……の精神なんです!
まあ、戦力はないので、何言ってるんだになりそうだけど。
「そうじゃないかって、思ってたんだよね」
ドア近くで、ビールを飲んでいた髭面の男がでかい声で言った。
ええええ?
「男にしちゃ、細すぎるし、顔がかわいいもん」
ええええ?
保護魔法の威力、どこいった?
ニヤニヤしながら、ビールの泡を髭にくっつけたままの男と、その周りのお連れ様たちが一様にうなずいた。
「女の子に手を出さないで! このお店は、そんな店じゃありません!」
メアリ嬢がえらそうに叫んだ。
よかった。穏便にすみそう。
戦闘系の魔術はどうも苦手だが、一応研究はしてみたのよ。人をハゲにする魔法と、踊ってみたと歌ってみたの魔法は出来そうな気がする。授業でそんな魔法、教える訳ないので、本で勉強しただけだけど。
ただ、人体実験出来なかったので、すごく残念だったの。
今日トライしたら結果が出せるわ。あと、巻き爪になる魔法も地味に効くと思う。
どれも決定力はないと思うけど、「踊ってみた」と「歌ってみた」は、本人の戦闘能力がゼロになるから、特に有効だと思うな。ちょっとやってみたい。
もし、誰かが手を出してきたら、やってみてもいいよね?
「お客さまは大切に!」
メアリ嬢に注意された。
おお、しまった。ビールの髭面も客だった。
「この女の子は当店のお客様です!」
うお、客って私のことか。そりゃそうか。
彼女は親切そうな子だった。この店の店主の娘だと言う。
「どこから来たのか知らないけど、あなたの恋人も魔力持ちなんでしょう? 今度の相手は悪獣ですものね」
彼女は親しげに私に向かって言った。
「ええ。まあ」
恋人ができるとしたら、魔力持ちかな。でないと、私には付き合いきれないと思うんだよね。
あと、私の知り合いは全員魔力持ちだ。バスター君も含めて。
「私のルイも魔力持ちなの」
得意そうだ。
「ルイって?」
誰やねん。
「私の恋人よ。すごい魔力持ちなの」
ものすごく誇らしげだ。
「ルイは漆黒の闇の帝王、ルロード様の第一舎弟なのよ! 取り立てていただいたの。今では紅蓮の懐刀と言う二つ名を名乗ってるの」
「え?」
それって……何かを思い起こさせる。そう。知り合いに、そんなこと言い出しそうな人物がいるんですが? 仲間?
「ルロード様は類まれなる魔力の持ち主で、黒地に銀のマントを羽織ってらして、眼帯をしているの。邪眼は人前に出せないって。すごくすごくカッコよくてー」
「え……そうかな?」
私は言葉を濁した。
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