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第28話 おばあさま登場
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アランソン公爵令嬢たちは馬車で、王宮内の別な場所へ連れていかれたらしい。
私は宮廷内の広間に、殿下のエスコートで通された。
みすぼらしい灰色の、使用人でさえ着ないようなボロボロの服のままで。
中にはかなりの人数の人達が詰めていた。
平民だし、お金がないのだから、これでいいと開き直っていた私だけど、宮廷内でこの服は、いたたまれないを通り越して、どうしたらいいか分からなくなった。
しかも、殿下は宝物でも扱うような丁重な物腰だった。
廊下で通りすがる人々は、殿下に向かって道をあけ、必ず頭を低くして敬意を表す。
すると、殿下にエスコートされている私にも頭を下げる結果になり、これって正しいの?と私はますます縮こまった。
「殿下、なぜ、こんなところへ?」
だが、中で待っていた人の姿に気がついた。
「おばあさま?」
おばあさまだった。宮廷でも堂々としている。そしてその姿は、この広間において、なんの違和感もなかった。
今、気がついた。
なぜ、おばあさまが王宮にいるのか、わからない。だけど、学校に通うようになってから、わかってきたことがあった。
うちのおばあさま、バリバリの貴族だ。
おばあさまは、田舎の屋敷でもずっと宮廷服のドレスか、それに準じた格好をしていたのだ。
しゃべり方だって違うし。
それで、村人たちが「変」と言っていたのだ。
「ポーシャ!」
だけど、私は、おばあさまに抱きついた。なつかしい、嬉しい!
「おばあさま!」
田舎を出て、おばあさまから離れてからいろんな目に遭った。
平民だってそしられた。
一番の思い出は鉄扇でぶたれたこと。
あんなの生まれて初めてだった。
おばあさまだ。なつかしいおばあさまの香水の匂いがする。
「おばあさまと帰るー」
私は泣き出した。
「ポーシャ」
おばあさまは私の頭を撫でながら、微笑んで言った。
「ずいぶんポーションの勉強をしたのね」
「いいえ! だって、実技をさせてくれないの。ポーションの先生が意地悪で、平民だから、見学だけって」
「あら? でも相当魔法力使ったみたいだけど?」
「あ、それは……」
泥棒魔法をめちゃくちゃ使ったから。
泥棒魔法の内容は、ちょっと説明しにくい。
「予定よりずっと早く成長しちゃって。あなたの保護魔法が誕生日前に解けてしまったわ」
おばあさまにしては緻密で精巧な魔法だったわ。
「私が最大出力であなたに保護魔法をかけたのよ。設定はセスに頼んだけど」
……設定はセス様か。そうか。なるほどな。そしてやたらに堅牢な魔法だったのは、おばあさまがパワー全開でかけたからだと。
色々と納得のいった話だった。大雑把なおばあさまにこの魔法は無理だ。
だんだん魔法のルールや仕組みがわかってくるにつれ、ちょっとおかしいなと思っていた。
大好きなおばあさま。だけど、おばあさまは、誰だったの?
私のおばあさまは?
「ベリー公爵夫人」
殿下がうやうやしく話しかけた。
「ポーシャ嬢をお連れしました」
「ありがとう。ルーカス殿下」
おばあさまは平然とこたえた。
「婚約者のお役目、ご苦労様でした。保護膜がなくなったと言うことは、相当な魔力を得たのだと思うわ。そろそろ一人前ね、ポーシャ」
おばあさまは私を見て、にっこり笑った。嬉しそう。
「魔力はね、必要があって、絶対がんばらなくちゃって、思わないと身につかないの」
おばあさまは言った。
「でも、おばあさまは心配性で。あなたがつらい思いをするかと思うと判断がつかず、なかなか手放せなかった。結局はルーカス殿下の婚約者と言う形で王家にお願いしてしまったの」
……なんですって?
「僕は君の婚約者だ」
おずおずと殿下が言った。
……と言うことは? 私がちっとも殿下の言うことを信じなかったから、殿下は私を守りたくても守れずに……
いや、でも、あの溺愛劇場形式の守りは正しかったのかどうか?
あれ、余計な反発を買っただけでは?
殿下がおばあさまに向かって言った。
「ベリー公爵夫人、これまでポーシャ嬢が本来の姿ではなかったため、あいまいなままでしたが、夫人から、アランソン公爵領はポーシャ嬢のものだと宣言してくださいませんか」
おばあさまは殿下に視線を向け、厳かに言った。
「まあ、アランソン公爵家の遠縁に過ぎないジョン・スターリンに好き放題させるわけにはいきませんからね。アランソン公爵を名乗っているジョン・スターリンを呼んできなさい」
ここは王宮の広間なのに、おばあさまは、その場に控えていた侍従たちに、わがもの顔に命令した。
そして、その人たちがいかにも心得ました、みたいな感じにサササッと行動していく様子を私はあっけに取られて見ていた。
王宮の侍従、つまり王家の使用人を顎で使うだなんて。おばあさま、何者なの?
それに、アランソン公爵って、すごい権力者ではなかったの? 呼びつけちゃって大丈夫なのかしら?
「私が来ていることは連絡が入っているはずだから、すぐ来ると思うわ」
おばあさまは涼しい顔をして、扇で顔を仰いだ。
私は宮廷内の広間に、殿下のエスコートで通された。
みすぼらしい灰色の、使用人でさえ着ないようなボロボロの服のままで。
中にはかなりの人数の人達が詰めていた。
平民だし、お金がないのだから、これでいいと開き直っていた私だけど、宮廷内でこの服は、いたたまれないを通り越して、どうしたらいいか分からなくなった。
しかも、殿下は宝物でも扱うような丁重な物腰だった。
廊下で通りすがる人々は、殿下に向かって道をあけ、必ず頭を低くして敬意を表す。
すると、殿下にエスコートされている私にも頭を下げる結果になり、これって正しいの?と私はますます縮こまった。
「殿下、なぜ、こんなところへ?」
だが、中で待っていた人の姿に気がついた。
「おばあさま?」
おばあさまだった。宮廷でも堂々としている。そしてその姿は、この広間において、なんの違和感もなかった。
今、気がついた。
なぜ、おばあさまが王宮にいるのか、わからない。だけど、学校に通うようになってから、わかってきたことがあった。
うちのおばあさま、バリバリの貴族だ。
おばあさまは、田舎の屋敷でもずっと宮廷服のドレスか、それに準じた格好をしていたのだ。
しゃべり方だって違うし。
それで、村人たちが「変」と言っていたのだ。
「ポーシャ!」
だけど、私は、おばあさまに抱きついた。なつかしい、嬉しい!
「おばあさま!」
田舎を出て、おばあさまから離れてからいろんな目に遭った。
平民だってそしられた。
一番の思い出は鉄扇でぶたれたこと。
あんなの生まれて初めてだった。
おばあさまだ。なつかしいおばあさまの香水の匂いがする。
「おばあさまと帰るー」
私は泣き出した。
「ポーシャ」
おばあさまは私の頭を撫でながら、微笑んで言った。
「ずいぶんポーションの勉強をしたのね」
「いいえ! だって、実技をさせてくれないの。ポーションの先生が意地悪で、平民だから、見学だけって」
「あら? でも相当魔法力使ったみたいだけど?」
「あ、それは……」
泥棒魔法をめちゃくちゃ使ったから。
泥棒魔法の内容は、ちょっと説明しにくい。
「予定よりずっと早く成長しちゃって。あなたの保護魔法が誕生日前に解けてしまったわ」
おばあさまにしては緻密で精巧な魔法だったわ。
「私が最大出力であなたに保護魔法をかけたのよ。設定はセスに頼んだけど」
……設定はセス様か。そうか。なるほどな。そしてやたらに堅牢な魔法だったのは、おばあさまがパワー全開でかけたからだと。
色々と納得のいった話だった。大雑把なおばあさまにこの魔法は無理だ。
だんだん魔法のルールや仕組みがわかってくるにつれ、ちょっとおかしいなと思っていた。
大好きなおばあさま。だけど、おばあさまは、誰だったの?
私のおばあさまは?
「ベリー公爵夫人」
殿下がうやうやしく話しかけた。
「ポーシャ嬢をお連れしました」
「ありがとう。ルーカス殿下」
おばあさまは平然とこたえた。
「婚約者のお役目、ご苦労様でした。保護膜がなくなったと言うことは、相当な魔力を得たのだと思うわ。そろそろ一人前ね、ポーシャ」
おばあさまは私を見て、にっこり笑った。嬉しそう。
「魔力はね、必要があって、絶対がんばらなくちゃって、思わないと身につかないの」
おばあさまは言った。
「でも、おばあさまは心配性で。あなたがつらい思いをするかと思うと判断がつかず、なかなか手放せなかった。結局はルーカス殿下の婚約者と言う形で王家にお願いしてしまったの」
……なんですって?
「僕は君の婚約者だ」
おずおずと殿下が言った。
……と言うことは? 私がちっとも殿下の言うことを信じなかったから、殿下は私を守りたくても守れずに……
いや、でも、あの溺愛劇場形式の守りは正しかったのかどうか?
あれ、余計な反発を買っただけでは?
殿下がおばあさまに向かって言った。
「ベリー公爵夫人、これまでポーシャ嬢が本来の姿ではなかったため、あいまいなままでしたが、夫人から、アランソン公爵領はポーシャ嬢のものだと宣言してくださいませんか」
おばあさまは殿下に視線を向け、厳かに言った。
「まあ、アランソン公爵家の遠縁に過ぎないジョン・スターリンに好き放題させるわけにはいきませんからね。アランソン公爵を名乗っているジョン・スターリンを呼んできなさい」
ここは王宮の広間なのに、おばあさまは、その場に控えていた侍従たちに、わがもの顔に命令した。
そして、その人たちがいかにも心得ました、みたいな感じにサササッと行動していく様子を私はあっけに取られて見ていた。
王宮の侍従、つまり王家の使用人を顎で使うだなんて。おばあさま、何者なの?
それに、アランソン公爵って、すごい権力者ではなかったの? 呼びつけちゃって大丈夫なのかしら?
「私が来ていることは連絡が入っているはずだから、すぐ来ると思うわ」
おばあさまは涼しい顔をして、扇で顔を仰いだ。
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