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第21話 バスターくんとの出会い
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バスター君との出会いは、もちろんポーションの教室だ。
彼は、背が低くて色白で赤毛で、太り気味で、ちょっともたもたした感じがあった。手先が器用そうには見えない。
ポーション作りで困り果てているのが、傍目にもよくわかった。
「見てよ、バスター・ハウエル」
誰かが冷ややかにささやいた。
「大きな薬物商人の息子だっていうのにね」
「三年ほど前、男爵位を買ったそうよ?」
「魔力Eランクでポーション作りは無理よね」
そうなのかあ。
でも、彼が私の興味をそそったのは、「大きな薬物商人」のくだりである。
薬物商人!
是非ともお知り合いになりたい。ポーションを作る方には興味があるが、ポーションだって売れなきゃ何にもならない。販路については、頭を悩ませていたところだ。
何なら結婚したい位だ。
彼は相当困っていた。私は教室で話しかける訳にはいかなかったから、授業が終わってから話しかけてみたのだ。
「バスター様」
彼はトボトボ一人で歩いて、多分昼食を取りに食堂へ行くところだった。
声をかけられて、かなり驚いた様子だった。
「初めまして。平民のポーシャって言います。話しかけて、申し訳ございません」
彼は黙っていた。そりゃそうだろう。平民から話しかけられるだなんて、ちっとも嬉しくないだろう。
「同じポーションのクラスにおります。私、昔、自分の家でポーション作りを生業にしておりました」
「え?」
さすがに、彼もこれには驚いたようだった。平民にポーション作りはいないと言われている。
「平民ですが、家族で作っておりました」
おばあさまも作らなくはない。だから、嘘ではない。
「へええ。そんな家あるの。貴族の家から、自分の関係の工房に入れって、声はかからないの?」
「私には細かいことは分かりません。父の問題ですから」
いや、本当になんでお目こぼしになっていたんだろう。知らん。
「で、私、ポーションの勉強をしたかったのですが、平民なので実験には参加できないんです」
「そうなのか」
「はい」
彼の家は三年前までは、爵位がなかったという。バリバリの平民だ。ちょっとくらい同情してくれないかな。
「君は、平民でも作れるのにって、僕を馬鹿にしに来たの?」
残念でした。逆回転しました。
「とんでもございません!」
「僕が、今日、一つも作れなかったことをあげつらいにきたのか!」
一つもできなかったのか。本格的に才能ないな。
「来週までに、先週分も含めて全部作れと、あの太鼓腹の先生に言われているんだ。できなかったら、クラスをやめろと」
「え?」
退クラス処分?
「あ、でも、私、退学しろって、この間、言われましたよ」
必死で慰めた。お知り合いになりたい。
「ええ?」
安心してください。もっと、悲惨な人間だっていますから。
「君、何しでかしたの?」
いけない、いけない。警戒されてしまう。
「私、平民なんです。なので、貴族の方に話しかけてはいけないって言われているんです。だけど、今みたいに、貴族の方に話しかけたところを見つかってしまって」
「そんなことで退学になるの?」
彼はいささか出目金気味の目をむいて、驚いたように聞き返した。
「ならないんですけど、先生からひどく叱られました。その時は、話しかけられたので答えてしまったんですが、なにしろ、相手がすごく身分の高い方だったらしくて、それがまずかったんですね」
「男爵家はどうだろうか? 男爵家ってそんなに身分高くないと思うけど、僕と話すと叱られるのかなあ?」
その辺のレベルの話は、よくわからない。一応説明した。
「その時の相手が王族だったので」
バスター君は、なるほどと言った顔に落ち着いた。そしてコックリした。
「そうだね。王族に話しかけたら……僕だって、叱り飛ばされると思うよ」
「私なんか、平民ですから、尚更です。あまり怒るもんで、思わず退学届を出したらすんなり受理されました」
「じゃあ、どうしてまだここにいるの?」
「そりゃ、向こうから話しかけたからでしょう。私から話しかけたわけではないので」
「なるほど」
「で、うやむやになって、まだここにいます」
「君も大変だな」
彼は相当打ち解けてくれた。
まあ、男爵家でも色々あるのだろう。そして、魔法力はどうやらほぼ家格に比例するらしく、魔法の授業で出来の悪い下位の貴族は、やっぱりな、とか言われて苦労するらしい。
「数学や会計が得意なら、そちらに注力なさったらどうですか?」
流石に私は言ってみた。彼は、ちっとも頭は悪そうでなく、数字なら得意だというのだもの。商売には数字は大事ではないだろうか。
「でも、優れたポーション作りはウチの商売には絶対必要なんだ。息子の僕にちょっとでも魔力があるなら、親父は石にしがみついてでも頑張れって……だけど……」
彼は黙って自分の手に目を落とした。
家族全員、魔力はないそうである。彼一人だけが、いかなる奇跡かEランクとはいえ、魔力を持っていたのだ。
家族の期待を一身に背負った彼が押しつぶされそうになるのは無理もない。
私は、彼に、私が代わりにポーションを作りましょうかと持ちかけるつもりだった。
なにしろ、授業で教わった新しいポーションをいくら作成できても、効果の程がわからないのだ。
学校で作るような簡単で安全なものなので、失敗しても毒ではない。たかだか不味い薬草ジュースみたいなものだ。したがって出荷したところで問題はないので、生徒謹製として安く市販され、効き目が良いか悪いかを採点されるのだ。
だが、実技のない私は、ポーションを作れない。従って、採点してもらえない。
これが問題だった。
だから、どうも、ポーションを作れていなさそうなバスター君に、めちゃくちゃ注目していたのだ。
だけど、彼の事情を聞くと、代わりに私が作ったポーションを提出させてくれという申し出が、彼のためになるのかどうか、心配になってきた。
多分、私のポーションは合格点は取れると思う。そんなに効果抜群ではないかもしれないけど。
でも、バスター君の家族をぬか喜びさせてしまうのではないか?
「学校へ行く以上、せめて、優秀なポーション作りを引き抜いてこいって、言われてるんだ」
バスター君が悔しそうに言った。
「おおっ!」
私はピンときた。
これは渡りに船というやつではないだろうか。カモネギとか、七面鳥がクリスマスにやって来たとか。
「私のポーションを使いませんか?」
私は提案してみた。
「え?」
バスター君は驚いた。
「ないよりいいじゃありませんか。もし、成績が悪くても、そこは退クラスよりマシですよ。もし効果があるポーションだったら、それはそれでいいじゃないですか」
「え、でも、君、君の方はそれでいいの?」
「もちろん。だって、授業で実技をさせてもらえないので、試作のポーションの効果の良し悪しが全然わからないんです。あなたが代わりに出してくれたら、ちゃんとしたものができたかどうかわかるじゃありませんか」
「そうか……」
「そうですとも。そして、もし、いいものが出来ていたら、腕のいいポーション作り発見ですよ」
バスター君の目がキラっと光った。
「うん。そうだね。いいね。是非頼むよ」
こうして、私たち二人は合意に達したのだった。
そして、作る場所がないから、ここモンフォール街十八番地へやってきた。
バスター君は先週分も作れずにため込んでしまったらしいので、二週間分作らなくてはならない。結構大変だ。
それに、たまにしか来ないから、きちんと後始末と掃除をしなくてはならなかった。
「はああ。生活魔法を知らなかったら、困ったことになっているところだった。あ、そうそう」
ついでに泥棒魔法宅配便の逆ルートを使って、できたポーションは全部自室に送っておこう。
もう、だいぶ遅くなってしまった。休み一日が丸潰れだ。
早く帰りたいが、宅配魔法では自分は送れない。殿下の転移魔法、魔法のじゅうたんが欲しいところだ。
「そういえば、殿下のデート、うまくいったかな?」
一日中、忙しくて、殿下のことはすっかり忘れていた。
真剣に考えたら、殿下は確かに恋人を欲しがっているようなところはあったが、具体的にどうしたいのかをあまり聞いたことはなかった。
あれだけよく喋るのに、何だかはっきり言わないところがある。
とりあえず、今日は疲れた。門限までに帰らないと、話がややこしくなる。
私はせっせと学校に向かって歩いた。
彼は、背が低くて色白で赤毛で、太り気味で、ちょっともたもたした感じがあった。手先が器用そうには見えない。
ポーション作りで困り果てているのが、傍目にもよくわかった。
「見てよ、バスター・ハウエル」
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「三年ほど前、男爵位を買ったそうよ?」
「魔力Eランクでポーション作りは無理よね」
そうなのかあ。
でも、彼が私の興味をそそったのは、「大きな薬物商人」のくだりである。
薬物商人!
是非ともお知り合いになりたい。ポーションを作る方には興味があるが、ポーションだって売れなきゃ何にもならない。販路については、頭を悩ませていたところだ。
何なら結婚したい位だ。
彼は相当困っていた。私は教室で話しかける訳にはいかなかったから、授業が終わってから話しかけてみたのだ。
「バスター様」
彼はトボトボ一人で歩いて、多分昼食を取りに食堂へ行くところだった。
声をかけられて、かなり驚いた様子だった。
「初めまして。平民のポーシャって言います。話しかけて、申し訳ございません」
彼は黙っていた。そりゃそうだろう。平民から話しかけられるだなんて、ちっとも嬉しくないだろう。
「同じポーションのクラスにおります。私、昔、自分の家でポーション作りを生業にしておりました」
「え?」
さすがに、彼もこれには驚いたようだった。平民にポーション作りはいないと言われている。
「平民ですが、家族で作っておりました」
おばあさまも作らなくはない。だから、嘘ではない。
「へええ。そんな家あるの。貴族の家から、自分の関係の工房に入れって、声はかからないの?」
「私には細かいことは分かりません。父の問題ですから」
いや、本当になんでお目こぼしになっていたんだろう。知らん。
「で、私、ポーションの勉強をしたかったのですが、平民なので実験には参加できないんです」
「そうなのか」
「はい」
彼の家は三年前までは、爵位がなかったという。バリバリの平民だ。ちょっとくらい同情してくれないかな。
「君は、平民でも作れるのにって、僕を馬鹿にしに来たの?」
残念でした。逆回転しました。
「とんでもございません!」
「僕が、今日、一つも作れなかったことをあげつらいにきたのか!」
一つもできなかったのか。本格的に才能ないな。
「来週までに、先週分も含めて全部作れと、あの太鼓腹の先生に言われているんだ。できなかったら、クラスをやめろと」
「え?」
退クラス処分?
「あ、でも、私、退学しろって、この間、言われましたよ」
必死で慰めた。お知り合いになりたい。
「ええ?」
安心してください。もっと、悲惨な人間だっていますから。
「君、何しでかしたの?」
いけない、いけない。警戒されてしまう。
「私、平民なんです。なので、貴族の方に話しかけてはいけないって言われているんです。だけど、今みたいに、貴族の方に話しかけたところを見つかってしまって」
「そんなことで退学になるの?」
彼はいささか出目金気味の目をむいて、驚いたように聞き返した。
「ならないんですけど、先生からひどく叱られました。その時は、話しかけられたので答えてしまったんですが、なにしろ、相手がすごく身分の高い方だったらしくて、それがまずかったんですね」
「男爵家はどうだろうか? 男爵家ってそんなに身分高くないと思うけど、僕と話すと叱られるのかなあ?」
その辺のレベルの話は、よくわからない。一応説明した。
「その時の相手が王族だったので」
バスター君は、なるほどと言った顔に落ち着いた。そしてコックリした。
「そうだね。王族に話しかけたら……僕だって、叱り飛ばされると思うよ」
「私なんか、平民ですから、尚更です。あまり怒るもんで、思わず退学届を出したらすんなり受理されました」
「じゃあ、どうしてまだここにいるの?」
「そりゃ、向こうから話しかけたからでしょう。私から話しかけたわけではないので」
「なるほど」
「で、うやむやになって、まだここにいます」
「君も大変だな」
彼は相当打ち解けてくれた。
まあ、男爵家でも色々あるのだろう。そして、魔法力はどうやらほぼ家格に比例するらしく、魔法の授業で出来の悪い下位の貴族は、やっぱりな、とか言われて苦労するらしい。
「数学や会計が得意なら、そちらに注力なさったらどうですか?」
流石に私は言ってみた。彼は、ちっとも頭は悪そうでなく、数字なら得意だというのだもの。商売には数字は大事ではないだろうか。
「でも、優れたポーション作りはウチの商売には絶対必要なんだ。息子の僕にちょっとでも魔力があるなら、親父は石にしがみついてでも頑張れって……だけど……」
彼は黙って自分の手に目を落とした。
家族全員、魔力はないそうである。彼一人だけが、いかなる奇跡かEランクとはいえ、魔力を持っていたのだ。
家族の期待を一身に背負った彼が押しつぶされそうになるのは無理もない。
私は、彼に、私が代わりにポーションを作りましょうかと持ちかけるつもりだった。
なにしろ、授業で教わった新しいポーションをいくら作成できても、効果の程がわからないのだ。
学校で作るような簡単で安全なものなので、失敗しても毒ではない。たかだか不味い薬草ジュースみたいなものだ。したがって出荷したところで問題はないので、生徒謹製として安く市販され、効き目が良いか悪いかを採点されるのだ。
だが、実技のない私は、ポーションを作れない。従って、採点してもらえない。
これが問題だった。
だから、どうも、ポーションを作れていなさそうなバスター君に、めちゃくちゃ注目していたのだ。
だけど、彼の事情を聞くと、代わりに私が作ったポーションを提出させてくれという申し出が、彼のためになるのかどうか、心配になってきた。
多分、私のポーションは合格点は取れると思う。そんなに効果抜群ではないかもしれないけど。
でも、バスター君の家族をぬか喜びさせてしまうのではないか?
「学校へ行く以上、せめて、優秀なポーション作りを引き抜いてこいって、言われてるんだ」
バスター君が悔しそうに言った。
「おおっ!」
私はピンときた。
これは渡りに船というやつではないだろうか。カモネギとか、七面鳥がクリスマスにやって来たとか。
「私のポーションを使いませんか?」
私は提案してみた。
「え?」
バスター君は驚いた。
「ないよりいいじゃありませんか。もし、成績が悪くても、そこは退クラスよりマシですよ。もし効果があるポーションだったら、それはそれでいいじゃないですか」
「え、でも、君、君の方はそれでいいの?」
「もちろん。だって、授業で実技をさせてもらえないので、試作のポーションの効果の良し悪しが全然わからないんです。あなたが代わりに出してくれたら、ちゃんとしたものができたかどうかわかるじゃありませんか」
「そうか……」
「そうですとも。そして、もし、いいものが出来ていたら、腕のいいポーション作り発見ですよ」
バスター君の目がキラっと光った。
「うん。そうだね。いいね。是非頼むよ」
こうして、私たち二人は合意に達したのだった。
そして、作る場所がないから、ここモンフォール街十八番地へやってきた。
バスター君は先週分も作れずにため込んでしまったらしいので、二週間分作らなくてはならない。結構大変だ。
それに、たまにしか来ないから、きちんと後始末と掃除をしなくてはならなかった。
「はああ。生活魔法を知らなかったら、困ったことになっているところだった。あ、そうそう」
ついでに泥棒魔法宅配便の逆ルートを使って、できたポーションは全部自室に送っておこう。
もう、だいぶ遅くなってしまった。休み一日が丸潰れだ。
早く帰りたいが、宅配魔法では自分は送れない。殿下の転移魔法、魔法のじゅうたんが欲しいところだ。
「そういえば、殿下のデート、うまくいったかな?」
一日中、忙しくて、殿下のことはすっかり忘れていた。
真剣に考えたら、殿下は確かに恋人を欲しがっているようなところはあったが、具体的にどうしたいのかをあまり聞いたことはなかった。
あれだけよく喋るのに、何だかはっきり言わないところがある。
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