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#20 久々に逃げ出します。

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   ルナは急いで荷物を纏める。本当ならリリーさんやレヴィンさんに挨拶位はしたかったが、男の子に時間が無いと言われ断念した。
   生きていればまた逢う事もある、そうルナは思っている。あっちの世界での逃げ癖のおかげか、そこまで悲観的にはならない。

   用意が出来たと言えば一瞬視界がぼやけて、次の瞬間目の前に魔王が居た。



「リンゴ…本当に好きなんですね」


   目の前の魔王はウサギの形に切られたリンゴを食べていた。



   何かよく分からない絵面になってるな…
ルナはそう思いつつウサちゃんリンゴを囓る。目の前にはウサちゃんリンゴを黙々と食べている魔王。
   何だこれ。


「あの、どうしてここに来たとか聞かないんですか?」

「話したくなったら話せばいい」

   めっちゃ魔王に気を使われてるぅー!!!
いや、ありがたいんですけどね。レイト様に魅力をかけられて…何て口が裂けても言えやしない。

「あの、図々しいお願いなんですが暫くここに置いてもらえませんか?何でもお手伝いしますので」

「ああ、構わない」

「あっ!あの…世界征服のお手伝いは出来ませんが」

   ルナの台詞に魔王は飲みかけていた紅茶を盛大に吹き出した。
   慌てて布巾を探すルナ。


   私何か変な事言った?

   そんな事を考えつつテーブルを拭くルナ。

「すまない。余りにもルナが面白くて」

   クツクツと笑う魔王にルナは瞳を奪われる。

「笑った方が素敵だと思います。魔王と呼ばれる人に、こんな事言うのもあれですが」

「そうか…なら笑うよう努力しよう」

「いや、努力して笑うんじゃなくて自然に、今みたいにお願いします」


   ルナがそう言うと2人は顔を見合わせて笑った。





    ルナが魔王ルシフェルの元へと送られた瞬間、レイトはガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。


   ルナの気配が消えた!!

「クロード!!ルナの捜索隊を組め!ジェイクは関所にルナの特徴を伝えて国境を越えられないようにしろ!!」

   レイトは目を閉じると意識を集中させる。
ルナの気配を探るが全然察知出来ない。

「…魔王の所か」

   レイトは苦々しい表情を浮かべるとバサリと書類を机に放り出した。




   想像していた魔王城とは違い何というか城と言うよりは貴族のお屋敷みたいな規模で周囲は清潔で、すずらんが咲き乱れている。
   魔王の力で年中咲いているらしい。花、好きなんですか?と聞いたら寂しそうに微笑まれた。
   多分私の過去の事なんだろうな…と思ったけど口には出さなかった。

   魔王城(と言うよりは屋敷)の近くにもヴァルカン王国と同じように城下町がある。ただしこの町は様々な人種が入り乱れる、かなりカオスな町だ。
   私は今、1人でこの町を散策している。



「1人で行っていいんですか?でも…貴方から離れたら見つかるかもしれない…」

 魔王ルシフェルはルナの頭に手を置くと瞳を閉じる。
   手の平から暖かいものが流れルナの身体を駆け巡る。

「これで問題無い。印は消した。あと気配も察知されないように結界を張ったから私から離れても大丈夫だ。心配しなくていい」

   魔王凄いわ。いや、魔王とレイト様が規格外すぎる。自分結構チートじゃない?とか思ってたけど全然チートじゃないわ。

「あの、この近くの町とかにギルドはありますか?」

「ああ。ギルドは世界共通だからヴァルカンで作った証明書も有効な筈だ。」

    と、言う訳で散策がてらギルドにも立ち寄ろうと思う。生活していくにはお金が必要だし、色々な場所に行けば何かしら思い出すかもしれない。

   町を散策して気付いたのは、言語は人間の言語が基準になっている事。貨幣もそうだ。
   町を歩く人々は人間から獣人?(耳と尻尾が生えてて思わず触りたくてウズウズした)耳の尖ったエルフ等、実に様々だ。

   町の活気もヴァルカンに負けず劣らずで見ていて楽しい。
   魔王が近くに住んでいて混乱が起きないのかと聞いたら、どうやら魔王という事を隠している(隠せるものなのか?)らしく、実に平和だそうだ。

   バーベキューでかなりのお金を使ってしまって手持ちが心許ないので、ギルドのドアを開ける。これまた中には様々な種族の冒険者で溢れていた。

   依頼ボードに目をやる。ヴァルカンでは採取依頼が結構あったけど、こっちは討伐依頼が多い。
   しかも聞いた事の無い魔物の名前ばかりだ。

   レベル10推奨の依頼の紙を剥がすと受付へと持っていく。ギルドの身分証明書を出して発注すると、ひとまず今回の依頼の魔物について調べる。


   見た目分からないと狩りをする所じゃないしね。結構クロードさんに頼ってたんだなぁ… 。


   そんな事を一瞬考えてから、ぶんぶんと顔を振ると魔物の生態の本を借りてテーブルにつく。

   その時、先程受付をした受付嬢がコッソリと奥の部屋へと入っていくのだった。


「うわぁ…」

   目の前に居るオークにルナは顔をひきつらせる。
人型だし豚だし…ブヒブヒ言ってるし、何か動きが気持ち悪いし。
   一気に焼き払うと魔石を回収する。

「うーん、私冒険者向いてないのかなぁ…」

   今更な考えに思わず心の中で突っ込みを入れる。
うん、突っ込みレベルなら誰にも負けないかもしれない。
   そんな事を考えつつギルドへと向かう。

「依頼達成してきました。確認お願いします」

   ドカッと魔石をカウンターへと置く。
受付のお姉さんが確認しますと言い、魔石を数える。スライムやゴブリンよりも大きい魔石だ。貰える報酬も少し高い。
   これだけ稼げば一週間位は宿に泊まれるかな。ずっと魔王様の所に居るのは悪いし。
   そんな事を考えてふと気付く。そう言えば私、魔王様の事何て呼べばいいんだろ?

   魔王様?魔王さん?流石に魔王って呼び捨ては無しだなぁ。本人に聞いてみよう。


「と、言う訳で何と呼べばいいですかね?」

「好きなようにして構わない」

「うーん、じゃあ魔王さんで」

「そうか」

   こんな会話を繰り広げながら二人でリンゴを齧ってるんですよ。何で魔王さんはリンゴばっかり食べるんだろ?

「どうやらヴァルカンから捜索隊が出てるみたいだが」

「えっ!?」

「いくら気配を消したと言ってもその容姿では見つかる可能性もある。」

「私の魔法だと精々髪の毛と瞳の色を変える位しか出来ないんですよね」

「それならなりたい姿を思い浮かべて。私が力を貸そう」

   そう言われて考えたのが、地球での私の姿。こっちの私とは全く違うからいいかもしれない。
   肩より少し長めの茶髪で、ゆるふわパーマ。もしかしたら付けマツゲとかも再現されるのかな?

   そんな事を考えながら地球の頃の姿を想像する。

「もう終わった。確認してみてくれ」

   姿見で確認すると、そこに映っていたのは地球での神崎瑠菜そのものだった。


「うわーー!懐かしい!」

   こっちの世界に来てまだそこまで経っていないが凄く懐かしく感じるのは、こっちの世界での日々が目まぐるしかったからだろうか?

「それはここに来る前の姿なのか?」

「そうですよ。懐かしいなぁ」

「目とか…そんな感じの人が多いのか?」

「ああ、付けマツゲですよ。えーと、偽物のマツゲ」

「…不思議な世界なんだな」

   魔王さんはそう言うとマジマジと私のマツゲを見ている。いや、近い!顔が近いから!!

「あ、私今日から宿に泊まろうと思います。いつまでも魔王さんに迷惑かけられませんから」

「別に私は構わないが。部屋も余っているし」

「そんな訳にはいきません。きちんと自分で生きていけるようにしないと」

「そうか…なら何か困った事があれば言ってくれ」

「はい。ありがとうございます。」

   気分一新、ルナは宿に行くと夜の町へと繰り出すのだった。
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