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#12 リンゴは好きですか?

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   紛らわしい!とクロードさんからお小言をもらう事、約30分。だって仕方ないじゃない。前世でも恋愛経験なんか殆ど無かったのに。ファーストキスがキラキラ目映い王子様で、しかも抱き締められたりしたら誰だって叫んじゃうよ。

   そもそも何で私なんだろう。レイト様は答えてくれなかった。あの時の表情を思い出しズキリと胸が痛んだ。

「考えても仕方ない!!町に戻ってギルドに納品と色々買い出ししなきゃ!」


   えいえいおー!と拳を突き上げる残念美少女。クロードは額に手をやりため息をつくと森へと消えていった。


   
   どうやらスライムの落とした魔石で討伐数を確認するらしい。一匹あたり中銀貨1枚というのは簡単に言えばスライムの魔石の値段だと思えばいいらしい。
   魔石と中銀貨を交換、って感じかな。
慣れ親しんだギルドの受付のお姉さんに魔石を渡すと中銀貨と交換してくれた。15個の魔石は中銀貨15枚になる。


「で、昨日の夜営で足りなかった物が…」

   まずはバスタオル。これは温泉に入った後、レイト様から5枚程貰った。うん、ラッキーだ。
   そしてテント。これも何故かくれた。多分買ったら高いだろうな。でもありがたく頂戴しておく。
   
   
 あとは寝具。これも昨日使った物を貰った。
…うん、自分でも気付いたけど全っ然用意が足りなかった。
   こんなに色々貰うの悪いかな~とか思ったけど、くれるというのならわざわざ断るのもね。
   お金はいくらあっても足りない位だし。


「調味料がなぁ。もっと種類無いかなぁ。コンソメとか無いだろうし。ハーブ類なら取り扱いあるかな?」


   取り敢えず食品関係を取り扱っているお店へ入る。店内には様々な食材が所狭しと並んでいた。
   ガラス瓶に入った乾燥したハーブやドライフルーツ、用途はわからないが様々な色の液体。
   見ているだけでワクワクする。

   本来なら荷物は出来るだけ少な目で必要最低限っていうのが冒険の鉄則なんだろうけど、アイテムボックスもあるし野外で食べるご飯は美味しいから食事には手を抜きたくはない。
   店主に色々用途を聞いてはかごに商品を入れていく。食材だけでかなりのお金を使ってしまった。


   あと欲しいなと思ったのがコンロ!!地球でいう所のツーバーナー的なのが欲しいんだよね。ガス缶をセットして、専用の空気を送る道具でコンロに空気を送り込む事によって火をつけられる。
   あと持ち運べる釜戸的なのも欲しい。この世界の魔石には魔力が籠められているから、それを上手く利用すれば作れると思うんだよね。
   もしかしたら商品としてもうあるのかな?とりあえず見に行ってみよう。


「お兄さ~ん!また来たよ~!!」

「誰がお兄さんだ!世辞を言っても安くなんないぞ!それと俺の名はレヴィンだ」

「レヴィンさんね!覚えたよ!」

   初心者セットを買った武器屋へと訪れる。うん、確かに武器も沢山あるけど、どちらかというとアウトドア商品の方が多くない?
   前回来た時には気付かなかったけど。

「レヴィンさん、ふと思ったんだけど、ここ武器屋っていうよりアウトドア…は分からないか。えっと、夜営に必要な物の方が多く置いてるよね?」

「あー、確かに。俺の趣味が野宿だからな。ついつい夜営に必要な道具ばかり作っちまうんだよ」

「え、もしかしてお店の商品全部レヴィンさんが作ってるの?」

「ああ、武器から鍋まで何でも作れるぞ」

「それじゃあ注文すれば特注品みたいなの作ってもらえる?」

「どんな仕様にして欲しいのか先ずは話を聞いてからだな。出来るか出来ないかはその時に判断する」

「是非お願いしたいです!」


   ルナはレヴィンに紙と万年筆を借りて設計図を書いていく。
   まずはツーバーナー。ガスの代わりに魔石を埋め込んで、スイッチを捻ると火がつくような設計。
   野外と屋内で使えるよう、足は取り外しが出来るようにして、折り畳みの出来る風避けをコンロ周りに取り付ける。
 
   簡易釜戸は中に食材を吊るせるようにして、スモークも出来るように。取り外しの出来る鉄板もつけてもらう。


「こんな感じの道具が欲しいんですが、作れますか?」

「なるほど…嬢ちゃん頭いいな。そうか、魔石を使えば薪とか無くても火が起こせる。今まで魔石は武器や装備にしか使われてなかったんだが…これは面白い発想だ」

「釜戸は敢えて薪でやりたいんですよね。ピザとかはやっぱり直火でしょ!」

「ピザ?良く分からないが、この2つなら作れそうだ。…ただ、素材となる魔石が必要だな」

「魔石ってスライムが落とすようなやつですよね?」

「ああ。だがこのコンロを作るとなると、かなり大きい魔石…しかも炎の魔法か宿っている魔石が必要だ」

「それって買うと高いですか?」

「高いなんてレベルじゃないな」

「じゃあ私魔石取ってきます!どんな魔物が落とすんですか?」

「おいおい、本気で言ってるのか?駆け出しの嬢ちゃんには無理だ」

「取り敢えず魔物の名前だけでも教えて下さい」

「ヘルハウンド…犬みたいな見た目で、かなりの高温の火を吹く。動きも素早く熟練の冒険者でもない限り手を出すのは止めた方がいい」

「ヘルハウンド…分かりました。私が倒すか、他の冒険者に依頼して倒してもらうか…よく考えてみます。なので、取り敢えず魔石を嵌め込む前段階までは作成してもらってていいですか?」

「分かった。無茶だけはするな?それだけは約束してくれ」

「はい。」

   ルナはレヴィンに特注品の大まかな金額を聞いてから店を出る。
   どうやって魔石を手に入れるか、兎に角ヘルハウンドについて調べようとルナはギルドへと向かった。



   ルナは受付のお姉さんから魔物図鑑を借りてテーブルにつくと、パラパラとページをめくる。

「クロードさん…そんなに見つめられても困るのですが」

「貴女がまた無謀な事をしようとしてるので、止めろと念を飛ばしているだけです」

   凄い形相でルナを見ているクロード。眉間の皺が大変な事になっている。思わず指で伸ばしてやりたい位だ。

「流石に対策とか色々調べて考えてますから。無理そうなら他の手を考えますし」

   そんなルナの言葉に、どうだか?と言った表情でため息をつくクロード。
   そんなクロードをスルーしてルナは図鑑と、にらめっこする。

「まさか推奨レベル20だとは…」


   図鑑を閉じるとルナは再びギルドを後にするのだった。




   いつもの森へと入り、今までで一番奥へと進む。途中スライムやイノシシを狩って経験値と練度を上げる。
   現在のレベルは3。HPは最大500まで上がった。

  

   多分私に足りないのは戦闘の知識、そして経験と、HP。魔法に関してはチートレベルだから問題ない…多分。
   いや、少し練度上げないとかな。攻撃の威力を上げたいかも。

   兎に角もう少し色んな種類の魔物と戦って経験を増やしたい。


   ルナは夕方になるまで休みなく魔物と戦い、フラフラになりながら夜営の準備へと入る。
   テントを張り寝具を中に入れるとそのまま倒れ込む。

「んー眠い…ちょっと張り切りすぎた…お腹すいたけど用意するのは面倒かも…」

   それでもいざという時に動けなくなると困るので、ルナは気合いを入れて起き上がる。
   テントの外へ出ると、お茶を飲む為にコッヘルでお湯を沸かし始めた。




   ガクン!!

   ハッと目を覚ますルナ。焚き火の火を見ているうちに寝てしまっていたみたいだ。慌てて焚き火を見ようとして、ふと体の右半分が暖かい事に気付いた。
   顔だけ向けると、そこには夜空を眺めている魔王が座っていた。


   いやだから何でリンゴ!?


   また無言でリンゴを差し出してくる魔王にルナは心の中で突っ込みを入れる。
   しかしまた顔に押し付けられても嫌なので素早く受けとるとお礼を言った。


「ありがとうございます」

「ん…」


   会話が続くとは思えなかったルナは、アイテムボックスからまな板、包丁を取り出すとリンゴの皮を剥いて芯を取る。
   薄くスライスしてからコッヘルに入れ火にかけた。
軽く火が通ったら砂糖、シナモンを入れて更に火を通す。
   お皿にさっき買ったロールパンを乗せて、先程のリンゴを添える。本当はバニラアイスがあれば完璧だったのだが…。無いものは仕方ない。
   夜ご飯というよりは、デザートみたいになってしまったが気にしない。
   甘いの嫌いだったらどうしよう…と思ったが、せっかくなので出来上がったのを魔王にも渡した。


「リンゴ、ありがとうございます。良かったら食べて下さい」

「…ありがとう」

「お口に合うか分かりませんが」

   お互い何も言わずに食べる。会話は全く無かったが、居心地が悪いとは思わなかった。


「あの、お名前伺っても?」

「記憶…ないのか」

「記憶?」

「私の名前は…いや、ルナが思い出すまでは名乗らないでおこう」

「何で私の名前を知って…」

「今は…これしか触れられないな…」


   そう言うと魔王はルナの手を取り指先へとキスをする

「え…ちょっ…」

  軽く触れるだけのキスを何度も落とし、最後はペロリと指先に舌を這わせた。
   ルナは思わずバッと手を引っ込める。

「…また来る」


   そう言うと魔王は夜の闇へと溶けていった。


「クロードさん!!仕事仕事ぉぉぉぉ!!!仕事してぇぇぇぇぇ!!!サボらないでぇぇぇ!!」


   ルナの絶叫は夜の森へと吸い込まれていくのだった。
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