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第3章 十文字槍対策
1.最終兵器(宝蔵院から来た男達)
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秀長が連れてきた御仁の名は奈良にある宝蔵院の院主胤栄という僧であった。
宝蔵院とは、寺社にある宝物、仏典、仏像や事務処理上の文書を保管する倉庫を意味し、それを管理する寺の僧が彼であった。
胤栄は、その時55歳であったが、筋肉がついたその体格は若々しく40代前半にも見える容貌であった。
『お久しぶりでございます。胤栄様、その節は大変お世話になり申した。』とヒゲ殿が親しげに挨拶をする。
『まさか、お主からお呼びがかかるとは、思わなんだ、息災か?』
『お蔭様で、胤栄様もいつみても若々しいですなあ。御年55歳には見えぬ見えぬ。』
二人が挨拶をしていると、胤栄の後ろにいる若者が胤栄に話しかける。
『御師匠、この方が、私の織田家への仕官を手配して下さる村井様でございますか?
『ウム』と胤栄が言葉少なに答えると、若者はヒゲ殿に名を名乗った。
『私、可児才蔵と申します。お初にお目にかかります。何卒お引き立て宜しくお願い致します。』
『其方が、胤栄殿の愛弟子才蔵殿か、腕前の御噂は胤栄殿から聞いておるぞ、ワシが村井長頼でござる。』
胤栄と名乗る僧、才蔵という若者が、ヒゲ殿と話す様子をみて虎之助達は、一体彼らが何者なのか、又目的も分からずポカ~ンとしていた。
秀長が、虎之助達の事を察してか、3人に彼らの紹介を始めた。
『この御仁は、奈良の宝蔵院の住職、胤栄様じゃ、十文字槍の奥義を極めたお人である、そして隣におられるのは、弟子の才蔵殿。』
『ヒゲ殿が、お前の為に呼んだ、森長可殿対策の最終兵器である。』
『これから、残り3ヶ月弱、お前に十文字槍との戦いを教えてくれるお人達である。』
秀長の紹介を聞き、驚いた虎之助は、ヒゲ殿の顔を見ると、ヒゲ殿は、自慢の顎髭に手をやりながら、誇らしげな顔【現代でいうドヤ顔】をしていた。
話は、秀長がヒゲ殿からもらった手紙の内容に遡る。
手紙の内容は、胤栄の弟子である才蔵の仕官先を紹介する事。
紹介する条件として、一人の若武者に宝蔵院槍術を教えて欲しいという内容であった。
期間は3ヶ月、契約が終わったら、才蔵を織田家中の名のある武将へ仕官させるという内容であった。
ヒゲ殿と、胤栄の出会いは今から1年半前である。
織田軍と武田軍が戦った長篠の合戦で、前田利家は危うく死にかけた事がある。
逃げる武田軍を追撃していた利家は、弓削左衛門と名乗る武将に右足を深く切り込まれる重傷を負う。
危うく命を取られそうになった所を、髭殿が間一髪で駆け付け、利家の命を救ったのである。
救ったというのは事実だが、状況はかなり深刻であった。
なぜなら、この弓削左衛門が十文字槍の名手であり、槍の又左と言われた利家でさえ圧倒できず、不覚にも反撃にあい、足に深手を負ってしまっていた。
駆け付けた長頼も、相手の攻撃を躱すのが手一杯であり、相手が逃げる事を優先し、逃げようとしたところに隙が生まれ、そこに無我夢中で突いた槍がたまたま相手の急所にささり、なんとか討ち取れたという状況であったのである。
合戦の終了後、責任を感じたヒゲ殿は主君利家に半年の武者修行をしたいと願い出た。
その武者修業先が、その時既に天下で有名であった十文字槍の聖地と言われた宝蔵院であった。半年という短い間であったが、長頼は胤栄の弟子として修業をした。
胤栄は、長頼の人柄が気に入り二人は修業の他に、色々と話す間柄になったのである。
その中で、胤栄が長頼に相談していたのが、愛弟子才蔵の仕官口を探しているという内容であったのである。
(長頼が修業している間は、才蔵は実の母が亡くなった時と重なり、ちょうど宝蔵院を留守にしている時であった。)
才蔵は、私生児であった。才蔵の母は、信長が滅ぼした越前の旧領主朝倉義景の近くで女中として働いていた。
ある事情で、朝倉家で居場所を失い、朝倉家から逃げて美濃の願興寺に辿り着き、才蔵を生んだ。
願興寺は、地元の人から呼ばれている通称があり、可児寺と言われていた。
その為、才蔵は寺の通称名を自分の姓にしたのである。寺に残っている寺伝という記録書には、才蔵が朝倉義景の御落胤という記述が有るらしいという話だが真実かどうかは分からない。
才蔵が幼少期の頃、願興寺に胤栄が訪れ二人は出会い、胤栄は才蔵を弟子とし宝蔵院に招き、今に至る。
僧である胤栄にとって、才蔵という若者は仏が自分に与えた息子みたいな存在として考えていた。
あるべき道は、自分と同じ様に、争いの存在しない僧としての人生を歩ませたかったが、自分がのめりこんだ槍術を才蔵に教えた事が、才蔵の運命を変える事になってしまった。
才蔵は、仏より槍の天賦の才を与えられた者だったのである。
才蔵は、槍を極めて行くうちに槍一本で生きていく武士の世界に憧れるようになってしまったのである。
胤栄も、最初は才蔵に武士ではなく僧の道を選ぶ様に説得したが、説得していく中、それが自分のワガママでは無いかという思いと、才蔵の野心が、自分が若き日に持ち、捨てた夢と重なる事を悟った為、最終的に才蔵の選択を尊重する道を選んだのである。
そんな背景が有り、胤栄は相談していた長頼からの手紙に応え、才蔵を連れて虎之助達の元に訪れたのである。
宝蔵院とは、寺社にある宝物、仏典、仏像や事務処理上の文書を保管する倉庫を意味し、それを管理する寺の僧が彼であった。
胤栄は、その時55歳であったが、筋肉がついたその体格は若々しく40代前半にも見える容貌であった。
『お久しぶりでございます。胤栄様、その節は大変お世話になり申した。』とヒゲ殿が親しげに挨拶をする。
『まさか、お主からお呼びがかかるとは、思わなんだ、息災か?』
『お蔭様で、胤栄様もいつみても若々しいですなあ。御年55歳には見えぬ見えぬ。』
二人が挨拶をしていると、胤栄の後ろにいる若者が胤栄に話しかける。
『御師匠、この方が、私の織田家への仕官を手配して下さる村井様でございますか?
『ウム』と胤栄が言葉少なに答えると、若者はヒゲ殿に名を名乗った。
『私、可児才蔵と申します。お初にお目にかかります。何卒お引き立て宜しくお願い致します。』
『其方が、胤栄殿の愛弟子才蔵殿か、腕前の御噂は胤栄殿から聞いておるぞ、ワシが村井長頼でござる。』
胤栄と名乗る僧、才蔵という若者が、ヒゲ殿と話す様子をみて虎之助達は、一体彼らが何者なのか、又目的も分からずポカ~ンとしていた。
秀長が、虎之助達の事を察してか、3人に彼らの紹介を始めた。
『この御仁は、奈良の宝蔵院の住職、胤栄様じゃ、十文字槍の奥義を極めたお人である、そして隣におられるのは、弟子の才蔵殿。』
『ヒゲ殿が、お前の為に呼んだ、森長可殿対策の最終兵器である。』
『これから、残り3ヶ月弱、お前に十文字槍との戦いを教えてくれるお人達である。』
秀長の紹介を聞き、驚いた虎之助は、ヒゲ殿の顔を見ると、ヒゲ殿は、自慢の顎髭に手をやりながら、誇らしげな顔【現代でいうドヤ顔】をしていた。
話は、秀長がヒゲ殿からもらった手紙の内容に遡る。
手紙の内容は、胤栄の弟子である才蔵の仕官先を紹介する事。
紹介する条件として、一人の若武者に宝蔵院槍術を教えて欲しいという内容であった。
期間は3ヶ月、契約が終わったら、才蔵を織田家中の名のある武将へ仕官させるという内容であった。
ヒゲ殿と、胤栄の出会いは今から1年半前である。
織田軍と武田軍が戦った長篠の合戦で、前田利家は危うく死にかけた事がある。
逃げる武田軍を追撃していた利家は、弓削左衛門と名乗る武将に右足を深く切り込まれる重傷を負う。
危うく命を取られそうになった所を、髭殿が間一髪で駆け付け、利家の命を救ったのである。
救ったというのは事実だが、状況はかなり深刻であった。
なぜなら、この弓削左衛門が十文字槍の名手であり、槍の又左と言われた利家でさえ圧倒できず、不覚にも反撃にあい、足に深手を負ってしまっていた。
駆け付けた長頼も、相手の攻撃を躱すのが手一杯であり、相手が逃げる事を優先し、逃げようとしたところに隙が生まれ、そこに無我夢中で突いた槍がたまたま相手の急所にささり、なんとか討ち取れたという状況であったのである。
合戦の終了後、責任を感じたヒゲ殿は主君利家に半年の武者修行をしたいと願い出た。
その武者修業先が、その時既に天下で有名であった十文字槍の聖地と言われた宝蔵院であった。半年という短い間であったが、長頼は胤栄の弟子として修業をした。
胤栄は、長頼の人柄が気に入り二人は修業の他に、色々と話す間柄になったのである。
その中で、胤栄が長頼に相談していたのが、愛弟子才蔵の仕官口を探しているという内容であったのである。
(長頼が修業している間は、才蔵は実の母が亡くなった時と重なり、ちょうど宝蔵院を留守にしている時であった。)
才蔵は、私生児であった。才蔵の母は、信長が滅ぼした越前の旧領主朝倉義景の近くで女中として働いていた。
ある事情で、朝倉家で居場所を失い、朝倉家から逃げて美濃の願興寺に辿り着き、才蔵を生んだ。
願興寺は、地元の人から呼ばれている通称があり、可児寺と言われていた。
その為、才蔵は寺の通称名を自分の姓にしたのである。寺に残っている寺伝という記録書には、才蔵が朝倉義景の御落胤という記述が有るらしいという話だが真実かどうかは分からない。
才蔵が幼少期の頃、願興寺に胤栄が訪れ二人は出会い、胤栄は才蔵を弟子とし宝蔵院に招き、今に至る。
僧である胤栄にとって、才蔵という若者は仏が自分に与えた息子みたいな存在として考えていた。
あるべき道は、自分と同じ様に、争いの存在しない僧としての人生を歩ませたかったが、自分がのめりこんだ槍術を才蔵に教えた事が、才蔵の運命を変える事になってしまった。
才蔵は、仏より槍の天賦の才を与えられた者だったのである。
才蔵は、槍を極めて行くうちに槍一本で生きていく武士の世界に憧れるようになってしまったのである。
胤栄も、最初は才蔵に武士ではなく僧の道を選ぶ様に説得したが、説得していく中、それが自分のワガママでは無いかという思いと、才蔵の野心が、自分が若き日に持ち、捨てた夢と重なる事を悟った為、最終的に才蔵の選択を尊重する道を選んだのである。
そんな背景が有り、胤栄は相談していた長頼からの手紙に応え、才蔵を連れて虎之助達の元に訪れたのである。
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