山姥(やまんば)

野松 彦秋

文字の大きさ
上 下
15 / 46
第2章 謎の少年

5.正体判明

しおりを挟む
その日の夜、哲也の家にカッチの電話がかかって来た。

カッチが言うには、事件の現場になった勝平寺は、暫く親戚以外の人は立ち入り出来ないらしい。

それで、カッチが提案してきた会う場所は、カッチの家から近い、勝平保育園の横にある公園だった。

保育園の目の前には、児童会館という託児所があり、小学生は名前を書くだけで其処が利用できた。

児童会館は、学童保育所ではなく、ボランティアの小学生の親が、管理人としており、学校がある日は、14時から夕方の17時、夏休みは始まってから5日間だけ、9時から15時まで開いていた。

児童会館の中は、畳12畳の大部屋の遊戯室、後は6畳一間のマンガ室、3畳ほどの小さい部屋がマンガ室と遊戯室の間に有り通路代わりになっている、其処に管理人の人が居る。

哲也は、会うのであれば、児童会館の方が大人の人達もいるので、安全だと提案したが、カッチが建物に入るのが怖い事、なにより、あの妖怪が襲ってきたら、他の人を巻き込むかもしれないという事で、結局保育園の横の公園にしたのであった。

次の日の午後に、3人は3日ぶりにあった。

かなり傾斜のある長い滑り台のある公園で、滑り台の乗り口のある、狭い場所で4人は話し合った。

夏休みが始まって、未だたったの4日であるが、状況は目まぐるしく変わっていた。

カッチの表情からは、普段の明るさが消え、当然だが元気が無い。

『カッチ、大丈夫か?具合悪そうだよ』

カッチを一目みて、哲也の口から、自然にそういう言葉が出た。

『・・・眠れないんだ。目を閉じると、アイツが来そうな気がして・・・』

『それより、電話で言っていた、オレに見せたいモノ、10年前の卒業アルバム持って来たのかよ?』

『・・・これ、これがそのアルバム、野田君が見た男の子って、この3人の男の子の誰かじゃない?』

準備の良い、いずみは、カッチに見せる前に、開く予定のページに分かる様に、付箋ふせんを貼っていた。

其処を開いて、3人の写真が貼ってある場所に指をさし、カッチの顔を見る。

カッチは、疲れた様な目を細くして、いずみの指が指した写真を見る。

『・・・この子、この子だよ。オレをあの妖怪から助けてくれた子・・』

カッチがそう言いながら、一人の写真を指さす。

『ああ、やっぱり、その人だったのね・・』

『エッ、だって、この人って、市立病院で入院している一馬さんの子供の時の写真だろ?』

『なんで、生きている人が、幽霊になってるんだ・・』

カッチが、驚きの声を上げる。

『理由は分からない、だけど、生霊になった人の魂は、身体を離れると聞いた事があるの』

『つまり、何か、俺たちに、あの日、一馬さんの身体に触れるなって、言ったのは、一馬さん自身・・』

ナオケンが、いずみの言葉を確認する様に呟く。

『一馬さんは、10年前、戻って来た。だけど、実は、身体には魂はなくて、身体だけ戻って来た』

哲也も、自分の考えを整理するように、ナオケンに続く。

『じゃあさ、身体から、魂が抜けている一馬さんの身体に入っていたモノ、カーテンが閉まって出てきたモンは・・祖父ちゃんを殺した奴は・・何』

『私達が、3日後に行く、宿泊研修の場所、風越鬼山の伝説に有る・・』

いずみが、バケモノの正体を言おうとしたが、その前に哲也が口を出した。

山姥やまんば・・・だろ』

哲也が、覚悟をするように、名前をあげる。

誰もが暫く沈黙し、否定もしなかった。

『オレはそいつを、祖父ちゃんの仇を必ず退治する・・』

『悪いけど、オレ、これから祖父ちゃんの部屋を探して、妖怪退治に参考になる本とか、祖父ちゃんの日記とか何かを探してみる。だから、これから宿泊研修まではみんなに会えない』

『後、怖ければ、みんな、宿泊研修に来ない方が良いよ・・オレがひとりで倒すから、アイツを』

カッチはそう言うと、滑り台を滑っておりていき、降り口の横に止めてある自分の自転車に乗って家に帰ってしまった。

止める事の出来ない3人は、カッチをタダ見送る事しか出来なかった。

『委員長、カッチが帰っちゃったから、もう今日は解散しよ』

ナオケンが、仕方が無いという様子で、いずみにそう語りかける。

『オレとテッカは、ちょっと残って別の話があるから・・』

『ウン、分ったショウガないね』

『うちの家にはショウガあるけどね(笑)』

いずみの言葉に、ダジャレを言うナオケン。

いずみも、愛想笑いの苦笑いをする。

(面白くないな・・・)

ナオケンが、そう言ってしまったから、いずみはもう帰るしかなかった。

カッチに遅れて、10分後、いずみも自分の自転車に乗り、一人帰って行った。

いずみの後ろ姿が見えなくなった後、ナオケンが哲也に言う。

『ヨシッ、委員長は帰ったな、テッカ、それじゃあ、行くか?』

『市立病院だろ、一馬さんとこ、また妖怪が襲ってくるかもしれないぞ』

『だから、委員長を帰したんだろ、危ない所には、俺たち男だけで行く』

『鉄則じゃん。』

『正直、怖えけど、カッチが見た、一馬さんの生霊、居るとしたら、あそこしかないからな』
哲也は自分を説得する様に言った。

『ショウガないなぁ』

色々考え、最後に出て来たのが、その言葉であった。

『だから、ショウガは俺の家の冷蔵庫の中にあるって・・』

『ナオケン、そのギャグ、面白くないよ。さっき、委員長もショウガなく笑ってたんだぞ』

『・・・。』

『うるせぇ、テッカ!行くぞ』

怖いけど、友達の為、勇気を振り絞り、二人はあの病室にもう一度向かったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

太郎ちゃん

ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。 それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。 しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。 太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!? 何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。

フラワーキャッチャー

東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。 実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。 けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。 これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。   恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。 お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。 クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。 合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。 児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

みんな良い!

赤咲 優
児童書・童話
鳥のネオくんと、そのお母さんの会話です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

クールな幼なじみと紡ぐロマン

緋村燐
児童書・童話
私の名前は莉緒。 恋愛小説が大好きな中学二年生! いつも恋愛小説を読んでいたら自分でも書いてみたくなって初めて小説を書いてみたんだ。 けれどクラスメートに馬鹿にされちゃった……。 悲しくて、もう書くのは止めようって思ったんだけど――。 「確かに文章はメチャクチャかも。でも、面白いよ」 幼なじみのクールなメガネ男子・玲衣くんが励ましてくれたんだ。 玲衣くんに助けてもらいながら、書き続けることにした私。 そして、夏休み前に締め切りのある短編コンテストにエントリーしてみることにしたんだ。 *野いちごにも掲載しております。

処理中です...