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第4章 誘拐事件

21.誘拐事件解決

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薬売りの男は本丸につくと迷いなく、ある場所へ向かった。それは、秀久と宗治の息子原三郎が武芸の練習をする中庭であった。

秀久は、男に無理矢理先導させられていたが、男は秀久に道案内をさせているわけではない。逆に男は、本丸の中に入ると冷静に秀久へ行き先を命令する。

『其処を左に行け、何時もこの時間にお主と、宗治の息子が剣の稽古をしている中庭だ。』と、情報源は分からないが、男は城の間取り、秀久と原三郎の何時もの行動を既に把握していたのである。

『お主、何処から情報を得た。この城の誰かが、お主らと通じているのか?』と、秀久は焦りを隠せない様子で男へ聞いたが当然男は答えない。

運悪く、中庭には秀久の言いつけを守り、原三郎が竹刀を準備して秀久を待っていた。

男が、原三郎の存在に気づくと、短刀で前を歩かせていた秀久の足を切りつけた。突然切り付けられた秀久は、痛みで倒れる。

『若、お逃げくだされ・・。』と、倒れそうになりながらも、男の意図が分かった秀久は、原三郎へ向かって叫んだ。

しかし、遅かった。男の行動は素早かった。

倒れる秀久の横を男は走り抜け、原三郎へ近寄る。幼い原三郎は、秀久の声と、倒れる姿をみて、一瞬気持ちが動転してしまい、反応が遅れ、抵抗もせず、男に捕まってしまったのである。

『早く立て、あっちの部屋だ。行くぞ!!。』と、原三郎の首に短刀の刃を近づけた男は秀久に命令したのであった。

負傷した片足を押さた秀久は、男を憎しみの表情で見上げる。原三郎を人質にとられた秀久に拒否権は無かった。

原三郎、秀久を人質にして、男は部屋に立て籠ったのである。

暫くして、その部屋に久之助が数名の兵を率いて、やってきた。

『秀久様、私です。竹井将監です。此度の件、何があったのですか?。』と、襖越しに秀久に大きな声で問いかけた。

『先ず、これ以上事を大きくしない為にも、原三郎様を解放して下さい。話はそれからです。』

『竹井殿、原三郎様を人質に取ったのはワシではない。ワシがいながら、不覚にも原三郎様を守れなかったのじゃ。』

『男が、原三郎様の首元に刀をつきつけている状況じゃ、スマヌ・・・。』と、久之助の問いに答える秀久。

『今の言葉の通りだ。迂闊な事をしたら、子供の命は無いぞ。』と、薬売りの男は久之助へ警告する。

『先ずは、播磨国へ出兵している清水宗治をこの場に連れて来い。要求は、毛利から離れ、織田方につくよう伝えろ!。』
『断ったら、息子の命は無い。よくよく伝えよ。』と男は、自分の要求を大声で久之助へ伝えた。

『男、その部屋の窓から城の周りをみてみろ、既にお主の逃げる場所など無い。無駄な抵抗をせず、投降しろ!』

『竹井将監といったか、秀久殿の話、聞こえなかったのか?こっちには人質がいるんだぞ、お主と話すつもりはない、さっさと私の要求を清水の者達へ伝えよ!。』

その言葉を最後に、男は話すのを止めた。

久之助は、その場を警護の兵に任せ、城代宗忠の部屋へ向かう、その途中、鶴姫が久之助の前に現れたのであった。

『久之助、私に一つ考えがある・・・。』と鶴姫は久之助に自分が考えた原三郎救出案を伝えたのであった。

久之助が、宗忠の部屋に着くと、其処には既に月清も合流しており、3人は急いで今後の対応を話し合った。

『まさか、危惧していた事が、いや、お主の予言が当たるとは、原三郎の事、スマヌ、我らの落ち度じゃ。』と月清が先ず、久之助に謝罪した。

『いえ、私が不甲斐ないばかりに、本丸にまで行かれてしまい・・・。』と無念の顔をしながら苦しそうにいう久之助。

『起きた事を悔やんでも仕方が無い、とにかく兄者には早馬を出さんとな。時間を稼ぐ事にもなるしな。』

『兄者とは、既に家の者が刺客に襲われた場合について話はしておる、兄者曰く、それが運命と、動揺せず受け入れろとの事じゃった。まさか、原三郎とは考えていなかったが、兄者なら、誰であろうと本音は言わず、同じことを言うだろうが・・・。』と、苦い顔をして宗忠が言った。

二人のやり取りを聞いていた月清が、『家の者が、原三郎を人質に取り、織田方に寝返る様要求している。しかし、家来の咄嗟の機転で、賊は城に閉じ込めている。至急、戻って来いと書状を出せ!。』と即断したのであった。

『ワシらが、今直ぐに考えなければならないのは、賊をどうするかじゃ、宗治の事は宗治の判断に任せるしかない。』と月清は言い、3人は原三郎救出方法について話始めたのであった。

秀久達3人が立て籠った部屋に久之助が戻ったのは昼時であった。

久之助は、3人に食べさせる食事も準備し戻ってきた。

『男、お主の要求通り、既に宗治様には早馬を出した。宗治様が書状を目を通されたら、必ず戻って来るはずじゃ。』

『しかし、お主も分かっている様に、直ぐに戻られると判断したとしてもこの地に戻られるには数日はかかる。』

『此処に食事を用意した。毒など入っておらぬので心配するな。』と久之助は襖越しに男に聞こえる様に大きな声で伝えたのであった。

部屋からは、返答はなく、静寂が走る。

男から返答は来ないと判断し、久之助が襖から離れようとした時である。男は久之助に話しかけた。

『竹井とかいったな、お主に聞きたい事が有る、お前と対峙させた私の手の者はどうした。』

『・・・10名とも、切り捨てた。』

『ふざけるな、あ奴らは宇喜多の精鋭、暗殺部隊だぞ、たった一人でそんな事出来るわけが・・・。』

『此処に、あの者達の一人が持っていた鉄扇がある、確認するか・・・・。』

『お前と会った時、宇喜多と呟いたな、お主、何故知っていた?。いや、そもそも我々の襲撃を何故、知っていたのだ。』

『・・・・お主らの仲間、植木屋の辰三から聞いた。』と、久之助は鶴姫から聞いた情報を利用し、男の心に動揺が生まれる様に、ワザとカマをかけた。

『馬鹿な、其処迄、・・・しかしその者も知らない筈じゃ、私達の決行の日と宇喜多の者を率いて来ることは、限られた者しか知らぬ、お主何者じゃ。』と、驚愕の声をあげた。全てを見透かし、10名の手練れをたった一人で倒してしまった襖の外にいる男に恐怖を覚えたのであった。

その後、長い沈黙が続いたので、久之助は食事を襖の前に置くように指示をして、自分は襖から離れたのであった。

その後秀久が男の指示を受け、食事を部屋に運ぶ。暫く静寂の時間が流れると、空になった食膳を秀久が襖をあけ、廊下の床の上に置く。

一つの食膳には、箸がついていなかった。男は警戒し、食事をしなかったようである。

薬売りと名乗った男は、原三郎と常に手を握っていた。片手はずっと短刀が握っている状態である。

部屋に一つだけある窓の外を見ると、外には数百名の兵士が処狭しと、隊列をくんでいた。蟻の入る隙間もない様子であった。

男は、現実を直視したくない気持ちになり、窓を閉めろと秀久に命令した。

秀久が窓を閉めた。部屋が少し暗くなる。

3人は、気づいていなかったが部屋には鶴姫がおり、3人の動きを監視していたのである。

鶴姫が窓が閉まった事を久之助に伝える。久之助達は、その時を待っていたのであった。

久之助が合図を出すと、一斉に板戸を持った兵士が3面の襖に近づく、板戸が外界の明かりを遮断する。

部屋の中の者達は、部屋が急に暗くなり驚いた。其処に間髪を入れず、久之助が襖をあけ単身突入する。

久之助は事前に、鶴姫から男の位置を聞いており、躊躇わずに其処へ向かう。

男は、慌てたが、咄嗟に原三郎の手を自分の身体に引き寄せようとした。

男の行動を見ていた鶴姫が、無意識に原三郎を助けようと原三郎へ走り寄る。二人の身体と体が交差した瞬間、奇跡が起こる。

鶴姫が原三郎の身体に憑依したのであった。原三郎の身体に乗り移った鶴姫は、男の腕を力強く振り払い、同時に男から距離をおいた。

『今じゃ、久之助!!。』と鶴姫(原三郎)が、久之助に声をかける。

その瞬間、久之助の一撃が男に入る。久之助は、鶴姫の父が持っていた鉄扇で男の腕を強打した。男は堪らず握っていた短刀を落とし、腕を抑え呻いた。

直ぐに、城の警護兵が部屋に入ってきて、男の身柄を取り押さえた。男達の襲撃は、僅か半日で失敗に終わったのであった。

『原三郎様、大丈夫ですか?』と久之助が声をかけると、『大丈夫じゃ!。』と元気よく、声が返ってきた。

(これは、鶴姫様だな・・。)と久之助が思った瞬間、『うぇ~ん。』と原三郎が泣きだした。

気がつくと、鶴姫の身体が原三郎から離れている。奇跡の時間が終わった事が久之助には分かった。

(この方は、私だけの守り神でなく、この清水家の守り神だな・・・なんとも頼りになる御方じゃ。)

『久之助、良くやった!!お主の御蔭じゃ!!。』と鶴姫は、久之助にだけ聞こえる声で功を労ってくれた。

久之助は、鶴姫のその一言が他の者がくれるどんな褒美よりも嬉しかった。

取り押さえられ、連行される男が悔しそうに独り言をいう。

『あ奴は、何者じゃ、あ奴一人に我らの企てが総て潰された、何者だ・・。』

その独り言を聞いた男を連行する警護兵が男に伝える。

『お主知らんのか、清水四天王竹井将監様を、またの名を千里眼の竹井様じゃ!。』

『千里眼、・・・クソ、そんな事・・・、確かに言っていたな・・・・・。』と男は言い、その後は観念し黙って連行されたのであった。
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