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第4章 誘拐事件

7.高松城で一番の切れ者(4人に与えられた課題)

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季節は、夏から秋に変わろうとしていた。

収穫の秋を迎えようとこの時期は、戦国時代の中でも暗黙の掟として収穫が終わるまでは隣国に攻め込まないという事が守られていた。

その為、清水家の領民も武士達も皆手があいている者は収穫を手伝っていた。

その中で、ごく少数であるが例外として収穫作業に従事し無い者達がいた。

久之助達4名及び師である月清であった。

5名は、春から続けている大太刀の訓練を精力的にこなしていた。

4人は、既に基本的な型を身につけ、新たな段階へと移ろうとしていた時期であった。

最初、どんぐりの背比べみたいに同じレベルで修業を始めた4人であったが、5ヶ月も過ぎる頃には、個人の特徴が少しずつ出るようになり、又実力の差が顕著に出始めかけている時期であった。

月清の評価は、松田、庄九朗の二人が大体同じレベルであり、それより頭一つ出ているのが、鳥越であった。

怪力であった、鳥越は剣速がはやく、体重も重い為素振りの音が、松田、庄九朗の素振りの音では、子供と大人の違いのように違った。二人で、やっと鳥越に勝負をかけれるというぐらいの差になったと、月清は見ている。ただ、それ以上の剣速と正確性を持っているのが久之助であった。

久之助の進歩は、月清も疑う程速かった。

その進歩の裏側には、久之助の影の努力がある事を月清は知っていた。

情報源は久之助の長屋に住む者から聞く噂であった。
毎日、天気に関係なく、黙々と鉄の棒を振り続ける久之助をよく一日も欠かさず続くものだと感心していた。

時には、独りでいるのに、誰かと会話をしているように独り言を言う久之助が怖いという声も聞こえてきていた。

まるで、お化けに取りつかれているかのように、修業に没頭しているともっぱらの噂であった。

その自主錬の効果が最近顕著に出始めていた。月清が型の名前を言うと、即座にその型をこなす事が出来る程上達していた。

その剣技もただ覚えているというレベルではなく、ほんの一瞬であるが、久之助の動きをみていた月清は、幼き頃の記憶である李先生の舞の動きと重なる事があるのであった。

そんな状況の中、月清は個人の熟練度の差、個性に合わせて月清は4人に別々の課題を与える事にした。

庄九朗と松田には、山にいる野生馬若しくは猪を2匹捕獲する事、鳥越には山にいる熊を一匹討ち取って来るように命じた。

条件は、もちろん大太刀を使う事が条件であった。

しかし、久之助に指示された任務は、3人のモノとは系統の違うモノであった。

今まで教えた型を全部覚え、其れを自分で考えた順番で20分間舞続けるようになれと言う事であった。

期限は、雪が降り始める迄とされ、4人は言われるがままそれぞれの修行の地へ向かったのであった。

久之助達が修行に明け暮れる中、鶴姫が日課としていたのが原三郎の勉強の観察であった。秀久は、何時もと変わらず優しく原三郎を教え導いている。

何処からみても、仲の良い祖父と孫である。

今日は、馬の乗り方を教えるという事で、先に秀久が馬に乗り、その後馬の世話係の七郎三郎が原三郎を抱きかかえ、秀久の前に乗せ、二人は近い距離を乗馬していた。乗馬中には、特に問題は無かったのだが、城へ戻り、馬を降りる時に、原三郎が体勢を崩し、馬から落ちかけた。

咄嗟に、秀久が強引に原三郎を引き寄せたので、原三郎は落ちずにすんだが、その後、助けた秀久が体勢を崩し、落ちてしまったのである。

七郎三郎がその場に駆け付け、原三郎を馬から安全におろしたが、秀久が落ちた時に腕を打ち、苦痛の顔をしていると、心配した原三郎が『爺、大丈夫??。』と聞く。

『大丈夫です。爺には打ち身に効く薬が有りますので!、』と秀久は原三郎に心配させない様に大きな声で返したのである。

七郎三郎も、その様子をみて原三郎を気遣い、『桐浦殿、良い薬、今度私にも分けて下さい、ところで、どこの薬ですかな?』と話を帰る様に質問した。

『越中富山じゃ、最近よく売りにくるから、何個かあるので、今度お主にも分けてあげよう。』と原三郎に聞かせるかのように、これまた大きな声で返答したのであった。

其れを聞いた鶴姫はまた少し違和感を感じた。

(よく売りに来る??富山の薬売りは有名だが、そんなに来るわけないだろう、早くても半年に一回ぐらい来るぐらいでは無いのか・・・2ヶ月前に来たばかりじゃないか・・何かおかしいのう・・・富山の薬売り?。)と鶴姫の感が何かを感じたのであった。

其の頃、播磨国黒田家の屋敷の一室では、二人の男が話をしていた。

『官兵衛様、腕の立つ者を10名ほど私の下につけてはくれませぬか?。』

『直ぐにではありませんが、精鋭部隊が必要です。』

『その者達がそろい、高松城に隙が生じたとき、私達が行動を起こす時期です。』

『1,2年はかかると思いますが、準備は早い事にこした事はありませぬ。』と薬屋の格好をした男が静かに頼みごとをした。

『ウム、其方の言い分はもっともな事じゃ。腕の立つ者だな、暫し時間をくれ。』と黒田官兵衛は答える。

『しかし、慎重に事を運ぶ様に、お主、又備中の国へ行ったそうだな、頭の切れる者がいたら、怪しまれるぞ、もう今年は行ってはならぬぞ。』と官兵衛が男に注意をする。

『ハハァ、気をつけまする。私の見る限り、切れ者等おりませぬ、大丈夫だと思いますが・・・。』

『噂で、千里眼の竹井という者がおると聞いているが・・・、お主は知らぬか。』

『知りませぬ。官兵衛様は、流石に地獄耳ですな。』

『私よりも御存じで、とにかく、ご指示通り、今年はもう行きませぬのでご安心下さい。』

『官兵衛様、もしや、私以外にも備中の国へ遣わしておる者がいらっしゃるのですか?』と男は官兵衛に聞いた。

『お主、下手に首を突っ込むと、自分の命を粗末するぞ・・・。』と官兵衛は言う。

『肝に命じまする。それでは私はこれで。』と言い、底知れぬ怖さのある、官兵衛の顔を見て、男は頭を下げ、逃げるように部屋を退出した。
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