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第一章 始まりの春
4th Mov. 昼食と悩み事
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あの日以来、何となく4人で固まって行動をするようになった。一緒に教室移動をしたり、お昼にテーブルを囲んだり。
あの時、唐突に行動した中野のチャレンジは成功らしい。
しっかり神田さんと仲良くなっていると思う。
まあ、男から見ても格好良いしな。それに話題も豊富で話上手だし。
何で同じ制服を着てるのに、あいつはあんなに様になるのだろうって常々思う。僕なんて、少しブカブカのブレザーは手の甲にかかっているし、制服に着られている感が半端ない。来年くらいには着こなせているだろうか。
こんな風に、僕は自分の世界に入れるくらい会話に交ざれていなくて、三人で楽しそうに会話している。
「伏見さんの弁当っていつも美味そうだよな」
「そんな事ないよ! 全然! 余り物の詰め合わせみたいなものだから」
「自分で作っているっていうのが凄いんじゃない! 実際、味も保証付きよ。紬《つむぎ》は料理上手なんですから!」
「へぇー。自分で作ってるなんて偉いじゃん」
「全然だよ! ピアノ教室の生徒さんってさ、学校終わりの子とか、仕事終わりの大人とかで、お母さんが晩御飯作る暇ないの。お父さんも仕事だし、私がやるしかなくて。そんな理由だもん」
「そんなんでも手を抜かないのが紬の良いところだよ。私がお嫁さんにしたいくらい良い子なのよ」
最近気が付いた伏見さんのクセ。強く否定する時にするこの仕草。指先までピンとさせて顔の前でパタパタ振る。
ちょっとメトロノームみたいで可愛い。
そして神田さん。見た目こそ派手めでギャルっぽいかと思いきや、話してみるとそうでもない。むしろ時折、古臭い言い方をしたりする。
「そうだよなぁ。伏見は良いお嫁さんって感じがするかも。なっ、野田?」
「えっ? ああ、そうだね。今の時代なら女の子同士でも良いんじゃないかな」
突如振られた話題。出来るだけ気を遣った返しをしてみたけど、適切ではなかった気がする。
「えっと……、私は男の子とが良いかな。結婚する……なら」
「……そ、そうよね! って、ちょっと、野田! どうしてくれんのよ。私、フラれちゃったじゃない!」
「あ! ごめん。そういうつもりじゃ無かったんだけど」
「大丈夫だよ、野田。みんな冗談だって分かってるから」
ちょっとヒヤッとしたけど、生温い笑いが広がって無事に着地。
少しキョロキョロしながら戸惑っている一人を除いて……。
「えっ? そうなの?」
「えっ? 紬、本気の返事だった?」
「うん……。千代《ちよ》ちゃんは好きだけど、そういう好きとは違ってて……」
「やめて~。二度もフラれるなんて、傷口に塩を塗り込むようなもんじゃない。紬の天然は余裕で私を殺せるわ」
と、まあこんな感じで何とか上手くやっていると思う。大部分を中野と神田さんに助けられていることは否めないけど。そこに伏見さんが加わると会話が不思議な方向へ飛んでいくが、それもまた楽しかったりする。
「そうだ。ピアノの発表会ってどんな格好して行ったら良いんだろう?」
「演奏を聴きに来てもらうだけだし、どんな格好でも良いと思うよ? ねえ、千代ちゃん」
「そうね。その辺りは人によって結構違うかな。休日のお父さんって感じの格好の人もいれば、出演者の娘さんより気合の入った格好をしてくる親御さんもいるし」
「そりゃ凄えな。違う楽しみを見出せそうだ」
「僕らは制服着ていけば問題無いかな?」
「私は私服で行くよ? 演奏後の紬に花束を渡すから、少しフォーマル目の」
「じゃあ、私服で良くね? 俺ら二人だけ制服で行ったら悪目立ちしそうだしな」
「私服……。私服か……」
「そんなに悩まなくても良いよ。身内の発表会だし、いつもの普段着で大丈夫だから」
「だってよ。俺らは主役じゃないし、お言葉に甘えさせてもらおうぜ」
そうだよな。ピアノの発表会の主役は出演者であって僕らじゃない。目立たず、見すぼらしくない格好であれば問題無いはず。
だけど、僕の持っている服装で大丈夫そうなのあったかな? 襟付きのシャツでも着ていけば大丈夫か? でもあれは柄がハッキリしている奴だったような……。どうしよう。
後で中野に聞いてみようかな。当日着て行く服の写真送ったら良いアドバイスをくれるだろう。中野ならセンス良さそうだし、信用できる。
そういえば、今更だけど神田さんたちの連絡先知らないな。ピアノの発表会を見に行くなら、待ち合わせもあるだろうし、連絡先を交換しておきたい。
「そういえばさ、神田さんや伏見さんの連絡先知らないんだ。良かったら交換しない?」
ちょっと驚いたような顔をするなよ、中野。僕だって、そのくらい聞けるさ。ピアノの発表会なんていう明確な口実があれば。タイミングを計る余裕はなかったけどさ。
むしろ、中野の方がなかなか聞かないから、ずっとこのまま交換しないのかと思ってたくらいだよ。
「そういえば交換してなかったね。今、みんなでしちゃおっか」
僕にとっては勇気のいる提案だったけど、神田さんが自然と受け入れてくれたので一安心。
みんなスマホを取り出し、連絡先を交換する。
取り出したスマホやカバーなんかを思わず見てしまうのは仕方のないことだと思う。
幸いと言って良いか分からないけど、画面がバキバキの人はいなかった。
神田さんは、見た目と違いシックで渋めのスマホカバー。デコってたりもしてない。
伏見さんはピンクの兎の耳が付いたやつ。あの耳の部分は邪魔じゃないんだろうか。
中野はカバーすら付けてなくて、僕は落としても傷が付かないようにゴツめな感じ。
スマホ一つとっても性格が出るよな。
「えーと、神田さんの名前ってこう書くんだ。ちよちゃんって呼ん……」
「名前はイヤ!」
和やかなお昼時間が一転、聞いたことのない固い声で明確な拒絶が場を包む。
中野は予想外の反応に驚いて声が出ないようだ。いつも中野には助けられている。ここは僕が何とかするしかない。
「……伏見さんは呼んでるのに?」
何とも僕らしい間抜けな質問。
仲の良い幼馴染と出会ったばかりの僕らでは比較にならない。
でも、中野だけじゃなくて僕も否定されれば、少しは気が楽になるかもしれない。
「紬は昔からそう呼んでるからって変えてくれないの。千代って名前が古くさいから呼ばれるの嫌なんだよね。誰が呼ぶかって問題じゃなくて」
「千代って名前、可愛いのにね。私、好きだよ?」
「元々、そんなに好きじゃなかったの。なのに小学校のころ、男子にイジられて嫌いになっちゃったんだよね」
「あー、きっとそいつは神田さんに気があったんじゃないかな」
「千代ちゃん、昔から美人さんでモテてたもんね」
「あんなガキみたいのにモテたって嬉しくないわよ」
「って事は、好きになるのは年上ばかり?」
「そういえば、千代ちゃんが誰か好きって話聞かないね」
畳み掛けるように神田さんの好みについて質問を重ねる二人。
神田さんも疑問に感じていないようで、人差し指を顎に宛てながら、首をひねっている。
「タイプが年上かどうかは分かんないな。年上の人と出会うキッカケが無かったし。とりあえず同い年の男子は馬鹿な事して笑ってるからガキだなって思うくらい」
そう言う神田さんのご意見に、思わず中野と目を合わせてしまう。男なんて、いくつになっても馬鹿やって笑ってると思うけど、それを口に出すほど僕らは馬鹿ではなかった。
あの時、唐突に行動した中野のチャレンジは成功らしい。
しっかり神田さんと仲良くなっていると思う。
まあ、男から見ても格好良いしな。それに話題も豊富で話上手だし。
何で同じ制服を着てるのに、あいつはあんなに様になるのだろうって常々思う。僕なんて、少しブカブカのブレザーは手の甲にかかっているし、制服に着られている感が半端ない。来年くらいには着こなせているだろうか。
こんな風に、僕は自分の世界に入れるくらい会話に交ざれていなくて、三人で楽しそうに会話している。
「伏見さんの弁当っていつも美味そうだよな」
「そんな事ないよ! 全然! 余り物の詰め合わせみたいなものだから」
「自分で作っているっていうのが凄いんじゃない! 実際、味も保証付きよ。紬《つむぎ》は料理上手なんですから!」
「へぇー。自分で作ってるなんて偉いじゃん」
「全然だよ! ピアノ教室の生徒さんってさ、学校終わりの子とか、仕事終わりの大人とかで、お母さんが晩御飯作る暇ないの。お父さんも仕事だし、私がやるしかなくて。そんな理由だもん」
「そんなんでも手を抜かないのが紬の良いところだよ。私がお嫁さんにしたいくらい良い子なのよ」
最近気が付いた伏見さんのクセ。強く否定する時にするこの仕草。指先までピンとさせて顔の前でパタパタ振る。
ちょっとメトロノームみたいで可愛い。
そして神田さん。見た目こそ派手めでギャルっぽいかと思いきや、話してみるとそうでもない。むしろ時折、古臭い言い方をしたりする。
「そうだよなぁ。伏見は良いお嫁さんって感じがするかも。なっ、野田?」
「えっ? ああ、そうだね。今の時代なら女の子同士でも良いんじゃないかな」
突如振られた話題。出来るだけ気を遣った返しをしてみたけど、適切ではなかった気がする。
「えっと……、私は男の子とが良いかな。結婚する……なら」
「……そ、そうよね! って、ちょっと、野田! どうしてくれんのよ。私、フラれちゃったじゃない!」
「あ! ごめん。そういうつもりじゃ無かったんだけど」
「大丈夫だよ、野田。みんな冗談だって分かってるから」
ちょっとヒヤッとしたけど、生温い笑いが広がって無事に着地。
少しキョロキョロしながら戸惑っている一人を除いて……。
「えっ? そうなの?」
「えっ? 紬、本気の返事だった?」
「うん……。千代《ちよ》ちゃんは好きだけど、そういう好きとは違ってて……」
「やめて~。二度もフラれるなんて、傷口に塩を塗り込むようなもんじゃない。紬の天然は余裕で私を殺せるわ」
と、まあこんな感じで何とか上手くやっていると思う。大部分を中野と神田さんに助けられていることは否めないけど。そこに伏見さんが加わると会話が不思議な方向へ飛んでいくが、それもまた楽しかったりする。
「そうだ。ピアノの発表会ってどんな格好して行ったら良いんだろう?」
「演奏を聴きに来てもらうだけだし、どんな格好でも良いと思うよ? ねえ、千代ちゃん」
「そうね。その辺りは人によって結構違うかな。休日のお父さんって感じの格好の人もいれば、出演者の娘さんより気合の入った格好をしてくる親御さんもいるし」
「そりゃ凄えな。違う楽しみを見出せそうだ」
「僕らは制服着ていけば問題無いかな?」
「私は私服で行くよ? 演奏後の紬に花束を渡すから、少しフォーマル目の」
「じゃあ、私服で良くね? 俺ら二人だけ制服で行ったら悪目立ちしそうだしな」
「私服……。私服か……」
「そんなに悩まなくても良いよ。身内の発表会だし、いつもの普段着で大丈夫だから」
「だってよ。俺らは主役じゃないし、お言葉に甘えさせてもらおうぜ」
そうだよな。ピアノの発表会の主役は出演者であって僕らじゃない。目立たず、見すぼらしくない格好であれば問題無いはず。
だけど、僕の持っている服装で大丈夫そうなのあったかな? 襟付きのシャツでも着ていけば大丈夫か? でもあれは柄がハッキリしている奴だったような……。どうしよう。
後で中野に聞いてみようかな。当日着て行く服の写真送ったら良いアドバイスをくれるだろう。中野ならセンス良さそうだし、信用できる。
そういえば、今更だけど神田さんたちの連絡先知らないな。ピアノの発表会を見に行くなら、待ち合わせもあるだろうし、連絡先を交換しておきたい。
「そういえばさ、神田さんや伏見さんの連絡先知らないんだ。良かったら交換しない?」
ちょっと驚いたような顔をするなよ、中野。僕だって、そのくらい聞けるさ。ピアノの発表会なんていう明確な口実があれば。タイミングを計る余裕はなかったけどさ。
むしろ、中野の方がなかなか聞かないから、ずっとこのまま交換しないのかと思ってたくらいだよ。
「そういえば交換してなかったね。今、みんなでしちゃおっか」
僕にとっては勇気のいる提案だったけど、神田さんが自然と受け入れてくれたので一安心。
みんなスマホを取り出し、連絡先を交換する。
取り出したスマホやカバーなんかを思わず見てしまうのは仕方のないことだと思う。
幸いと言って良いか分からないけど、画面がバキバキの人はいなかった。
神田さんは、見た目と違いシックで渋めのスマホカバー。デコってたりもしてない。
伏見さんはピンクの兎の耳が付いたやつ。あの耳の部分は邪魔じゃないんだろうか。
中野はカバーすら付けてなくて、僕は落としても傷が付かないようにゴツめな感じ。
スマホ一つとっても性格が出るよな。
「えーと、神田さんの名前ってこう書くんだ。ちよちゃんって呼ん……」
「名前はイヤ!」
和やかなお昼時間が一転、聞いたことのない固い声で明確な拒絶が場を包む。
中野は予想外の反応に驚いて声が出ないようだ。いつも中野には助けられている。ここは僕が何とかするしかない。
「……伏見さんは呼んでるのに?」
何とも僕らしい間抜けな質問。
仲の良い幼馴染と出会ったばかりの僕らでは比較にならない。
でも、中野だけじゃなくて僕も否定されれば、少しは気が楽になるかもしれない。
「紬は昔からそう呼んでるからって変えてくれないの。千代って名前が古くさいから呼ばれるの嫌なんだよね。誰が呼ぶかって問題じゃなくて」
「千代って名前、可愛いのにね。私、好きだよ?」
「元々、そんなに好きじゃなかったの。なのに小学校のころ、男子にイジられて嫌いになっちゃったんだよね」
「あー、きっとそいつは神田さんに気があったんじゃないかな」
「千代ちゃん、昔から美人さんでモテてたもんね」
「あんなガキみたいのにモテたって嬉しくないわよ」
「って事は、好きになるのは年上ばかり?」
「そういえば、千代ちゃんが誰か好きって話聞かないね」
畳み掛けるように神田さんの好みについて質問を重ねる二人。
神田さんも疑問に感じていないようで、人差し指を顎に宛てながら、首をひねっている。
「タイプが年上かどうかは分かんないな。年上の人と出会うキッカケが無かったし。とりあえず同い年の男子は馬鹿な事して笑ってるからガキだなって思うくらい」
そう言う神田さんのご意見に、思わず中野と目を合わせてしまう。男なんて、いくつになっても馬鹿やって笑ってると思うけど、それを口に出すほど僕らは馬鹿ではなかった。
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