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第一章 始まりの春
2nd Mov. 不安と期待
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新たな生活というのは変化が起きる訳で。
それは望む望まないといった本人の意思とは別物でもあるもので。
だから、と言ってはアレかもしれないけど、僕を取り巻く環境にも大きな変化があったんだ。
入学式。
知らない教室。
知らない人たち。
その知らない人たちの一員の僕。
まだ何者でもなくて、これからも何者にもなれなそうな僕。
僕は早くも不慣れな教室の風景に溶け込み始めていた。
それを引き止めたのが前に座るあいつ。
何でか知らないけど、明るくて人気者のあいつは、後ろの席の僕に良く話しかけてくる。
今だって、ほら。
「なあなあ、クラスの奴らの名前覚えた?」
「いや、数人だけかな」
授業も終わり、HRに先生が来るまでの間に話しかけてきた。
「4月も半ばだってのに未だにそれだけとはな。それだと、むしろ覚えられた数人が誰なのか気になるところだよ」
「確かに。ある意味、貴重だよね。中野は人気者だし他のクラスにも友達いるのは凄いと思う。僕からしたら羨ましい限りだよ」
「本当に羨ましいと思ってるやつなら、友達を紹介してくれとか積極的に動くと思うぞ? それに俺は同じ中学のやつが多いからな」
中野の言い分は正しくもあり、正しくない部分もある。
こいつは顔良し、性格良しで文句の付け所がない。
その上、運動も得意なようで、空気を読むのも上手い。
人が集まってくるのも当然というものだ。
なのに時折、一人で小説を読んでいたりと思ってもみない一面を見せる。
まあ、僕に話しかけてくる点も予想外の一面だろう。僕より面白いやつは多いと思うんだけど。
現に中野の友人たちは、中野が僕と話している時は近寄って来ないのだから。
そういう状況なのに楽し気に話しかけてくる中野の考えは良く分からない。とりあえず、中野が言う通り、僕は彼の状況を羨ましいと思っていないのは確かだ。
「うーん、それは勘弁かな」
「だろうな。それが野田らしい。そういうのが無いから良いんだよ」
「何が良いんだか。こちらは至って普通な男子高校生ですよ」
「わざと普通にしてるだけで、その気になったら違うだろ?」
ずいぶん断定的な言い方をするもんだ。
そこまで腹を割って話した覚えはないんだけどな。
「なんで中野がそんな事分かるんだ? 僕自身ですら、そんな事分からないのに」
「案外、こういう事って他人の方が分かるもんだぜ」
「中野って格好良いだけじゃなくて中身も大人なんだな。モテるのも納得だよ」
「モテねぇから! それに本の受け売りばっかだから大した事ないって」
「うーん。読んだ本を自分に落とし込めているんだから凄いと思うけど。中野って友達多いけど一人で本読んでる事もあるよね」
「好きなんだよ。一人の世界に没頭できるし、気を使わないで良いだろ?」
まあ、それは同意かな。僕が読むのはマンガばかりで格好が付かないけど、一人の世界っていうのは理解できる。
明るくて人当たりの良い中野がそれを言うとは思わなかっただけだ。
「沢山の人と接するのは疲れるもんね。中野はそういうの好きだと思ってた」
「好きか嫌いかは分かんねぇけどな。疲れて本の世界に逃げるのはいつもの事というか、そっちが地だから」
「モテるモテない云々より、その話の方が信じられないよ」
「信用ねえな。実際、好きな子に好かれなきゃ意味ないだろ?」
前言撤回。
僕と中野のモテるという基準には大きな隔たりがあるらしい。
「……中野って好きな人いるんだ」
「好きっていうか気になる程度だけどな。おそらく、野田が名前を覚えているだろう数少ないクラスメイトでもあるよ」
「なんで中野がそれを知ってるんだよ」
「目線とかで分かるもんだぜ? 神田さん目立つしな。それも仕方ないところだと思うよ。かく言う俺もその一人だし」
「まあ……、目立つからね」
「そうそう、なんだかんだでクラスのみんなが神田さんの動向を気にしてるからな」
「でも中野はそれだけじゃないんでしょ?」
「おうよ! ちょっと派手に見えるけど、気配りできて性格が良さそうなんだよな。それに高嶺の花っぽくて、男どもは遠巻きにしているだけだから、今がチャンスってやつさ。さぁ行こうぜ」
「えっ? 行くって……。ちょっと!」
緩やかな制止を他所に、仲良さげな女友達と話している神田さんの下へと近づいていく。
僕は中野の強引さに戸惑った様子を出しながらも、彼の行動に便乗してしまっている。神田さんと話すキッカケが出来てちょっと嬉しく思ってしまった自分が情けない。
それ以上に、そんなことをして失敗したらどうしようという不安がよぎる。
平和で味気のない高校生活の始まり。
そんな高校生活が突如変転してしまいそうな中野の行動。
このドキドキは怖さへの不安じゃなくて、期待の表れだったのかもしれない。
それは望む望まないといった本人の意思とは別物でもあるもので。
だから、と言ってはアレかもしれないけど、僕を取り巻く環境にも大きな変化があったんだ。
入学式。
知らない教室。
知らない人たち。
その知らない人たちの一員の僕。
まだ何者でもなくて、これからも何者にもなれなそうな僕。
僕は早くも不慣れな教室の風景に溶け込み始めていた。
それを引き止めたのが前に座るあいつ。
何でか知らないけど、明るくて人気者のあいつは、後ろの席の僕に良く話しかけてくる。
今だって、ほら。
「なあなあ、クラスの奴らの名前覚えた?」
「いや、数人だけかな」
授業も終わり、HRに先生が来るまでの間に話しかけてきた。
「4月も半ばだってのに未だにそれだけとはな。それだと、むしろ覚えられた数人が誰なのか気になるところだよ」
「確かに。ある意味、貴重だよね。中野は人気者だし他のクラスにも友達いるのは凄いと思う。僕からしたら羨ましい限りだよ」
「本当に羨ましいと思ってるやつなら、友達を紹介してくれとか積極的に動くと思うぞ? それに俺は同じ中学のやつが多いからな」
中野の言い分は正しくもあり、正しくない部分もある。
こいつは顔良し、性格良しで文句の付け所がない。
その上、運動も得意なようで、空気を読むのも上手い。
人が集まってくるのも当然というものだ。
なのに時折、一人で小説を読んでいたりと思ってもみない一面を見せる。
まあ、僕に話しかけてくる点も予想外の一面だろう。僕より面白いやつは多いと思うんだけど。
現に中野の友人たちは、中野が僕と話している時は近寄って来ないのだから。
そういう状況なのに楽し気に話しかけてくる中野の考えは良く分からない。とりあえず、中野が言う通り、僕は彼の状況を羨ましいと思っていないのは確かだ。
「うーん、それは勘弁かな」
「だろうな。それが野田らしい。そういうのが無いから良いんだよ」
「何が良いんだか。こちらは至って普通な男子高校生ですよ」
「わざと普通にしてるだけで、その気になったら違うだろ?」
ずいぶん断定的な言い方をするもんだ。
そこまで腹を割って話した覚えはないんだけどな。
「なんで中野がそんな事分かるんだ? 僕自身ですら、そんな事分からないのに」
「案外、こういう事って他人の方が分かるもんだぜ」
「中野って格好良いだけじゃなくて中身も大人なんだな。モテるのも納得だよ」
「モテねぇから! それに本の受け売りばっかだから大した事ないって」
「うーん。読んだ本を自分に落とし込めているんだから凄いと思うけど。中野って友達多いけど一人で本読んでる事もあるよね」
「好きなんだよ。一人の世界に没頭できるし、気を使わないで良いだろ?」
まあ、それは同意かな。僕が読むのはマンガばかりで格好が付かないけど、一人の世界っていうのは理解できる。
明るくて人当たりの良い中野がそれを言うとは思わなかっただけだ。
「沢山の人と接するのは疲れるもんね。中野はそういうの好きだと思ってた」
「好きか嫌いかは分かんねぇけどな。疲れて本の世界に逃げるのはいつもの事というか、そっちが地だから」
「モテるモテない云々より、その話の方が信じられないよ」
「信用ねえな。実際、好きな子に好かれなきゃ意味ないだろ?」
前言撤回。
僕と中野のモテるという基準には大きな隔たりがあるらしい。
「……中野って好きな人いるんだ」
「好きっていうか気になる程度だけどな。おそらく、野田が名前を覚えているだろう数少ないクラスメイトでもあるよ」
「なんで中野がそれを知ってるんだよ」
「目線とかで分かるもんだぜ? 神田さん目立つしな。それも仕方ないところだと思うよ。かく言う俺もその一人だし」
「まあ……、目立つからね」
「そうそう、なんだかんだでクラスのみんなが神田さんの動向を気にしてるからな」
「でも中野はそれだけじゃないんでしょ?」
「おうよ! ちょっと派手に見えるけど、気配りできて性格が良さそうなんだよな。それに高嶺の花っぽくて、男どもは遠巻きにしているだけだから、今がチャンスってやつさ。さぁ行こうぜ」
「えっ? 行くって……。ちょっと!」
緩やかな制止を他所に、仲良さげな女友達と話している神田さんの下へと近づいていく。
僕は中野の強引さに戸惑った様子を出しながらも、彼の行動に便乗してしまっている。神田さんと話すキッカケが出来てちょっと嬉しく思ってしまった自分が情けない。
それ以上に、そんなことをして失敗したらどうしようという不安がよぎる。
平和で味気のない高校生活の始まり。
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このドキドキは怖さへの不安じゃなくて、期待の表れだったのかもしれない。
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