αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第三章 共生

35師走 もう一人のオメガ③

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「神無月さん、今日お弁当作ってきたんですよ。一緒に食べましょ」
 とりあえずは混み合う火曜と金曜のランチにと神無月に言われ、渋々週に二回で手を打った。
「いや、今日は美月が弁当作ってくれたから美月と食べることになっている、何なら一緒に食べるか?」
「えーおかしいなぁ、紫苑さんは緊急の連絡が入ったとかでこの休憩時間はどこかに出かけなきゃいけないって言ってなかったですか」
 神無月が紫苑の方を見て『どこに行くんだ』と聞くと、神無月に見えないように背後から紫苑にいやらしい視線を送る。
 涼風はオメガとしての本能で神無月と言うアルファが欲しいらしいのは明白だった。
 赤裸々な言い方をすれば突っ込まれて噛まれたいって所だろう。
 ――僕を邪魔にするあたり、つまりはライバルだと思っているわけか。で、邪魔すればバラすって脅しか。
「地区会長さんとこ」
「クリスマスの打ち合わせか?朝ご飯食べてた時言ってなかったじゃねーか」
 ムッとして口をへの字に曲げてる姿をかわいらしいと思うあたり、終わっている。
「さっき電話かかってきて言われたんだよ」
 ――電話なんかなってない。
 それでもごまかせる自信はあった。
「いつ?」 
「相変わらず集中すると耳聞こえないよなー」
 核心には触れず、それでも軽くふわりと笑って、神無月を見た。
 ――僕にだってプライドはある。バラされて店がごたごたするのは嫌だけど、後から出てきたポッと出に黙ってアイツをかっさらわれるのも、正直面白くない。
 だからと言って店に迷惑をかけずに対抗出来るだけの武器がないのが現状だ。
「弁当作ってたよな。俺の好きな甘玉の入ったやつ」
 見ていたんだから作ってないは通用しない。
「忘れてきた。悪い」
 一番シンプルで突っ込み用のないやつだ。勿論もっているし忘れるわけもないけれど……。
「どこに、机にはなかったぞ」
 えらく食らいつくと思ったものの、仕事に支障が出るのは本意じゃない。
「トイレの前にあっただろ」
 ――百にもゼロにもならない。頼む退いてくれ、柊。
 無言の抗議のあと、昼飯にするかとフライパンを出した。
「打ち合わせ行ってくる。昼は適当に食うよ」
 紫苑はなんの予定もない、ただの一時間を潰しに外に出た。
「お弁当ありますよ」
 邪魔者が消え嬉しそうに纏わりつき、家庭的をアピールする涼風に神無月は適度な距離感を持ち、やんわりと拒否をした。
「要らないよ。ごめんね、自分で作る」
 
 
 
 
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