18 / 88
第二章 リ,スタート
17 長月 すれ違う恋心
しおりを挟む
「いつからアルファとして生きようと思ったの」
喉仏が反射的に何かを飲み込んだ。つばを飲み込まなきゃいけないほど、紫苑にとっては大きな原因だという事が、鈍感な神無月でも理解は難しくは無かった。
神無月はどこまで踏み込むか一つ一つ反応を見ながら――何があったのか教えてくれないかと聞いた。
無理矢理に話題を変えたのは紫苑だ。
「どんな……人ですか」
「え」
紫苑の不意打ちにえらく間抜けな声が出た。
緊張で指先に力が入っているのか、ピクンピクンっと神無月の指の下で蠢いて、その速度はどんどん早くなり、水を求めて岸に打ち上げられてもがく魚の様だった。
「ねぇ、神無月さん、神無月さんの好きなオメガさんはどんな人ですか」
自傷行為もいいとこだ。聞きたくなんかないのに、それでも聞かなきゃ諦められない。
なぁ紫苑、なら聞いたら諦められるのか?自分が自分に問いかけた。
『ずっと待っているオメガがいるんだ』
「ウヮァァァァァァ」
繋いでいた手を無理矢理離し、頭の中の幻聴を何度も追い払おうと必死だった。
「紫苑君、どうした」
神無月は紫苑の両肩をつかみ心臓と心臓を合わせるように抱きかかえた。
ずっと横を向いていた紫苑は、突然神無月の方に顔を向けるとシャツの襟元をつかみ上目遣いで見上げ、口が何やら動いている。音にならない唇から視線を上げるとその目は涙で揺れていた。大きく息を吸いアと言う声が出た。
「ねぇ、教えてくださいよ。かわいい子ですか。髪は長かった?細身?ぽっちゃり?色は白い?髪は?ねぇ」
「おい、紫苑君」
うつろな目をした紫苑は何かを諦めるように、それはまるで自傷行為の様に自分を追い詰めていった。
「ねぇ、神無月さんってば、なんで教えてくれないの」
神無月は何度言っても黙らない紫苑の唇を己の唇で塞いだ。
「ンンン」
キスの仕方も知らない子供のように息ができなくて神無月の胸をドンドンと叩く。
「鼻で息をするんだよ。ほらできるだろう。紫苑君」
「ンンン」
いやいやと首を左右に振った。
「ゆっくりと、ほら、俺の事だけ見てごらん。何も考えないで」
神無月の唇は紫苑を求め、大切なものがそこに在るのを確かめるように貪った。
ゆうに30分は唇を重ねていたように思う。
「君なら良いのにと、思っていた」
唐突に神無月は話し始めた。
「え?」
時間が止まったかのように瞬きもせず、大きな目は神無月を見つめた。
「アルファもオメガもまだわからないような小さな頃さ。彼に会った」
「彼、ですか?」
「言ってなかったっけ」
聞いてない、そう言おうとした物の彼か彼女かなんて大して重要ではないことに気が付いた。
「さっきの、どういう事ですか」
――君ならいいのにと思っていた。
確かに神無月はそう言ったのだ。
「そのまんまだよ」
喉仏が反射的に何かを飲み込んだ。つばを飲み込まなきゃいけないほど、紫苑にとっては大きな原因だという事が、鈍感な神無月でも理解は難しくは無かった。
神無月はどこまで踏み込むか一つ一つ反応を見ながら――何があったのか教えてくれないかと聞いた。
無理矢理に話題を変えたのは紫苑だ。
「どんな……人ですか」
「え」
紫苑の不意打ちにえらく間抜けな声が出た。
緊張で指先に力が入っているのか、ピクンピクンっと神無月の指の下で蠢いて、その速度はどんどん早くなり、水を求めて岸に打ち上げられてもがく魚の様だった。
「ねぇ、神無月さん、神無月さんの好きなオメガさんはどんな人ですか」
自傷行為もいいとこだ。聞きたくなんかないのに、それでも聞かなきゃ諦められない。
なぁ紫苑、なら聞いたら諦められるのか?自分が自分に問いかけた。
『ずっと待っているオメガがいるんだ』
「ウヮァァァァァァ」
繋いでいた手を無理矢理離し、頭の中の幻聴を何度も追い払おうと必死だった。
「紫苑君、どうした」
神無月は紫苑の両肩をつかみ心臓と心臓を合わせるように抱きかかえた。
ずっと横を向いていた紫苑は、突然神無月の方に顔を向けるとシャツの襟元をつかみ上目遣いで見上げ、口が何やら動いている。音にならない唇から視線を上げるとその目は涙で揺れていた。大きく息を吸いアと言う声が出た。
「ねぇ、教えてくださいよ。かわいい子ですか。髪は長かった?細身?ぽっちゃり?色は白い?髪は?ねぇ」
「おい、紫苑君」
うつろな目をした紫苑は何かを諦めるように、それはまるで自傷行為の様に自分を追い詰めていった。
「ねぇ、神無月さんってば、なんで教えてくれないの」
神無月は何度言っても黙らない紫苑の唇を己の唇で塞いだ。
「ンンン」
キスの仕方も知らない子供のように息ができなくて神無月の胸をドンドンと叩く。
「鼻で息をするんだよ。ほらできるだろう。紫苑君」
「ンンン」
いやいやと首を左右に振った。
「ゆっくりと、ほら、俺の事だけ見てごらん。何も考えないで」
神無月の唇は紫苑を求め、大切なものがそこに在るのを確かめるように貪った。
ゆうに30分は唇を重ねていたように思う。
「君なら良いのにと、思っていた」
唐突に神無月は話し始めた。
「え?」
時間が止まったかのように瞬きもせず、大きな目は神無月を見つめた。
「アルファもオメガもまだわからないような小さな頃さ。彼に会った」
「彼、ですか?」
「言ってなかったっけ」
聞いてない、そう言おうとした物の彼か彼女かなんて大して重要ではないことに気が付いた。
「さっきの、どういう事ですか」
――君ならいいのにと思っていた。
確かに神無月はそう言ったのだ。
「そのまんまだよ」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~
一色姫凛
BL
警備隊長マーリナスは取り締まりに赴いた地下街で偶然にも、ある少年を保護することになる。
少年の名はアレク。
見目麗しく謎の多い少年だったが、彼には大きな問題があった。
目が合ったとたん他者を魅了し操る禁術、『バレリアの呪い』を体に宿していたのである。
マーリナスはひとまずアレクの素性を隠し、自身との同居をすすめるのだが……
立て続けに起きる事件の中で唯一無二の知己や大悪党などが次々と魅了されてしまい!?
魅了によって恋焦がれるもの、それとは関係なく好意をもつもの。多くの人間関係がめざましく交錯していくことになる。
*ハッピーエンドです。
*性的描写はなし。
*この作品の見所のひとつは、自分の推しで色んなcpを妄想して楽しめるところだと思っています。ぜひ自分の推しをみつけて小説ならではの楽しみを見つけて下さい。
*もし気に入って頂けたら「お気に入り」登録よろしくお願いします!
【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜
有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)
甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。
ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。
しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。
佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて……
※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>
記憶の欠片
藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。
過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。
輪廻転生。オメガバース。
フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。
kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。
残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。
フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。
表紙は 紅さん@xdkzw48
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる