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14沖田総司編 繋げた想い みたらし団子と葛切り

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 沖田が床に臥せってもう何日もたつ。
 天狐は朝から小さなおにぎりを作っていた。

 トントン、扉をたたく音がする。
「開いてますよ」
 誰も入ってこない。
「どなたですか、あのー」
 天狐は扉を開けた。サッサっと隠れる影が見えたが元来勘のいい天狐は、今は追うべきではないと判断した。
 視線を足元に向けると、戸の入り口には小さな風呂敷包がおかれていて白い紙が入っていた。

 天狐は店の鍵を閉めるとその風呂敷包みを机に置き隼人を呼んだ。
「何が入っているんだ?」
「おむすび……多分」
 隼人は黙ってしまった。
 千駄ヶ谷の総司が臥せっていることなど誰も知らない。そもそも匿われているのだから。
 殺したいと思っているやつなど何人もいるだろう。ばれるわけにはいかん。
「毒入りか?」
「あぁ、そっちやないな、おそらく」
「どっち?」
 理解力の鈍いおっさんだなと天狐は思いながら白い封筒を差し出した。
「手紙?」
「写真やった」

 中には3つになろうかというくらいの小さな男の子の写真が入っていた。
 それを見た隼人はすべての意図を理解し、台所に立った。

 隼人は黙って【おみたらし】と【葛切り】を作った。
 【おみたらし】櫻子が総司と食べたいと願った甘味。
 【葛切り】総司が京で櫻子に食べさせたいと思った甘味。
 その二つの甘味を想いに乗せて、俺たちが繋げば良い。


 先に出来上がった葛切りは先程の風呂敷包みがあった場所へ、同じく風呂敷に包んで……置いた。
「今から言うのは独り言や。これは葛切りやよ。食べたかったって言っとったらしいわ」

 扉を閉めると黒い影がすっと動いた。
 頭を下げる影が映る。

 私達に運命は変えられん。でも想いを繋ぐ事は出来る。

 おみたらしと写真、不格好のぐちゃぐちゃのおむすびを持って天狐は千駄ヶ谷の薬屋に行った。

 沖田総司は病床からゆっくりと体を起こした。
「久しぶりや、瘦せたな、沖田はん」
「そうですね」

「おむすびもってきたんよ」
 中を開けた沖田総司はぐちゃぐちゃのおむすびを見て感極まっていた。
 天狐は写真を見せると、一緒に食べたいと言っていたおみたらしだと言って、その場を後にした。


 それから3日後……沖田総司がなくなったと天狐と隼人が聞いたのは、やはり同じように店の前に置かれた包みに入っていた手紙からだった。

「昨夜…沖田様が逝きました。また来世で会おうと約束をしてくださいました。私はそれだけで幸せなのです」
 名前のないその手紙を握り締め天狐は独り言ちひとりごた。

「夢で会えたんだね……」


 沖田総司が息を引き取る間際、手には一枚の写真が握られていた。
 裏面に一言、お名前頂きました、と書かれてあったという。
 



 
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