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44 夢の途中
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「やはりそうか。どこかで見たことがあると思ったら」
先生たちがガヤガヤし始めた。
一人の先生が突然セリフを言い始めた。
「なんだ、あれが僕たちの探している青い鳥なんだ。僕たちはずいぶん遠くまで探しに行ったけど、本当はいつもここにいたんだ」
戸倉先生に話しかけた先生は和物の得意な先生で、お世辞にも今の台詞がうまいとはいいがたい。
「長谷先生はメーテルリンクは苦手ですか?」
頭を搔きながら
イヤー面目ないと言っていた。
「南條」
呼ばれてびくっとする。
「はい」
「申し訳ないが今の長谷先生の言った台詞をもう一度やってくれないか?」
戸倉先生に言われて断れるわけはない。それにもしかしたらこれはチャンスだ。
「はい」
南條はフロア中央に進む。
「一言宜しいでしょうか」
「何だい」
「あの当時は身長が135しかありませんでしたから、私はそのセリフは言っておりません。ですのであくまでも今の解釈でいいでしょうか」
「構わん、今の解釈が見たい」
「先生狡いです!私だって青い鳥ならさっきのリフのセリフよりはうまく言えます」
「そうか、でも別に今桜華の解釈が聞きたいわけではないから、やりたいなら後でいいか?」
予科生達は皆緊張の中で固唾をのんで見守った。
「やめよう……」
首を振って桜華の行動を静止したのはサツキだった。
今回のサツキはトニーの役を本科生と争う試験内容だ。
「狡くはないさ、芸事はな、如何に目に留まるかだとは思わないかい?」
サツキが桜華に言った。
「……」
唇をかみしめ手にはこぶしを握り締めていたが、やがて表を向くと先生と目が合った。
「そこ、もういいか?時間がもったいないんだが」
「申し訳ございません」
桜華は悔しさを飲み込んだ。
「では仕切り直しだ。長谷先生のへたくそなメーテルリンク何ぞ記憶に残したくはないからな」
失礼いたしました……。苦笑交じりに長谷先生は言葉を返す。
「南條、やれ」
中央に視線が注がれる。
「なんだ、あれが僕たちの探している青い鳥なんだ。僕たちはずいぶん遠くまで探しに行ったけど、本当はいつもここにいたんだ。みんなが考えているより、ずっとたくさんの幸福が世の中にはある。大抵の人はそれを見つけられないだけなんだ」
フロアーはシーンと静まり返る。
「先生?終わりましたが……」
戸倉先生は嬉しそうに口角を上げた。
「そうか、気が付かなかったのはそういうことか……」
「……?」
「チルチルに記憶が結びつかないわけだ。ミチルだったのだから」
あー。
あの当時一際小さな少女が演劇コンクールの助演女優賞を取ったことが話題となったことがある。
子役をやっていたような有名な子ではなく、ある意味ではポッとでのただの神奈川県の県立中学校の少女。
有名な演劇部でもなく、演目賞なんかは何一つ取れなかった学校が、唯一誇る才能がこの南條さくらか。
その子が巡り巡っていま、この宝塚音楽学校の予科生にいる。
これは僕たちが探している青い鳥だ。
気がついたら手に汗をかき、腕組みするその手に力が入っていた。
心臓が大きくなっている。
今タカラジェンヌの研1に大物がいる。恐らくこの天満に南條が加わり、わきを固める有望なタカラジェンヌ予備軍は黄金の時代に突入するだろう。
この学年がタカラジェンヌになるその時には、この鳥肌はもっと凄い汗を拭きださせるかもしれないな。
審査員席で先生たちはそう思った。
さくらの演技を見た仲間は皆、自身の腕に浮かぶ鳥肌を見た。
「こわいね」
たった100文字程度のセリフにこんなに鳥肌が立つのか……。
芝居というのは同じセリフでこうも違うものなのか……。
「これが才能…なんだ………」
予科生たちの喉を通過する唾がテスト会場に静かに響いた……。
翌日のタップのテストまでを無事に終えた予科生と本科生は結果発表をそわそわとした面持ちで待っていた。
ガラガラガラ!
木の扉が大きな音を出して先生たちが入ってこられた。
「きおつけ!」
「礼!」
よろしくい願いいたします。
「今回は演目はシカゴ」
「――――――配役は――――――――――
南條さくらの拳が上がった瞬間だった。
たった四回しかない20倍以上の難関に勝ち抜き、そのあとも続く
戦いの世界。
それは全ての夢へ続く階段の始まりだった。
《了》
先生たちがガヤガヤし始めた。
一人の先生が突然セリフを言い始めた。
「なんだ、あれが僕たちの探している青い鳥なんだ。僕たちはずいぶん遠くまで探しに行ったけど、本当はいつもここにいたんだ」
戸倉先生に話しかけた先生は和物の得意な先生で、お世辞にも今の台詞がうまいとはいいがたい。
「長谷先生はメーテルリンクは苦手ですか?」
頭を搔きながら
イヤー面目ないと言っていた。
「南條」
呼ばれてびくっとする。
「はい」
「申し訳ないが今の長谷先生の言った台詞をもう一度やってくれないか?」
戸倉先生に言われて断れるわけはない。それにもしかしたらこれはチャンスだ。
「はい」
南條はフロア中央に進む。
「一言宜しいでしょうか」
「何だい」
「あの当時は身長が135しかありませんでしたから、私はそのセリフは言っておりません。ですのであくまでも今の解釈でいいでしょうか」
「構わん、今の解釈が見たい」
「先生狡いです!私だって青い鳥ならさっきのリフのセリフよりはうまく言えます」
「そうか、でも別に今桜華の解釈が聞きたいわけではないから、やりたいなら後でいいか?」
予科生達は皆緊張の中で固唾をのんで見守った。
「やめよう……」
首を振って桜華の行動を静止したのはサツキだった。
今回のサツキはトニーの役を本科生と争う試験内容だ。
「狡くはないさ、芸事はな、如何に目に留まるかだとは思わないかい?」
サツキが桜華に言った。
「……」
唇をかみしめ手にはこぶしを握り締めていたが、やがて表を向くと先生と目が合った。
「そこ、もういいか?時間がもったいないんだが」
「申し訳ございません」
桜華は悔しさを飲み込んだ。
「では仕切り直しだ。長谷先生のへたくそなメーテルリンク何ぞ記憶に残したくはないからな」
失礼いたしました……。苦笑交じりに長谷先生は言葉を返す。
「南條、やれ」
中央に視線が注がれる。
「なんだ、あれが僕たちの探している青い鳥なんだ。僕たちはずいぶん遠くまで探しに行ったけど、本当はいつもここにいたんだ。みんなが考えているより、ずっとたくさんの幸福が世の中にはある。大抵の人はそれを見つけられないだけなんだ」
フロアーはシーンと静まり返る。
「先生?終わりましたが……」
戸倉先生は嬉しそうに口角を上げた。
「そうか、気が付かなかったのはそういうことか……」
「……?」
「チルチルに記憶が結びつかないわけだ。ミチルだったのだから」
あー。
あの当時一際小さな少女が演劇コンクールの助演女優賞を取ったことが話題となったことがある。
子役をやっていたような有名な子ではなく、ある意味ではポッとでのただの神奈川県の県立中学校の少女。
有名な演劇部でもなく、演目賞なんかは何一つ取れなかった学校が、唯一誇る才能がこの南條さくらか。
その子が巡り巡っていま、この宝塚音楽学校の予科生にいる。
これは僕たちが探している青い鳥だ。
気がついたら手に汗をかき、腕組みするその手に力が入っていた。
心臓が大きくなっている。
今タカラジェンヌの研1に大物がいる。恐らくこの天満に南條が加わり、わきを固める有望なタカラジェンヌ予備軍は黄金の時代に突入するだろう。
この学年がタカラジェンヌになるその時には、この鳥肌はもっと凄い汗を拭きださせるかもしれないな。
審査員席で先生たちはそう思った。
さくらの演技を見た仲間は皆、自身の腕に浮かぶ鳥肌を見た。
「こわいね」
たった100文字程度のセリフにこんなに鳥肌が立つのか……。
芝居というのは同じセリフでこうも違うものなのか……。
「これが才能…なんだ………」
予科生たちの喉を通過する唾がテスト会場に静かに響いた……。
翌日のタップのテストまでを無事に終えた予科生と本科生は結果発表をそわそわとした面持ちで待っていた。
ガラガラガラ!
木の扉が大きな音を出して先生たちが入ってこられた。
「きおつけ!」
「礼!」
よろしくい願いいたします。
「今回は演目はシカゴ」
「――――――配役は――――――――――
南條さくらの拳が上がった瞬間だった。
たった四回しかない20倍以上の難関に勝ち抜き、そのあとも続く
戦いの世界。
それは全ての夢へ続く階段の始まりだった。
《了》
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ええっ!
了ってことは、ここで終わりですか?
まだまだ続きが、読みたい!
今後の展開が楽しみなんですが!!!
ありがとうございます。
続きが練れたら第二部かかせてもらいます。
まっていていただけたら有難いです。
ドキドキワクワクがとまりません。
たまらなく、はやく続きが読みたい!
ありがとうございます。
宝塚は夢の世界
素敵なドキドキを届けられるように頑張ります