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20宝塚大劇場への花の道 それぞれの覚悟③

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「雨情先生から出された条件?」
「うん」
 存外明るく笑うもんだから、私はあんなにサツキが追い詰められてたなんて知らなかった。

「私さ一時期雨情先生のバレエスクール休んでたでしょ?」
 自販機でアイスティーを2本買い、1本をサツキに渡した。
 4月は沢山の桜が咲くこの道を来年私は歩きたい!
 観客、なんていう、箱の外からではなくて、熱くたぎるパッションをあの舞台の上で!

「あれ辞めさせられてたの……」

「え?」

「雨情先生に出された条件、クリア出来なくて、私に教える時間が勿体ないって言われた」
「……」
「お前程度なら学校の授業で十分だろ?って」
「でも雨情先生……そんな事言わなかった」

「辞めなきゃならなかったとき、私泣いたんだよ。人生で初かも、泣いたの」
 アイスティー……味がしないよ。
 私は気がつかなかった。サツキの悲しさとか悔しさとか……。
 とんだ親友だよ。
 気がついたら大きな目からは涙が流れ、悔しさでほっぺはぐちょぐちょになっていた。

 サツキはそんな私を見ると吹っ切れた顔をしていてなんか一気に先を越された印象だった。
「雨情先生がバレエスクール紹介してくれたんだ」
「先生が?」

「うん、そこでまず一番上になれって、お前はいいもの沢山持ってる、でも踊れなくてもトップスターになれる個性を持ってる人は一握りだって」
 だから雨情先生は私を見捨てたわけじゃなくて……むしろ鼓舞してくれたんだって思えたんだ。


 でお休み1ヶ月の間に気合いで取り返して今は雨情先生の一番下のクラスにいる。

「でいつテスト?」
 私はゆっくりと視線をあげ10センチの距離をつめた。

「3日後だよ。大丈夫、上がってみせるさ。それより20枚かかなきゃー」


 私達は花の道を走り宝塚大劇場に向かった。

 
 

 
 
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