タカラジェンヌへの軌跡

14トニーにとってのマリアになるから

無理なダイエットで皆に心配をかけた翌日、母親の希望で１日学校を休んだ。

「ねえ さくらちゃん、もしよ、もし……このまま身長が延びなかったら……」

「お母さん」
　数日前の私ならお母さんに何を言ったかわからない。でも今ならお母さんの気持ちがよくわかる。
　その位伊吹いぶきちゃんの恫喝はきいた。
「まだまだ伸びるかもしれないじゃん」

「お母さん、お弁当持って城址公園行かない？」

　卵焼きにおにぎり、ソーセージ……簡単なお弁当を持って小田原城の足元にある城址公園に行った。
「だだっ広くなっちゃったね。私が3歳くらいの頃はまだライオンもアシカも白熊もいたのにね」

「よく学校帰りにあなた寄っていたわよね」
　お母さんは思い出すように行った。
「ねぇさくら」
「ん？」
「未熟児で産んでごめんね、もっと大きかったら去年だって音楽学校受験できたのにね」

「お母さん？もしね、もしだよ？身長打ちどめになったとしても、舞台に立つ夢は諦めない」
「さくらちゃん」

　ゾウがいた檻の前に私は立ち、彼方を見据えた。
「わたしのガリガリで、女の子の要素を何一つ持たない、世間から見たら可哀想なこの貧弱な体はね、中世的な体なの。宝塚で男役をしたいならきっと誰もが欲しがるもの。細い指、丸みのない鋭角な物質。小さなお尻。
　それはお母さん、貴方から貰った大切な宝物です」
　だからこそ今はまだ前を向いてやってみる。

　身長伸ばすならまず食べろって言っていた。

「雨情先生は宝塚に入りたかったんだって。女に生まれなかったのは雨情先生のせいじゃないよね」
「そうね……」

　風がそよそよと吹いている。
　鳥のにおいが充満する中、ただ夢を見ていた5歳のころ、ここで宝塚の物まねをして踊ったっけ。
　ウエストサイドストーリーのトニー役に憧れてちょっと小さな階段を飛越した。
　マリアとトニーの恋を一生懸命演じたっけ。

　あの時はこんなに小さいまま成長するとは思わなかった。
　でも今なら持ってる、確かな夢に続く階段はあのころにはまだ爪の先にすら引っかかっていなかった。

　

「あなたとは離れない私も一緒にいくわ――！トニー私を連れてって」


　トニーを愛するマリアになって見せるから、お母さん。