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11 裸が何だというのです。
しおりを挟む日舞の試験は本当に散々だった。
さくらは独り言ちた。
先ずすり足が出来ない。もうそれだけでスタート地点に立ってないように思う。
「南條さくら、またすり足が出来てない。何べん言ったらわかるんだ。すり足は日舞の動きの基本だぞ。かかとを床から離すなと言っている」
「ごめんなさい!」
「みんなストップ、全員最初からやり直し」
10分休憩、トイレ行ってくる。高倉先生はちらりと中を見やり出ていった。
『子ネズミ達は自分達で解決できるかな?』
□□□
「またあなた?だから上げるのはつま先、かかとは付けたまま滑らせて」
「わかってるけど、つい上がっちゃうんだから仕方がないじゃない」
さくらの動揺した発言は桜華を苛立たせるには十分だった。
「仕方がない?どう仕方がないの?こんなの基礎の基礎でしょう?舞台に立って配属された組が和物が得意だったら、あなたやりませんっていうの?」
桜華は小さな声で感情をあらわにしないように注意しながら、言った。
「着物脱いで!」
「は?そんなのいじめじゃない」
すみれや向日葵も止めに入る。
いじめと勘違いしたクラスメートは高倉先生を呼びに行く。
高倉先生は、着物を脱げと言った桜華の意図を読み取ると黙って見守る事にした。
「大丈夫なの?」
向日葵は心配そうに言ったが高倉先生は椅子に座って笑っていた。
「脱いだわよ」
さくらは桜華の真剣な顔つきに押されて帯を外した。
「ここから下着のまますり足して」
さくらはかかとが浮かないようにすり足をする。
「そこよ」
「そこ?」
「そう、膝が曲がってない」
そうか!皆は一様に理解した。
ひざを曲げずにすり足はどうやったってできないのだ。
「もう一度」
桜華に言われもう一度やり直す。何と無く前よりできてはいるようだがちょっとすっきりしない。
「上半身が上下に揺れているからよ」
さくらは言われたようにやっていると思っている。
「なら見せてみてよ」
桜華は黙ってすり足を繰り返す。何度やっても上半身はぶれないしそれは見事なすり足だった。
「わからないよ、着物着てるんだし」
桜華はちらりと高倉先生を見たが、おもむろに着物を脱ぎだした。
周りのシーンとした空間に1人、高倉先生だけが声を発した。
「へ―やるじゃん。ヌード?」
「着物の下には昔から下着はつけないものですから。お見苦しくて申しわけございません」
桜華は何事もなかったかのようにさくらに向き直った。
「ですから膝はこう少し曲がるのですよ。でかかとは浮かさない」
さくらは男性の前で全裸になっている桜華に申し訳なさでいっぱいだった。
「浴衣着て……」
「裸が何だというのです。くだらない事を言っている時間なんかないのですよ。あなたができなければ先に進みません。全裸など大した問題ではありませんわ」
強すぎる……。向日葵も言いたいことは理解できるもののなかなか実行には移せないだろう。
「もう一度、南條さん」
やれよ、さくら!足引っ張ってる場合じゃないでしょう!
「もう一度行きます!」
さくらは集中した。
「だからこうです。真横から見て」
「違うと言っているでしょう?おしりの位置見て」
「だからそんなにお年寄りみたいにお尻突き出さないんですよ」
「馬鹿ですか?」
「お尻を出すのはおやめなさいな!アヒルですか?」
あれから何十回やっただろう。
「そう、南條さん。出来たじゃないですか」
玉のような汗が桜華の肌を伝う。
高倉先生は桜華にタオルを渡すと全員に号令をかけた。
桜華は浴衣を着た。
「先生もう一度通しで確認お願いいたします」
「南條早くしろ」
高倉先生は全員を並ばせ筑紫舞のすり足の部分を1からやり直した。
「OK」
「脱落者なし、クラスペナルティも無しだ」
「クラスペナルティ?あっぶなーい」
みんなの桜華を見る目が変わったのは言うまでもなかった。
「ありがとう!」
「別に」
「今度は私がバレエ教えてあげるね」
桜華は嫌そうな顔をしてさくらを見ていた……。
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