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8 初の退学者
しおりを挟むいつもならもっと静かなこのバーは、何故か今日は煩い程のざわつき具合だった。
「すいません、雨情さん……」
雨情の好きなモヒートをさっと出し、神代にサイドカーを作りながらペコリと頭をさげる。
謝ってきたのは【Bar MOGURIN】のバイトの子。
バイトっていっても歴は長いし、感じは良いし、かなりの拾いもんだった子だ。
俺達はチラリと見ながら、カウンターに座り、こそこそ喋っていた。
「あれ……なんよ」
「ん―?カメラマンだよねぇー」
雨情はそれより気になるものがあるらしい。
「いかにも胡散臭そうな髭面だよねー」
……神代……肘でツンツンとたたく。
「んだよ、可愛い子ぶって肘ツンツンとか止めろ」
学校で着ているワークパンツのスタイルから一変して、きっちりスリーピースに身を包む。
「お兄さん達かっこいいね!」
コギャル風の場違いな二人組に近寄られ、うんざりしている気分をサラリと隠し満面の笑顔で返す。
「ありがとう―」
「お持ち帰りされたーい」
アホな事をと思いつつ、顔を赤くするテクニックを披露した。
「僕らなんかじゃ満足させられないよ。あっちにめちゃくちゃカッコいいメンズいるよ。君らレベルならあれくらいじゃなきゃ釣り合わないよ」
「もっと良い男になったらよろしくね」
二人はペコリと頭を下げた。
神聖なBar MOGURINをなんと心得るのだろうか。
憮然としたバイト君はコギャルに聞こえないように言った。
「身の程知って!」
雨情は目をぱちくりさせ辛辣ぅーと笑った。
「なあなあやっぱりそうじゃねーか?」
神代がラフロイグをロックで頼みながら、例の髭面カメラマンに群がる女を見ていった。
「やっぱり?」
「恋愛なら自由だがバイトはダメだな。んなことする余裕あるならバレエに声楽にダンスにとやることあるからな。逆にいやー音楽学校には入らなくても良いって事になんだろ」
「やな役割だなー」
カメラを渡し写真をとる。
「行くか…」
二人は奥で群がる女の一人に向かって歩を進めた。
「………………あんた……何してんの?」
「雨情……先…生」
後ろにもう一人見えた。
「神代……先生まで……」
「あははっタイミングっしょー。残念だよ」
蒼井ももは顔面蒼白だった。
「ごめんなさい、見逃して貰えませんか?」
「んー?」
首の運動をするくらいののんびりさで間延びした返事をした。
「ごめんなさいっっ……」
「いや別にいーんじゃなぁーい?」
許して貰ったと勘違いした蒼井はほっとした様に喜んだ。
「ほんとですか?」
雨情の腕にしがみつく蒼井の手を放しながらシビアに言った。
「違う……違うぅ」
神代は頭をポリポリ書きながら、残念な頭にタメ息が漏れた。
「しゃーねーじゃん。ばれたらアウトっしょ。芸事にかける時間をバイトに回す、まっ自由だよ」
「だね。でもうちではダメだ」
蒼井は呆然と立ち尽くした。
「意見があるなら明日校長室でね……」
翌日掲示板に張り出された名前に衝撃が走った。
私立桜城下高校、初の退学者であった。
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