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最終章
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「葵……」
「大和さん……、本当に……もう後悔しない? もう僕のことを要らないって思わない?」
葵の言葉が東條には痛いほどに伝わった。
愛しているつもりで、自分勝手に振る舞い、結果紬を殺した。
二度と恋をしないとあれほど誓いながら、葵の真っ直ぐな思いに勝手に許された気になって、俺の方こそ……葵に恋慕した。
それなのに愛されて、やはりそれは間違っているんじゃないかと、今度は葵を傷つけた。
いつも傷つくのは自分じゃなくて、常に相手だ。
こんな最低な野郎に優し過ぎる男達を、俺はいとも簡単に傷つけてきた。
緑としっけた土の匂いに包まれて、噎せ返るような現実。それなのに今はもういないはずの紬が、すぐそばにいるように俺には思えた。
幸せにしてあげてほしいと、許されたように感じられるほどに、俺は自分勝手だという自覚はある。
そんな俺を、一生懸命目を見開いて、その零れる眼で見つめてくる。
「諦めようと思ったり、お前に好きだと言ったり、俺の煮え切らない態度がお前をこんなに苦しめた」
本当に苦しいという顔をしているのだろう、目の前の葵は、心配そうに俺を見つめ、俺の言葉に懸命に首を振ってそんなことない……と伝えてくれる。
「違うよ。僕が我慢出来なかったから。本気で紬さんより僕を選んでほしいと思ってしまったから」
「そんなの普通だ……、だれでも持つ普通の感覚だ」
東條のかすれた声に、ねっとりと食むように葵は薄い唇を重ね、貪るように食いつき、スローモーションのようにゆっくり離れていく唇からはツーっと糸が引くように唾液がこぼれた。葵の口から滴るそれを吸う様に、東條は葵の口角に吸い付き、じゅるっと音をさせ、それを吸った。
「汚いから」
恥かしさに葵は顔を手で覆い、
小さく口を開け、浸食されたいと舌を出し東條を誘う。
「そんな綺麗な花は狡いだろう……」
そう言った俺に、そうですか? と言われた気がした。
「僕はずっとあなたが好きだったんです」
応援するように小鳥がさえずっている。
「ずっと? いつから……」
「大和さんが紬さんしか見えていなかったころから、僕はいつも二人を見ていました」
「さっき言った同室の患者というのは……」
「ええ。僕です」
「でもあそこは心臓外科で有名で、しかも紬の病棟は、そんなに軽い患者はいなかったと思っているのだが、認識違いか」
「もう一つ有名だったものがあるでしょう」
「移植……」
「ええ、当たりです。僕はドナーを待っていました」
「あの病室に俺以外の人間がいたことあったか? この前、身寄りは誰もいないと……、いや、紬と混同してるのか」
「身内はいますよ。僕に興味がないだけです」
「葵……」
言わせちゃいけない内容ではなかったか。
東條は慌てて葵の口を指で押さえた。
触れた指先から暖かな吐息が漏れる。それに反応するように俺が指をピクンと曲げると、今度は葵がフフフっと笑った。
「羨ましかったんです。あんなに一人の人間から、あんなに愛されて、執着されて、生きてるってこういう事なのかと、純粋に羨ましかったんです」
紡ぐ言葉の意味の重さに、俺は黙って聞いているしかなく、下半身に抱きついたまま、静かに続きを待っていた。
「大和さん……、本当に……もう後悔しない? もう僕のことを要らないって思わない?」
葵の言葉が東條には痛いほどに伝わった。
愛しているつもりで、自分勝手に振る舞い、結果紬を殺した。
二度と恋をしないとあれほど誓いながら、葵の真っ直ぐな思いに勝手に許された気になって、俺の方こそ……葵に恋慕した。
それなのに愛されて、やはりそれは間違っているんじゃないかと、今度は葵を傷つけた。
いつも傷つくのは自分じゃなくて、常に相手だ。
こんな最低な野郎に優し過ぎる男達を、俺はいとも簡単に傷つけてきた。
緑としっけた土の匂いに包まれて、噎せ返るような現実。それなのに今はもういないはずの紬が、すぐそばにいるように俺には思えた。
幸せにしてあげてほしいと、許されたように感じられるほどに、俺は自分勝手だという自覚はある。
そんな俺を、一生懸命目を見開いて、その零れる眼で見つめてくる。
「諦めようと思ったり、お前に好きだと言ったり、俺の煮え切らない態度がお前をこんなに苦しめた」
本当に苦しいという顔をしているのだろう、目の前の葵は、心配そうに俺を見つめ、俺の言葉に懸命に首を振ってそんなことない……と伝えてくれる。
「違うよ。僕が我慢出来なかったから。本気で紬さんより僕を選んでほしいと思ってしまったから」
「そんなの普通だ……、だれでも持つ普通の感覚だ」
東條のかすれた声に、ねっとりと食むように葵は薄い唇を重ね、貪るように食いつき、スローモーションのようにゆっくり離れていく唇からはツーっと糸が引くように唾液がこぼれた。葵の口から滴るそれを吸う様に、東條は葵の口角に吸い付き、じゅるっと音をさせ、それを吸った。
「汚いから」
恥かしさに葵は顔を手で覆い、
小さく口を開け、浸食されたいと舌を出し東條を誘う。
「そんな綺麗な花は狡いだろう……」
そう言った俺に、そうですか? と言われた気がした。
「僕はずっとあなたが好きだったんです」
応援するように小鳥がさえずっている。
「ずっと? いつから……」
「大和さんが紬さんしか見えていなかったころから、僕はいつも二人を見ていました」
「さっき言った同室の患者というのは……」
「ええ。僕です」
「でもあそこは心臓外科で有名で、しかも紬の病棟は、そんなに軽い患者はいなかったと思っているのだが、認識違いか」
「もう一つ有名だったものがあるでしょう」
「移植……」
「ええ、当たりです。僕はドナーを待っていました」
「あの病室に俺以外の人間がいたことあったか? この前、身寄りは誰もいないと……、いや、紬と混同してるのか」
「身内はいますよ。僕に興味がないだけです」
「葵……」
言わせちゃいけない内容ではなかったか。
東條は慌てて葵の口を指で押さえた。
触れた指先から暖かな吐息が漏れる。それに反応するように俺が指をピクンと曲げると、今度は葵がフフフっと笑った。
「羨ましかったんです。あんなに一人の人間から、あんなに愛されて、執着されて、生きてるってこういう事なのかと、純粋に羨ましかったんです」
紡ぐ言葉の意味の重さに、俺は黙って聞いているしかなく、下半身に抱きついたまま、静かに続きを待っていた。
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