愛の鎖が解ける先に

赤井ちひろ

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最終章

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「おい、おい東條、待てって」
 秋先が後ろから必死に俺を呼んでいる。
 そんなことは無視して、俺はただ必死になって走った。
 先日の大雨で、まだこの辺りは水分を含んだままだった。
 何度も転び、膝はぐちゃぐちゃに泥にまみれ、顔に泥が飛んだ。
 地面に倒れついた手は真っ黒で、それでもそんなことを気にもせず、顔をこすり、滲む汗を拭いた。
 体重の軽い秋先の方が足運びがうまいのか、足場の悪さも気にもせず簡単に俺に追い付いてきた。
「葵……、葵……」
 叫び続ける俺を落ち着かせるように、背中に手を添え一生懸命背中を擦る。
「三淵葵は死んでない、落ち着け」
「違う! ここには墓があるんだ……」
「こんな何も整備されていないようなところに、墓地なんかあるわけないだろう。悪戯だよ」
 少しばかり振り向くと、秋先の顔が近くにあって、心配そうに覗き込んでいる。東條は「悪戯じゃない。……紬の墓が……ある……んだ……」と苦しそうに言った。
「紬君の?」
「ああ……」
「分かった。悪戯じゃない。でもな、今は三淵葵を探す方が先だろう。落ち着いて」
 そんな事を諭す間も、東條の目は遥か前方を見つめていた。
 うっそうと茂る木々の間をぬって、その先に光がさす場所があった。
「東條、どこを見ている……」 
 秋先が東條の視線を追った。斜面を登った、高台のてっぺんに、何かが刺さっている。遥か何メートルも先の、ほんの少しの開けた空き地のような場所に、小さな……小さな、人影が見えた。
「……葵だ」
「居るわけないだろ、人影に見えているだけだ」
 足を取られた東條は、そのままずるりと滑り、二メートル程落ちた。
「ほら、危ないから、まだ斜面は濡れている」
 上から叫び、秋先がゆっくり降りてくる。
 俺はそれでも立ち上がり、今度こそ、秋先を振り切り、ただ一点に向かって走り出した。
 
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