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最終章
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人間の記憶というものは、とかく不確定要素が強い。
手に入らなかったものならば、勝手に美化され、しかも色あせることは無い。
過ぎた過去ならば、思い出したいものだけが思い出されるようになっている。
忘れたものならば、言ったことすら無いという。
記憶はあいまいだ。
色褪せることのない東條の勝てない記憶に、葵は一人で戦っているのかも……と秋先は思いを巡らせた。
もしかして
ただの勘だ。
でももっといろいろ知っている人っているんじゃないのか。
「なぁ、東條」
「なんだ?」
「病院に行ってみないか」
「病院へ?」
「ああ、あの頃のこと、あの頃の三淵葵のことを知っている人がいてもおかしくないだろう」
旧道を通り、車は林道に入った。
「すごい道知っているな」
秋先は思わぬ道に入る東條に、純粋に驚愕の表情をした。
東條は窓を開け、自分達の感情には相応しくないような爽やかな風を車内に入れた。
膝をさする秋先に後ろに放ってあったブランケットを渡す。
「寒いか?」
「なに、東條ってこんな気遣いできるやつなのか。少し意外だな」
「バカにしやがって」
東條が照れ隠しのように頭をポリポリと掻いた。
「馬鹿にはしてないさ」
「ここは病院までの近道なんだ」
「知らなかった」
「俺だってあそこに住んでなきゃ知らなかったさ。必要のない道だからな」
「あの左手にある立て札はなんだ」
言われて東條は少し先にある木の立て札に目をやった。
車が徐行し立て札の前に止まると「何と書いてある?」と東條に言われ慌てて秋先は窓を開け、少しばかり体を乗り出し、文字を読んだ。
「墓地……らしい」
「……墓地?」
「誰かの悪戯だな。こんなところに墓地は無い。無駄足させた、もういいよ。早く病院に行こう」
そう言って窓を閉めるも、一向に出発する気配はなかった。
「おい、早く探さないと。とりあえず病院に行って当時を知っている人を探そう」
何も答えず東條はただ一点を見つめ、その目がしらから涙がにじみ出た。
「東條?」
「……んだ」
「なんだって?」
聞こえないとばかりにもう一度問いただす。
「ある……んだ」
「何が?」
「……………………墓地…………」
そう言った東條は車から降りると、落ち葉で足を取られながらも、必死に小さな丘を登り始めた。
手に入らなかったものならば、勝手に美化され、しかも色あせることは無い。
過ぎた過去ならば、思い出したいものだけが思い出されるようになっている。
忘れたものならば、言ったことすら無いという。
記憶はあいまいだ。
色褪せることのない東條の勝てない記憶に、葵は一人で戦っているのかも……と秋先は思いを巡らせた。
もしかして
ただの勘だ。
でももっといろいろ知っている人っているんじゃないのか。
「なぁ、東條」
「なんだ?」
「病院に行ってみないか」
「病院へ?」
「ああ、あの頃のこと、あの頃の三淵葵のことを知っている人がいてもおかしくないだろう」
旧道を通り、車は林道に入った。
「すごい道知っているな」
秋先は思わぬ道に入る東條に、純粋に驚愕の表情をした。
東條は窓を開け、自分達の感情には相応しくないような爽やかな風を車内に入れた。
膝をさする秋先に後ろに放ってあったブランケットを渡す。
「寒いか?」
「なに、東條ってこんな気遣いできるやつなのか。少し意外だな」
「バカにしやがって」
東條が照れ隠しのように頭をポリポリと掻いた。
「馬鹿にはしてないさ」
「ここは病院までの近道なんだ」
「知らなかった」
「俺だってあそこに住んでなきゃ知らなかったさ。必要のない道だからな」
「あの左手にある立て札はなんだ」
言われて東條は少し先にある木の立て札に目をやった。
車が徐行し立て札の前に止まると「何と書いてある?」と東條に言われ慌てて秋先は窓を開け、少しばかり体を乗り出し、文字を読んだ。
「墓地……らしい」
「……墓地?」
「誰かの悪戯だな。こんなところに墓地は無い。無駄足させた、もういいよ。早く病院に行こう」
そう言って窓を閉めるも、一向に出発する気配はなかった。
「おい、早く探さないと。とりあえず病院に行って当時を知っている人を探そう」
何も答えず東條はただ一点を見つめ、その目がしらから涙がにじみ出た。
「東條?」
「……んだ」
「なんだって?」
聞こえないとばかりにもう一度問いただす。
「ある……んだ」
「何が?」
「……………………墓地…………」
そう言った東條は車から降りると、落ち葉で足を取られながらも、必死に小さな丘を登り始めた。
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