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最終章
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「何か思い出したのか」
「……………………」
「思い出したんだな」
「でもそれは時系列が合わないし、そのことを葵に話した覚えはないのだよ」
「というのは?」
秋先は女性のわりに感情的ではないらしく、理論で一つづつ詰めてくる。それもそのはずだ。この階は深層心理学を専門にする部署で、俺達の作っているおもちゃでメンタルにどういう作用があるのか、いいように働くのかそうでないのか、それを研究する部署だ。それなのに彼女が女だという理由でつい口が滑った。
「随分と冷静なんだな」
東條がそういうとセクハラだと言われて、はっとした。
「無意識に女性ならと思ってのセリフだった。その通りだ。申し訳ない」
「東條こそすぐに謝れるんだな。意外だ」
「それもセクハラではないのか」
お互いに違いないと笑い、存外冷静になったのを感じた。
「思い込みかもしれないという事か」
俺がそういうと、温かなコーヒーを二人分入れ直した秋先は
「呑み込みが早いな」
薄ら笑みを浮かべニヤリと笑った。
「一応頭は良い方だ」
「違いない。で……、どこが狂っているかもと思うんだ」
「確証はない。でも白い服が怖いといったのは、紬だ。病院で……」
「ほう」
「それを俺はいつも聞いていて、そのうち色付きのパジャマや部屋着を買って行く様になった」
「それは誰も知らないのか」
顎をさすり唸るように頭をひねった。
うーん。
何分考えていただろう。
外は一気に加速するように暗くなり、室内もそれに合わせ、調光のボタンを強くしないと薄暗い淫猥な雰囲気になった。
「電気を明るくしよう。そこの調光を弄ってくれないか」
七階と違う場所についているボタンを探していることに気が付いたのか、秋先はその長くて細い人差し指で、俺の後ろを指した。
俺がツマミを捻ったその瞬間、そとの稲光がピカリと室内に入る。
一瞬真っ暗になったものの、非常電源で直ぐに電気は復帰した。
「パソコンは大丈夫か」
そういう俺に、おやおや随分冷静でと笑いながら、常にバックアップは完璧だ。とこれまた冷静に帰された。
そんな仕事がらみのやり取りを恐らくは無意識にやっていたのだろう。
まるで走馬灯のように別のものが脳内を占領した。
「さっき誰も知らないのかといったな」
「ああ」
「一人知っている……………………」
「誰だそれは」
「知らん」
「なんだそれ」
呆れるように大仰に手を広げ、バカにするような目で俺を見た。
俺はそんなことには気にも留めず、あの時同室だった、名前も知らない一人の少年を思い出していた。
「……………………」
「思い出したんだな」
「でもそれは時系列が合わないし、そのことを葵に話した覚えはないのだよ」
「というのは?」
秋先は女性のわりに感情的ではないらしく、理論で一つづつ詰めてくる。それもそのはずだ。この階は深層心理学を専門にする部署で、俺達の作っているおもちゃでメンタルにどういう作用があるのか、いいように働くのかそうでないのか、それを研究する部署だ。それなのに彼女が女だという理由でつい口が滑った。
「随分と冷静なんだな」
東條がそういうとセクハラだと言われて、はっとした。
「無意識に女性ならと思ってのセリフだった。その通りだ。申し訳ない」
「東條こそすぐに謝れるんだな。意外だ」
「それもセクハラではないのか」
お互いに違いないと笑い、存外冷静になったのを感じた。
「思い込みかもしれないという事か」
俺がそういうと、温かなコーヒーを二人分入れ直した秋先は
「呑み込みが早いな」
薄ら笑みを浮かべニヤリと笑った。
「一応頭は良い方だ」
「違いない。で……、どこが狂っているかもと思うんだ」
「確証はない。でも白い服が怖いといったのは、紬だ。病院で……」
「ほう」
「それを俺はいつも聞いていて、そのうち色付きのパジャマや部屋着を買って行く様になった」
「それは誰も知らないのか」
顎をさすり唸るように頭をひねった。
うーん。
何分考えていただろう。
外は一気に加速するように暗くなり、室内もそれに合わせ、調光のボタンを強くしないと薄暗い淫猥な雰囲気になった。
「電気を明るくしよう。そこの調光を弄ってくれないか」
七階と違う場所についているボタンを探していることに気が付いたのか、秋先はその長くて細い人差し指で、俺の後ろを指した。
俺がツマミを捻ったその瞬間、そとの稲光がピカリと室内に入る。
一瞬真っ暗になったものの、非常電源で直ぐに電気は復帰した。
「パソコンは大丈夫か」
そういう俺に、おやおや随分冷静でと笑いながら、常にバックアップは完璧だ。とこれまた冷静に帰された。
そんな仕事がらみのやり取りを恐らくは無意識にやっていたのだろう。
まるで走馬灯のように別のものが脳内を占領した。
「さっき誰も知らないのかといったな」
「ああ」
「一人知っている……………………」
「誰だそれは」
「知らん」
「なんだそれ」
呆れるように大仰に手を広げ、バカにするような目で俺を見た。
俺はそんなことには気にも留めず、あの時同室だった、名前も知らない一人の少年を思い出していた。
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