愛の鎖が解ける先に

赤井ちひろ

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第六章

6 深海の海のごとく4

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 キ――――――
 急ブレーキの凄い音がして如月は外に出た。
 慌てて車からおりてくる東條はバーの外に飛び出してきた如月に車のキーを投げると店内に走り込み、ばたんと締まる扉が深海の底に続く一本の細い道の入り口に見えた。
「奥のボックス席です」扉が閉まる間際、滑り込むように届く如月の声は東條への援護射撃であった。東條の右手は軽く上がり、そして力強く握られた。
 靴音が綺麗な音を出し、二ノ丸御殿の鶯張りの廊下のように、フロアがまさに鳴いていた。
 鶯の鳴き声がまるで葵の泣き声のようで、見張りを振り切り殴り倒し、やっとの事で奥のボックスにたどり着いた時には、すでにチンピラの下半身は葵に埋め込まれていた。首輪を握られパンパンと激しい音と共に奥まで打ち付け、なんども注挿を繰り返され、葵は苦しそうに浅く息をしていた。
「ほら、気持ちいいんだろ? 飼ってやるよ、お前最高、ケツの締まりすげぇ。俺の物になれよ。鳴けよ、あんあんさぁ。あっ、やべぇ、中に一回出してやんよ」
 チンピラの言葉に、ぐしゃぐしゃの顔をして必死になって首を振る葵がいた。
 中に出す――? 怒りで我を忘れそうなその瞬間、葵の唇が動いた。「助けてぇ、大和さん……」
 黒い影がチンピラの目の前をよぎる。
 長い腕が首根っこを掴みあげ靴の先端が男の腹を蹴りあげ、葵から無理矢理引き剥がした。
 東條はズルっと抜けた男の一物に足をかけると一気に力を入れた。
「ギャ――――――」
 東條の脚から必死に自身を抜くと失禁したまま後ずさりそのまま東條を見て固まった。周りにいた男たちも誰一人援護に来るものはなく、その周辺の温度が数度下がるのを感じた。
「東條……ヤマト……」
「ほう、俺のことがわかるのか? それなりにここに出入りをしている訳か」
 葵は目の前の光景が信じられないとでもいうように大きく目を見開いた。
「こいつが俺のものだと知っての愚行か? 手を出した覚悟はあるんだろうなぁ」
「知らない。知らない。知っていたらあんたの物になんか手出すかよっっ」
 男はにじり寄る東條から少しだけ葵側に体を逃がした。
 殺される――瞬間的にそう感じた男は愚行に愚行を重ねる。
「こいつがどうなってもいいのか」葵を盾に乗り切ろうとするチンピラに容赦なく蹴りを入れると、膝から落ちる瞬間を見計らい葵に声をかけた。
「こい!」
 葵は動かない腰を無理矢理動かし東條の後ろに回った。
「こいつがどうなっても? やるならやれよ、その代わり覚えておけ。これ以上葵に何かしてみろ、お前の可愛い妹も親も友達も、恋人も、この先お前にかかわるすべての奴を俺は絶対許さない。お前ひとりどうにかして終わると思うな」
「大和さん、もう大丈夫……首輪してきた俺も悪いんだから」
「葵、うるさいのだよ。少し黙れ、お前のお仕置きなんか後回しだ。後でゆっくりわからせてやるから、今は黙って守られていろ」
 アスファルトの路面の蜃気楼のように辺りがゆらゆらと歪んでいく。
「だいたい首輪はしていて当たり前だろう。俺の物なのだからな。風呂以外では外すなと命令してある。ここにいるからと言って外すわけがないだろう」
「大和さん……」
 東條は男ににじり寄った。
「大切なのは俺の物に手を出したか否かなのだよ」
 靴の平が腹を踏んだ。
「うげぇ――――――」
「三秒だ、三秒やる。今すぐ消えろ、でなけりゃその玉潰す」
 東條の低くうねる声は深海の海のようで、重く暗い水のように全てを飲み込んでいった。
「なんで……? 俺クビに……」
「それだがな、お前の考えることはよくわからんが、クビになんかなっていないのだぞ?」
 え? ――葵の目からポロポロ溢れた涙は淡いピンクの色がついているようだった。
「ほらほら、泣くな。目が腫れる。ハンバーグ作ってあげるから、食べよう。葵……」
「うん……無限バーグね」
「なんだ、無限バーグって」
 絡み合う指先はまるで電気が走っているように、ビリビリと感じた。
 

 
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