愛の鎖が解ける先に

赤井ちひろ

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第五章

7 最後の賭け

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 優しいってなんだろう。残酷ってなんだろう。愛ってなんだろう――。
 兄貴を見捨てた俺も……兄貴の彼氏さんも……多分、兄貴の気持ちなんかきっと何にもわかってなかった。
「葵、俺はお前に優しくしたいんだ」
「頼んでなんか無いですよ」
 葵の一糸纏わぬ肢体は月明かりに照らされ透けるように美しかった。
「優しくするのは誰の為? 大和さん」
「葵に幸せになって欲しくて、……優しくしたいんだ」
「嘘つき。わからない人だなぁ。だから望んでないんですってば。お兄さんへの罪滅ぼしを僕でやるのやめて下さい」
 痣だらけの身体が綺麗で、東條は葵を見て喉を鳴らした。空唾を何度も飲み込み目が充血してくるのが自分でも良くわかる。唇を噛んで感情を押さえ込んだ。
 東條のペニスには血が集まり……えげつない程に膨張している。葵は脚の裏でそれを踏んだ。
「僕の痛め付けられた身体を見て、そんなにパンパンにしてるくせに、優しく? バカなの?」
 葵は椅子に座っている東條を上から見下ろし、東條の口の前に腕を出した。
「葵?」
「噛んでよ、ほら。噛めってば」
 東條は首を横に振り葵を抱き締めようと腰に手を回した。
 葵の白い腕が東條の浅黒い太い腕をはたき落とし口に押し充てた。
「噛めよ、汚くないなら出きるだろ! ねえ大和さん、僕の身体が汚いなら今ここで僕を切り捨てて」
 180も越える大きな体躯が床に膝を落とし……葵の脚にしがみつき名前を呼び続けた。
「嫌だ、絶対別れない。葵、葵、葵、俺を捨てないでくれ。愛してるんだ」
「誰をですか?」
 葵はなるべく冷静に聞いた。
「お前をに決まっているだろう」
 掴む手首に力が入る。
「嘘つき」
 葵の涙が頬を伝って床に落ち、キラキラと水の玉が光を受けて反射していた。
「嘘なんかついてない。愛している。本当だ」
「なら噛んでよ」
 東條は目の前から消えない葵の白い腕におずおずと口をつけ、甘噛みするように噛んでくる。
「舐めてるの? 僕ならその程度でいいって?」
「違っ」
「噛めっていってんだろ! 血が出るまで噛めよ、見なきゃあなたが欲情しないじゃないか! 僕相手に欲情なんかしたくないの?」
「違っ、そんな事しなくても普通に抱ける。たまにおかしくなるのは頑張って治すから。俺の事なんか気にしないで。葵が気持ちいいのが良いんだ」
「何、人の気持ち勝手に決めてるの?」
 ――葵。
「なんで? なんで優しくしたらだめなんだ」
「もう良いよ。やめよう。やっぱり、やめよう……」
 葵は投げ捨てたシャツを着て下着を穿いた。
「――葵?」
「別れよう」
「……え?」
 
 
 これは葵の一世一代の賭けだった。
 ――神頼みなんかしない。
 ――僕は、大和さんを信じてる。
 ――お願い、気が付いて。

 ただそれだけを望んだ……。
 
 
 
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