17 / 77
第二章・始まりは突然に
3
しおりを挟む
「そうそう、さっき言ってたけど君、足挫いてたの?」
三渕はコクンと頷いた。
うっすらと変態東條から聞いた記憶がある。
「声聞いたらわかるの?」
高見沢が確認すると、今度は力強く頷いた。
「わかる。だから、来たんだ。チャンスの神様は待ってはくれないから」
「もし思ってたのと違ったら?」
三淵葵はゆっくりと考え
「何とも思わない……かな」
と答えた。
「何とも? 幻滅するんじゃない?」
「しない!」
今度は間髪入れずにそう答え、しない。幻滅なんか、絶対しない。なにも知らなくても、ありがとうの君が優しいのだけは僕ずっと見てきたんだから。何度もそう言った。
「不安なの?」
「なんでですか」
「自分に一生懸命言い聞かせているように見えたから……かな」
「……そうですね。不安……だと思います。僕を見て幻滅しないかとか、ビッチだって思われたりしないかとか、考えたら不安で怖くなる」
「そんなことない……と思うよ」
「高見沢さん? いい人ですね」
「おや、俺にしとく?」
肩の力が抜けたのか、はははっと笑って、僕一途なんです、と言った。
「そっか。ざーんねん」
マジックミラーを見つめてくる高見沢の意図を察知した東條はガチャリと扉をあけた。
高見沢は東條と擦れ違いざまに奥の部屋に消えた。
デバカメ位しちゃおかな。
高見沢の意図を察したかのように内側からカーテンが引かれた。
「くそ、あの変態やろう!こんな時ばかりノーマルきどりやがって」
諦めた様に高見沢はマイデスクで仕事を始めた。
脚はリズムを刻み、鼻歌も出てしまう。開け放たれた窓からは、甘い匂いが入り込み、東條にも春が来るのかと友の幸せが何とも言えず嬉しかった。
カツカツカツ、足音が大きく近づいてくる。
「足はもう大丈夫なのか?」
「え?」
「バイト間に合ったのか? あお」
この声
「……あなた昨日の人?」
「ああそうだ」
「階段もあなた?」
「ああ、コーヒーの20円も俺だ」
三渕の目から大粒の涙が流れた。
両手で東條の胸を掴む。
会いたかったんだ。
「今は見てえないのか?」
ゆっくりと低く響く声でおでこにキスをした。
「うん」
「眼鏡か?」
「うん」
三渕は鞄に視線をうつす。
東條が鞄に手をかけた。
びくびくともドキドキとも取れる心臓の音が三渕の口から出てきそうで、慌てて口に手を当てた。
「どうした?」
優しく紡ぐ声は三渕を包み込み、会いたいけど会いたくない……そんな複雑な心を溶かしていった。
「心臓が口から出ちゃいそうで、幸せも……一緒に……出ちゃうと、思ったから……」
「可愛すぎかよ」
力強く抱き締める。
「痛いよ、……えっと……ヤマトさん?」
慌てて力を緩める。
「東條大和だ」
「僕は三渕葵」
「知っているよ」
ありがとうの君が自分の名前を覚えていてくれた。そんな事がこんなに嬉しいなんて、三渕は経験したことのない涙をながしていた。
「新ためて、付き合ってくれないか?」
「あなた、昨日片想いしてるって」
「俺の片想いは社食のアイドルにだ」
僕? と目を見開いた。
「それに、朝の車でそれがお前だとわかった時は、心臓が止まるかと思っていた。君の好きな人が誰であれ、俺は本気で落としに行こうと思っていたさ」
目を細めて鼻筋にキスをした東條は、やっと捕まえた幸せを噛み締めていた。
三渕はコクンと頷いた。
うっすらと変態東條から聞いた記憶がある。
「声聞いたらわかるの?」
高見沢が確認すると、今度は力強く頷いた。
「わかる。だから、来たんだ。チャンスの神様は待ってはくれないから」
「もし思ってたのと違ったら?」
三淵葵はゆっくりと考え
「何とも思わない……かな」
と答えた。
「何とも? 幻滅するんじゃない?」
「しない!」
今度は間髪入れずにそう答え、しない。幻滅なんか、絶対しない。なにも知らなくても、ありがとうの君が優しいのだけは僕ずっと見てきたんだから。何度もそう言った。
「不安なの?」
「なんでですか」
「自分に一生懸命言い聞かせているように見えたから……かな」
「……そうですね。不安……だと思います。僕を見て幻滅しないかとか、ビッチだって思われたりしないかとか、考えたら不安で怖くなる」
「そんなことない……と思うよ」
「高見沢さん? いい人ですね」
「おや、俺にしとく?」
肩の力が抜けたのか、はははっと笑って、僕一途なんです、と言った。
「そっか。ざーんねん」
マジックミラーを見つめてくる高見沢の意図を察知した東條はガチャリと扉をあけた。
高見沢は東條と擦れ違いざまに奥の部屋に消えた。
デバカメ位しちゃおかな。
高見沢の意図を察したかのように内側からカーテンが引かれた。
「くそ、あの変態やろう!こんな時ばかりノーマルきどりやがって」
諦めた様に高見沢はマイデスクで仕事を始めた。
脚はリズムを刻み、鼻歌も出てしまう。開け放たれた窓からは、甘い匂いが入り込み、東條にも春が来るのかと友の幸せが何とも言えず嬉しかった。
カツカツカツ、足音が大きく近づいてくる。
「足はもう大丈夫なのか?」
「え?」
「バイト間に合ったのか? あお」
この声
「……あなた昨日の人?」
「ああそうだ」
「階段もあなた?」
「ああ、コーヒーの20円も俺だ」
三渕の目から大粒の涙が流れた。
両手で東條の胸を掴む。
会いたかったんだ。
「今は見てえないのか?」
ゆっくりと低く響く声でおでこにキスをした。
「うん」
「眼鏡か?」
「うん」
三渕は鞄に視線をうつす。
東條が鞄に手をかけた。
びくびくともドキドキとも取れる心臓の音が三渕の口から出てきそうで、慌てて口に手を当てた。
「どうした?」
優しく紡ぐ声は三渕を包み込み、会いたいけど会いたくない……そんな複雑な心を溶かしていった。
「心臓が口から出ちゃいそうで、幸せも……一緒に……出ちゃうと、思ったから……」
「可愛すぎかよ」
力強く抱き締める。
「痛いよ、……えっと……ヤマトさん?」
慌てて力を緩める。
「東條大和だ」
「僕は三渕葵」
「知っているよ」
ありがとうの君が自分の名前を覚えていてくれた。そんな事がこんなに嬉しいなんて、三渕は経験したことのない涙をながしていた。
「新ためて、付き合ってくれないか?」
「あなた、昨日片想いしてるって」
「俺の片想いは社食のアイドルにだ」
僕? と目を見開いた。
「それに、朝の車でそれがお前だとわかった時は、心臓が止まるかと思っていた。君の好きな人が誰であれ、俺は本気で落としに行こうと思っていたさ」
目を細めて鼻筋にキスをした東條は、やっと捕まえた幸せを噛み締めていた。
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる