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第1話

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 なんだってんだよ。

 俺が何をしたってんだよ。

 おいちょっと待てよ。整理しようぜ? 

 俺に何が起こってる? こんなのってアリか? 答えは聞いてねえ無論ナシだ論外だッ!

 学校中探せば一人くらい見つかるかもしれない、そんなおめでたいリア充野郎に起こってることならまだわかる。
 まあ、俺はリア充という輩とは無縁の存在だから、そんな奴の気持ちはわからんが。どっちだよ。どっちでもいいな、よし。

 俺は下校時、十七年間で最大のピンチに遭遇していた。

 どうするどうする?

 俺の手元にはカードが三枚……って、んなモンもねぇぇぇ!

 深呼吸しようぜ。
 さっきから感じてること。

 その一! 
 気配がする。ビンッビンする。ていうかこれで「しない」って答える奴の神経を疑うね。

 その二!

 別にねえぇぇぇぇ! そんなに一気にものごと考えられると思うか、思うな無理だ!

 怖々と振り返ると小さな影が電柱に隠れたような気がした。

……なんなんだ、アレは。

 学校から家までの道のりは、徒歩約三十分だ。自転車を使えばもっと早いのだが、生憎持ってねえ。このご時世に自転車を持ってねえとか、ありえないか? それはどこの常識だよ。

 一つ言っておくが、誤解はするなよ。されると困るっつか面倒だ。ので訂正しておくが、自転車に乗れないわけじゃない。中学までは自転車で通学していたのだから。

 しかし、潰れてしまったのだ。小学生のころから丹精込めて使っていたのだが、あっけなくその生涯を閉じてしまった。

 それから、買っていない。いや、買えないのだ。

 俺、つまり須賀野良介の家は、はっきり言って貧乏なのだ。母一人子一人の生活だから仕方のないことだし、今さら不満があるわけでもない。

 帰り道に一人寂しく帰ることも日課になってしまい、今もトボトボと歩いている。

 しかし、それがこのような事態を招いてしまったのだ。

……つけられている。

 多分、いや確実に。

 自他共に認めるほどの鈍い俺でもわかる。今、つけられているのだ。

 ストーカーとかいうやつなのだろうか。

 いかに自分がモテないかは自覚しているので、女性ではないだろう。

 しかし見たところ、影は小さい。

 俺は得体の知れないモノをあれこれ想像し、気味が悪くなった。溜息をつき、足を速めた。するとそれに合わせて、後ろのソレも足を速めたようだ。

「くっそぉぉぉ」

 俺は走った。選択肢はそれしかなかった。帰宅部とはいえ毎日徒歩通学で鍛えた足腰で走った。

「あっ」

 後ろのソレが叫んだようだった。

 えっ?

 その声に驚いて、前に突っ伏すようにして転んだ。いってぇぇぇ。

 また、あっという声が聞こえた。

「だ、大丈夫っ?」

 大丈夫、ではない。コンクリートに前のめりにすっ転んでしまったのだから。

 しかし今はそれどころではなかった。

 すっ転んだ俺の前に現れたストーカーは、女の子だったのだ。しかもよく見ると、俺と同じ高校の制服だった。

「あれ、あんたは確か同じクラスの……」

 目の前の少女は、ニッと白い歯を見せて笑った。

「そう。あたしは」

 勘違い女。

 その女を、これからはそう呼ぶことになる。
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