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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

11 別れの始まり

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 城を出るときは駆け足だったが、小川に近付くにつれて足取りは重くなっていった。

 別れなど告げたくない。きっとシタンを悲しませるだろう。なにより自分だって悲しい。どんな顔をして、どんな言葉で、そのことを言えばいいというのか。

 曇り空の下、小川の脇道をとぼとぼと歩いていくと「どうしたの?」という声がして、少しだけ顔を上げるとシタンが駆け寄ってくるのが見えた。そばに来たシタンの足元を見据えたままで、「僕はもう、お前と遊べない」と、話を切り出す。

「えっ、な、なんで? 遊べないって、何かあったのか」

 驚いた声をあげながら顔を覗き込んできたシタンが、はっと息を飲む声がした。父に打たれた頬が熱い。床に倒れるほどに強く打たれたのだから、きっと赤く腫れているだろう。鏡を見なくても分かる。

「……ここへ……、お前に会いに来てはいけないって父親に言われたんだ。僕は、跡取りだから、ここで遊んでいるよりも、他にしなくてはいけないことが、たくさんあるから……」 

 父に言われたことを、できるだけ言葉を選んで話す。言えば言うほどに目頭が熱くなり、いつもの調子では喋れなくなっていく。

「お前っ、まだ俺より小さいのに、そんなのないよ! あ、ほっぺた痛くないの? 川の水で冷やそうよ。少しはましになるかも」

 普段はあまり声を荒げないシタンが、ラズラウディアのために怒り声高に叫んだ。

 そうして、腕を引いて小川の方へ連れて行こうとしてくれる。気遣いが嬉しい反面、優しくされてしまうとみっともなく泣き叫びそうだ。

「いいよ。そんなに痛くないから。心配しなくて良い」と、その場で足を踏ん張って手当を拒む。

「そんな腫れてて、痛くない訳ないだろ! ラズ、辛かったら俺の家に来れば良いよ。父さんも母さんも、お前の事気に入ってるし、俺だって……」

 そうできたのなら、どんなにいいだろうか。だが、領主である父の決断は絶対だ。逃げられはしない。シタンや彼の両親にどんな罰が下されるか……、考えるだけでも恐ろしい。ラズラウディアは大切な人々を不幸にした罪を抱えて、死ぬまで悔やみながら生きなければならないだろう。

「駄目だ。言う事を聞かないと、きっと酷いことになる。僕だけじゃなくて、お前にまで何かされるかもしれない……。そんなのは嫌だ!」

 叫びながら抱き付くと、シタンはしっかりと抱き締め返してくれた。肉付き気が悪く細いはずの彼の腕は意外にも逞しく、ラズラウディアの小柄で華奢な体をすっぽりと包み込んでくれる。胸に顔を埋めてより一層身を寄せると、優しく頭を撫でられた。

「もっと、お前と遊びたかった」
「うん……」
「今は駄目でも、いつかは会えるだろ? また遊びに来てよ。待ってるから」
「いつになるかわからないぞ」
「それでも良いよ。ずっと待ってる」

 見上げれば優しい蜂蜜色の瞳に、自分だけが映っている。重なり合った体が温かい。姉の身代わりとして母に抱き締められていたときとは比べ物にならない心地良さに、こんなときだというのに酷く幸せな気分になれた。
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