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44 出稼ぎという名の
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――少し丸めていた背中を真っすぐにして、恐る恐るながらハイレリウスに尋ねる。
「協力って、何をしたらいいんですかね」
「私と一緒に王都へ来て欲しい」
「はっ?」
耳を疑った。
「お、王都ですか?」
「ああ、王都だよ」
思わず聞き直してまった。禁猟期になったら領主が迎えに来るのだ。約束、というか命令をすっぽかすことになる。そんなことをしたら、戻って来たときにどんな目にあわされるか分かったものじゃない。拷問のように散々な抱き方をされて、城から出られなくされるのではないだろうか。
……初対面より優しくなったとはいえ、機嫌が悪ければ平気でやりそうだ。
「向こうで良い出稼ぎ先を紹介するから。そこで身を隠して欲しい」
「いや、ちょっとそれは」
「今の君には必要なことだ。それに、彼は君の気持ちを無視して強姦したのだからね。ついでに仕置きをしてやらなくては。ふふ……。どんな反応をするか楽しみだね」
「し、仕置きになるのかなぁ……。俺としては、その後が怖いです」
「私が盾になるよ。言ってなかったけど、辺境伯とは学友だったんだ。それなりに気心は知れている」
「学友?」
「同じ学び舎で過ごした仲ということだよ。十代からの知り合いだ」
……小さい頃の領主は、どんな風だったのかと少し気になったがそれどころではない。
自信有り気に微笑むハイレリウスは実に頼もしく見えた。これならすべてを任せても、きっと上手く取り成してくれるだろう。
「ハル様が大丈夫っていうなら俺、王都に行かせてもらいたいです」
領主に禁猟期は城に来いと言われてしまったこともあって、今年は出稼ぎ先を探していなかったから丁度良い。実際のところ、傍仕えとして城で過ごすことにかなり不安はあったのだ。城の仕事などなにもできないというのに、そんな役目を与えられても面食らうだけだ。まさか抱かれるのが仕事だというのか。それもあんまりだ。
逃げられるのなら、逃げてしまいたい気持はあった。
「よし、決まったね。今日はもう遅いから、明日になったら荷物をまとめて、この宿へおいで」
「わかりました。なるべく急いで戻りますよ」
「いや、大して急がなくても良いよ。夕方で構わない。私は昼間に辺境伯のところへ行くからね。元々は、彼に会うのが辺境に来た目的だったから」
「そうなんですか。それじゃ、夕方に戻ることにします」
ハイレリウスと明日からのことを決めながら、どこかで安堵している自分がいた。領主によって変わってしまった日々に、身も心も振り回されてかなり疲弊していたのだから。
「ここでもう一泊して、明後日には出発するということで構わないかい?」
「それでいいです。ハル様、お世話になります」
「ああ、任せてくれ。……そうだ、向こうに着いたらまず都見物なんてどうかな。私が案内するよ」
「そ、そこまでしてもらわなくても、いいです」
「まあ、そう言わないで。私は君ともっと親しくなりたいんだ」
ぐいぐいと距離を縮めてくるハイレリウスにたじろぎながら、今まで感じていた不安が軽くなっていくのを感じた。辺境から出たことのないシタンにとっては、王都は果てしなく遠い別世界で、出稼ぎとはいえ楽しみだ。
……自分一人ではこうはいかないが、今はハイレリウスという味方がいる。
会って間もないが、この青年のことは不思議と信じられた。なにも心配することはない。辺境から離れて、しばらく抱かれなくなれば、おかしくなっている体の調子も戻るかもしれないし、辛い気持ちも少しは薄れるだろう。都見物もハイレリウスが案内してくれるのなら、きっと楽しめる。
「……はは。俺、貴族って怖いと思っていたけど、ハル様となら仲良くなれそうだなぁ……」
気付けば、そんな言葉が自然と口から出ていた。「えっ?」と、間の抜けた声を上げたハイレリウスの淡い青の瞳が大きく見開かれて、瞬く間に歓喜の表情に変わっていく。
「嬉しいよシタン!」
……力いっぱい抱き付かれて、もう夜中だというのに「ぎゃあっ!」と、叫んでしまった。
「協力って、何をしたらいいんですかね」
「私と一緒に王都へ来て欲しい」
「はっ?」
耳を疑った。
「お、王都ですか?」
「ああ、王都だよ」
思わず聞き直してまった。禁猟期になったら領主が迎えに来るのだ。約束、というか命令をすっぽかすことになる。そんなことをしたら、戻って来たときにどんな目にあわされるか分かったものじゃない。拷問のように散々な抱き方をされて、城から出られなくされるのではないだろうか。
……初対面より優しくなったとはいえ、機嫌が悪ければ平気でやりそうだ。
「向こうで良い出稼ぎ先を紹介するから。そこで身を隠して欲しい」
「いや、ちょっとそれは」
「今の君には必要なことだ。それに、彼は君の気持ちを無視して強姦したのだからね。ついでに仕置きをしてやらなくては。ふふ……。どんな反応をするか楽しみだね」
「し、仕置きになるのかなぁ……。俺としては、その後が怖いです」
「私が盾になるよ。言ってなかったけど、辺境伯とは学友だったんだ。それなりに気心は知れている」
「学友?」
「同じ学び舎で過ごした仲ということだよ。十代からの知り合いだ」
……小さい頃の領主は、どんな風だったのかと少し気になったがそれどころではない。
自信有り気に微笑むハイレリウスは実に頼もしく見えた。これならすべてを任せても、きっと上手く取り成してくれるだろう。
「ハル様が大丈夫っていうなら俺、王都に行かせてもらいたいです」
領主に禁猟期は城に来いと言われてしまったこともあって、今年は出稼ぎ先を探していなかったから丁度良い。実際のところ、傍仕えとして城で過ごすことにかなり不安はあったのだ。城の仕事などなにもできないというのに、そんな役目を与えられても面食らうだけだ。まさか抱かれるのが仕事だというのか。それもあんまりだ。
逃げられるのなら、逃げてしまいたい気持はあった。
「よし、決まったね。今日はもう遅いから、明日になったら荷物をまとめて、この宿へおいで」
「わかりました。なるべく急いで戻りますよ」
「いや、大して急がなくても良いよ。夕方で構わない。私は昼間に辺境伯のところへ行くからね。元々は、彼に会うのが辺境に来た目的だったから」
「そうなんですか。それじゃ、夕方に戻ることにします」
ハイレリウスと明日からのことを決めながら、どこかで安堵している自分がいた。領主によって変わってしまった日々に、身も心も振り回されてかなり疲弊していたのだから。
「ここでもう一泊して、明後日には出発するということで構わないかい?」
「それでいいです。ハル様、お世話になります」
「ああ、任せてくれ。……そうだ、向こうに着いたらまず都見物なんてどうかな。私が案内するよ」
「そ、そこまでしてもらわなくても、いいです」
「まあ、そう言わないで。私は君ともっと親しくなりたいんだ」
ぐいぐいと距離を縮めてくるハイレリウスにたじろぎながら、今まで感じていた不安が軽くなっていくのを感じた。辺境から出たことのないシタンにとっては、王都は果てしなく遠い別世界で、出稼ぎとはいえ楽しみだ。
……自分一人ではこうはいかないが、今はハイレリウスという味方がいる。
会って間もないが、この青年のことは不思議と信じられた。なにも心配することはない。辺境から離れて、しばらく抱かれなくなれば、おかしくなっている体の調子も戻るかもしれないし、辛い気持ちも少しは薄れるだろう。都見物もハイレリウスが案内してくれるのなら、きっと楽しめる。
「……はは。俺、貴族って怖いと思っていたけど、ハル様となら仲良くなれそうだなぁ……」
気付けば、そんな言葉が自然と口から出ていた。「えっ?」と、間の抜けた声を上げたハイレリウスの淡い青の瞳が大きく見開かれて、瞬く間に歓喜の表情に変わっていく。
「嬉しいよシタン!」
……力いっぱい抱き付かれて、もう夜中だというのに「ぎゃあっ!」と、叫んでしまった。
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