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国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと

国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと37-炎上編-

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 園衛の屋敷の庭園は広い。
 その一角には、やや古びた草庵があった。
 ここは格式ぶった茶会よりも、もっぱら秘密の会議などに使用されることが多かったという。
 屋敷の母屋から茶室に伸びる小庭園を、露地と呼ぶ。
 露地の中には飛び石の小道が続き、竹林と夕闇の作る影が幽玄を醸し出していた。
 母屋には茶室に向かう前に身支度を整える待合部屋が設けられている。
 その部屋の外に、景が立っていた。
 不安げに闇の奥の草庵を見ている。
「敵と会談なんて……なに考えてんのさ……」
 草庵には今、瀬織が敵の人造神である若木ウカと共に入室していた。
 かつて自分を殺し、そして暗闘の情報戦の果てに敗北させた敵と会って何を話すつもりなのか。
 そもそも、どうして今になって敵から会いにきたのか。
 景には何もかもが想像の埒外だった。
「あっ、景ちゃんじゃん!」
 場違いに明るい少女の声がした。
 振り向くと、制服姿の宮元空理恵が縁側から手を振っていた。
 空理恵は園衛の妹で、景とは同学年だが、クラスが違うのであまり面識はない。
「なに~? なーんか揉めてる~?」
 てくてくと縁側に沿って、空理恵が歩いてきた。
 景は答に困った。
「うう、ええ~~と……」
 園衛の身内とはいえ、色々と面倒臭い事情を話して良いものか……。
 空理恵は何か察したようで、軽く頭を下げて笑った。
「たははは……なーんかマジで揉めてるってことは、大体分かるよ。姉上もずっと取り込んでるみたいだし」
「く、空理恵ちゃんは……いま何が起きてるか、知ってるの?」
「ん~……知らないっ! あたしみたいな普通の人間が知っても~~、なーんもできないしねっ」
 あっけらかんとした様子で、空理恵は縁側にどすん、と腰を下ろした。
「それにさ、なんかとんでもない事が起きてても、姉上とアニキがいれば安心だしっ」
「あに……? 空理恵ちゃん、お兄さんいたっけ?」
「うーーん……たぶん、将来的には義理の兄になると思う」
 空理恵は何故か嬉しそうに笑っていた。
 景は良く意味が分からなかった。
「園衛様の婚約者……? えっ、あの人が……男の人と……? 嘘でしょ?」
「だよね~~? 姉上って、自分より弱い男と結婚しても意味がない~とかワケわかんないコトずっと言ってて――」
「アラサー……」
「そー、マジやば。ギリギリ。今は晩婚がフツーとか言っても、ウチはフツーの家じゃないから、親戚が来る度にお見合い勧められててさー」
 妹らしく空理恵は何の憚りなく姉について赤裸々に語った。
 思わず、景も話に乗ってしまう。
「じゃあ園衛様、お見合いしたってこと?」
「ううん。拾ってきた」
「えっ?」
 犬か何かを拾ってきたようにサラリと言ったので、景は目を丸くした。
 余計に意味が分からない。
「その人、無職で陰キャなんだけどさ。姉上と同じくらい強くて、凄い人なんだ。だから、あたしはなーーんも心配してないよ」
「その人、家にいるの?」
「さっき黙って出ていっちゃった。たぶん――」
 空理恵はぐるりと、家の周りを見渡した。
「――今も、姉上のこと守ってるんだと思う」
「そっか……」
 景はそれとなく察した。
 園衛が認めたという凄腕の人物は、屋敷の周囲を警戒するために出ていったのだと。
 夕闇の奥に、ひっそりと佇む草庵には二柱の人外と、一人の人間がいる。
 東瀬織と若木ウカという人造神。
 そして、宮元園衛という人間。
 三者一同に会し、一体なにを話すというのか――。
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