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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第三十八幕 仲間との連携とカクテル

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 走って向かった行きとは違い、ゆっくりと疲労が残らない程度の速度で歩く。

「ウィル平気か?」
「はいお父様。大丈夫です」
「そうか。だが、今回はすまなかったな」
「え?」
 突然千夜が謝罪してきたことにウィルは驚きながら千夜が謝るような事があったか気になった。

「集団相手の戦い方を教えるつもりだったが、思いのほか敵の数も多く、連携ではなくほとんど個人技での戦いになってしまった」
「い、いえ。あれだけの敵を前にした時にいかに体力温存が必要か、そのためにはいかなる配分が必要なのか知ることが出来ました。それだけでなく、今後の課題も見えましたので改めて勉強になりました」
「そうか。そう言って貰えると助かる。だが、次のときは仲間との連携の仕方を教える。強大な個体相手の戦いは既にある程度は解っていると思うが、今回みたいな個体では脆弱でも集団になれば脅威でしかない存在との戦い方を教えよう。そしてその時いかに仲間との連携が大事になるか改めて実感できるだろう」
「はい!」
 嬉しそうに返事をするウィル。
 それから厚き続け空が茜色に染まりだすのを確認した千夜たちは大きな岩の傍で野宿の準備をし始めた。
 手馴れた手つきで進む野宿の準備はさほど時間がかかる事無く終えるとミレーネ特性の数種類の野菜とお肉のシチューを堪能した。
 夜になり夜行性の魔物たちが活動し始める時刻。食事をおえ、話すこともないと明日に備えてテントの中で横になる。
 勿論見張りとして千夜とクロエが火の番をする。

「そう言えば、センヤと見張りをするのは久しぶりな気がするのじゃが?」
「確かにそうだな。大抵俺はエルザかエリーゼ、もしくは一人だからな。それにクロエは我が家で晩酌の相手をしてくれ事の方が多いからな」
「確かにそうじゃのう。ならここでも始めるかえ?」
「一応アイテムボックスの中にはあるが、駄目だ」
「むぅ、残念じゃ」
「その理由は解っているんだろ?」
「無論じゃ。じゃが、やはり夜になると欲しくなる」
「その気持ちは解るが我慢してくれ。もしもミレーネたちにバレたらどう弁解しようとどうにもならないからな」
「確かにそうじゃな……」
 一年前の時、依頼を終えて帝都に帰っている途中の野宿で我慢できなくなったクロエと一緒に晩酌を始めたが、土産屋で買ったお酒が何気に美味しくすっかり堪能してしまい、その光景をエリーゼたちに発見されてしまい、朝まで説教された事があった。

「二度と説教されたくなければ我慢してくれ」
「うむ、ミレーネの説教が一番嫌じゃからな。我慢するのじゃ」
 その代わりにとアイテムボックスからジュースを取り出し二人で飲む。

「これは飲んだことの無い味わいじゃが、美味しいのぉ。ウイスキーと割って飲めば美味しいやもしれぬ」
「カクテルか」
「かくてる?」
 千夜が呟いた言葉に首を傾げる。
(ほんと、この世界はある言葉と無い言葉の基準が解らないな)
 内心そんな事を思いながら説明する。

「ウイスキーや度数の高いお酒などをジュースや果汁などで割った飲み物の事だ。お酒の種類と混ぜるものによってカクテルにもそれぞれ名前があったりする」
「ほう、それは面白いのぉ。ぜひ作って飲んでみたいのじゃ」
「と、言ってもな。種類によっては手に入らない食材だってある」
(コークハイとかは絶対に無理だ。コーラが無いからな。ファイアーボールもガムシロップが無いから無理。となるとレッド・アイやブラッディ・マリーあたりになるか。あれはトマトジュースを使ったカクテルだからな。市場に行けばトマトはある。だが、あれはトマトが苦手な人には難しい。となると好まれるのはソルティ・ドックか。あれはグレープフルーツとのカクテルだから比較的飲み易いはず。まあ、この世界に来てグレープフルーツを見てないから作れる分からないが)
 思わず相手の思惑を推測する時並みに思考を巡らせる。
 また、ファイアーボールはウィスキーにシナモンスティック、ガムシロップ、唐辛子を用いて作るカクテルだが、即席で作る場合はタバスコを代用品として使うところもあったりする。

「ま、材料が見つかれば幾つか作ってみるとするか」
「本当かえ!」
「ああ」
「それは楽しみなのじゃ」
 嬉しそうに頬を緩ませるクロエだが、妄想の中心にあるのがお酒でなければ可愛げがあったかもしれない。

「ま、お酒の話はそこまでにして俺たちはも寝るとしよう。出ないと次の見張りであるエリーゼとミレーネが出られないようだからな」
「もう、気づいていたの」
「ああ」
「だったら言ってよ。久々にクロエに二人っきりになる時間を与えたのに。話す内容がお酒に変わってから出たくても出られなくなったんだから」
「それはすまなかったな」
 そんな他愛も無い話をしたあと、千夜とクロエはテントの中に入り横になった。
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