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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第十三幕 都市ルーセントとヒッタクリ

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 移動を開始して4日後、千夜たちは目的地である都市ルーセントを目視出来る距離まで来ていた。
 今すぐにでも入れる状態ではあるが、外套を着たまま入れば怪しまれるため、脱ぐ必要があった。それに他にも千夜には知っておかないといけない事があるため、一旦森の中に身を潜める事にしたのだ。

「出て来い、バンシー」
 魔物生成スキルで作られた3体目の魔人であり、死霊を使った闇魔法を得意とする魔女。その人格は極悪非道であり、己の欲望、欲求、探究心の為ならば殺戮も厭わないマットサイエンティストである。
 そんな人格にしてしまったのは千夜であるためどうする事も出来ないが、救いがあるとすれば千夜の命令には必ず従うという事である。この鎖があるかぎりバンシーが虐殺行為を行う事はない。言い換えればこれが無くなれば、何をするか分からないとも言えた。

「御呼びでしょうか我が君」
「ああ。こうして4日間移動したが盗賊たちに遭遇する事は無かった。他の所はどうなったか詳しく聞きたいと思ってな」
「畏まりました」
 魔物生成、死霊生成スキル使用者には作り出した魔物、アンデットの生死を知る事が出来、死んだ場合はその者の記憶を見る事が出来る。しかし現在の居場所を知る事は出来ない。
 また死霊生成スキルには魔物生成スキルと違い特有の力が備わっている。死霊生成スキルは使用者の技量にもよるが、離れていても生死の命令のみ送ることが出来る。

「既に全てのモルモットたちは目的地に到着したようで消滅していますね。ちょっと記憶を見せて貰うわね」
 バンシーは目を閉じて全てのアンデットたちの記憶を確認していく。その時間およそ5分。想像され初めてにも拘わらず短時間で出来るのは千夜の魔物生成スキルの凄さでもある。

「他のところは幾つかの盗賊と遭遇、殲滅していますね。ケアドに向かった二組は3つの盗賊。ダラに向かった二組は6つ、ルーセントに向かった一組は遭遇しなかったようですね」
「そうか。よくやってくれたな」
「勿体無きお言葉にございます」
 バンシーの返答にエリーゼたちの表情が険しくなる。理由はバンシーの声音が少し弾んでいたからだろう。

「記憶の中に戦闘を物陰から監視、もしくは傍観している存在は居なかったか?」
「いえ、記憶を見た限りではそのような人物は居ませんでしたが?」
「そうか……」
(となると、使い魔など動物や虫の目を使って監視してる恐れがあるな。となるとこの撹乱も意味をなしていない可能性だってあるが、ここで結論がでるわけではないからな)
 思考を巡らせ答えが出ないと判断するとすぐさま現実に戻る。

亜空間あっちに戻って休むと良い。もしかしたら近いうちにまた呼ぶ事になるかもしれないからな」
「その時を心待ちにしております。我が君」
 自分の気持ちを伝えるとバンシーは亜空間へと戻っていった。

「予想では分身が殲滅したと思っていたが、まさか一回も盗賊に出くわさなかったとはな」
「偶然ではないですか?」
「いや、一定の距離を離れて移動していたからな。それで一回も遭遇しないとなると、この街道には盗賊が居ないのかもしれない」
「どうしてですかね?」
「多分だが、都市ルーセントはこの領地の県庁所在地みたいな場所だからだろう」
「けんちょうしょざいち?」
「あ~……国でいう首都みたいなものだ」
「なるほどね」
 千夜にとって帝国は一国であり、帝都は東京、他の領地は都道府県という認識なのだ。

「さて、ここで長話をしていても答えはでない。さっそく都市に入るとするか」
「そうね」
 千夜たちは一冒険者として都市ルーセントの門に向かう。
 一時間程度でようやく順番がやってくる。
 門番にギルドカードを提示して数分後には問題なくルーセントに入る事が出来た千夜たちは大通りを歩き宿を探す。

「(エリーゼ、ウィルお前たちには懐かしく大切な都市である事は解っているが焦るなよ)」
「(解っているわ)」
「(はい、心は熱く心は冷静に。ですね)」
「(特に目立つ行動はなるべく控えるようにな。これはミレーネたちもだ)」
 千夜の言葉に全員が頷く。

「きゃああ! 泥棒おぉ!」
 女性の悲鳴に全員の視線が前方に集中する。
 覆面を被った一人の男が女性から奪った物を脇に抱えて千夜たちの方向に走ってくる。
(都市に入って早々ヒッタクリとはこの都市も帝都に負けず劣らず物騒だな。ん?)
 そんな事を内心思っていると既にヒッタクリの男は千夜の目の前まで来ていた。

「退け! 殺すぼへっ!」
 荷物を抱える反対の手に持っていた短剣を突き出したヒッタクリの男の顔面に拳を叩き込む。
 千夜自信は幻惑スキルで姿を変えているとはいえ、その力はXランク冒険者漆黒の鬼夜叉その者である。そのため、それなりに手加減したとはいえ、常人を遥かに凌駕する千夜の一撃は男を数十メートル後方に吹き飛ばした。
 その光景を見ていた周りの住民は呆気とられ、口が開いていた。

「旦那様……」
「センヤさん……」
「センヤ……」
「主……」
 エリーゼたちは目立つなと言った張本人にジト目を向けていた。

「し、仕方がないですよね!」
 ウィルは千夜を庇おうと必死にフォローするのだった。
(ウィル、お前は優しいな)
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