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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第四幕 盗賊と弱すぎる

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 あれから二日後、予定より少し遅れて千夜たちはようやくエリーゼが治めていた領地を目前にしていた。
 急ぎつつも疲れが残らない程度に進んできた事もあり、千夜たちの体調は万全なものだ。特にウィルはたった二日で見違える程成長していた。
 レベルは10程あがり、スキルレベル特に剣術と体術にいたっては15~20も上がっていたのだ。それには千夜の指導も関係しているが、一番の理由は昨日の出来事が大きかった。

 一日前。

 出発してから数時間が過ぎ昼食を休憩出来る場所でしようと考えていた時だ。
 1キロ先で戦闘が行われていた。勿論視認出来る訳ではない。マップで知ったのだ。

「主」
「ああ、解っている」
 どうやらエルザも感じ取ったらしく、低音で呼びかける。

「ウィル」
「はい。何でしょうか?」
「悪いが少しスピードを上げる。俺の背中に負ぶされ」
「いえ、自分で………解りました」
 少しでも迷惑は掛けられないという遠慮とプライドが拒否しようとするが、千夜たちが纏う雰囲気が変わった事に気がついたウィルは口を閉じて言い直した。
(やはり、賢いな)
 肩越しからウィルに視線を向けつつ笑みを零す。

「ほら、ウィル負ぶされ」
「はい!」
 止まる事はなく、少しだけスピードを落とすとウィルは跳んで千夜の背中に負ぶさる。

「エリーゼたちも気がついているとは思うが少し緊急事態だ。急ぐぞ」
「「解ってるわ!」
「急ぎます」
「無論じゃ」
「承知しています」
 返答の仕方は違えど全員が一致したのを聴覚で確認したのを最後に千夜はスピードを上げる。

「うわっ!」
 今まで見た事も体験した事も無い速さで景色が通り過ぎていく光景にウィルは驚愕し感嘆の声を洩らす。

「凄い……」
(まるで空気の壁を切り裂いて進んでいるみたい。これが世界最強と言われるお父様たちが見る世界……)
 しかしその光景は直ぐに終わった。
 スピードが落ちた事に疑問に感じたウィルは視線を前に向ける。そこでは20人近くの盗賊が一台の馬車を襲っていた。
 馬車の見た目から行商人である事が分かる。
 盗賊たちも気配を感じたのか千夜たちに視線を向ける。

「まったく大勢で一つの馬車を襲うとか典型的過ぎて逆に笑いが漏れそうだ」
 不敵な笑みを浮かべて鼻で笑う。

「なんだお前らは」
「ただの冒険者だ」
 下卑た笑みを浮かべエリーゼたちは品定めするように見渡す。

「兄貴、上玉の女たちですぜ」
「ああ、今日は運が良いな。半分は馬車を襲え。残りは俺と一緒に女狩りと行こうか」
「げへへ」
 短剣の切先を舌なめずりをする者も居れば、股間を膨らませる下品な奴も居る。

「まったく、これまで出会った盗賊たちの中でも下種いな」
「今すぐ焼却処分するべきです」
「まったくどうしてここまで堕ちる事が出来るのかしら」
「何を言っても無駄です」
「その通りなのじゃ」
「僕も戦います!」
「別に構わないが俺の傍から離れるなよ。ウィル」
「はい!」
「それじゃあ、盗賊狩り始めるとしようか」
 こうして盗賊との戦闘が始まった。勿論ただの盗賊が千夜たちに敵う筈も無く馬車を襲っていた盗賊たちも含めて戦闘は終了した。しかし千夜たちですら予想だにもしていなかった事が起きた。
 それは、

「弱い。弱すぎる」
「なんなのこれ。ありえないわ」
「どうやら大きかったのは態度だけだったようですね」
 これまで戦った盗賊たちのどれよりも貧弱で、脆弱だった。別にお腹を空かせて今にも死にそうという訳ではなかった。しかしそう勘違いしてもおかしくなかった。

「ミレーネ、行商の方はどうだった?」
「はい。数人怪我をしていましたが命に関わるような大きな怪我はありませんでしたので治癒魔法で治療しておきました」
「そうか。で、お前たちのアジトは何処だ?」
 業と生け捕りにし縄で縛り木に吊るした二人に視線を向ける。

「……お願いです。助けて下さい!」
 一瞬にして仲間を殺され光景に完全に怯えていた。

「だったら質問した事に答えて貰おうか。でお前たちのアジトは何処だ?」
「俺たちにアジトなんて無い。俺たちはただ雇われただけだ」
「雇われただと。あの行商人を襲うようにか」
「そ、そうだ。俺たちはルーセント領にあるダラって都市の牢屋で処刑されるのを待っていたんだ。そんな時、一人の人間がこの領地の代官と一緒に来て部下になるなら生かしてくれるって言ったんだ。だから俺たちは取引をして……」
「なるほどな」
「なんて事なの……」
「ルーセント領内でそんな事が起きていたなんて……」
 偶然にも今回の依頼に関わる内容を喋った男の言葉にエリーゼとウィルは悲しげな表情を浮かべる。

「その代官と一緒に来たっていう奴は誰だ?」
「解らない。薄暗かったしフードを深く被っていたから」
「だが、声とかで男か女かぐらいは解るだろう」
「それも解らない。男とも女ともとれるような微妙な声だったからよ」
「なら、口調は?」
「最初は丁寧に話していたからどこかの貴族の女かとも思ったが、一人の囚人が口答えしたら間髪要れずに剣で刺し殺してたし、短気なのは間違いないと思う。だけど男か女かは解らない」
「そうか。で、そっちの男は何か知っているか?」
「お前らなんかに話す事は無ぇよ。それよりも姉ちゃん俺と良いことしないか?」
「ただの愚者を通り越した虫けらですね」
「そうみたいだな」
 一人は恐怖から口を開いたが、もう一人は馬鹿なのかそれとも怖くなかったのか解らないが減らず口を叩く。その態度に千夜は思わず呆れる。

「なら、お前には他の事を頼むとしよう」
 千夜は男の縄を切り開放すると地面に落ちていた剣を投げ渡す。

「旦那様!」
 予想外の出来事に全員が目を見開ける。

「ウィル実戦訓練だ。一人なら倒せるだろう」
「………はい!」
(勇治と違って切り替えがちゃんと出来ているな。やはりエリーゼとサルヴァの子供だな)

「男、ウィルを倒せたら逃げていいぞ」
「えへへ、なんてラッキーなんだ。こんなガキを殺せば逃げれるなんてな」
 下卑た笑みを浮かべながらウィルに殺意を向ける。
 殺気を感じ取ったのか肌がヒリヒリしウィルの手は震える。

「ウィル」
 そんなウィルに視線を合わせるため姿勢を落とし真正面から対峙する千夜。

「………」
「人を殺す事が怖いのは解る。誰だって最初はそうだ。だけどそれよりももっと怖い事がある」
「怖い事ですか?」
「そうだ」
「何ですかそれは?」
「大切なものを失う事だ、友人、恋人、家族、誰だって構わない。戦えるのに、剣を握って構えているのに何も出来ずに失う事ほど恐ろしい事はない。想像してみろ大切な家族を失う所を」
「…………怖いです」
「そうだろう。良いかウィル誰かを護るため大切な人たちを護るためなら人を殺す事を躊躇ってはならない。己の手を汚す事を嫌がってはいけない。他人任せにしてはいけない。分かったな?」
「はい!」
「よし、なら戦え!」
「はい!」
 最後に頭を撫でた千夜はウィルの後方に下がる。
 いよいよウィルの戦いが始まる。
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