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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第六十五幕 ラッヘンとメラン

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 胴着と袴姿の千夜ラッヘンとレイクの補佐官の一人、黒ギャル姿のメランが音速の世界で死闘を繰り広げる。
 常人が戦闘を目にすれば短剣と刀が火花を散らし、コンマ数秒後に金属音が耳に届くだけだろう。
 音速の世界で死闘を繰り広げてはいるが、メランの戦い方は異様、異質と言わざる終えなかった。
 戦いにおいて攻撃する場所と言えば、必ず、目や頭、喉、胸と言った急所を狙うものだ。しかしメランの攻撃する場所は不確定、自由気侭に、適当に攻撃してくる。いや、攻撃するタイミングも適当だ。だからこそタイミングがつかめない。
 その戦い方はまるでベリーダンスを彷彿とさせ、自由気侭にラッヘンの前で舞踏を繰り広げていた。
 クロエほどではないにしろ、立派な双丘、滑らかな曲線を描く腰首、艶やかな尻を持つメランはまさにアラビアの踊り子を想像させ、全ての男を魅了する。
(ふふ、私の踊りには相手を魅了し、思考を鈍らせる催眠効果があるの。ほら、もっと私を見なさい。そして虜になるのよ)
 不敵な笑みを浮かべたつもりだろうが、傍から見れば妖艶な笑みと言わざる終えない。が、メランは不敵な笑みを浮かべて、ラッヘンの攻撃を可憐に躱す。
(さあ、早く。虜になるのよ!)
 その時が待ち遠しくて堪らないメラン。
 そんな二人の戦いは序盤から変わる事無く火花を散らしながら続く。
 どれぐらいの時間が経過したかは分からない。だが、間違いなく20分以上は経過していた。
 そんな二人の死闘は未だに、ラッヘンが攻撃し、メランが躱す。時々メランが攻撃する。というループが続いていた。
 しかし、メランの表情はそのままだが、内心困惑していた。
(どうして、どうして、攻撃してくるのよ! 普段なら間違いなく虜になってその場で棒立ち状態になるはずなのに。どうしてこの男は未だに攻撃してくるのよ。もしかして高レベルの状態異常耐性を持っているって事なの!)
 答えの出ない戸惑い。しかし、突如ラッヘンはその場に棒立ちになる。

「ふふ、ようやく効いたみたいね」
 不敵な笑みを浮かべるメランだが、内心安堵したことは言うまでもない。
 しかし、その安堵は一瞬にして崩壊し、先ほどの戸惑いの答えが返って来る。

「十二神将の補佐官というので期待していましたが、期待はずれですね」
「何を言っているのよ?」
 動揺を隠せないメラン。

「てか、アンタ先ほどと口調が全然違うんだけど」
「ええ、当たり前です。なぜなら私は…………創造主様ではありませんからね」
 どうせ殺す相手に正体がバレても構わない。バレては行けないのは帝国軍と勇者なのだからと考え、ラッヘンは変化を解き、不気味な笑みが描かれた仮面をつけた魔人へと姿を変える。

「嘘っ、アンタ混合種でXランク冒険者のはずでしょ!?」
「それは我が主です。それと主はこの場には居ません。貴方方下等生物風情相手に姿を出すほどでも無いということです」
 敵に真実を話す必要などないと考えたラッヘンは相手を挑発する。

「下等生物ですって、調子に乗るんじゃないわよ! だいたいどうして私の魅了が効いていないのよ」
「それに関して説明するのも面倒ですので、特別に私のステータスを見せてあげます」
 ステータスオープンと呟くとメランにステータスを見せる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ラッヘン
影の道化師スカー・クラウン(希少種)
LV245
HP 760000
MP 670000
STR 19900
VIT 32000
DEX 48900
AGI 52000
INT 33600
LUC 120

スキル
剣術LV99
二刀流LV99
体術LV85
武術LV85
暗殺術LV75
幻術LV95
念話LV60
HP自動回復LV55
MP自動回復LV65
魔力操作LV99
危機察知LV85
状態異常耐性LV99
火属性耐性LV50
水属性耐性LV50
風属性耐性LV50
土属性耐性LV50
光属性耐性LV50
闇属性耐性LV50

属性
風 闇

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「は、何よこのステータス。レイク様よりも遥かに上じゃない。それに状態異常耐性LV99ってありえない!」
 千夜によって創造されたラッヘンのステータスは異常と言うほか無かった。この世に生まれ一度もレベルが上がっていないにも拘わらず、タイガーのステータスよりも上回っているのがあるのだから。
 だが、これは仕方が無いと言わざる終えない。創造した千夜はエリーゼたちの事を考えて創ったため、こうなったのだ。つまり、心配で仕方がなかったのだ。
 千夜の心配性のお陰が幸いしたのか、こうしてラッヘンは主である千夜の為に戦える。それだけで嬉しさが込み上げてきていた。

「それで下等生物、私のステータスをみて気づいた事はありませんか?」
「え?」
 呆けた返答にラッヘンは思わず眉間を押さえ、嘆息交じりに言葉を発する。

「まったく気づいていないのですか。私の種族を影の道化師スカー・クラウン(希少種)です。同じ魔族なら聞いた事はありませんか?影の道化師スカー・クラウンは闇に行き、闇夜を俳諧生き物だと 」
「っ!」
「どうやら気づいたようですね。つまり私はこうして表だって活動する種族ではないのですよ。まったく脳味噌まで下等生物では困り者ですね」
 影の道化師スカー・クラウンは生れながらの、暗殺者であり、闇の住人。そんな人物が表立って行動するのは不自然でしかない。

「もう、ここまで見せてしまいましたので、貴方には特別に面白いものを見せてあげましょう。そうですね。鑑賞料は貴方の命としましょうか」
「え?」
 もう、頭に何も入ってこなかった。圧倒的ステータスを持つ存在。それも自分が慕う男よりも強い存在。それが目の前に居る事にメランの脳は思考停止していた。

「そうそう、一つ良い事を教えてあげましょう」
「………」
「貴方が慕う下等生物、たしか………名前はレイクでしたね」
「そ、そうよ」
 慕う男を馬鹿にされているにも拘わらずメランは恐怖で何も言い返せない。

「あの男が怒らせた吸血鬼エルザ様は私よりも遥かに強いですよ」
「っ! レイクさ――」
地獄の箱庭ヘル・ガーデン
 既に遅いと分かっていても伝えようとしたメランだが、ラッヘンが呟くと同時に闇の球体に呑み込まれ、この世から姿を消す。

「せいぜい楽しんでください」
 既に球体を消え去り、誰の姿も無かったがラッヘンは弾んだ声で呟く。それがまた仮面と相まってか不気味さが増すのであった。

「さて、スケアクロウはどうなったでしょうか。たしか十二神将が相手でしたが、彼の強さなら余裕でしょうね」
 肩越しに視線を向けるのであった。
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