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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第五十四幕 称号、阿修羅と飛廉突き

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 暁鐘突き。
 攻撃スキルや防御スキルとも違うスキル。カウンタースキル。
 ゲーム時代千夜があまり使わなかったスキルの一つである。正確にいうならカウンタースキルはよく使っていた。
 あまり使わなかった理由は装備が槍か短剣、もしくは職業が暗殺者でないと使用が出来ないスキルであるから。
 千夜の職業は侍。
 武器は何でも使用可能だったが、スキルは職業にあったものであれば獲得しやすいだけで、それ以外のスキルも一定の確率で獲得することが可能なのだ。
(ま、俺の場合は二つ設定できるサブ職が暗殺者と鍛冶師だったけどな)
 ゲーム時代千夜は戦闘向きの職業とスキルを選び増やす傾向があったが百鬼族を創設した際に他のスキルも取れるだけ取ることにした。
(その結果、調理や裁縫といったスキルも手に入れカンストさせられたっけな)
 現実で合ったかのように思い出だし浸りたくなるが今は戦闘中であるため、すぐさま思い出を振り払いマイラの喉から槍を抜く。

「マイラ!」
「貴様、よくもマイを!」
 マイラが倒された事にレナードは動転し、ソーナはこれまで放ったどの魔法よりも強力な魔法を放とうとするが、

「発動するまでに時間のかかる魔法は選択ミスだ」
 やすやすと好機見逃す和也ではない。
 一瞬にして迫り寄った和也は蒼槍を振り上げる。

「あああああああぁぁぁぁ!!!」
「ソーナ!」
 下腹部から胸までを斬り裂かれたソーナは激痛で絶叫する。
 大切な部下二人を一瞬にして失ったレナードの脳内は真っ白になる。
 念にはとソーナの心臓を貫く。

「さて、最後はお前だけだ」
 慈悲など一切与えない。
 マイラを抱きかかえ、怒りの形相で睨み付けるレナードにゆっくりとだが着実に近づく。
 その時、

『レベルアップしました。これにより存在進化が可能となりました。現在の姿は仮の姿のため、ヒューマンからハイヒューマンへと存在進化するのみです。存在進化を成し遂げた事により、新たなスキルと称号が贈られます』
 マイラとソーナを殺したことにより和也は存在進化を成し遂げた。
(やはりゲームの時と同じか。なら間違いなくこの世界は俺の推測する二つのどちらかだろう)
 存在進化したことに喜びなどない。どちらかと言えば安堵に近いだろう。だが、それも微々たる物で今和也の頭の中にあることはこの世界についてのみだ。
(念の為にステータスを確かめておくか)
 予想はしているがどれだけレベルが上がったのか見るために開こうとする。が、

「貴様あああぁぁ!!」
「ぐっ!」
 怒り狂ったレナードが襲い掛かる。
 突然の事に和也は完全に躱す事は出来ず、レナードの一撃を食らってしまう。
 レナードの一撃は白銀の鎧を斬り裂くと、その隙間から止め処なく血が流れ落ちる。
(ちっ! 油断した。損座進化を果たした事で躱せると過信しすぎた!)
 回復ポーションを飲むため、一旦距離をとろうとするが、

「逃がすか!」
「ちっ!」
 逃がすまいと再び接近するレナード。その表情はまさに般若そのもの。
 そんなレナードの連撃は止まる気配がない。そのことに和也に焦りと違和感を与える。
(まずいな。このままだと確実に大量出血で死ぬ)
 思ったよりも深かった胸への一撃は未だに血が流れ落ちている。
(それよりも、なんだこの異常なまでの力は。この男に何が起きている!?)
 攻撃を躱し、受け流しながら和也は超解析を発動する。

――――――――――――――――――――――――――――――――

レナード・トリントン
種族 魔人
LV112
HP 323000(1615000)
MP 265000(1325000)
STR 12000(60000)
VIT 10000(50000)
DEX 10500(52500)
AGI 9600(48000)
INT 10100(50500)
LUC 70

スキル
剣術LV89
二刀流LV73
武術LV84
魔力操作LV66
危機察知LV69
指揮LV32
統制LV33
火属性耐性LV44
水属性耐性LV41
風属性耐性LV34
土属性耐性LV33
光属性耐性LV19
闇属性耐性LV40

属性
火 水 闇

称号
阿修羅NEW(発動中)

※ 阿修羅の効果は発動中LUC以外の全ステータスが5倍になる。
――――――――――――――――――――――――――――――――

(最悪だな。存在進化を果たしたおかげで余裕で勝てるかと思ったが今度は一対一で互角もしくは不利になるとは)
 予想外の事態に戸惑いを隠せない和也。
 深手を負い勝てる見込みも低い状況下、ほんのい時間前までなら、まさしく和也自身が望んだ自体だろう。だが今の和也は大切な妻の許に帰るために戦っている。
(そうだよな。負けるわけには、死ぬわけにはいかないだよな……だから)

「悪いが、ここで死んで貰う。鏡花水月!」
 鏡に映る花、水に浮かぶ月。そこには本物は無い。幻。だが、そこにはある。
 レナードの一撃を弾き返す。
 自分の力をそのまんま返されたレナードは大きく仰け反る。が怒りで我を忘れるレナードに今の状態が危機的状況であることを理解することは不可能だった。

飛廉突きひれんづき!」
 仰け反ったレナードの心臓をスキルによって風を纏った蒼槍の一突きが貫く。

「ぐはっ……」
 口から大量の血を吐血するレナードは虚ろな瞳で仮面を被る和也を見つめる。
 その瞳には怒りや憎しみといった感情が宿っていたが、安堵も含まれていた。

「貴様……なん……か……レオン……ハルト様………に燃や……されて………しまえ…………マイラ……ソーナ……今………そっちに………行く……から……な………」
「もっと強くなったお前と戦ってみたかったよ。千夜としてな」
 笑みを浮かべて死んだレナードを見つめて、今の思いを呟く。
 都市内から聞こえなくなった戦闘音。そのためか和也の呟きは思った以上に響くのだった。
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