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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第五十三幕 苛立ちと焦り

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 戦闘が開始されてからどれだけの時間が経過したのか。5分、10分、30分、1時間なのか、和也だけでなくレナードたちですら分からない。いや、確かめる余裕が無いのだ。
 3対1という状態でありながら、未だに激しい戦闘は続いている。それでも少しずつではあるが和也が押され始めていた。
(流石に3人を相手にするのはきついか!)
 先日戦った貴族吸血鬼と同等、もしくはそれ以上の力を持つソーナとマイラ。そんな二人よりも強いレナード。
(前の戦闘でレベルアップしていなかったらやばかったな)
 あの時の戦闘に感謝しながらも振り下ろされる剣を蒼槍で受け流す。
 現在の和也はこの場にいる誰かを殺せば確実にレベルアップし、存在進化を果たせるところまで来ている。だが、最後の一歩がゴールラインを越えないでいた。
 それは和也の焦りとなって出てくるかと思ったが、それはけして無かった。
 これまでの戦闘は無駄ではなかった。焦りや不安、怒りと言った感情が視野を狭めることを和也自身よく知っているし、口癖みたいなものだからだ。
 しかし、どれだけ冷静であろうと押され始めた事には変わりはない。
(さて、どうしたものか……)
 なんとか攻撃スキルと防御スキルで3人と互角に戦ってはいるが、それにも限界がある。
 戦闘しながらも思考をフル回転で策を考える。
(相手も予想以上に真剣に戦っている。きっと余裕が無いんだろう……)
 その時頭に浮かんだのは大事な妻たちの姿。
(そうだった。エリーゼたちもこっちに向かっているんだよな。いや、もう着いて戦っている筈。敵の数は分からないが、エリーゼたちの力ならそれほど時間は掛からない筈だ。なら)

「もう、戦っている頃だろうな」
 戦闘は止まっていない。そんな中和也は口を開いた。その事にレナードたちは怪訝に感じた。

「どうしたのぉ~、もう疲れたのこっちはまだまだ余裕あるよぉ~」
「どうだろうな。3人がかりで未だに俺を殺せないあたり、内心では相当焦っているんじゃないのか。お前たち3人との力が互角だ。人数差で押されてはいるが、それも時間の問題だ」
「どういうことです?」
「この都市には既に俺なんかより遥かに強い連中が到着し戦っている。お前たちだって耳にはしているだろう。『月夜の酒鬼』の事は」
「なに?」
 思わず眉間に皺を寄せるレナード。それで確信を得た和也は追い討ちを掛けるように続ける。

「この国レイーゼ帝国は月夜の酒鬼が活動する国だ。そんな国に侵攻してきたとい事は間違いなくあいつらのテリトリーを害したのと同じことだ」
「だが、あいつらは冒険者だ。冒険者は戦争には参加しないのが決まりのはずだ」
「確かにな。だが、大切な家族や街が危険になると分かっていて行動しない冒険者はいない。それにお前たちは魔族だ。魔族が住む国を国同士の争いと判断するかは微妙な所だがな」
「ちっ!」
 攻撃が激しさをます。それが和也の狙いだと気づかずに。
(良いぞ、もっとだ。もっともっと攻撃して来い!)
 けして和也はMではない。どちらかといえばSの方だ。そんな和也が内心思うのか。それは相手の焦りを増幅させ、視野を狭め、隙を狙っているからだ。
(それまで俺が保つかは分からないが。それに元々エリーゼたちに頼るつもりはない)
 けしてエリーゼたちを信用していないわけではない。
 これはただ単に男のプライドの問題なのだ。
(こいつらは必ず俺が殺す!)
 怒りや憎しみなどではなく己が己に課した責務の為にレナード達を殺す。

「ほら、早く殺してみろ。でないとお前らは疲れた状態で月夜の酒鬼を開いてすることになる。そんな状態でお前たちは勝てるのか? 無理だ。そうなれば今回の侵攻は失敗に終わる」
「ちっ!」
 さらに攻撃の激しさを増す。一撃一撃が衝撃波を生み周りの地面を木々を抉り吹き飛ばす。

「くっ!」
 しかしそれだけ和也が死ぬ確立を上げている。既に腕や足には大量の切り傷があり、肩や腰には魔法による火傷がある。
 白銀の鎧も砂と血と汗で汚れ、昔のような美しさは何処にも無かった。
 それでも和也は蒼槍を振るう。
 勝つために。
 生きるために。
 大切な妻たちに会うために。
 振り続ける。
 防ぎ、受け流し、突き、薙ぎ払う。
 そんな攻防が何時までも続くかと思われた。

「ああ、もう! 鬱陶しいっ! さっさと死んじゃえぇ!」
(苛立ちと焦りを含んだ一撃を舞っていたぜ!)

暁鐘突きぎょうしょうづき!」
 一撃を躱すと同時に放たれた一撃はマイラの心臓を貫いた。
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