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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第二十七幕 綺麗な顔と行くか!
しおりを挟む怒りの形相で一瞬にして迫るへロン。
(ちっ、速え!)
少しでも距離をとろうと後方に跳ぶ和也だが、それすらも予想していたかのように間合いに入り込もうとする。
「死ね!」
右手から突如出現した鮮血の剣は和也の心臓めがけて突く。が、
「させるものか!」
「おっと」
へロンめがけて投擲されたグングニルだったが僅かな所で躱される。
「助かった」
「なに、有望な部下を失うのは私とて嫌だからな」
これまでにない危機的状況をなんとか脱した和也は感謝の言葉を送る。もちろんへロンから視線を逸らす事は無い。
「まったく、どいつもこいつも僕の邪魔ばかりして。ほんとムカつく」
すでにへロンから笑顔はない。真剣な面持ちで、ただ純粋に殺すことだけを考えていた。
「ふんッ、魔族の機嫌など、私が知ったことではない」
「へえ~、そんなこと言っちゃうんだ~」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるへロンの姿にライラの眉間に皺がよる。
「どういう意味だ?」
「考えてみなよ。確かに君達は僕の予想以上の力を発揮して未だに倒せていない。でもね、君達が二手に別れる事ぐらい僕にはお見通しなんだよ」
「まさか!」
「そうだよ~、先に王都に向かった部下達の所に僕の眷属が襲撃しているところさ」
「っ! だが生憎と私の部下は柔ではない。それにあそこには五千の騎士が居るのだ。ここに軍を集中させているお前にそんな余裕はないはずだ」
「確かに襲わせた数は二千だよ。でもね、もしもその眷属が魔族ではなくこの国の村人たちだったらどうする~?」
不適な笑みをライラに向ける。
「まさか、先ほどの村だけではないのか!」
「そうだよ~。それどころかあの村は君たちを誘き寄せるためだけに襲っただけだしね」
「き、貴様あああぁぁ!」
「あはははっ、せっかく綺麗な顔が怒りで台無しだよ! ま、僕は人間の顔になんて興味ないけど」
「ライラ落ち着け! 今怒りで視野を狭めたら相手の思う壺だ。そうなればここに居る部下たちも死ぬぞ」
今にもへロンに襲い掛かろうとするライラをなんとか宥める。
「っ! そうだな……。すまない、助かった」
「いや、気にするな。それにお前の部下なんだろ。少しは信じて遣れよ」
「そうだな。今は目の前のクソ野郎を殺すことだけ考えるとしよう」
「怒っているのは分かるし、戦場でもある。だからといってそんな汚い言葉を使うなよ。部下たちまで驚いているぞ」
「そ、そうだな。すまない」
呆れて指摘する和也の言葉に恥ずかしそうに頬を赤らめるライラ。
「なに僕を無視して二人だけの空間を作ってるのさ~。本当にブチキレるよ?」
(いや、すでにキレてるだろ)
内心そんな事を思う和也だが、口にすればもっと面倒になりそうだな。と思い口にするのを止めた。
「ラケム」
「はっ!」
「お前達は魔族どもを殲滅しろ! 私とカズヤでこの吸血鬼を倒す」
「……了解です!」
不満に感じるラケムだが、それが一番生存率の高い選択だと判断したラケムは一瞬和也に視線を向けるとすぐさま部下に指示をだし魔族軍との戦闘を開始した。
「副隊長に頼まれたらやるしかないよな」
「なんの話だ?」
「いや、なんでもない」
ラケムの視線に宿った本心を読み取った和也は笑みを浮かべて蒼槍を構える。
『ライラ様を頼んだぞ』
「行くか!」
今度は此方からだ。と言わんばかりに和也は地面を蹴るのだった。
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