128 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第十四幕 和也VSジャム
しおりを挟む協会本部内にある訓練所の一つへと遣ってきた和也とライラ。そこでは、何十人もの騎士が訓練に励んでいた。
素振りする者、摸擬戦を行う者、休憩するもの様々だ。
「いつもは、全員で同じ事をするのだが、今は自由訓練のじかんなのでな」
「自主訓練とは違うのか?」
「自主訓練は各々が訓練をするかしないか決めるが。自由訓練は必ず訓練に参加だ。そのかわり訓練の内容は各々で決めるのだ」
「なるほどな」
説明を聞き納得のいく和也。
(サボっている奴がいるかと思ったが、一人もいないようだな)
強制参加のため、どうしても身が入らない者だっているだろう。しかし、和也が見た限りではそういった者は誰一人として居なかった。
(それだけ、神への信仰が厚いのか。それとも他種族に負けたくないだけなのか)
そんな事を考えていると、
「全員訓練を中断せよ!」
女性からとは思えないほどの大声に内心驚く和也。
「これより、新しく私の部下になるものを紹介する。カズヤ・アサギリだ。皆も噂で知っていると思うがたった三ヶ月でSSランクにまで上り詰めた男だ。しかし噂は所詮噂だ。これよりカズヤの実力を知るため一対一の摸擬戦を行う。誰か戦いたいものはいないか」
ライラは部下に視線を配る。その中に一人の男が手を挙げる。
「ならその役目、自分がお受けしても宜しいでしょうか!」
気合の篭った男の声。
身長は175前後で、細身ではないが引き締まった体格をし、金の短髪が特徴的な男だった。
「ジャムか。同じ槍使いだし良いだろう。カズヤも問題はないな」
「ああ、俺も構わない」
平然と了承する和也の態度が気に食わないのか鋭い視線を向けるジャム。
騎士たちは中央に移動した二人の戦いを観戦するべく円を作る。
「これより、親睦試合を行う。双方全力を出して奮闘するように」
審判役ライラである。いつもは他の者に任せるのだが、今回は自分ですると言い出したのだ。それがジャムや他のものとっては不愉快でしかなかった。
「双方構え!」
互いに白銀の槍と蒼槍を構える。
ピリピリとした緊張感が静寂を生み出し、
「始め!」
ライラの合図のもと、静寂が打ち破られる。
最初に動いたのはジャムである。
槍は剣や刀と違い、間合いが広い武器である。そのため迂闊に近づけば返り討ちにあい易い武器である。
また、槍自体が長いため剣や方に比べて扱いづらい武器でもある。しかし、達人となればその両方が無に帰すのだ。
相手の間合いを感覚的に測り、自分の間合いと重ねる。
僅かに届く距離を感じ取ったジャムは相手の喉を的確に狙う。
しかしジャムの槍は和也の喉を掠める事も出来ずに空を刺す。
躱したわけではい。和也は相手の槍の軌道を逸らしただけなのだ。
槍とは剣以上、矢以下の間合いのある武器であり、槍とは刺す武器である。そのため横からの衝撃で軌道が変わりやすいのだ。
勿論、ジャムも一撃目で勝負が決まるとは思ってはいない。どちらかと言えば最初の一撃は相手の出方を窺うための一撃だったのだ。
(なら、これならどうだ!)
再び攻撃をしかける。しかしそれも軌道を逸らされる。
そんな攻防が何度も続く。
観戦する騎士たちから見れば和也の防戦一方に見えるだろう。勿論ジャムはそうではないと分かっていた。しかし、徐々に軌道を逸らすのが遅くなっていることにジャムは内心笑みを浮かべる。
(体力には自信がないのか。それともただ単に自分の攻撃を裁ききれなくなってきたのか。いや、違う。この程度で遣られる男ではない)
油断大敵と浮かれそうになる心に喝を飛ばす。
それでも徐々に遅くなることに、ジャムは浮かれ始める。
(なら、これでどうだ!)
顔面目掛けて放たれた槍の切先は和也によって軌道を逸らされる。しかし、
「くっ!」
和也の表情が僅かだが歪む。その原因は和也の左頬に浮かび上がる一筋の赤い線。
それがジャムを完全に思考を鈍らせた。
(やはりそうか。この男はもう捌ききれないのだ! なら次の一撃で決めてやる!)
警戒することなくただ放たれた一撃。勢いも、信念も感じない、幻の勝機に酔いしれた男の一撃。
それは和也にとって待ち望んだ瞬間であった。
不適な笑みを浮かべ平然と槍を躱した和也は流れるような動きでジャムの喉に槍の切先を突き立てる。
「そいれまで! 勝者カズヤ!」
ライラの宣言により勝者が決まる
0
お気に入りに追加
10,110
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。