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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第百四幕 夜空と千夜の企み

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 コーランとの話は終わった。
 シャイネに案内でクロエが住んでいた家に来ていた。

「この度は私たちの娘を連れてきて頂き有り難うございます。先程は名乗り遅れましたが、私はクロカと言います」
「俺はクロエの父のサントンだ。本当に有り難う。話は娘から聞いた」
「そうか」
「俺たち両親はクロエにこの後の事は決めさせるつもりだ」
 サントンの一言で千夜は夫婦である事をクロエから教えられたのだと悟った。

「俺の我侭を言って良いなら、これからもクロエと共に暮らして生きたい。だが、無理やり連れていくつもりは俺にはない。クロエ、お前が決めろ」
「我は……」
 俯くクロエ。
 この態度は当たり前である。もしもここで千夜たちについて行けば村からの追放となり2度と両親やシャイネと会えるかは分からない。だからといって千夜とも別れたくない。そんな2つの思いが渦巻いて仕方がないのだ。

「別に今すぐ答えなくていい。数日はここで滞在するつもりだ。その間に決めるといい」
「分かったのじゃ……」
 千夜はそう言い残して一人で外に出る。
 エリーゼたちにクロエの側にいるように言ったのだ。が、これは親切心からではなく、千夜も精神的に参っていたのだ。1年という長いようで短い間ではあったが共に過ごした時間はとても濃いものだった。そんなクロエと別れる事など千夜には出来なかった。

「だからと言って無理やり連れていくことは俺には出来ない」
 クロエを誰かが連れ去るなら本気で取り返すが、今回はそうではない。そのため千夜に出来るのは本当の気持ちをクロエに伝える事だけなのだ。

「情けないな」
 洞窟の外に出た千夜は夜空を眺めながら呟く。

「どうした?」
「シャイネか」
 声のする方向に視線を向けるとシャイネが立っていた。

「貴方ほどの人でもそんな顔をするんだな」
「当たり前だ。俺だって心は持っている。それよりどういう意味だ?」
「貴方が強い事か?」
「どうして分る」
「分かるさ。あのクロエをあそこまで強くした人が弱い筈がないからな」
「なるほどな」
 二人はその場に座り夜空を見上げる。

「私は正直嬉しくもあり、嫉妬もしているんだ」
「何故だ?」
「私も最初は将来長になるだろうと言われていた。が、その1年後の事だ。一番仲の良かったクロエが訓練を始めると皆が驚いた。もちろん私もだ。クロエは才能に満ち溢れていた。でも私は長になりたくていつもの倍以上に訓練を行った。が、クロエはそんな私をあっという間に抜いていった。そんな時クロエが行方不明になった。私は悲しんだ。でも心の何処かで嬉しかった。これで長になれると思ったからな」
「そう言うものだ。誰しも自分にないものを求め、あるものを妬むものだ」
「長にも言われたよ」
「それはつまり爺臭いということか?」
「そうではない。まったく面白い奴だ」
 楽しそうに笑うシャイネ。しかし直ぐに悲し気な表情に戻る。

「そして今日、センヤがクロエを連れてきた。嬉しかった。また会えたことに。が、私は前以上に妬んだ。遥かに強くなって戻ってきたクロエに……」
「そんなに長になりたいのか?」
「当たり前だ。私は強くて慕われる長に憧れているからな」
「そうか…………いや、待てよ」
「どうした?」
 千夜はあることを思い付く。

「一つ聞くがこの村に決闘はあるのか?」
「あるぞ。揉めた時は大抵幾つかの方法の中から選ばれたやり方で決めたりするからな」
「そうか。なら、シャイネ」
「なんだ?」
「強くなりたいか?」
「当たり前だ」
「クロエに勝ちたいか」
「勝ちたいさ」
「そうか。なら、俺の特訓を受ける気はあるか?」
「え?」
「どうなんだ?」
「あるさ! どちらかと言えばこちらからお願いしたいぐらいだ!」
「そうか。ならついてこい」
 千夜は立ち上がり、再び洞窟の中へ戻る。
 向かった先はコーランの場所である。


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