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その頃、決意した勇者は?
和也たちの過去と和也への償い
しおりを挟む「僕たちはね、幼なじみだったんだ」
勇治は悲しげな表情で重たくなる口を開く。
「それは小さいときからずっと。そして何をするにも6人だった。僕、真由美、正利、紅葉ちゃん、奏ちゃん、そして…………和也」
勇治から語られる過去をセレナは真剣な面持ちでただ聞く。一言一句逃さないように。
「本当に仲良しでね。周りの人たちからは『仲良し6人組』なんて言われてた。そんな僕たちの先頭に立って引っ張っていたのが和也だったんだ」
「ぅぅうっ!」
「紅葉!」
「大……丈夫……です」
あまりの辛さに紅葉は涙を流しながらその場にへたりこむ。正利はそんな紅葉を支え、抱き締めながらも勇治の口から聞こえる呪文を聞く。
「本当に和也は凄かった。何をしても一番で、自分が決めたことは全てを貫いてたし、そのためなら努力も惜しまなかった。そんな和也を僕は尊敬してたし、嫉妬もしていた。でも一番凄かったのは、誰よりも友達想いだったこと。僕たちが悩めば直ぐに相談に乗ってくれて一緒に考えてくれた」
「そうだったな………」
正利は過去の楽しかったときの思い出に浸っていた。
「ねえ、セレナさん」
「はい、なんでしょう」
「僕と真由美、正利と紅葉ちゃんがそれぞれ恋人同士なのは知っているよね」
「はい、前に教えてもらいましたので」
「僕たちを恋人同士にしてくれたのは和也なんだ」
「え、そうだったのですか?」
「ええ、そうよ。だって私と紅葉の初恋の相手って和也だもん」
「えええぇ!」
真由美から放たれた一言に驚きを隠せないセレナ。
「そうだったのですか?」
「「ええ」はい」
真由美と紅葉は事実だったと悔いる様子もなく肯定した。
「だって格好よかったし、優しかったからね和也は」
「はい。ウジウジしたり、転んでも泣いたりしませんでしたから」
「「うっ」」
その時の印象を女子から語られ何も言えなくなる男二人。
「ま、だからなのかな。二人で和也に告白してきっぱりとフラれたのは」
「え、その場で断られたんですか?」
「そうよ。「俺は二人の事を恋愛対象として見たことはない。だからごめん。これからも友達として遊んでくれると嬉しい」って。あの時は紅葉と夜遅くまで泣いたな。まさか二人ともフラれるなんて思わなかったもの」
「そうですね。私たちの予想ではどちらかと付き合うものだと思っていましたので」
「なのに和也ったら告白した次の日に私たち全員を呼び出して「今日は缶けりして遊ぶぞ」って言うだもん。少しは乙女心を考えろっつうの」
「でも、あの時に理解しました。和也さんは心の底から全員で遊ぶことが好きなんだなと」
二人は懐かしさに浸る。笑みを溢して。
「で、そんな出来事から一年後に私と紅葉はそれぞれ勇治と正利に告白され、付き合うことにしたの」
「でも、まさか二人に知恵を吹き込んでいたのが和也さんだったって知ったのはもっと後でしたけどね」
「あ、あの、お二人は勇治さんと正利さんに告白された時はお二人のこと好きだったんですか?」
「「そこそこ」」
「「え!」」
二人も知らない真実が女子二人の口から語られる。その尋常じゃないインパクトに勇治と正利は思わず身を乗り出していた。
「だって好きな男にフラれたからって直ぐに諦められるわけないでしょ」
「そうですね」
「でも付き合いはじめて知らない一面を見るたびに嬉しくなって」
「私だけのためだけに頑張ってくれる姿に心をトキメかせてました」
「で、徐々に好きになって」
「今では誰にも渡すつもりはありませんから」
息のあった二人の告白に男性陣はなんも言えなくなりただ、ほほを赤くして俯くだけだった。
「ま、それでも皆で遊ぶことはやめれなかったけどね」
「確かに中学に入ってからも変わりませんでしたね」
「ほへ~そんな事があったのですか」
「ええ、小学校高学年の時だけどね」
「でも、そんな楽しい時間もあの事件が起こるまででした」
そんな紅葉の一言でセレナ以外の全員の表情が急降下のごとく暗くなる。
「その事件っていったい……?」
「それを話す前にまずは僕たちの世界の事を僕たちが住んでいた国の事を説明するね」
「あ、はい。お願いします」
「僕たちが住んでいた世界には魔法は存在しないんだ。そして住んでいる種族も人間だけなんだ。だから魔物も存在しない。肉食動物はいるけどね」
「そんな不便な世界で生きてきたんですね」
「そんな事ないよ。魔法が無いからこそ。僕たち人間は便利になるように知恵を出しあって発展してきたんだ。正直この世界よりも発展しているよ」
「そうなのです!?」
「うん。どれだけ離れていても会話ができる機械や馬や人を使わずに走る乗り物や空を飛ぶ乗り物だってある」
「そ、そんな凄いものまであるのですね勇治さんたちの世界には」
「うん。それでね僕たちの世界には196もの国が存在するんだ」
「そんなに国があるなんて」
「そんな世界のなかで僕たちの国は世界で一番治安の良い国だと言われてるんだ」
「それは素晴らしいですね」
「うん………そうだね」
「勇治……さん?」
「僕たちの国では殺人や強盗といった犯罪を減らすために銃砲刀剣類所持等取締法や暴行罪て言う法律があってね。ナイフの所持や相手を殴るだけで捕まってしまうんだ」
「そんな法律があるんですね」
「うん。だからなのかな。犯罪やましてや殺人を犯した人間に恐怖や忌避感、軽蔑してしまうんだ。それがどんな理由があったとしてもね」
「それと和也さんになんの関係が?」
「えっとね。和也はね。人を殺してるんだ」
「そ、そんな……」
「ま、驚くだろうね」
「確かに驚きはしましたが、態度を変えることはないと思います」
「うん。僕もそう思ってた」
「え?」
「さっきも言ったと思うけど僕たちの国は治安が良い。確かに犯罪が無いわけではないけど。目の前で人が死んだり、命の危機を感じることなんて人生に一度あるかないかの国なんだ」
「そ、それは私も同じです」
「確かにセレナさんもそうだね。でもね、僕たちの国では一般市民もなんだ」
「それは凄いですね。民たちも命の危険なく怯えずに住めるなんて素晴らしい国ではないですか」
「確かにそうだね。でもね、だからこそ僕たちは過ちを犯してしまったんだ」
「それはどういう意味でしょか?」
セレナはわからなかった。勇治が何を言いたいのか。他に真由美たちを見るとどうやら勇治が言っていることを理解していた。悔しそうに、悲しそうに。
「生まれたときから平和で命の危険を感じることなく犯罪は悪いことだと教えてこられ、それが当たり前、それが日常として生きてきた人が目の前で殺人現場を目撃したらどうなると思う?」
「そ、それは………」
「拒絶だよ」
「え?」
セレナは理解できなかった。勇治から吐かれた言葉の意味が。
「セレナさんたちが住む世界では日常のように剣を振り回して命を奪っているだろ? それが魔物でも人間でも」
「確かに」
「それなんだよ。当たり前、日常だと分かっているからこそなんとも思わないんだ」
「そ、そんな事は!」
「別にセレナさんが冷たいって言ってるんじゃないよ。例えば仲の良い友達がいてその友達がセレナさんを守るために襲ってきた人を殺したらどう思う?」
「それは勿論助けてくれたことに感謝してお礼します」
「そうだよね。でもね僕たちは拒絶したんだよ」
「え」
「僕たちはね一度、強盗事件に巻き込まれた事があってね。その時の犯人が僕たちをナイフで殺そうとしたんだ。そんな時に助けてくれたのが一緒に居た和也なんだ。和也は僕たちを助けるために犯人が持っているナイフを奪おうとして犯人と取っ組み合いになったんだ。その時ナイフが犯人のお腹に刺さってね。それが原因で犯人は死んだんだ」
「そんな事が………」
「本当なら助けてくれたことに感謝するべきなんだ。でもね、僕たちは目の前で人が殺されたことに、恐怖を感じて助けてくれた和也を拒絶したんだよ。それから数日して和也は学校に来なくなったんだ。正当防衛だって分かってるし、そのお陰で和也は捕まることはなかった。でも………それでもね怖かったんだよ。だからなのかな。僕たち以外に仲のよかった友達までみんなが和也の悪口を言うんだ。とても嫌だったよ。腹が立ったよ。でも一番最初に拒絶した僕たちにはなにも言うしかくはなかったんだ」
「そうだったのですか………」
「で、気が付いたら和也は転校してた。田舎の家に一人だけ引っ越したらしい。どうやら和也は両親にまで拒絶されたみたいだから。で、結局再開したのは高校に入ってからだった。僕たちは和也の噂が残る街の学校に行きたくなかったから少しはなれた高校に入学したんだ。で、そこで再会した。でも最初は話かけられなかったし、向こうから話しかけてくることはこっちの世界に来るまで一度も無かったけど。それでも仲直りしたかったから、呼び出して謝罪したし、なんども話しかけたりした。けど「別に気にしてない」って言われたり、「俺なんかと話してると苛められるぞ」って言われたり「バイトがある」って言われて避けられてた。で、一年かけて何度もアタックしたおかげで、ようやく3年ぶりに一緒に帰れると思ったときにこっちの世界に来たんだ」
「そうなんですか……」
「でも和也は和也だった…………こっちの世界に来ても友達のために努力してた。嬉しかった。そして………………後悔した」
勇治の口から語られた和也に対しての罪。それを改めて耳にした真由美たち全員の後悔の籠った慟哭が部屋中に響くのだった。
セレナは悲しく重たい空気を入れ替えるため窓を開けると目を腫らした全員を見渡した。
「落ち着きましたか」
「うん。ありがとうセレナさん」
「いえ、私にはこれぐらいしか出来ませんので………でも一つだけ言わせてもらいます! これは王女としてではなく短い間でしたが和也さんの友人として、そしてこれからも貴方たちと友人でいるためにです。貴方たちのその時の心境は私には解りません。でも助けてくれた友達を見捨てた事には憤りを感じます。ですので和也さんのためにも! 死ぬ寸前に和也に言われたことをきちんと果たしてください! そしてそれが果たされたときは……………全員でお墓参りに行き、改めてあやまりましょう」
「「「「「はい!」」」」」
セレナが開けた窓から差し込む日光が勇者たちを照らす。それはまるで真の意味で心が晴れたことを表すようだった。
─────────────────────
どうも月見酒です。
ようやく和也たちの過去が出てきました。大半の読者の方は気づいていたと思いますが。
さて、次回はこの後の勇者たちの話を書いて行きたいと思います。ある程度、話は思い付いてはいますがどれだけ長くなるかは解りません。私としては5話以内にしたいと思っています。ですので、このあとの千夜の話が気になる読者の皆様には申し訳ありませんがご了承下さい。
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