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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十一話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑫
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「互いに探り合いをして自滅する可能性だって無いとは言い切れまい?」
「そ、それは……」
俺たちの正体はともかく知られたくない事を探られるのは良い気分じゃないのは確かだろう。
それに俺たちが探りを入れ、それを対処していたら精神的に疲れるからな。
「なら、最初から言ってしまえば探りを入れられる事もないと余は考えたのだ」
「そ、それはそうですが……」
だけどやはり納得は出来ないようだ。ま、それはどうだよな。
だけどこれ以上話しても無駄と思ったのか、それとも正体を明かす原因を作ってしまった自分たちの責任だと感じ正直に話す気になったのかは分からないが、萩之介は大きく息を吐くとこっちを向いて口を開いた。
「改めて名乗らせて貰おう。某はヤマト皇国月華将の1人。第七将軍、猪俣萩之介である。階級は少将」
と堂々と答える。
それに続くように、
「同じくヤマト皇国月華将の1人。第六将軍、牡丹蝶麗です。階級は准将」
姿勢を正して自己紹介を行った。
で、次はグリードに襲い掛かった狼獣人か。
「自分は第七将軍補佐、狼谷一朗太少佐です。先ほどは大変ご迷惑おかけしました」
と謝罪も含めて頭を下げて自己紹介をしてきた。
180弱の身長に黒い短髪に狼獣人特有の狼と同じ形をした耳に短髪と同じ色の縦長の瞳を持つ元気系イケメンだが、中身は真面目なのかもしれないな。ま、軍人だし当たり前か。
で、最後は猫獣人の子だな。
「私は第六将軍補佐猫屋敷愛莉少佐であります。グリードさん先ほどは勘違いをして申し訳ありませんでした」
と一朗太と同様に頭を下げた。
一朗太とは正反対で160強の身長に若干赤みがかった茶髪は長すぎず短過ぎずのミディアムヘアの頭頂部には猫特有の三角の耳がピコッと動いていた。
顔立ちはキリッとした顔立ちをしており、低身長の美女と言った感じだろう。ま、俺から見れば気を張っているようにしか見えないけど。
ま、今はそれよりも皇族と関りがあるとは予想していたが、まさか現帝の娘とは思わなかったぞ。
だけど将軍が2人も護衛として付いている理由にも納得が行く。いや、皇族が外に出ているのだから本来ならばもっと護衛が居ても可笑しくは無い。
俺たちに素性を隠していた事も含めるとお忍びで来ていると考えるのが妥当だろう。
なら、俺たちが取る行動は1つ。
「改めてよろしく。安心してくれ、誰にも話すつもりはない」
察した言葉を聞けたからのか、張り詰めた空気が和らいでいくのを萩之介たちから感じた。
それは綾香ちゃんも同じだったようで、薄紅色の唇を緩め微笑むと直ぐに口を開いた。
「感謝するぞ、仁よ」
と言って来た。
「別に気にしなくて良い。それよりも今は互いに持っているダンジョンの情報を交換しないか?」
本当なら皇族がどうしてダンジョンなんかに来ているのか聞くところなんだろうが、それを話せるほど俺たちは彼女たちの信頼を勝ち得ていないし、勝ち得たいとも思っていない。
知ったら知ったで、面倒事に巻き込まれる可能性だってある。そんな面倒事はお断りだ。
なら俺たちが取る行動は1つ。
効率を優先して冒険者パーティー同士の情報交換をする事だ。
その事をいち早く理解した綾香ちゃんは再び笑みを浮かべた。
「そうだな。確かにそれが良さそうだ」
と答えた。
それにしても見た目は15歳ぐらいの女の子にしか見えないが、凄い洞察力に頭の回転の速さと言い、皇族の教育って凄いな。それとも彼女自身が天才なのかもしれない。もしくは口調が年齢相応とは言えないから見た目に反して遥かに年齢が俺よりも上の可能性も……。
「言っておくが、余はまだ16歳だぞ」
と綾香ちゃんにジト目を向けられながら言われてしまった。
そうだった、この世界の人間は見た目と年齢が合っていないだけでなく、感も鋭いんだった!いや、綾香ちゃんは見た目と年齢は合っているけど。
ま、それは置いといて、
「情報交換を始めるとするか」
「そうだな」
綾香ちゃんのジト目から逃れるため、さっそく情報交換を行う事にする。
しかし未だに攻略方法が見つかっていないこの砂漠フロアの攻略方法。そうそう簡単に砂漠フロア突破の鍵となる情報も関連性のありそうな情報も聞こえてこない。
互いに分かった事と言えば群れで行動する魔物の種類が多い事ぐらいで、あとはマップを制作して砂漠フロアに入ってからここまで通って来た道のりと魔物が生息している場所を互いに書き込むぐらいだった。
マッピング技能は冒険者に必要な必須技能でもある。
大抵は冒険科に通っていれば学校の授業で習うが俺は編入生なので習っていない。
それにマッピングは昔ながらの紙とペンを用いて行っているため呪いのある俺にマッピングはかなり厳しい作業なのでするつもりもない。
因みに電子機器でマッピングしないのは充電切れや戦闘で故障する可能性もあるため昔ながらの紙とペンを使って習うのだ。最悪地面に書けば確認する事だって可能だからな。ま、フリーダムには最強のマッピング機能を搭載したメイドが居るのでそこまでマッピングが必要とは思えないが。
互いに情報交換を終えた俺たちはグリードが作ってくれた料理を食べる事にした。勿論綾香ちゃんたちの分も用意してある。
「かたじけない。余たちの分も用意して貰って」
と、申し訳なさそうに感謝の言葉を口にしながら綾香ちゃんはグリードが作った肉と野菜が沢山入ったカレーライスを受け取った。
「いえ、フリーダムはみんな沢山食べるので食料は余分に持ってきているので全然大丈夫ですよ」
グリードの言う通り、俺たち冒険者は体を動かす職業をしているだけあって沢山食べる。
他の冒険者連中はしらないが、フリーダムメンバーは他の冒険者よりもよく食べる。
一番小柄なヘレンですら、既に大盛のカレーライスを2杯食べ終え、3杯目をお代わりしようとしているほどだ。
そのため余分に持ってきた食料も俺たちが普段食べる量から計算して1ヶ月分だが、普通の人からしてみれば3ヶ月は余裕である量だろう。
そのため1回や2回他の冒険者に飯をご馳走したところで問題はないのだ。
グリードの言葉を素直に受け取ったわけではないだろうが、聞いて少しは安心したのか、綾香ちゃんは食欲と擁して貰ったのに断るのは失礼と言う想いからカレーを一口食べる。
「っ!これはなんと美味なカレーライスなのだ!」
凛々しい表情をしていた大和撫子は、目を見開いて驚くと、あまりの美味しさに更にカレーライスを口に持っていく。
美味しい物を食べて笑みを浮かべる姿は年相応の少女と変わらなかった。
それにしても誰一人として彼女がカレーを食べるのを止めなかったな。
普通なら家臣である萩之介たちの誰かが毒見をするのが通りだ。しかし誰も行動を起こすところか彼女が食べるまでカレーを食べようとしなかった。ありえない行動だ。
いや、家臣が皇族より先にご飯を食する行為が駄目だったとしてもそれは毒見の後の話だろう。
もしかして俺たちの事を信頼して毒見をしなかった?フッそれこそありえないだろ。
もしもそんな奴が時代の帝なら帝になる前に暗殺されて終わりの筈だ。
となると、あと考えられる理由は……ユニークスキルか称号によるものだろう。
たぶん、彼女はあらゆる毒に対して完全耐性、もしくは無効にするユニークスキル。あとは毒感知とかそれに関連するユニークスキルを持っているに違いない。その事を萩之介たちも知っているからこその行動だ。
だが、あまりにもお粗末だ。
普段から当たり前のように使っているからこその無意識に出たボロ。もしも俺たちが綾香ちゃんたちを狙う暗殺者なら間違いなく今の行動で毒殺を諦め別の方法にチェンジしていただろう。
ま、俺たちはまっとうな依頼を請け負う冒険者だ。犯罪者の命を奪う行為は行っても、金で非合法な事をする闇ギルドの連中とは違う。
ま、こんな事を考えていてはグリードが作ってくれたカレーおにぎりが不味くなるから考えるのは止めて別の事を考えよう。
そう言えばさっき聞こうと思っていた事があったな。
ある事を思い出した俺はカレーおにぎりを飲み込んで綾香ちゃんに問いかけた。
「そう言えば、さっき土御門って名乗っていたが、もしかして土御門蓮華って綾香ちゃんと姉妹なのか?」
俺がそう問いかけると、綾香ちゃんは目を見開いて少し驚いた表情を浮かべたが、直ぐに凛々しい表情に戻と、俺の問い掛けに答えてくれた。
「いや、姉妹ではない。蓮華姉様は父上……つまり現帝の弟の娘だ。余とは従姉妹となる。家の格で言うのであれば余の土御門家が本家で蓮華姉様の家が分家にあたる」
「なるほど……」
となると土御門蓮華は迷い人の可能性はなくなったな。あと考えられるのは送り人だが、これは本人に直接聞いてみないと無理だろうな。
それにしても俺は政治や文化には詳しくないが、皇族にとって苗字ってのは国の象徴みたいなものじゃないのか?
確かに現帝の弟なら皇族なのかもしれないが、姓を名乗って良いとは思えないんだが?
本家と分家でちゃんと分かれているから大丈夫って事なら問題ないのかもしれない。それに一介の冒険者である俺が口を出すような事でもないだろう。
「しかし、仁が蓮華姉様の事を知っているとは友人なのか?」
鋭い視線で問いかけて来る。あの目は好奇心から向けるものじゃない。あれは間違いなく獲物を狙っている獰猛な魔物と一緒だ。
恐らく、俺がどうして土御門蓮華の名前を知っているのか、その答えによっては最悪のパターンがあるって事なんだろう。
ま、嘘を吐くような事でもないし、吐かなくても殺される事は無いだろうからな、正直に話すさ。
「友人って程仲の良い関係じゃないさ。だからと言って仲が悪かったわけじゃないぜ。ただ一度話す機会があってな。その時に名乗って貰ったのを思い出しただけだ」
俺は正直に話す。
しかしそれだけではまだ不十分だったのかまだ納得の行った表情をしていなかった。
「しかし仁はベルヘンス帝国の冒険者であろう?そんな仁がどうしてスヴェルニ王国に留学している蓮華姉様と会う事が出来る?」
ま、確かに疑問に感じるのも無理は無いが、なんか尋問されている気分だな。
これからは皇族に質問する内容は考えないとな。気楽に質問したら今度はこっちが尋問される羽目になるみたいだからな。
「ベルヘンス帝国で冒険者になる前はスヴェルニ王国にあるスヴェルニ学園に通っていたからな。蓮華には懇親会で一度会っただけだしな」
「………なほどのな」
と言葉を漏らすように言うが未だに鋭い目で俺を見つめて来る。美少女に見つめられるのは悪くないが、出来れば疑った鋭い眼差しじゃなくて惚れたような柔らかい眼差しで見つめて欲しいものだ。
ま、疑いはダンジョンの外に出て確かめて貰えば済む話だし、別に良いけど。
結局最後まで疑いが解ける事は無いまま話は終わったが、気が付けば大分日が傾いており、結局今日はこのままここで野宿する事になった。
カレーを昼過ぎに食べたため夜は軽めにすませて見張りを残してそれぞれのテントで仮眠を取る。
現在焚火を前に見張りをしているのは俺と美女エルフの蝶麗さんと俺の膝で寝ている銀だ。
こんな美女と二人っきりになれるなんて最高だ!なんて最初は思っていたがまったく会話はない。
と言うよりも会話をしようとしても簡素な返答しか返ってこないのだ。
寡黙美女ってのも悪くないと思っていたがこういう時はハッキリ言って何を喋って良いのかまったく分からない!
だって何が好きなの?って質問したって「別に」って返ってくるだけだよ!どう話を進めろと?
俺だって前世の大学生時代に友人たちと一緒にナンパだってした事はあるよ!だけどこんな素っ気ない態度を永遠とされた事なんてないし、駄目だった時は他の女にチェンジしたり出来たけど今は無理だし、もうお手上げだ!
仕方がないので俺は影光からもらったコーラ味のチュッ〇チャプスを咥える。
「あ、チュッ〇チャプス」
「ん?」
焚火を挟んでキャンプチェアに座る蝶麗さんが呟いた。ビックリした!急に呟くから何事かと思った。
だけど俺が反応なり直ぐに目を逸らす。
「そ、それは……」
俺たちの正体はともかく知られたくない事を探られるのは良い気分じゃないのは確かだろう。
それに俺たちが探りを入れ、それを対処していたら精神的に疲れるからな。
「なら、最初から言ってしまえば探りを入れられる事もないと余は考えたのだ」
「そ、それはそうですが……」
だけどやはり納得は出来ないようだ。ま、それはどうだよな。
だけどこれ以上話しても無駄と思ったのか、それとも正体を明かす原因を作ってしまった自分たちの責任だと感じ正直に話す気になったのかは分からないが、萩之介は大きく息を吐くとこっちを向いて口を開いた。
「改めて名乗らせて貰おう。某はヤマト皇国月華将の1人。第七将軍、猪俣萩之介である。階級は少将」
と堂々と答える。
それに続くように、
「同じくヤマト皇国月華将の1人。第六将軍、牡丹蝶麗です。階級は准将」
姿勢を正して自己紹介を行った。
で、次はグリードに襲い掛かった狼獣人か。
「自分は第七将軍補佐、狼谷一朗太少佐です。先ほどは大変ご迷惑おかけしました」
と謝罪も含めて頭を下げて自己紹介をしてきた。
180弱の身長に黒い短髪に狼獣人特有の狼と同じ形をした耳に短髪と同じ色の縦長の瞳を持つ元気系イケメンだが、中身は真面目なのかもしれないな。ま、軍人だし当たり前か。
で、最後は猫獣人の子だな。
「私は第六将軍補佐猫屋敷愛莉少佐であります。グリードさん先ほどは勘違いをして申し訳ありませんでした」
と一朗太と同様に頭を下げた。
一朗太とは正反対で160強の身長に若干赤みがかった茶髪は長すぎず短過ぎずのミディアムヘアの頭頂部には猫特有の三角の耳がピコッと動いていた。
顔立ちはキリッとした顔立ちをしており、低身長の美女と言った感じだろう。ま、俺から見れば気を張っているようにしか見えないけど。
ま、今はそれよりも皇族と関りがあるとは予想していたが、まさか現帝の娘とは思わなかったぞ。
だけど将軍が2人も護衛として付いている理由にも納得が行く。いや、皇族が外に出ているのだから本来ならばもっと護衛が居ても可笑しくは無い。
俺たちに素性を隠していた事も含めるとお忍びで来ていると考えるのが妥当だろう。
なら、俺たちが取る行動は1つ。
「改めてよろしく。安心してくれ、誰にも話すつもりはない」
察した言葉を聞けたからのか、張り詰めた空気が和らいでいくのを萩之介たちから感じた。
それは綾香ちゃんも同じだったようで、薄紅色の唇を緩め微笑むと直ぐに口を開いた。
「感謝するぞ、仁よ」
と言って来た。
「別に気にしなくて良い。それよりも今は互いに持っているダンジョンの情報を交換しないか?」
本当なら皇族がどうしてダンジョンなんかに来ているのか聞くところなんだろうが、それを話せるほど俺たちは彼女たちの信頼を勝ち得ていないし、勝ち得たいとも思っていない。
知ったら知ったで、面倒事に巻き込まれる可能性だってある。そんな面倒事はお断りだ。
なら俺たちが取る行動は1つ。
効率を優先して冒険者パーティー同士の情報交換をする事だ。
その事をいち早く理解した綾香ちゃんは再び笑みを浮かべた。
「そうだな。確かにそれが良さそうだ」
と答えた。
それにしても見た目は15歳ぐらいの女の子にしか見えないが、凄い洞察力に頭の回転の速さと言い、皇族の教育って凄いな。それとも彼女自身が天才なのかもしれない。もしくは口調が年齢相応とは言えないから見た目に反して遥かに年齢が俺よりも上の可能性も……。
「言っておくが、余はまだ16歳だぞ」
と綾香ちゃんにジト目を向けられながら言われてしまった。
そうだった、この世界の人間は見た目と年齢が合っていないだけでなく、感も鋭いんだった!いや、綾香ちゃんは見た目と年齢は合っているけど。
ま、それは置いといて、
「情報交換を始めるとするか」
「そうだな」
綾香ちゃんのジト目から逃れるため、さっそく情報交換を行う事にする。
しかし未だに攻略方法が見つかっていないこの砂漠フロアの攻略方法。そうそう簡単に砂漠フロア突破の鍵となる情報も関連性のありそうな情報も聞こえてこない。
互いに分かった事と言えば群れで行動する魔物の種類が多い事ぐらいで、あとはマップを制作して砂漠フロアに入ってからここまで通って来た道のりと魔物が生息している場所を互いに書き込むぐらいだった。
マッピング技能は冒険者に必要な必須技能でもある。
大抵は冒険科に通っていれば学校の授業で習うが俺は編入生なので習っていない。
それにマッピングは昔ながらの紙とペンを用いて行っているため呪いのある俺にマッピングはかなり厳しい作業なのでするつもりもない。
因みに電子機器でマッピングしないのは充電切れや戦闘で故障する可能性もあるため昔ながらの紙とペンを使って習うのだ。最悪地面に書けば確認する事だって可能だからな。ま、フリーダムには最強のマッピング機能を搭載したメイドが居るのでそこまでマッピングが必要とは思えないが。
互いに情報交換を終えた俺たちはグリードが作ってくれた料理を食べる事にした。勿論綾香ちゃんたちの分も用意してある。
「かたじけない。余たちの分も用意して貰って」
と、申し訳なさそうに感謝の言葉を口にしながら綾香ちゃんはグリードが作った肉と野菜が沢山入ったカレーライスを受け取った。
「いえ、フリーダムはみんな沢山食べるので食料は余分に持ってきているので全然大丈夫ですよ」
グリードの言う通り、俺たち冒険者は体を動かす職業をしているだけあって沢山食べる。
他の冒険者連中はしらないが、フリーダムメンバーは他の冒険者よりもよく食べる。
一番小柄なヘレンですら、既に大盛のカレーライスを2杯食べ終え、3杯目をお代わりしようとしているほどだ。
そのため余分に持ってきた食料も俺たちが普段食べる量から計算して1ヶ月分だが、普通の人からしてみれば3ヶ月は余裕である量だろう。
そのため1回や2回他の冒険者に飯をご馳走したところで問題はないのだ。
グリードの言葉を素直に受け取ったわけではないだろうが、聞いて少しは安心したのか、綾香ちゃんは食欲と擁して貰ったのに断るのは失礼と言う想いからカレーを一口食べる。
「っ!これはなんと美味なカレーライスなのだ!」
凛々しい表情をしていた大和撫子は、目を見開いて驚くと、あまりの美味しさに更にカレーライスを口に持っていく。
美味しい物を食べて笑みを浮かべる姿は年相応の少女と変わらなかった。
それにしても誰一人として彼女がカレーを食べるのを止めなかったな。
普通なら家臣である萩之介たちの誰かが毒見をするのが通りだ。しかし誰も行動を起こすところか彼女が食べるまでカレーを食べようとしなかった。ありえない行動だ。
いや、家臣が皇族より先にご飯を食する行為が駄目だったとしてもそれは毒見の後の話だろう。
もしかして俺たちの事を信頼して毒見をしなかった?フッそれこそありえないだろ。
もしもそんな奴が時代の帝なら帝になる前に暗殺されて終わりの筈だ。
となると、あと考えられる理由は……ユニークスキルか称号によるものだろう。
たぶん、彼女はあらゆる毒に対して完全耐性、もしくは無効にするユニークスキル。あとは毒感知とかそれに関連するユニークスキルを持っているに違いない。その事を萩之介たちも知っているからこその行動だ。
だが、あまりにもお粗末だ。
普段から当たり前のように使っているからこその無意識に出たボロ。もしも俺たちが綾香ちゃんたちを狙う暗殺者なら間違いなく今の行動で毒殺を諦め別の方法にチェンジしていただろう。
ま、俺たちはまっとうな依頼を請け負う冒険者だ。犯罪者の命を奪う行為は行っても、金で非合法な事をする闇ギルドの連中とは違う。
ま、こんな事を考えていてはグリードが作ってくれたカレーおにぎりが不味くなるから考えるのは止めて別の事を考えよう。
そう言えばさっき聞こうと思っていた事があったな。
ある事を思い出した俺はカレーおにぎりを飲み込んで綾香ちゃんに問いかけた。
「そう言えば、さっき土御門って名乗っていたが、もしかして土御門蓮華って綾香ちゃんと姉妹なのか?」
俺がそう問いかけると、綾香ちゃんは目を見開いて少し驚いた表情を浮かべたが、直ぐに凛々しい表情に戻と、俺の問い掛けに答えてくれた。
「いや、姉妹ではない。蓮華姉様は父上……つまり現帝の弟の娘だ。余とは従姉妹となる。家の格で言うのであれば余の土御門家が本家で蓮華姉様の家が分家にあたる」
「なるほど……」
となると土御門蓮華は迷い人の可能性はなくなったな。あと考えられるのは送り人だが、これは本人に直接聞いてみないと無理だろうな。
それにしても俺は政治や文化には詳しくないが、皇族にとって苗字ってのは国の象徴みたいなものじゃないのか?
確かに現帝の弟なら皇族なのかもしれないが、姓を名乗って良いとは思えないんだが?
本家と分家でちゃんと分かれているから大丈夫って事なら問題ないのかもしれない。それに一介の冒険者である俺が口を出すような事でもないだろう。
「しかし、仁が蓮華姉様の事を知っているとは友人なのか?」
鋭い視線で問いかけて来る。あの目は好奇心から向けるものじゃない。あれは間違いなく獲物を狙っている獰猛な魔物と一緒だ。
恐らく、俺がどうして土御門蓮華の名前を知っているのか、その答えによっては最悪のパターンがあるって事なんだろう。
ま、嘘を吐くような事でもないし、吐かなくても殺される事は無いだろうからな、正直に話すさ。
「友人って程仲の良い関係じゃないさ。だからと言って仲が悪かったわけじゃないぜ。ただ一度話す機会があってな。その時に名乗って貰ったのを思い出しただけだ」
俺は正直に話す。
しかしそれだけではまだ不十分だったのかまだ納得の行った表情をしていなかった。
「しかし仁はベルヘンス帝国の冒険者であろう?そんな仁がどうしてスヴェルニ王国に留学している蓮華姉様と会う事が出来る?」
ま、確かに疑問に感じるのも無理は無いが、なんか尋問されている気分だな。
これからは皇族に質問する内容は考えないとな。気楽に質問したら今度はこっちが尋問される羽目になるみたいだからな。
「ベルヘンス帝国で冒険者になる前はスヴェルニ王国にあるスヴェルニ学園に通っていたからな。蓮華には懇親会で一度会っただけだしな」
「………なほどのな」
と言葉を漏らすように言うが未だに鋭い目で俺を見つめて来る。美少女に見つめられるのは悪くないが、出来れば疑った鋭い眼差しじゃなくて惚れたような柔らかい眼差しで見つめて欲しいものだ。
ま、疑いはダンジョンの外に出て確かめて貰えば済む話だし、別に良いけど。
結局最後まで疑いが解ける事は無いまま話は終わったが、気が付けば大分日が傾いており、結局今日はこのままここで野宿する事になった。
カレーを昼過ぎに食べたため夜は軽めにすませて見張りを残してそれぞれのテントで仮眠を取る。
現在焚火を前に見張りをしているのは俺と美女エルフの蝶麗さんと俺の膝で寝ている銀だ。
こんな美女と二人っきりになれるなんて最高だ!なんて最初は思っていたがまったく会話はない。
と言うよりも会話をしようとしても簡素な返答しか返ってこないのだ。
寡黙美女ってのも悪くないと思っていたがこういう時はハッキリ言って何を喋って良いのかまったく分からない!
だって何が好きなの?って質問したって「別に」って返ってくるだけだよ!どう話を進めろと?
俺だって前世の大学生時代に友人たちと一緒にナンパだってした事はあるよ!だけどこんな素っ気ない態度を永遠とされた事なんてないし、駄目だった時は他の女にチェンジしたり出来たけど今は無理だし、もうお手上げだ!
仕方がないので俺は影光からもらったコーラ味のチュッ〇チャプスを咥える。
「あ、チュッ〇チャプス」
「ん?」
焚火を挟んでキャンプチェアに座る蝶麗さんが呟いた。ビックリした!急に呟くから何事かと思った。
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