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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第六十八話 あれからのスヴェルニ王国 ④
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「アインさんを一言で言うならまるで人形かと見間違う程の完璧なプロポーションを持った美しい女性です。同じ女性の私ですが嫉妬する事を忘れてしまう程の美しい方で、普段着がメイド服なんです」
「そんなに美人なメイドなの?」
男性陣が反応するかと思いましたが、意外にも質問してきなのはイザベラ様でした。だから言って戸惑う理由にはならないので普通に返答しました。
「はい。失礼かもしれませんがイザベラ様より美人だと断言出来ます」
「そんなに美人で将来有能な冒険者でメイドならジンも嬉しがっているでしょうね」
イザベラ様は背後に不穏なオーラを漂わせながら質問してきた内容に私はジンさんとアインさんの会話に苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
「それはどうでしょうか。ジンさんはアインさんの事を優秀で信頼できる大切な仲間としか思っていないと思いますよ」
「本当に?」
これまで話した内容よりも凄い食いつきのイザベラ様は顔を近づけてまで聞き返してきます。これは完璧に信用されていませんね。それも私ではなくジンさんが。確かにジンさんは男でアインさんは女です。ましてや絶世の美女ですから疑われていても仕方はありませんが。
「はい。何せアインさんがギルドメンバーの中で一番毛嫌いしているのがジンさんで、顔を突き合わせればいつもジンさんに罵声や皮肉を言っている方ですから」
「ツンデレとかではなくて?」
確かにツンデレの可能性を考えた事はありませんが、あれはツンデレではないでしょう。
「ありえませんね。アインさんもジンさんの実力は認めてはいるようですが恋愛対象として見てはいないでしょう。それにアインさんにはマスターが居られますから」
「そうなの?」
「はい、まるで恋しているのではないかと思える程溺愛してますね」
リビングに行けば毎日のようにマスターを溺愛している姿を見る事が出来ましたから間違いありません。
「いったい誰なのかしら絶世の美女に惚れられるほど凄いマスターって」
「カゲミツさんではないでしょうか?」
「同じ銃使いであるクレイヴさんの可能性は?」
ロイド様やジュリアスさんは色々な推測を飛び交わせますが、残念ながら全部違います。
「ギンさんです」
『え?』
イザベラ様やロイド様、オスカー様までもが呆けた表情になるほどの信じられないと言った顔です。
「信じられないかもしれませんがジンさんが家族と言っていたギンさんです」
「あの白銀の魔狼か?」
「はい……」
これまで一言も喋っていなかったオスカー様が私に確認するほど驚いていらっしゃいます。
何故か申し訳なさを感じながら肯定の言葉を口にすると誰も喋らなくなりました。
これまで声が聞こえていた空間に数秒の無言の一時が訪れましたが、そんな空気を掻き消そうとイザベラ様が慌てて口を開きました。
「まぁ、人の趣味や性癖、好みは人それぞれだから私たちがとやかく言う事ではないわ!」
「そ、そうだな。イザベラ様の言う通りだ。うん!」
イザベラ様やオスカー様を代表に誰もが無言の一時を消し去るように会話をしています。きっとこの場にアインさんが居たら間違いなく不愉快に感じたでしょうね。ごめんなさいアインさん。
「多分私が推測するに溺愛しているギンさんがジンさんの家族と言うのが納得出来ないため、アインさんはジンさんを罵倒しているのではないでしょうか」
「つまりは嫉妬って事かしら?」
「多分ですが」
嫉妬にしては言っている内容がとても辛辣ですが。
「なるほどね。人の好みの話は置いとくとしても実力だけならまさに上位に入り込むほどのギルドね」
「はい。ベルヘンス帝国内では少数精鋭のギルドと噂されるほどのギルドです」
「でしょうね。でもそこまでの人材を集め、たった数ヶ月で噂されるほどまで成長させたジンは凄いわね」
「私もそう思います」
勿論ジンさんだけの功績ではありません。ですがそう周囲に感じさせる、納得させるだけの人材を集める事に成功したジンさんはやはり凄いです。
「強者は自然と強者を引き付けるのね」
私が思っていた事を隣に座るイザベラ様が小さな声で呟いていました。
「ねぇ、フェリ。写真無いの?」
そんなエミリーの言葉に全員の視線が集まります。
久々に会えた友人だけでなく有名な冒険者の方たちも居るのですから記念に一枚って普通考えますよね。
だけど私の左隣と対面に座るイザベラ様とジュリアスさんの視線が強いと感じたのは気のせいではありませんよね?
別に隠すような事でもないので私は「ありますよ」と答え、スマホに撮った写真を画面に開き皆さんに見せます。
この写真はスヴェルニ王国に帰国する日の朝、空港に向かう直前にお願いしてギルド前で撮って貰った集合写真です。
席を乗り出してスマホを覗き込んで来る皆さん。見たいのは分かりますがそれでは全員見えないですよね。
全員に見えるようイザベラ様にスマホを手渡します。
イザベラ様もその意味を理解しているのでしょう。ありがとう。と一言呟いて写真をロイド様と見ていました。
「少し身長が伸びたかしら?それにしても凄いメンツね」
「そうですね。奴の実力を知っているとは言え、これだけの有名な冒険者のトップと言うのは少しイラっとします」
「ロイドは相変わらずね」
以前から思っていましたが、どうやらロイド様はジンさんの事をライバルと思っている以上に敵視しているような気がします。
「だけどフェリシティーさん」
「はい、なんでしょうか?」
誰か分からない方でも居たのでしょうか?見せながらギルドメンバーの説明をしたわけではありませんから、想像と食い違っていても仕方がありませんからね。
「ちょっとジンとの距離が近すぎない?」
そう言って写真を私に見せて来る。
写真の中央に立つ私とジンさんですが、互いの肩同士が当たっています。
「フレーム内に収まるようにと中央に寄り過ぎてしまった結果そうなっただけですので気になさらないで下さい」
勿論、嘘です。本当はジンさんと離れるのが寂しかったからなのですが、それをここで話すと根掘り葉掘り質問されそうなので。
それに改めて考えると危険な事をしてしまいましたよね。
ジンさんとは同じ学園に通ったクラスメイトでしたが、この時は既に冒険者として活動する社会人です。つまり社会人と学生が同じベットの中で一夜を過ごしたわけですから。あの時は既に私も成人していましたから大丈夫かもしれませんが、もしも周囲にバレれば間違いなく変な噂が流れる恐れがあります。それにそうなればジンさんにも迷惑が掛かる事になるかもしれません。ま、ジンさんの場合気にする事無く普段通りに過ごす可能性もありますけど。
ですが倫理や道徳、と言ったモノを除けたとしてもイザベラ様たちにバレるのは危険だと、女性としてのプライドが警鐘を鳴らしています。
「それなら仕方がないわね」
どうにか誤魔化す事に成功はしたようです。
内心胸を撫でおろしながらコップの中の水を軽く飲む。
「それにしてもこのグリードさんって方は本当に高いわね。ジンの頭が腰か若干したぐらいだわ」
「この方と近接戦をしたとして胸や頭を狙った攻撃は難しいですね」
「そうね」
やはりイザベラ様もロイド様も軍務科の人です。ただ写真を見るだけではなく戦闘を想定したイメージトレーニングを行っていますね。
その後、全員が見終わったスマホが私の手元に帰ってきました。
「でも安心したわ。ジンも冒険者として頑張っているのね」
まるで保護者が子供の成長に喜んでいる言葉ですが、その口調と表情はライバルの成長に自分も頑張らなければと奮い立っているようでした。
そしてそれはイザベラ様だけでなくジンさんの事をライバルだと思っている人たちも同じような表情をしていました。ジンさん……貴方はここに居なくても友人を元気づける事が出来ます。ですからあまり無理をなさらないで下さいね。そう思いながら私は残り僅かとなっていたお水を飲み干した。
「良くありませんわ!」
誰もが冒険者として頑張ってるジンさんの姿を想像し笑みを浮かべていましたが、1人だけ納得の行っていない方が居られました。
「アンドレア、急にどうしたの?」
流石のイザベラ様もアンドレア様の苦虫を噛み締めた悔しそうな表情に驚いていました。そしてアンドレア様は今日も金髪縦ロールが美しいです。
「約束しましたのに……ジンさんとは我が社の冒険者部門に入社して頂く約束でしたのに、約束を破るなんて酷いですわ!」
「アンドレア落ち着いて。確かに貴女がジンを勧誘していた事は知ってるけど、ジンは入るとは言っていないわよ」
「(確か保留って言ってたよね)」
「(はい。それと我が社って言ってますけど、CWMはアンドレア様のお父様が社長をなされておられるはずですからアンドレア様の会社ではないですよね)」
「(うん)」
「そこ、聞こえてますわよ」
「「っ!」」
エミリーと小声で事実確認をしていたはずですが、アンドレア様には聞こえておられたらしく、物凄い形相で指摘されてしまいました。
「改めて思い出してみると確かにジンさんは絶対に入社するとは言っていませんでしたわね。ですがご自分のギルドを持つのであれば勧誘していた私に一言断りの言葉を言うのが筋なのではありませんか!」
「確かにそうね。だけどスマホが壊れて連絡が出来なかったのだから仕方がないわ」
「私の連絡先が無くなっても会社の連絡先ぐらいは調べればわかる筈です」
「それもそうね」
流石のイザベラ様も返す言葉が無くなってしまったようです。それと我が社と言っていた言葉は誰も突っ込まないのでしょうか。
「良いですわ。我が社を更に成長させてジンさんを後悔させてあげますわ」
何やらメラメラと燃えておられるアンドレア様。その姿に全員が苦笑いを浮かべておられましたが、結局誰も我が社と言う単語にツッコミを入れる方はおられませんでした。
「ねぇねぇ~イザベラ様~ちょっと良いですか~」
アイリス様がなんとも気の抜けるゆったりとした口調でイザベラ様に話かけていました。きっと軍務科関連の話でしょうと思い冒険科である私たちは邪魔をしないよう席を立とうとしました。
「何かしら?」
イザベラ様は慣れていらっしゃるのかアイリス様の口調を気にする事無く問い返していました。
「多分これ~……ジンさんですよね~」
『え!?』
そんなアイリス様の言葉に席を立とうとしていた私たちも引き戻されてしまいました。
全員の視線がアイリス様に向けられると、気にする様子も無くタブレットにある映像を再生します。食堂である事を考えて音声はありませんが。
タブレットに再生されていたのはどこかのドームで演奏するガールズバンドの映像でした。
そんな映像に全員が首を傾げていました。
「この映像は去年の年末にベルヘンス帝国で開催されたHERETICと言うガールズバンドの映像です」
口調は変わりませんがどこか弾んだ声で説明されるアイリス様。
私も名前程度ですが聞いた事があります。たしかベルヘンス帝国とその周辺の国で人気のガールズバンドで、ベルヘンス帝国に行った時偶然テレビのニュースで見た気がします。
「この映像にジンが映っているの?」
「はい~」
きっと観客席に居るに違いないと私たちは流れる映像を見ながら探しますが、次々と変わる画面に私たちは見つける事が出来ませんでした。
「どこに居るのかしら?」
「もう少しで~、出てきますよ~」
そう返事をしたアイリス様の言葉通り数秒後に1人の男が舞台袖から姿を現しました。
しかしその男の手には照明の光を反射して輝く一本の短剣が握られており、短剣を持った男はそのままギターボーカルの女性に向かって走り出した時でした。
突如ナイフを持った男が吹き飛んだんです。
そして先ほどまで短剣を持った男が立っていた場所に見知った顔の男性が立っていました。
――ジンさん!
きっと私だけでなく全員が思った事でしょう。どうしてステージにジンさんが立っているのか。
どうやらそこで演奏が終わったらしく、バンドの方たちの動きがゆったりとなっていました。
『さぁ、みんな次の曲はこの状況にピッタリな曲だ。聴いてくれ『Dangerous』!』
ギターボーカルの女性の声がタブレットから聞こえて来ます。きっとアイリス様がこの場面の時だけ声が聞こえるよう音量を上げたのでしょう。
そして新たな曲と歌声に合わせ短剣を持った男とジンさんはステージ上で戦闘を再開しました。
男の攻撃を見事に躱し反撃するジンさん。まるでPVを見ているかのような動き。そして曲とジンさんたちの戦闘に盛り上がる観客。
だけど私たちは即座に直感しました。
これは演出なんかではなく、事件だと。
「そんなに美人なメイドなの?」
男性陣が反応するかと思いましたが、意外にも質問してきなのはイザベラ様でした。だから言って戸惑う理由にはならないので普通に返答しました。
「はい。失礼かもしれませんがイザベラ様より美人だと断言出来ます」
「そんなに美人で将来有能な冒険者でメイドならジンも嬉しがっているでしょうね」
イザベラ様は背後に不穏なオーラを漂わせながら質問してきた内容に私はジンさんとアインさんの会話に苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
「それはどうでしょうか。ジンさんはアインさんの事を優秀で信頼できる大切な仲間としか思っていないと思いますよ」
「本当に?」
これまで話した内容よりも凄い食いつきのイザベラ様は顔を近づけてまで聞き返してきます。これは完璧に信用されていませんね。それも私ではなくジンさんが。確かにジンさんは男でアインさんは女です。ましてや絶世の美女ですから疑われていても仕方はありませんが。
「はい。何せアインさんがギルドメンバーの中で一番毛嫌いしているのがジンさんで、顔を突き合わせればいつもジンさんに罵声や皮肉を言っている方ですから」
「ツンデレとかではなくて?」
確かにツンデレの可能性を考えた事はありませんが、あれはツンデレではないでしょう。
「ありえませんね。アインさんもジンさんの実力は認めてはいるようですが恋愛対象として見てはいないでしょう。それにアインさんにはマスターが居られますから」
「そうなの?」
「はい、まるで恋しているのではないかと思える程溺愛してますね」
リビングに行けば毎日のようにマスターを溺愛している姿を見る事が出来ましたから間違いありません。
「いったい誰なのかしら絶世の美女に惚れられるほど凄いマスターって」
「カゲミツさんではないでしょうか?」
「同じ銃使いであるクレイヴさんの可能性は?」
ロイド様やジュリアスさんは色々な推測を飛び交わせますが、残念ながら全部違います。
「ギンさんです」
『え?』
イザベラ様やロイド様、オスカー様までもが呆けた表情になるほどの信じられないと言った顔です。
「信じられないかもしれませんがジンさんが家族と言っていたギンさんです」
「あの白銀の魔狼か?」
「はい……」
これまで一言も喋っていなかったオスカー様が私に確認するほど驚いていらっしゃいます。
何故か申し訳なさを感じながら肯定の言葉を口にすると誰も喋らなくなりました。
これまで声が聞こえていた空間に数秒の無言の一時が訪れましたが、そんな空気を掻き消そうとイザベラ様が慌てて口を開きました。
「まぁ、人の趣味や性癖、好みは人それぞれだから私たちがとやかく言う事ではないわ!」
「そ、そうだな。イザベラ様の言う通りだ。うん!」
イザベラ様やオスカー様を代表に誰もが無言の一時を消し去るように会話をしています。きっとこの場にアインさんが居たら間違いなく不愉快に感じたでしょうね。ごめんなさいアインさん。
「多分私が推測するに溺愛しているギンさんがジンさんの家族と言うのが納得出来ないため、アインさんはジンさんを罵倒しているのではないでしょうか」
「つまりは嫉妬って事かしら?」
「多分ですが」
嫉妬にしては言っている内容がとても辛辣ですが。
「なるほどね。人の好みの話は置いとくとしても実力だけならまさに上位に入り込むほどのギルドね」
「はい。ベルヘンス帝国内では少数精鋭のギルドと噂されるほどのギルドです」
「でしょうね。でもそこまでの人材を集め、たった数ヶ月で噂されるほどまで成長させたジンは凄いわね」
「私もそう思います」
勿論ジンさんだけの功績ではありません。ですがそう周囲に感じさせる、納得させるだけの人材を集める事に成功したジンさんはやはり凄いです。
「強者は自然と強者を引き付けるのね」
私が思っていた事を隣に座るイザベラ様が小さな声で呟いていました。
「ねぇ、フェリ。写真無いの?」
そんなエミリーの言葉に全員の視線が集まります。
久々に会えた友人だけでなく有名な冒険者の方たちも居るのですから記念に一枚って普通考えますよね。
だけど私の左隣と対面に座るイザベラ様とジュリアスさんの視線が強いと感じたのは気のせいではありませんよね?
別に隠すような事でもないので私は「ありますよ」と答え、スマホに撮った写真を画面に開き皆さんに見せます。
この写真はスヴェルニ王国に帰国する日の朝、空港に向かう直前にお願いしてギルド前で撮って貰った集合写真です。
席を乗り出してスマホを覗き込んで来る皆さん。見たいのは分かりますがそれでは全員見えないですよね。
全員に見えるようイザベラ様にスマホを手渡します。
イザベラ様もその意味を理解しているのでしょう。ありがとう。と一言呟いて写真をロイド様と見ていました。
「少し身長が伸びたかしら?それにしても凄いメンツね」
「そうですね。奴の実力を知っているとは言え、これだけの有名な冒険者のトップと言うのは少しイラっとします」
「ロイドは相変わらずね」
以前から思っていましたが、どうやらロイド様はジンさんの事をライバルと思っている以上に敵視しているような気がします。
「だけどフェリシティーさん」
「はい、なんでしょうか?」
誰か分からない方でも居たのでしょうか?見せながらギルドメンバーの説明をしたわけではありませんから、想像と食い違っていても仕方がありませんからね。
「ちょっとジンとの距離が近すぎない?」
そう言って写真を私に見せて来る。
写真の中央に立つ私とジンさんですが、互いの肩同士が当たっています。
「フレーム内に収まるようにと中央に寄り過ぎてしまった結果そうなっただけですので気になさらないで下さい」
勿論、嘘です。本当はジンさんと離れるのが寂しかったからなのですが、それをここで話すと根掘り葉掘り質問されそうなので。
それに改めて考えると危険な事をしてしまいましたよね。
ジンさんとは同じ学園に通ったクラスメイトでしたが、この時は既に冒険者として活動する社会人です。つまり社会人と学生が同じベットの中で一夜を過ごしたわけですから。あの時は既に私も成人していましたから大丈夫かもしれませんが、もしも周囲にバレれば間違いなく変な噂が流れる恐れがあります。それにそうなればジンさんにも迷惑が掛かる事になるかもしれません。ま、ジンさんの場合気にする事無く普段通りに過ごす可能性もありますけど。
ですが倫理や道徳、と言ったモノを除けたとしてもイザベラ様たちにバレるのは危険だと、女性としてのプライドが警鐘を鳴らしています。
「それなら仕方がないわね」
どうにか誤魔化す事に成功はしたようです。
内心胸を撫でおろしながらコップの中の水を軽く飲む。
「それにしてもこのグリードさんって方は本当に高いわね。ジンの頭が腰か若干したぐらいだわ」
「この方と近接戦をしたとして胸や頭を狙った攻撃は難しいですね」
「そうね」
やはりイザベラ様もロイド様も軍務科の人です。ただ写真を見るだけではなく戦闘を想定したイメージトレーニングを行っていますね。
その後、全員が見終わったスマホが私の手元に帰ってきました。
「でも安心したわ。ジンも冒険者として頑張っているのね」
まるで保護者が子供の成長に喜んでいる言葉ですが、その口調と表情はライバルの成長に自分も頑張らなければと奮い立っているようでした。
そしてそれはイザベラ様だけでなくジンさんの事をライバルだと思っている人たちも同じような表情をしていました。ジンさん……貴方はここに居なくても友人を元気づける事が出来ます。ですからあまり無理をなさらないで下さいね。そう思いながら私は残り僅かとなっていたお水を飲み干した。
「良くありませんわ!」
誰もが冒険者として頑張ってるジンさんの姿を想像し笑みを浮かべていましたが、1人だけ納得の行っていない方が居られました。
「アンドレア、急にどうしたの?」
流石のイザベラ様もアンドレア様の苦虫を噛み締めた悔しそうな表情に驚いていました。そしてアンドレア様は今日も金髪縦ロールが美しいです。
「約束しましたのに……ジンさんとは我が社の冒険者部門に入社して頂く約束でしたのに、約束を破るなんて酷いですわ!」
「アンドレア落ち着いて。確かに貴女がジンを勧誘していた事は知ってるけど、ジンは入るとは言っていないわよ」
「(確か保留って言ってたよね)」
「(はい。それと我が社って言ってますけど、CWMはアンドレア様のお父様が社長をなされておられるはずですからアンドレア様の会社ではないですよね)」
「(うん)」
「そこ、聞こえてますわよ」
「「っ!」」
エミリーと小声で事実確認をしていたはずですが、アンドレア様には聞こえておられたらしく、物凄い形相で指摘されてしまいました。
「改めて思い出してみると確かにジンさんは絶対に入社するとは言っていませんでしたわね。ですがご自分のギルドを持つのであれば勧誘していた私に一言断りの言葉を言うのが筋なのではありませんか!」
「確かにそうね。だけどスマホが壊れて連絡が出来なかったのだから仕方がないわ」
「私の連絡先が無くなっても会社の連絡先ぐらいは調べればわかる筈です」
「それもそうね」
流石のイザベラ様も返す言葉が無くなってしまったようです。それと我が社と言っていた言葉は誰も突っ込まないのでしょうか。
「良いですわ。我が社を更に成長させてジンさんを後悔させてあげますわ」
何やらメラメラと燃えておられるアンドレア様。その姿に全員が苦笑いを浮かべておられましたが、結局誰も我が社と言う単語にツッコミを入れる方はおられませんでした。
「ねぇねぇ~イザベラ様~ちょっと良いですか~」
アイリス様がなんとも気の抜けるゆったりとした口調でイザベラ様に話かけていました。きっと軍務科関連の話でしょうと思い冒険科である私たちは邪魔をしないよう席を立とうとしました。
「何かしら?」
イザベラ様は慣れていらっしゃるのかアイリス様の口調を気にする事無く問い返していました。
「多分これ~……ジンさんですよね~」
『え!?』
そんなアイリス様の言葉に席を立とうとしていた私たちも引き戻されてしまいました。
全員の視線がアイリス様に向けられると、気にする様子も無くタブレットにある映像を再生します。食堂である事を考えて音声はありませんが。
タブレットに再生されていたのはどこかのドームで演奏するガールズバンドの映像でした。
そんな映像に全員が首を傾げていました。
「この映像は去年の年末にベルヘンス帝国で開催されたHERETICと言うガールズバンドの映像です」
口調は変わりませんがどこか弾んだ声で説明されるアイリス様。
私も名前程度ですが聞いた事があります。たしかベルヘンス帝国とその周辺の国で人気のガールズバンドで、ベルヘンス帝国に行った時偶然テレビのニュースで見た気がします。
「この映像にジンが映っているの?」
「はい~」
きっと観客席に居るに違いないと私たちは流れる映像を見ながら探しますが、次々と変わる画面に私たちは見つける事が出来ませんでした。
「どこに居るのかしら?」
「もう少しで~、出てきますよ~」
そう返事をしたアイリス様の言葉通り数秒後に1人の男が舞台袖から姿を現しました。
しかしその男の手には照明の光を反射して輝く一本の短剣が握られており、短剣を持った男はそのままギターボーカルの女性に向かって走り出した時でした。
突如ナイフを持った男が吹き飛んだんです。
そして先ほどまで短剣を持った男が立っていた場所に見知った顔の男性が立っていました。
――ジンさん!
きっと私だけでなく全員が思った事でしょう。どうしてステージにジンさんが立っているのか。
どうやらそこで演奏が終わったらしく、バンドの方たちの動きがゆったりとなっていました。
『さぁ、みんな次の曲はこの状況にピッタリな曲だ。聴いてくれ『Dangerous』!』
ギターボーカルの女性の声がタブレットから聞こえて来ます。きっとアイリス様がこの場面の時だけ声が聞こえるよう音量を上げたのでしょう。
そして新たな曲と歌声に合わせ短剣を持った男とジンさんはステージ上で戦闘を再開しました。
男の攻撃を見事に躱し反撃するジンさん。まるでPVを見ているかのような動き。そして曲とジンさんたちの戦闘に盛り上がる観客。
だけど私たちは即座に直感しました。
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