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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第五十四話 眠りし帝国最強皇女 ㉕
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資料には殆ど目を通していない。と言うよりも通す暇がない。ボルキュス陛下が話している最中に資料を読むわけにもいかないしな。
だが、雰囲気からでも今回の事件が普通の事件とは違う事は間違いないのだろう。
「監察医、研究者の話では今回帝都近郊に出現した大樹喰らいは生後数日だったらしい」
「はぁ?」
ボルキュス陛下の言葉が意味不明過ぎて思わず、素の返事が出てしまった。
周囲に視線を向けると誰も気にした様子はなく、レティシアさんとエリーシャさんはクスクスと笑っていた。良かっ――あ、鋭い睨みでこちらを見てらっしゃる事でジャンヌ皇女殿下。
それにしても生後数日って俺が知る限りワーム種の中でも最大級になるモノでも生まれたばかりの幼虫は全長30センチほどだったと思うんだが、それが数日後にあの大きさになる事は絶対にありえない。
だが、タブレットに表示されている資料にもそう書かれていた。マジかよ……戦闘慣れしていないとは思ったが、まさか生まれ絵生後数時間だったとは。流石の俺も予想外だ。
「まさに貴様の言う通りだったてわけだ」
ジャンヌはコーヒーを飲みながら俺のお手柄だと言っているように聞こえるが、皮肉にも聞こえる。さてどっちなんだろうな。
「しかしこんな現象があるものなのか?」
「残念ながら詳しい事はまだ分かっていない。だが何らかの薬を使われている事だけは分かった」
「薬か……」
どうやら俺は色々と縁があるようだな。
肉体を異常に大きくし、魔力、身体能力共に向上させる薬か。
イザベラの時と言い、景光の時と言い、シャルロットの時と言い、フェリシティーの時と言い、ほんと色んな時に薬に関する物が出て来る。
だが今回関連性がありそうな薬はイザベラやフェリシティーの時の出て来た天使の花ではないだろう。あれは麻薬や媚薬など効果と一緒で幻覚や性的欲求を引き起こす物であって、肉体を強化する効果は無い。
だから今回可能性があるとすれば景光やシャルロットの時ような薬だろう。
体の肥大化と言う面でもシャルロットを誘拐したストーカー野郎が使った薬と似ているからな。そう言えばアインが言ってたな。
あの薬は液体状だが、中には魔物の魔力が凝縮されて入っているって。人間に魔物の魔力を投与したところで混ざり合う事はないって言ってたな。なら魔物同士ならどうなんだ?
いや、俺一人で考えたって答えは出ない。ここは専門的な知識を持っている奴に聞くべきだろう。本当は嫌だが。
俺は決心するとアイテムボックスからスマホを取り出す。
突然俺がスマホを取り出した事にボルキュス陛下たちが怪訝の顔を浮かべる。
「ジンよ。誰に電話するのだ?」
「ちょっと薬に関して気になった事があったからな。専門家ってわけじゃないが、詳しい奴を知っているからソイツに聞いてみようと思ってな」
「聞くのは構わぬが、我らにも通話相手ぐらい先に教えて貰う権利ぐらいあると思うが」
ま、今回の事は極秘だからな。ボルキュス陛下が言う事は間違っていないな。それに言ったところで別に問題ない相手だしな。
「アインだよ」
久々に口にしたギルド『フリーダム』のメンバーにして俺に対して一番口の悪い奴である。正直コイツと話すと疲れるから嫌なんだよな。ま、悪い奴じゃないし、実力も兼ね備えているから解雇にするわけにもいかない。なにより銀の事を誰よりも敬愛しているからな。
スマホの画面に表示されたアインの名前をタップして耳元に近づける。
プルルルルルル……プルルルルルル……プルルルルルル……プルルルルルル。
出ないな。取り込み中なのか?
一旦読み出すのを止めた俺は影光のスマホに掛ける事にした。
プルルルルルル……プルルルッ。
『ジンか、久々だの。でどうした?』
「悪いな、急に電話して。それで近くにアインは居るか?」
『アインならソファーで銀を撫でながら愛でておるが?もしかしてさっきアインのスマホに電話したのってジンか?』
「ああ。悪いが変わってくれ。緊急の要件なんだ」
『分かった』
あの野郎、銀の愛でるのを邪魔されたく無くて電話を無視しやがったな。ふざけやがって。アイツに使う経費は当分無しにしてやるぞ!ってアイツに使う経費は掃除用具関連のものだったな。銀専用の肉も全てアイツの自腹だし。と言うかアイツに支払われている報酬の大半を銀につぎ込んでいるからな。アイツ自身が欲しいモノなんてないんじゃないか?
『アイン、ジンから電話だぞ』
『私は忙しいとお伝えください』
スマホから聞こえて来るアインの面倒と言いたげな声音。忙しいって銀を愛でる事がか。こっちは未だに働いているのにお前こそ極潰しの間違いだろうが!
『緊急の要件だそうだ』
『はぁ……仕方ありませんね』
ようやく通話する気になったか。まったくあれでギルドフリーダムのサブマスターなんだから困ったものだ。ま、実務や雑務は俺以上にこなしているので、性格以外責める事は出来ないが。
『お久しぶりですね。まだ生きていましたか、心から残念です』
「悪かったな、まだ生きてて」
駄目だ。一カ月以上もアインの毒舌を聞いていなかったせいで耐性が弱くなっている。落ち着け、今は仕事中なんだ。ここで喚き散らしては駄目だ。
『それで、世界最高峰の技術力で創り出された至高のメイドたる私に何を聞きたいとのですか?』
相変わらず自分を持ち上げるのもお変わりないようで残念だぜ。
「以前、陽宵やストーカー野郎が使っていた薬があるだろう?」
『冒険者連続殺人事件とレイノーツ学園際襲撃事件の際に使われた薬の事ですね』
流石はサイボーグ。詳細に記憶しているようだ。この場合は記録していると言った方がいいのか?って今はそんな事を考えている時じゃないな。
「そうだ。まだ確証はないがあの薬が使用された可能性があってな」
『なるほど。そこで私に連絡してきたわけですね』
そうだよ。にも拘わらずテメェは銀を愛でる事を優先したせいで無駄な時間を費やしたんだよ。
「アイン、お前は陽宵の事件の時に言ってたよな。あの薬は魔物の魔力が使われているって」
『ええ。なんせあの薬の元となっているのは魔物の血液ですからね』
そうだったのか。
いや、考えてみたらそうか。魔力だけを取り出して別の液体と混ぜ合わせるなんて技術レグウェス帝国でも難しい筈だ。なら魔力自体が宿っている血液を使うのは理に適っているわけか。
「その薬を人間に使えばずば抜けた身体能力を得る事が出来る。その変わり副作用もあるって言ってたな」
『ええ、そうです。で、以前の確認がしたいだけなら面倒なので切りますよ』
イラつくのは分かるが聞くな。俺はお前と違って記憶力が良くないんだ。自分の記憶が合っているのかまずは確かめないと話が進まないんだよ。
「なら、その薬を魔物に投与すればどうなるんだ?」
『なるほど帝都近郊に出現した大樹喰らい絡みですか……』
既に大樹喰らいの事はニュースになっている。討伐したのは帝国軍が行った事になっている。なんせジャンヌの名前は出せないんだ。自然と俺の名前も出せなくなる。
きっとアインもそのニュースを見て知っていたからこそ俺の質問の意味を察したのだろう。流石はサイボーグだな。ただ動くだけのロボットとは訳が違う。
「それで、どうなんだ?」
『薬の媒体となっている魔物血液の種類にもよります』
血液の種類にもよるだと。
どうやらこの話は俺1人で聞いても理解するのに時間がかかる。なら最初からボルキュス陛下たちに聞いて貰った方が早いか。
俺はスマホをテーブルに置いてスピーカーのマークをタップした。
「どういう意味だ?」
『魔物とは生物三大区分の1つの事です。ですがその中にも様々な種類が存在します。獣種、蟲種、龍種、鳥種とあり、更に細かる分類されています。そんな魔物の血液を媒体として作られた薬を人間や他の種族に使えば当然拒否反応が起きます。それを改良し更に改良を加えたのが冒険者連続殺人事件とレイノーツ学園際襲撃事件などで使われた薬です。レグウェス帝国時代の物に比べればその効果は劣りますが』
一般市民が金属バットでコンクリートの地面を砕くんだ。充分ヤバい薬だろ。
『魔物に対して薬を投与すれば間違いなく拒否反応を起こして発狂して死ぬでしょう。ですが、それは種が違う場合の話です。それは龍種の血液を媒介に作られた薬を獣種に投与したと言うことですから。ですが蟲種の血液を媒介に作られた薬を蟲種に投与すれば高確率ではありますが発狂して死にます。ですが絶対ではありません』
おいおい、それってつまりは、
「同じ種ならば発狂して死ぬ確率が下がるって事か?」
『そうです』
マジかよ……
「それはおかしい。同じ人間でも血液型って物があるんだ。それなのに蟲同士なら大丈夫っていうのかい?」
『確かその声は……ライアン殿下でしたね?』
「そうだよ」
脳内で声帯照合でもしたんだろうな。会った回数なんて1、2回の筈だ。よく覚えていたな。流石はサイボーグ。
『おっしゃっている事は間違いではありません。しかし魔物は人間や他の種族、動物と違い血液型の種類が圧倒的に少ない。だからと言って魔物全てが同じわけでもありません。そうですね……簡単に言えば、人間の場合誰もが知っている血液型の種類が全部4種ですが、魔物の場合は1つ~3つと言われています』
えっとつまり項目を作るとこう言う事か?
魔物、蟲種、ワーム種と言う分類でそのワーム種の1種大樹喰らいにも血液型が1つ~3つの種類があるってことだよな。
いや、待てよ。1つ~3つって事は1つしかない種もあるって事だよな。
もしも一体の為に大量の血液を入手し魔力を凝縮した薬をその1体に投与すれば……最悪だな。
『ですがそれは確率が下がると言うだけであって絶対ではありません。同じ血液型でも動物の血が人間に使えないのと同じで、種類によって血液の色も違ったりしますから」
確かに蟲は黄緑色だったし、確かイカやタコ、カニの血液の色は青、ホヤは緑って前世のテレビで言っていたような気がする。
なんでも血液の色は酸素を取り込む媒体によって変わってるらしい。人間の場合は鉄だから赤、イカやタコは銅だから青。って事らしい。
『ただ魔物を動物や人間と同じと思ってはいけません。レグウェス帝国の技術力を用いても完全に解明できませんでしたから。なので魔物の血液を媒介にした薬を人間に投与するより魔物投与した方が発狂して死ぬ確率や副作用が出来る可能性は遥かに低いと言えます。改良する回数も人間に投与する薬より少ない回数で出来ますし』
なるほどな。もしもその薬が大量生産されれば最悪の事態を招くって言う事だな。
『今回の事件に関してですが、大樹喰らいの肉体年齢は分かりますか?』
「生後数日だそうだぜ」
『なるほど。なら間違いなく冒険者連続殺人事件とレイノーツ学園際襲撃事件で使われた薬と同じではないでしょうが、その薬を開発しているのが個人なのか組織なのかは分かりませんが間違いなく同じでしょうね。恐らく蟲種の血液をベースに作られた可能性が高いと思いますよ』
流石の俺も今の説明を聞けば分かる。
薬を人間に投与すれば発狂して死ぬ。
魔物に投与しても高確率で死ぬ。
魔物であっても使われている薬の媒体が同じ種の魔物であれば、死ぬ確率は低下する。
それが同じ魔物同士であれば高確率で成功する。
『聞きたい事はそれだけですか?無いなら私は忙しいので切りますよ』
そう言って数秒もしないうちにアインは通話を切った。まったく自分勝手な奴だ。どうせ銀を愛でるのに忙しいだけだろうに。
だが今の話を聞いて応接室の空気は更に重苦しいモノになっていた。当然だ。そんな薬が大量生産され、魔物に投与されれば小国なんて一瞬で滅ぶだろうからな。
それよりも予想通り過ぎて憤りは勿論あるが驚きを通り越して憂鬱だ。
「はぁ~……またあの薬が関わってるのか」
俺の言葉に同意するかのようにボルキュス陛下とライアンも項垂れるように俯く。
資料や簡単な報告でしかしらないレティシアさんやエリーシャさん、ジャンヌは事の重大性には分かっているようだが、感覚的な部分までは分かっていないんだろうな。ま、こればかりは体験した者や現場を知る者でなければ難しいかもな。
だが、雰囲気からでも今回の事件が普通の事件とは違う事は間違いないのだろう。
「監察医、研究者の話では今回帝都近郊に出現した大樹喰らいは生後数日だったらしい」
「はぁ?」
ボルキュス陛下の言葉が意味不明過ぎて思わず、素の返事が出てしまった。
周囲に視線を向けると誰も気にした様子はなく、レティシアさんとエリーシャさんはクスクスと笑っていた。良かっ――あ、鋭い睨みでこちらを見てらっしゃる事でジャンヌ皇女殿下。
それにしても生後数日って俺が知る限りワーム種の中でも最大級になるモノでも生まれたばかりの幼虫は全長30センチほどだったと思うんだが、それが数日後にあの大きさになる事は絶対にありえない。
だが、タブレットに表示されている資料にもそう書かれていた。マジかよ……戦闘慣れしていないとは思ったが、まさか生まれ絵生後数時間だったとは。流石の俺も予想外だ。
「まさに貴様の言う通りだったてわけだ」
ジャンヌはコーヒーを飲みながら俺のお手柄だと言っているように聞こえるが、皮肉にも聞こえる。さてどっちなんだろうな。
「しかしこんな現象があるものなのか?」
「残念ながら詳しい事はまだ分かっていない。だが何らかの薬を使われている事だけは分かった」
「薬か……」
どうやら俺は色々と縁があるようだな。
肉体を異常に大きくし、魔力、身体能力共に向上させる薬か。
イザベラの時と言い、景光の時と言い、シャルロットの時と言い、フェリシティーの時と言い、ほんと色んな時に薬に関する物が出て来る。
だが今回関連性がありそうな薬はイザベラやフェリシティーの時の出て来た天使の花ではないだろう。あれは麻薬や媚薬など効果と一緒で幻覚や性的欲求を引き起こす物であって、肉体を強化する効果は無い。
だから今回可能性があるとすれば景光やシャルロットの時ような薬だろう。
体の肥大化と言う面でもシャルロットを誘拐したストーカー野郎が使った薬と似ているからな。そう言えばアインが言ってたな。
あの薬は液体状だが、中には魔物の魔力が凝縮されて入っているって。人間に魔物の魔力を投与したところで混ざり合う事はないって言ってたな。なら魔物同士ならどうなんだ?
いや、俺一人で考えたって答えは出ない。ここは専門的な知識を持っている奴に聞くべきだろう。本当は嫌だが。
俺は決心するとアイテムボックスからスマホを取り出す。
突然俺がスマホを取り出した事にボルキュス陛下たちが怪訝の顔を浮かべる。
「ジンよ。誰に電話するのだ?」
「ちょっと薬に関して気になった事があったからな。専門家ってわけじゃないが、詳しい奴を知っているからソイツに聞いてみようと思ってな」
「聞くのは構わぬが、我らにも通話相手ぐらい先に教えて貰う権利ぐらいあると思うが」
ま、今回の事は極秘だからな。ボルキュス陛下が言う事は間違っていないな。それに言ったところで別に問題ない相手だしな。
「アインだよ」
久々に口にしたギルド『フリーダム』のメンバーにして俺に対して一番口の悪い奴である。正直コイツと話すと疲れるから嫌なんだよな。ま、悪い奴じゃないし、実力も兼ね備えているから解雇にするわけにもいかない。なにより銀の事を誰よりも敬愛しているからな。
スマホの画面に表示されたアインの名前をタップして耳元に近づける。
プルルルルルル……プルルルルルル……プルルルルルル……プルルルルルル。
出ないな。取り込み中なのか?
一旦読み出すのを止めた俺は影光のスマホに掛ける事にした。
プルルルルルル……プルルルッ。
『ジンか、久々だの。でどうした?』
「悪いな、急に電話して。それで近くにアインは居るか?」
『アインならソファーで銀を撫でながら愛でておるが?もしかしてさっきアインのスマホに電話したのってジンか?』
「ああ。悪いが変わってくれ。緊急の要件なんだ」
『分かった』
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『アイン、ジンから電話だぞ』
『私は忙しいとお伝えください』
スマホから聞こえて来るアインの面倒と言いたげな声音。忙しいって銀を愛でる事がか。こっちは未だに働いているのにお前こそ極潰しの間違いだろうが!
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『はぁ……仕方ありませんね』
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『お久しぶりですね。まだ生きていましたか、心から残念です』
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駄目だ。一カ月以上もアインの毒舌を聞いていなかったせいで耐性が弱くなっている。落ち着け、今は仕事中なんだ。ここで喚き散らしては駄目だ。
『それで、世界最高峰の技術力で創り出された至高のメイドたる私に何を聞きたいとのですか?』
相変わらず自分を持ち上げるのもお変わりないようで残念だぜ。
「以前、陽宵やストーカー野郎が使っていた薬があるだろう?」
『冒険者連続殺人事件とレイノーツ学園際襲撃事件の際に使われた薬の事ですね』
流石はサイボーグ。詳細に記憶しているようだ。この場合は記録していると言った方がいいのか?って今はそんな事を考えている時じゃないな。
「そうだ。まだ確証はないがあの薬が使用された可能性があってな」
『なるほど。そこで私に連絡してきたわけですね』
そうだよ。にも拘わらずテメェは銀を愛でる事を優先したせいで無駄な時間を費やしたんだよ。
「アイン、お前は陽宵の事件の時に言ってたよな。あの薬は魔物の魔力が使われているって」
『ええ。なんせあの薬の元となっているのは魔物の血液ですからね』
そうだったのか。
いや、考えてみたらそうか。魔力だけを取り出して別の液体と混ぜ合わせるなんて技術レグウェス帝国でも難しい筈だ。なら魔力自体が宿っている血液を使うのは理に適っているわけか。
「その薬を人間に使えばずば抜けた身体能力を得る事が出来る。その変わり副作用もあるって言ってたな」
『ええ、そうです。で、以前の確認がしたいだけなら面倒なので切りますよ』
イラつくのは分かるが聞くな。俺はお前と違って記憶力が良くないんだ。自分の記憶が合っているのかまずは確かめないと話が進まないんだよ。
「なら、その薬を魔物に投与すればどうなるんだ?」
『なるほど帝都近郊に出現した大樹喰らい絡みですか……』
既に大樹喰らいの事はニュースになっている。討伐したのは帝国軍が行った事になっている。なんせジャンヌの名前は出せないんだ。自然と俺の名前も出せなくなる。
きっとアインもそのニュースを見て知っていたからこそ俺の質問の意味を察したのだろう。流石はサイボーグだな。ただ動くだけのロボットとは訳が違う。
「それで、どうなんだ?」
『薬の媒体となっている魔物血液の種類にもよります』
血液の種類にもよるだと。
どうやらこの話は俺1人で聞いても理解するのに時間がかかる。なら最初からボルキュス陛下たちに聞いて貰った方が早いか。
俺はスマホをテーブルに置いてスピーカーのマークをタップした。
「どういう意味だ?」
『魔物とは生物三大区分の1つの事です。ですがその中にも様々な種類が存在します。獣種、蟲種、龍種、鳥種とあり、更に細かる分類されています。そんな魔物の血液を媒体として作られた薬を人間や他の種族に使えば当然拒否反応が起きます。それを改良し更に改良を加えたのが冒険者連続殺人事件とレイノーツ学園際襲撃事件などで使われた薬です。レグウェス帝国時代の物に比べればその効果は劣りますが』
一般市民が金属バットでコンクリートの地面を砕くんだ。充分ヤバい薬だろ。
『魔物に対して薬を投与すれば間違いなく拒否反応を起こして発狂して死ぬでしょう。ですが、それは種が違う場合の話です。それは龍種の血液を媒介に作られた薬を獣種に投与したと言うことですから。ですが蟲種の血液を媒介に作られた薬を蟲種に投与すれば高確率ではありますが発狂して死にます。ですが絶対ではありません』
おいおい、それってつまりは、
「同じ種ならば発狂して死ぬ確率が下がるって事か?」
『そうです』
マジかよ……
「それはおかしい。同じ人間でも血液型って物があるんだ。それなのに蟲同士なら大丈夫っていうのかい?」
『確かその声は……ライアン殿下でしたね?』
「そうだよ」
脳内で声帯照合でもしたんだろうな。会った回数なんて1、2回の筈だ。よく覚えていたな。流石はサイボーグ。
『おっしゃっている事は間違いではありません。しかし魔物は人間や他の種族、動物と違い血液型の種類が圧倒的に少ない。だからと言って魔物全てが同じわけでもありません。そうですね……簡単に言えば、人間の場合誰もが知っている血液型の種類が全部4種ですが、魔物の場合は1つ~3つと言われています』
えっとつまり項目を作るとこう言う事か?
魔物、蟲種、ワーム種と言う分類でそのワーム種の1種大樹喰らいにも血液型が1つ~3つの種類があるってことだよな。
いや、待てよ。1つ~3つって事は1つしかない種もあるって事だよな。
もしも一体の為に大量の血液を入手し魔力を凝縮した薬をその1体に投与すれば……最悪だな。
『ですがそれは確率が下がると言うだけであって絶対ではありません。同じ血液型でも動物の血が人間に使えないのと同じで、種類によって血液の色も違ったりしますから」
確かに蟲は黄緑色だったし、確かイカやタコ、カニの血液の色は青、ホヤは緑って前世のテレビで言っていたような気がする。
なんでも血液の色は酸素を取り込む媒体によって変わってるらしい。人間の場合は鉄だから赤、イカやタコは銅だから青。って事らしい。
『ただ魔物を動物や人間と同じと思ってはいけません。レグウェス帝国の技術力を用いても完全に解明できませんでしたから。なので魔物の血液を媒介にした薬を人間に投与するより魔物投与した方が発狂して死ぬ確率や副作用が出来る可能性は遥かに低いと言えます。改良する回数も人間に投与する薬より少ない回数で出来ますし』
なるほどな。もしもその薬が大量生産されれば最悪の事態を招くって言う事だな。
『今回の事件に関してですが、大樹喰らいの肉体年齢は分かりますか?』
「生後数日だそうだぜ」
『なるほど。なら間違いなく冒険者連続殺人事件とレイノーツ学園際襲撃事件で使われた薬と同じではないでしょうが、その薬を開発しているのが個人なのか組織なのかは分かりませんが間違いなく同じでしょうね。恐らく蟲種の血液をベースに作られた可能性が高いと思いますよ』
流石の俺も今の説明を聞けば分かる。
薬を人間に投与すれば発狂して死ぬ。
魔物に投与しても高確率で死ぬ。
魔物であっても使われている薬の媒体が同じ種の魔物であれば、死ぬ確率は低下する。
それが同じ魔物同士であれば高確率で成功する。
『聞きたい事はそれだけですか?無いなら私は忙しいので切りますよ』
そう言って数秒もしないうちにアインは通話を切った。まったく自分勝手な奴だ。どうせ銀を愛でるのに忙しいだけだろうに。
だが今の話を聞いて応接室の空気は更に重苦しいモノになっていた。当然だ。そんな薬が大量生産され、魔物に投与されれば小国なんて一瞬で滅ぶだろうからな。
それよりも予想通り過ぎて憤りは勿論あるが驚きを通り越して憂鬱だ。
「はぁ~……またあの薬が関わってるのか」
俺の言葉に同意するかのようにボルキュス陛下とライアンも項垂れるように俯く。
資料や簡単な報告でしかしらないレティシアさんやエリーシャさん、ジャンヌは事の重大性には分かっているようだが、感覚的な部分までは分かっていないんだろうな。ま、こればかりは体験した者や現場を知る者でなければ難しいかもな。
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