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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第二十話 漆黒のサンタクロース ②
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ようやく話せるかと思ったが、なにやら全員スマホを取り出してイジりだした。おい!
いったい何がしたいんだ?そう思いたくなったが、全員の指の動きを見るとどうやらメールで会話をしているようだ。いったい何がしたいんだ?
いっさいの目的も分からないまま彼女たちのメールによる会話は30分にも及び、全員が一斉にスマホをテーブルに置くと帽子、サングラス、マスク、ロングコートの順で外し始めた。
そこには、どこかで見たことがあるような美女たちが5人並んでいた。まるで1対5の合コンをしている気分だ。いや、違うな。女性だけの面接官の前に立たされたような気分だ。
未だに俺の事を値踏みをするような視線を向けてくる彼女たち。いったい何がしたいんだ。
俺は空になったグラスに水を注ぎ煽るように水を飲み干すと本題に入るためにもう一度質問をする。
「で、俺をここに無理やり連れて来た理由を教えて貰っても良いか?」
彼女たちの態度が一切変わらない事を一々言っても仕方が無いとさっさと諦めた俺の声はどこか疲れた声音になっていた。
しかし彼女たちがそれを気にする様子も無く、一瞬全員で目を合わせると真ん中に座る俺をここに無理やり連れて来た女性が代表するように口を開いた。
「いきなりこんな所に連れて来た事については悪いと思ってる。ごめん」
軽く会釈するように頭を下げた姿に内心、少し驚く。案外素直なんだな。
顔を上げた彼女の少し怯えた目を見てなんとなく察した。何か事件に巻き込まれているのだと。
それにしてもどこかで見たことがあるような顔ぶれだな。いったいどこで見たんだっけ?
最近見たような顔だが思い出せない。ホームの近くにある商店街の娘さんたちだったか?いや、こんな美人が居たらもっと噂になって客が多くなっていてもおかしくは無いか。ならどこで?
答えの見つからない悩みに考えていても仕方が無いと思った俺は考えるのを止めて、意識を彼女たちに向ける。
「まずは自己紹介だね。私はリサ。リサ・レイヘルツ」
身長160後半と平均的な身長の持ち主で黒髪ショートボブヘアの彼女は少しボーイッシュな口調も相まってかクールな見た目をしていた。服装のせいか?
「私の名前はセリシャ・ツェザールよ。よろしくね」
トレド・タン色のウェーブ気味のセミロングヘアにアジュール・ブルーの瞳。リサと同世代に見えるが、纏う雰囲気からリサよりも落ち着きがあり、だけどどこか魅惑的な魅力が見え隠れしている大人の女性って感じだ。キャバクラなんかで働いたその日に一気にトップになりそう見た目だ。
「次は私ね。初めまして、私の名前は日下部旭。リサが巻き込んでごめんね」
ブラウンのセミロングだが、ストレートで後ろでポニーテールにしていた。
瞳が黒な事を考えると髪を染めているのか、それとも地毛なのかは分からない。なんせ名前が日本人のような名前でも種族は人じゃなかったりするからな。
それにしても旭はセリシャと同じように落ち着いた雰囲気があるが、大人の女性って言うよりかは少し年上のお姉さんって感じの人だ。もしも高校生だったら周りから慕われる生徒会長って感じだろうか。
「なら次は私だな。私はアンジェリカ・クリストバールだ。アンジェリカでもアンジーでも好きに呼んでくれ」
フォギー・ブルー色のコンパクトショートにプラム・グレイの瞳。
服装からも分かるが、この中では一番ボーイッシュと言うか美男子のような女性だ。ま、口調はどこかアリサに似ているな。ま、アリサほど乱雑な物言いはしないだろうが。
で、最後は一番右端に座るプルシアン・ブルーのロングヘアと同じ色の瞳を持つ彼女だが、さっきから俺の事をずっと吟味していると言うか凝視していると言うか、ただやる気の無い目でジッと俺を見つめているだけだった。
どこかクレイヴと似た目をしている。
もっと分かりやすく言うのであれば、どっかの四番目の吸血鬼の物語に出てくるホムンクルスと似た感じと言うべきか。
身長はこっちの方が断然に高いし、見た目の年齢も20代前半だ。ま、この中じゃ一番年下なんだろうが。
「で、彼女の名前がノーラ・ウォルヘルブ。見ての通りあんな子だけど仲良くしてあげてね」
と、少し困った表情をしながらも優しく言ってくる旭。うん、やっぱりこの中だと一番頼りになりそうな女性だ。
自己紹介を終えた彼女たちは次はアナタの番だよ。と無言で視線だけを向けてきたので俺は自己紹介をする事にした。
「俺は仁。鬼瓦仁だ。で、こっちが家族の銀。よろしくな」
銀を見せた瞬間、カワイイ!と甲高い悲鳴が聞こえてくる。うん、こうなると分かってた。小型犬のサイズの銀を見れば誰だってそう言う反応をする事は分かっていたし、これまでも何度も見てきたからな。
それでも、撫でたい、モフモフしたいと言う衝動を抑えて本題に入るのが先だと我に返るあたり、彼女たちが抱えている問題がどれだけ大きい事なのか直ぐに分かった。
だから俺はモフモフしないのか?なんて意地悪な事は言わず本題に入るため三度目の質問をした。
「それで、俺をここに連れて来た理由はなんだ?」
鋭い視線を突きつけるかのように問うた俺の言葉に彼女たちは一瞬体をビクッと震わせていた。脅かすつもりはなかったんだがな。
しかし何を思ったのか彼女たちは一瞬、笑みを浮かべると旭が代表して話し出した。
リサじゃないのか。そんな事を思ってしまうが、今はどうでもいい事だ。
「実は私たち変な男に命を狙われてるの」
そんな旭の言葉に俺は一瞬眉を顰めた。
別に疑うつもりはない。さっきリサと出会った路地から感じた強烈な殺意。あれを一度でも感じ取ってしまえば誰だって彼女たちの言葉を信じるだろう。
それに俺は冒険者だ。あの殺意が無かったとしても半分近くは信じて話を聞くところだ。
「具体的にはどんな風にだ?例えば日常で物がなくなったりとか壊されていたりとか、もしくは脅迫状が届いていたりとか。そんな事はなかったか?」
そんな俺の言葉に彼女たちは一瞬目を合わせると頷く。そしてセリシャがカバンから一枚の紙をテーブルに置いた。俺はそれを見た瞬間脅迫状かと察した。
俺はその手紙から彼女たちに視線を移すと見てと訴えるように瞳を俺に向けながら頷いた。
その手紙を手に取り中身の文面を読む。
そこには新聞や広告のチラシの文字を切り取って繋ぎ合わせた、ドラマやアニメなんかでよく見る脅迫状とは違い、パソコンで書き上げた文面を印刷しただけのモノだった。
そこにはこう書かれていた。
─────────────────────
穢れし異端の魔女共よ、貴様たちは大罪を犯した。
信仰を愚弄し、それを世へと広めた罪、なんと愚かな所業か。
よって穢れし異端の魔女共を断罪する。
─────────────────────
と、たった三行の文面が書かれているだけだった。
いったいこの手紙を送りつけた奴はどんな神経をしているのか気になるところだな。
ま、それに関しては一旦置いておくとしてだ。俺は彼女たちに視線を向けた。
「で、この手紙を信じたのか?」
そんな俺の言葉に答えたのはリサだった。
「勿論信じるわけないだろ。だけどその手紙が届いた翌日から私たちの周りで酷い事が起きるようになった。花瓶が落ちてきたり、物が倒れてきたり、だけど徐々に酷くなって――」
「で、今に至るわけか」
偶然を装って殺そうとしたわけだな。だけどよく無事だったな。見たところ全員とも怪我と言う怪我はしていない。相当の強運の持ち主連中なのかもしれないな。
「警邏隊の連中には相談しなかったのか?」
「相談できるわけ無いだろ。もう直ぐライブも近いって言うのにさ」
顎に手を当てて質問をするとリサは罪悪感にもにた申し訳なさを感じたのか俺と視線を合わせようとはせず、でも絶対に通報はしたくない。と言う強い感情がその声音から感じられた。
しかし俺が一番興味を引かれたのは、リサが口にした単語であり、俺はその言葉を繰り返すように聞き返した。
「ライブ?」
「ああ、そうさ。私たちは同じバンドのバンドメンバーなんだ」
そんな俺の疑問にリサが答える。
しかし俺が知らなかった事が意外だったのか、どこか不審者でも見るような鋭い視線を向けてくる。
「それよりも私的には結構有名人になったと思ってたんだけど、まさか知らない人が居るなんてね。まだまだか……」
悔しそうな反応とは違いどこか残念がるような、寂しそうな表情になる。
なんだか気を悪いことをした気分だな。だけど本当に知らな……ん?バンドをしている?そしてこの顔と姿。そして何よりこの声。
頭の中に物凄い勢いで、思い出していく。まるでバラバラに砕けた欠片が一箇所に集まった再び同じ姿に戻っていくような。
そして頭の中に大画面で訴えるように歌詞を叫ぶ女性と楽器で音色を奏でる女性たちのプロモーションビデオの事を思います。
「あ、お前等もしかしてHERETICなのか?」
最初は興味が薄れたような表情をしていたが俺の言葉に再び興味を持ったのかリサは俺に視線を向けると、
「なんだ、知ってるんじゃんか」
と勝ち誇ったような笑みを薄っすらと浮かべる。ああ、この自分勝手と言うか、どこまで行ってもけして何者にも縛られないと言う強い意志を持った態度。間違いない。あのプロモーションビデオの中で叫ぶように歌っていたボーカルだ。
「それにしても反応が薄いね。普通は発狂するような奇声をあげて戸惑ったりするんだけど」
俺はその言葉に頬を引き攣らせて苦笑いを浮かべるしかなかった。
いったいどこの熱狂的なファンだよ。ま、確かに好きなアイドルや声優が目の前に現れたらどう反応すれば良いのか分からなくなったりするもんなんだろうけど。生憎と俺が知ったのは極最近と言うか1時間と少し前だからな。
だから俺的には案外有名人が近くにいたんだな~。って反応にしかならない。
「今日、電光掲示板でお前等が歌っているプロモーションビデオを見たのが最初だからな」
「なるほどね。通りで反応が希薄なわけだ」
そう言うとまた興味を失ったのかリサは俺から視線を外してスマホをイジり始めた。言わせて貰うが命を狙われてるんだよな。なんでそんな態度が出来るんだ?
ま、それはともかく俺は一番疑問に感じていたことを聞く事にした。
「で、どうして俺に助けを求めたんだ?赤の他人にこんな話をするメリットがあるとは到底思えないんだが?」
そんな俺の質問に全員が困った表情を浮かべると、リサに視線を向けた。
リサも迷っているのかスマホをイジる指が止まっていた。
だけど直ぐに答えを出したのか、覚悟を決めたような表情になったリサはスマホをテーブルに置いた。
「固有スキル、未来の助言者。私と私が心から信頼している者たちに起ころうとしている危険な未来を助言のように教えてくれる固有スキルを私が持ってるんだ」
なるほど。
だけどこれで納得出来た。冒険者でもない彼女たちがどうして今まで無傷だったのかようやく理解できたぜ。
「だけどこのスキル、とっても不便なんだよ。自由に扱う事が出来ないし、一方的に伝えてくるだけ、その危険がいつ起こるのか、5分後なのか、1時間後なのかも分からない。ただ断言できるのは助言があってから24時間以内に必ず事件が起こるって事だけ」
なるほどだから助言があってからは周囲を警戒しているわけか。だが冒険者でもない彼女たちが24時間も気を張っておくのは不可能だ。5人で交代制でしたとしても一人当たりの時間は4時間48分。ベテラン冒険者でもそれだけの時間、周囲を警戒しておくなんて出来るもんじゃない。それを考えるとよく今まで無事で居られたな。
「そしてこのスキルが教えてくれるのは危険な未来だけじゃない。それに関する回避方法なんかも教えてくれるの」
「私たちには声は聞こえないんだけど、リサから教えて貰ってるからこうして今でも元気なの」
「そ、そんなの当然だろ。大切なバンドメンバーなんだから」
旭たちから向けられる絶対的な信頼と感謝の視線。
それに対してリサは恥ずかしそうに答える。
ツンデレのような口調で言ってはいるものの全然ツンな内容じゃないな。
なるほどな。だから助言者か。
未来に起こる危険を教えるだけならそれは助言ではなく忠告だ。なのに助言者って事は必ず危機的状況を打破する方法を少しは教えないといけないからな。
ん?待てよ。って事はだ。
「その未来の助言者の声に従った結果、お前たちを助けるのが俺だって言うのか?」
「ええ、そうよ」
そんな俺の質問にリサは自信満々に答えた。
俺はそんな彼女の姿を見て嘆息する以外の感情が浮かんではこなかった。
いったい何がしたいんだ?そう思いたくなったが、全員の指の動きを見るとどうやらメールで会話をしているようだ。いったい何がしたいんだ?
いっさいの目的も分からないまま彼女たちのメールによる会話は30分にも及び、全員が一斉にスマホをテーブルに置くと帽子、サングラス、マスク、ロングコートの順で外し始めた。
そこには、どこかで見たことがあるような美女たちが5人並んでいた。まるで1対5の合コンをしている気分だ。いや、違うな。女性だけの面接官の前に立たされたような気分だ。
未だに俺の事を値踏みをするような視線を向けてくる彼女たち。いったい何がしたいんだ。
俺は空になったグラスに水を注ぎ煽るように水を飲み干すと本題に入るためにもう一度質問をする。
「で、俺をここに無理やり連れて来た理由を教えて貰っても良いか?」
彼女たちの態度が一切変わらない事を一々言っても仕方が無いとさっさと諦めた俺の声はどこか疲れた声音になっていた。
しかし彼女たちがそれを気にする様子も無く、一瞬全員で目を合わせると真ん中に座る俺をここに無理やり連れて来た女性が代表するように口を開いた。
「いきなりこんな所に連れて来た事については悪いと思ってる。ごめん」
軽く会釈するように頭を下げた姿に内心、少し驚く。案外素直なんだな。
顔を上げた彼女の少し怯えた目を見てなんとなく察した。何か事件に巻き込まれているのだと。
それにしてもどこかで見たことがあるような顔ぶれだな。いったいどこで見たんだっけ?
最近見たような顔だが思い出せない。ホームの近くにある商店街の娘さんたちだったか?いや、こんな美人が居たらもっと噂になって客が多くなっていてもおかしくは無いか。ならどこで?
答えの見つからない悩みに考えていても仕方が無いと思った俺は考えるのを止めて、意識を彼女たちに向ける。
「まずは自己紹介だね。私はリサ。リサ・レイヘルツ」
身長160後半と平均的な身長の持ち主で黒髪ショートボブヘアの彼女は少しボーイッシュな口調も相まってかクールな見た目をしていた。服装のせいか?
「私の名前はセリシャ・ツェザールよ。よろしくね」
トレド・タン色のウェーブ気味のセミロングヘアにアジュール・ブルーの瞳。リサと同世代に見えるが、纏う雰囲気からリサよりも落ち着きがあり、だけどどこか魅惑的な魅力が見え隠れしている大人の女性って感じだ。キャバクラなんかで働いたその日に一気にトップになりそう見た目だ。
「次は私ね。初めまして、私の名前は日下部旭。リサが巻き込んでごめんね」
ブラウンのセミロングだが、ストレートで後ろでポニーテールにしていた。
瞳が黒な事を考えると髪を染めているのか、それとも地毛なのかは分からない。なんせ名前が日本人のような名前でも種族は人じゃなかったりするからな。
それにしても旭はセリシャと同じように落ち着いた雰囲気があるが、大人の女性って言うよりかは少し年上のお姉さんって感じの人だ。もしも高校生だったら周りから慕われる生徒会長って感じだろうか。
「なら次は私だな。私はアンジェリカ・クリストバールだ。アンジェリカでもアンジーでも好きに呼んでくれ」
フォギー・ブルー色のコンパクトショートにプラム・グレイの瞳。
服装からも分かるが、この中では一番ボーイッシュと言うか美男子のような女性だ。ま、口調はどこかアリサに似ているな。ま、アリサほど乱雑な物言いはしないだろうが。
で、最後は一番右端に座るプルシアン・ブルーのロングヘアと同じ色の瞳を持つ彼女だが、さっきから俺の事をずっと吟味していると言うか凝視していると言うか、ただやる気の無い目でジッと俺を見つめているだけだった。
どこかクレイヴと似た目をしている。
もっと分かりやすく言うのであれば、どっかの四番目の吸血鬼の物語に出てくるホムンクルスと似た感じと言うべきか。
身長はこっちの方が断然に高いし、見た目の年齢も20代前半だ。ま、この中じゃ一番年下なんだろうが。
「で、彼女の名前がノーラ・ウォルヘルブ。見ての通りあんな子だけど仲良くしてあげてね」
と、少し困った表情をしながらも優しく言ってくる旭。うん、やっぱりこの中だと一番頼りになりそうな女性だ。
自己紹介を終えた彼女たちは次はアナタの番だよ。と無言で視線だけを向けてきたので俺は自己紹介をする事にした。
「俺は仁。鬼瓦仁だ。で、こっちが家族の銀。よろしくな」
銀を見せた瞬間、カワイイ!と甲高い悲鳴が聞こえてくる。うん、こうなると分かってた。小型犬のサイズの銀を見れば誰だってそう言う反応をする事は分かっていたし、これまでも何度も見てきたからな。
それでも、撫でたい、モフモフしたいと言う衝動を抑えて本題に入るのが先だと我に返るあたり、彼女たちが抱えている問題がどれだけ大きい事なのか直ぐに分かった。
だから俺はモフモフしないのか?なんて意地悪な事は言わず本題に入るため三度目の質問をした。
「それで、俺をここに連れて来た理由はなんだ?」
鋭い視線を突きつけるかのように問うた俺の言葉に彼女たちは一瞬体をビクッと震わせていた。脅かすつもりはなかったんだがな。
しかし何を思ったのか彼女たちは一瞬、笑みを浮かべると旭が代表して話し出した。
リサじゃないのか。そんな事を思ってしまうが、今はどうでもいい事だ。
「実は私たち変な男に命を狙われてるの」
そんな旭の言葉に俺は一瞬眉を顰めた。
別に疑うつもりはない。さっきリサと出会った路地から感じた強烈な殺意。あれを一度でも感じ取ってしまえば誰だって彼女たちの言葉を信じるだろう。
それに俺は冒険者だ。あの殺意が無かったとしても半分近くは信じて話を聞くところだ。
「具体的にはどんな風にだ?例えば日常で物がなくなったりとか壊されていたりとか、もしくは脅迫状が届いていたりとか。そんな事はなかったか?」
そんな俺の言葉に彼女たちは一瞬目を合わせると頷く。そしてセリシャがカバンから一枚の紙をテーブルに置いた。俺はそれを見た瞬間脅迫状かと察した。
俺はその手紙から彼女たちに視線を移すと見てと訴えるように瞳を俺に向けながら頷いた。
その手紙を手に取り中身の文面を読む。
そこには新聞や広告のチラシの文字を切り取って繋ぎ合わせた、ドラマやアニメなんかでよく見る脅迫状とは違い、パソコンで書き上げた文面を印刷しただけのモノだった。
そこにはこう書かれていた。
─────────────────────
穢れし異端の魔女共よ、貴様たちは大罪を犯した。
信仰を愚弄し、それを世へと広めた罪、なんと愚かな所業か。
よって穢れし異端の魔女共を断罪する。
─────────────────────
と、たった三行の文面が書かれているだけだった。
いったいこの手紙を送りつけた奴はどんな神経をしているのか気になるところだな。
ま、それに関しては一旦置いておくとしてだ。俺は彼女たちに視線を向けた。
「で、この手紙を信じたのか?」
そんな俺の言葉に答えたのはリサだった。
「勿論信じるわけないだろ。だけどその手紙が届いた翌日から私たちの周りで酷い事が起きるようになった。花瓶が落ちてきたり、物が倒れてきたり、だけど徐々に酷くなって――」
「で、今に至るわけか」
偶然を装って殺そうとしたわけだな。だけどよく無事だったな。見たところ全員とも怪我と言う怪我はしていない。相当の強運の持ち主連中なのかもしれないな。
「警邏隊の連中には相談しなかったのか?」
「相談できるわけ無いだろ。もう直ぐライブも近いって言うのにさ」
顎に手を当てて質問をするとリサは罪悪感にもにた申し訳なさを感じたのか俺と視線を合わせようとはせず、でも絶対に通報はしたくない。と言う強い感情がその声音から感じられた。
しかし俺が一番興味を引かれたのは、リサが口にした単語であり、俺はその言葉を繰り返すように聞き返した。
「ライブ?」
「ああ、そうさ。私たちは同じバンドのバンドメンバーなんだ」
そんな俺の疑問にリサが答える。
しかし俺が知らなかった事が意外だったのか、どこか不審者でも見るような鋭い視線を向けてくる。
「それよりも私的には結構有名人になったと思ってたんだけど、まさか知らない人が居るなんてね。まだまだか……」
悔しそうな反応とは違いどこか残念がるような、寂しそうな表情になる。
なんだか気を悪いことをした気分だな。だけど本当に知らな……ん?バンドをしている?そしてこの顔と姿。そして何よりこの声。
頭の中に物凄い勢いで、思い出していく。まるでバラバラに砕けた欠片が一箇所に集まった再び同じ姿に戻っていくような。
そして頭の中に大画面で訴えるように歌詞を叫ぶ女性と楽器で音色を奏でる女性たちのプロモーションビデオの事を思います。
「あ、お前等もしかしてHERETICなのか?」
最初は興味が薄れたような表情をしていたが俺の言葉に再び興味を持ったのかリサは俺に視線を向けると、
「なんだ、知ってるんじゃんか」
と勝ち誇ったような笑みを薄っすらと浮かべる。ああ、この自分勝手と言うか、どこまで行ってもけして何者にも縛られないと言う強い意志を持った態度。間違いない。あのプロモーションビデオの中で叫ぶように歌っていたボーカルだ。
「それにしても反応が薄いね。普通は発狂するような奇声をあげて戸惑ったりするんだけど」
俺はその言葉に頬を引き攣らせて苦笑いを浮かべるしかなかった。
いったいどこの熱狂的なファンだよ。ま、確かに好きなアイドルや声優が目の前に現れたらどう反応すれば良いのか分からなくなったりするもんなんだろうけど。生憎と俺が知ったのは極最近と言うか1時間と少し前だからな。
だから俺的には案外有名人が近くにいたんだな~。って反応にしかならない。
「今日、電光掲示板でお前等が歌っているプロモーションビデオを見たのが最初だからな」
「なるほどね。通りで反応が希薄なわけだ」
そう言うとまた興味を失ったのかリサは俺から視線を外してスマホをイジり始めた。言わせて貰うが命を狙われてるんだよな。なんでそんな態度が出来るんだ?
ま、それはともかく俺は一番疑問に感じていたことを聞く事にした。
「で、どうして俺に助けを求めたんだ?赤の他人にこんな話をするメリットがあるとは到底思えないんだが?」
そんな俺の質問に全員が困った表情を浮かべると、リサに視線を向けた。
リサも迷っているのかスマホをイジる指が止まっていた。
だけど直ぐに答えを出したのか、覚悟を決めたような表情になったリサはスマホをテーブルに置いた。
「固有スキル、未来の助言者。私と私が心から信頼している者たちに起ころうとしている危険な未来を助言のように教えてくれる固有スキルを私が持ってるんだ」
なるほど。
だけどこれで納得出来た。冒険者でもない彼女たちがどうして今まで無傷だったのかようやく理解できたぜ。
「だけどこのスキル、とっても不便なんだよ。自由に扱う事が出来ないし、一方的に伝えてくるだけ、その危険がいつ起こるのか、5分後なのか、1時間後なのかも分からない。ただ断言できるのは助言があってから24時間以内に必ず事件が起こるって事だけ」
なるほどだから助言があってからは周囲を警戒しているわけか。だが冒険者でもない彼女たちが24時間も気を張っておくのは不可能だ。5人で交代制でしたとしても一人当たりの時間は4時間48分。ベテラン冒険者でもそれだけの時間、周囲を警戒しておくなんて出来るもんじゃない。それを考えるとよく今まで無事で居られたな。
「そしてこのスキルが教えてくれるのは危険な未来だけじゃない。それに関する回避方法なんかも教えてくれるの」
「私たちには声は聞こえないんだけど、リサから教えて貰ってるからこうして今でも元気なの」
「そ、そんなの当然だろ。大切なバンドメンバーなんだから」
旭たちから向けられる絶対的な信頼と感謝の視線。
それに対してリサは恥ずかしそうに答える。
ツンデレのような口調で言ってはいるものの全然ツンな内容じゃないな。
なるほどな。だから助言者か。
未来に起こる危険を教えるだけならそれは助言ではなく忠告だ。なのに助言者って事は必ず危機的状況を打破する方法を少しは教えないといけないからな。
ん?待てよ。って事はだ。
「その未来の助言者の声に従った結果、お前たちを助けるのが俺だって言うのか?」
「ええ、そうよ」
そんな俺の質問にリサは自信満々に答えた。
俺はそんな彼女の姿を見て嘆息する以外の感情が浮かんではこなかった。
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