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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第三十九話 冒険者連続殺人事件 ④

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「っ!」
 陽宵は直ぐに気がつき最小限の動きだけで躱してみせる。きっとあれも神道零限流の形によるものだろう。
 だけどどうやら俺が考えているよりも陽宵と言う男は強い。
 なんせあのアインの銃弾を全て躱すほどなんだからな。
 だけどこれで少し距離が出来た。この隙に影光を説得しなければ!

「おい、影み――」
 と近づこうとするといきなり刀が襲い掛かるが、どうにか躱す。

「なんで俺に攻撃してんだよ!」
 襲い掛かって来たのは陽宵ではなく、影光だった。あまりの意外性に驚いたじゃなぇかよ!

「邪魔をするな!陽宵は拙者が殺す!」
「冷静さを失った今のお前が勝てるわけがないだろうが!」
「拙者は冷静じゃ!」
 平然と斬り殺そうとして来た男が冷静なわけがないだろうが。
 それにしても拙いな。
 今の状況を上から見た図式にすれば窓側に俺。3メートル前に影光。ドア側。つまり俺から見て右斜め45度あたりに陽宵。で、アインが影光の反対側から陽宵に銃を突きつけている感じだ。
 もっと分かりやすく言うのであれば影光を俺とアインで挟んでその光景を陽宵が入り口から見ていると言えば分かり易いだろうか。

「おいおい、味方同士でなに言い争ってるんだ?それよりも早く殺ろうぜ、兄ジャ」
「勿論、そのつもり――」
「そのつもりじゃねぇよ、馬鹿野郎が!」
 ゴンッ!
 一瞬陽宵に意識が向いた瞬間を狙って俺は0.4%の力で影光を殴り飛ばした。
 ったく見た目は俺の方が10歳以上も年下なのに何やってんだよ、このアホは!
 数メートル吹き飛んだ影光は獰猛な獣のような目で俺を睨みながら立ち上がった。普通この力を食らったら気絶するんだが、さすがは世界最強の剣豪なだけはある。平然と立ち上がるなんてな。
 最初出会った時からイザベラよりも遥かに強いと言う事は分かっていたし、手加減もして殴ったがまさか平然として立ってくるとは思わなかった。
 だけど今はそんな事どうでも良い。

「目が覚めたかよ」
「まったくここまで強く殴る必要は無いだろうに」
「平然と立ち上がった人間がなに言ってんだ」
「だけど仁のお陰で目が覚めた。世話を掛けたな」
「気にするな」
 笑みを浮かべる影光の顔から何かスッと消えた表情をしていた。
 大丈夫のようだな。
 さっきまでとは違い怒りで我を忘れてはいない。ちゃんと冷静に物事が見えている。これなら大丈夫だろうな。

「アイン、もう手助けは必要ない。ここからはまた観戦だ」
「………分かりました。それにしても自分勝手にもほどがあります」
 お前だけには言われたくない。
 数歩下がりこの場で戦う者同士の戦場が出来上がる。
 外は茜色から闇に覆われようとしている。ここら一体は街頭すらないからな。夜になれば戦いは難しくなる。ま、気配操作が出来る二人なら問題ないだろうが。

「待たせたな、陽宵」
「なんだ兄ジャ、正気に戻ったのかよ。せっかく修羅のようで面白かったのによ」
「修羅はどっちだ。今のお前の方が相応しいだろうに」
「ハハッ、それは嬉しいね!」
 そう言うと陽宵は強く地面を蹴って一瞬で影光との距離を縮める。あれが神道零限流の戦い方か。確かに一瞬で相手を確実に殺せる間合いまで近づけば殺すのは楽だろうな。だがどうみてもあそこまでの力を手にするのは並大抵の修行だけじゃ無理だ。
 才能を持っているからこそ出来る技なんだろう。
 そしてそれを平然と防ぐ影光もまた剣術の才能に恵まれた一人だ。まったく神道零限流を学んだ奴等ってのは才能のある連中が集まる場所なのか?陽宵に影光、それから朧さん。どう見ても異常だろ。
 2人の攻防は俺の目でギリギリ捉える事の出来る速さで刀が振り下ろされていく。
 だけどやはり陽宵の力は侮れない。影光と互角に渡り合っているんだから。

「あははっ!楽しいな!楽しいな!兄ジャもそう思うだろ!」
「ああ、そうだな。本当は認めたくは無いが楽しいぞ。だがお前を殺さなければならない。お前は拙者が尊敬する師匠を殺し、尚且つ罪も無い冒険者たちを殺した。その罪をお前の命であながって貰うぞ!」
「殺れるものなら殺ってみろよ!」
 歓喜の表情を浮かべる陽宵と真剣な表情の影光。
 なんて悲しい光景なんだ。兄弟同士で殺し合わなければならないんだ。そう思ってしまう自分も居る反面。この戦いに高揚しもっと長く見ていたいと思ってしまう自分がいる。
 空もあと数分で完全に闇に覆われるだろう。そうなればこの戦いにも幕が下りる。残念だ。安堵した。まったく矛盾する二つの感情だが、それが人間と言う生き物なのかもしれない。
 矛盾を抱え不完全な生き物だからこそ、上へと目指し完璧を求める。それが成長なのだろう。

『っ!』
 しかしそんな兄弟の死合いは突然の集団の気配で中断される。

「どうやら呼ばれてもいない来訪者たちが来たようだ」
「そうみたいだな。せっかくの兄ジャとの戦いを邪魔しやがって」
「だからと言って殺すなよ」
 俺は陽宵に釘を刺しておく。が、

「それは分からないな。俺の楽しみを奪ったあいつ等を許せるか分からないからな」
 この野郎……。

「この戦いは日を改めてする事にしよう。それまで誰一人として殺すな。さもなければ拙者はお前とは二度と戦わない」
「チッ!分かったよ」
 そう言うと俺たちの前から姿を消した。
 ふぅ、どうにか最悪の事態は免れたみたいだな。
 ま、おちおち安堵している場合でもないか。

「影光。今は一旦俺たちの拠点に来い」
「しかし、それでは仁たちに……」
「もうこの事件にも無関係とはいかないだろうし。それに近くに居てくれた方が俺たちも安心だからな」
「……分かった。すまぬが世話になる」
 俺たちも完全に包囲される前にゴーストタウンを後にし、拠点へと戻ってきた。
 3階の共有フロアへ寛いでいると影光が風呂から上がってきた。戦闘中であまり気にしなかったが帝都に来てからあまり風呂には入っていなかったみたいで少し臭く、銀も嫌がっていたためアインが無理やり風呂場に連れて行ったのだ。
 180センチの男の襟首を掴んで引きずって連れて行くメイドと言うなんともシュールな光景が見れただけでも良しとしておくか。

「まさか風呂まで頂けるとはな」
「どうせ俺のギルドに入ればここに住む事になるんだから今のうちに色々と覚えておいて損は無いだろ?」
「最初からそれが目的だったな?」
「さて、なんの事やら」
 ジト目を向けてくるが俺は気にせずテレビをつける。

『先ほど警邏機動隊がゴーストタウンにある廃ビルに今回の冒険者連続殺人事件の犯人が潜んでいると突き止め向かいましたが、既にその影は無く。姿を消していた模様です。いったい犯人は何故このような事をするのか不明のままです。どうやらここで新しい情報が届いた模様です。なんでも容疑者は藤堂影光ではなくその弟、藤堂陽宵であるとの事です。つまり警邏隊の人たちは罪も無い人物を疑っていた事になりますが――』
「な、何故だ」
「ああ、お前が風呂に行っている間に俺が知り合いに情報を渡したからな。これでお前は容疑者じゃなくなった。良かったな」
 ドンッ!
 そんな俺の言葉に影光は怒りの形相で俺の胸倉を掴んで地面に叩きつけた。

「なぜ、そんな勝手な事をした!拙者は別に犯罪者でも良かった!弟は誰にも知られる事無く拙者の手で葬り去りたかったのに!」
「そんなの良いわけないだろうが!罪を犯した奴じゃなく、なんの罪も無い奴が犯人として報道されてるんだぞ!そんなのお前の知り合いが知ったら悲しむだろうが!」
「そんなのお主には関係ないだろうが!」
「関係あるに決まってるだろうが、俺はお前を仲間にしたいって思ってる。そんな奴が無関係の罪でテレビで報道されるなんて嬉しいわけないだろうが!それに俺だけじゃなく朧さんだって今回の事件の事を知ってる。あの人が悲しまないと思うのかよ!」
「うっ!」
「お前は陽宵を殺すって決めたんだろうが!陽宵だってそれぐらい分かってる筈だ。自分が犯罪者だってことぐらいはな。だったら全て受け止めろや!なに罪だけ自分が被ろうとしてるんだ。そんなの優しさでも何でもんぇ、お前自身の甘えだろうが!」
「くっ!」
 ギリギリと奥歯を噛み締める音を耳にしながら胸倉を掴まれていた拳から力が抜けていくのが分かる。

「武士なんだろう。世界最強の剣豪なんだろう。だったら過ちを犯した弟を葬るのがお前の役目じゃねぇのかよ」
「ああ、そうだな。その通りだ。如何に弟の悪名が全世界に広がろうとも兄として罪を犯した愚弟を罰しなければな。それに弟の気持ちに察してやれなかった拙者にも罪はある。この屈辱的事実を真正面から受け止めるとしよう」
 ようやく腹を括ったようだな。
 それにしてもこれでライアンに借りが返せたな。
 そう、俺はライアンに今回の顛末を全て伝えた。勿論証拠となる映像もこっそり録画していた。この俺が何も考えずにあの場に行くわけがないからな。
 ソファーに座り少し冷静になった影光に伝える。

「どうやら陽宵は状態異常を起こしているようだ」
「それはどういうことだ?」
「アインが言うには肉体強化魔法の副作用によるものだと言っていたが生憎と俺は魔力が無いから魔法に関する知識が持ち合わせていないんだ。悪いな」
「いや、気にしなくて良い」
 俺の魔力が無いって事実に無反応だった事に少し驚いたが、今はそんな事を考えている余裕が無いってことなんだろう。

「おや、男2人で何を話しているのですか?」
 すると風呂から上がった銀とアインが湯気を放ちながらソファーに座ってくる。
 サイボーグでも風呂には入れるんだな。いや、こいつのスペックだから可能なのかもしれない。

「陽宵の状態異常についてだよ」
「ああ、その事ですか」
 少し考え込むような表情に俺は違和感を覚えた。

「何かあるのか?」
「確かに肉体強化の副作用で状態異常を起こしていると言いましたが、正確には違います」
「どういうことなのだ?」
 そんなアインの言葉に影光が食いつく。ま、弟の事だ。心配なのは無理も無い。

「私が彼から感じた魔力は2つ。陽宵本人の魔力と別の魔力です。そして肉体強化により状態異常を起こしていた原因は別の魔力によるものです」
「それってどういう事なのだ?」
「つまりは外部の人間によって殺人を繰り返す殺人鬼にされた可能性があると言う事です」
「なっ!」
 おいおいマジかよ。
 信じられない内容に俺と影光は驚きを隠せなかった。当たり前だ。何者かに殺人鬼にされたなんて誰も思わないからな。

「だいたい肉体強化魔法であれほどの身体能力が上がること事態ありえません。ま、大量の魔力を保有しているのなら別ですが、陽宵の中に入っていた魔力は常人の半分以下です。それだけの魔力であれだけの力を発揮出来るのは魔力その物に手を加えられていた可能性があります。その副作用に麻薬のような効果が含まれていた可能性が考えられます」
「一つ聞くが、その魔力を与えた人物は副作用がある事は知っていたのか?」
「そこまでは私には分かりません。ですがなんでも最初は実験をするものです。ましてや通常の肉体強化魔法よりも強力な肉体強化が可能な魔法です。副作用があると考えるのが普通でしょう」
「と、言う事は……」
「高確率で副作用がある事は知っていたでしょう」
「なんて事だ……つまり陽宵は何者かに誑かされてその魔力を手にしたって事か」
「誑かされたかどうかは分かりませんが、間違いなく悪意のある事です」
「ふざけるな!絶対に許さぬ!拙者の弟にそのような者を与えた奴は絶対に許さぬ!」
 あまりの怒りに激情する影光を今の俺たちは慰める事は出来ない。それどころか俺もムカついている。いったい何のためにそんな事をしたのか。人を道具や実験体としか思っていないようなクズを許せるはずがない。

「しかし……あの魔力レグウェス帝国で見た覚えがあります」
「本当か!」
「れ、れぐうぇす?いったい何を話しておるのだ?」
「そう言えば影光には教えてなかったな。アインは1500年前に滅んだレグウェス帝国が創り上げたサイボーグなんだ」
「なっ!それは真か?」
「はい。そこの蛆虫以下の言っている通りです」
 影光とは普通なのになんで俺だけ罵倒されてるんだ?
 理不尽すぎると俺は思うんだが。
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