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第二章 魔力無し転生者は仲間を探す

第二十五話 戸籍と推薦状を求めて……

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 イオによって案内された場所は前に来た時と同じ応接室だった。
 既に応接室にはボルキュス陛下が来ていたが、以前と違うとすればそこにはベルヘンス帝国第一王子のライアン殿下と第二王子のカルロスが同席していることだろう。なんで彼らがここに居るのかは分からない。今日は休日なのか?いや普通に今日は平日だ。となると有給か代休を利用しているのかもしれない。ま、王族が平日や休日とかに縛られて行動しているかどうかは俺には分からないが。

「やあ、ジン君久しぶり」
「お久しぶりですライアン殿下、カルロス」
「僕の事もライアンと呼んでくれると嬉しいな」
「分かった。それでライアンとカルロスはどうしてここに?」
「ジン君も前に話したと思うけど僕はベルヘンス帝国陸軍少佐として、ここに来たんだ」
「俺はその補佐として呼ばれたわけだ」
 なるほど。ま、内容が内容だけに選ばれるして選ばれた人選というところか。

「それで後ろの彼女が陛下かから聞かされれていた」
「アイン、自己紹介しろ」
「嫌です」
「おい!」
 まったくなんて女だ。皇帝陛下や第一、第二王子を前にして堂々と拒否りやがった。なら仕方が無い。

「そんな態度してたら銀に尽くせないぞ」
「初めまして、皇帝陛下。それにライアン殿下、カルロス殿下。私は今無きレグウェス帝国によって造られた魔導機械人形サイボーグRS型B-01、アインと申します。お見知りおきを」
 スカートの端を指先で摘んで挨拶をするアインの姿は麗しき美貌と合間って完璧の一言に尽きた。それよりも銀の事になるとまるで別人かと思うほどの変貌っぷりだぞ。

「………これはまた、なんと言えば良いか。これが1500年前に滅んだレグウェス帝国の技術力と言えば良いのだろうか」
 アインの行動に誰もが驚愕を隠しきれなかった。特にレグウェス帝国の凄さを詳しく知るであろう者ならアインの凄さは伝わるだろうな。俺にはチンプンカンプンだけど。

「ま、今は座りたまえ」
「では、遠慮なく」
 ほんと遠慮が無いな。遠慮がちな俺とは大違いだ。おい、なんでそこで睨む。
 改めて俺とアインはソファーに座ってボルキュス陛下たちと対面した。俺って最近王族と関わる事が多いような気もするが気のせいだよな?

「ジン君、正直我々は未だに彼女がサイボーグであると信じ切れていない。容姿も、口調も全て人間としか思えない」
 ま、誰だってそう思うだろうな。これが本当は人間じゃなくてサイボーグであるなんて。

「何か証拠を見せて貰えないだろうか?」
 そう言われてもな。何で証明すれば良いか。そうだ!

「でしたらアインの目を凝視してくれ。そうすれば分かるはずだ」
「彼女の目を?よく分からないが分かった」
 ヤ○ザ風の男性とタイプの違うイケメン二人が1人の女性を凝視すると言う奇妙な光景を見ているとアインの瞳孔がフィルムのピントを合わせるかのように機械的な動きをする。

「こ、これは!」
「マジかよ……」
 などと呟いているあたりどうやら信じてくれたみたいだ。良かった。

「どうやら彼女が本当にサイボーグであることが分かった。さてジン君の報告ではフェユラ村の近くに未発掘の遺跡があるとの事だったが」
「そうだ。アインもそこで見つけて偶然起動させてしまったんだ」
「なるほど。では彼女のマスターは君なのか?」
 そんなライアンの言葉にアインが速攻で否定する。

「なぜ私がこの様な低脳な男を主にしなければならないのです。私の主はこんなゴミ虫とは違い。凛々しく、愛らしく、そして才能に満ち溢れた至高の存在です」
「ジ、ジン君」
 突然の罵詈雑言と狂信者のような言葉に動揺を隠し切れないライアンとボルキュスたち。

「ま、まあ、彼女の口の悪さは世界一だろうから気にしないでくれ。てか気にするだけ無駄だ。それとアインの言っている事は本当で、起動する際に必要な魔力は俺にはない。だから俺ではなく銀の魔力を使ったわけだ。ま、その結果、アインのマスターが銀になったわけだが」
「なるほど。そういう事なんだね」
「お前も何気に苦労してるんだな」
 カルロス。分かってくれるのか!
 第二王子の言葉に涙が出そうになるぜ!

「それでジン君は我に何か頼みごとがあるのではないのか?」
「出来ればアインに戸籍と住所を与えてやって欲しい。あと冒険者試験が受けられるように推薦状も書いて貰いたいんだ」
「なるほど。さっそく最初の仲間を見つけたわけか」
「仲間?何を戯けた事を。私はマスターが冒険者として活動をすると知りお傍で尽くすために冒険者資格が必要なだけです。断じてこのゴミ虫の仲間ではありません。ですからそこら辺は誤解しないようお願い致します」
「わ、分かった。君も苦労してるな」
「コイツのせいでメンタルがいつも以上に鍛えられてますよ」
「では私に感謝すべきですね」
「皮肉だよ!」
 てか人の会話に勝手に入って来るんじゃねぇよ。まったく。
 きっと俺とアインが座っているこのソファーがある空間だけ空気が淀み重たくなっているに違いない。

「分かった。出来る限り早く戸籍と推薦状を手配しよう」
「貴方はこの屑虫とは違い頭の回転も早く賢いですね。褒めてあげます」
「そ、それは……ありがとうな」
 皇帝陛下に対してなんて態度だ。忠誠厚い家臣が見たら直ぐにでも激怒する光景だぞ。アインも平然とそんな事が言えるな。小心者の俺には絶対に無理だ。

「それじゃ私たちはこれで失礼します。マスターのお昼寝の時間ですので」
 良く見ると銀が眠たそうに欠伸をしていた。それよりも銀にお昼寝の時間なんてあったのか。数年一緒に居る俺でも初めて知ったぞ。
 そう言い残すとアインはさっさと出て行ってしまった。

「遺跡の場所は昨日マップで伝えたから大丈夫だよな?」
「ああ、問題ない」
「なら俺も帰らせて貰う。おい、待てよ!」
(((彼も大変だな)))
 一体ボルキュスたちが別れ際になんて思ったかは分からないが哀れみの目を向けられていたような気がするのは俺だけだろうか。
 どうにか皇宮を出る前に合流した俺はそのままホテルへと戻るのだった。


 9月19日水曜日。
 朝起きると早速イオがやって来てアインの冒険者試験の推薦状を持ってきてくれた。名前にはライアンとカルロスの名前が書かれていた。今回はこの2人か。
 そんな事を思っているとイオから戸籍登録も済ませたと言う情報が伝えられた。それにしても流石は皇帝と皇族だな。昨日の今日で仕上げるとは。いや、ただ単にアインと面倒な関わりを持つのが嫌だったのかもしれない。俺なら絶対にそうしたからだ。

「アイン、冒険者試験の受験票が届いたぞ」
 そう言って俺はイオから受け取った受験票をベットに座るアインに手渡す。

「ほう、ようやくですか。ま、あの者たちにしては中々ですので及第点としましょう。あと3分13秒遅かったら皇宮を破壊していたところですが」
 愚痴を零しつつ封筒を開ける。 
 これでもまだ自分が求める基準より下なのかよ。てか遅かったって理由だけで皇宮を破壊するのだけはやめてくれ!俺まで国際指名手配されたらどうするんだ!

「むっ!次の試験は5日後ではありませんか。それも試験が3日間も。どうやら今すぐ死にたいようですね」
「待て待て!なに平然と皇宮に乗り込もうとしてんだよ!」
 ベットから立ち上がったアインは部屋から出ようとする。サイボーグだから殺気はまったく感じないが、大変な事を仕出かそうとしている事だけは俺にも分かる。

「いえ、乗り込もうとは思ってはいません。破壊するだけす」
「余計悪いわ!良いのかお前の言動一つで銀が犯罪者の仲間入りする事になるんだぞ。そうなればいつ襲ってくるかもしれない敵に毎日警戒しないといけない。それがお前が望む平穏な銀との生活なのか」
「………屑虫に諭されるのは癪ですが、貴方の言うとおりですね。ですので今回は貴方の詭弁スレスレの言葉に免じて破壊は止めておきましょう」
 駄目だ。こいつが皇宮を破壊する前に俺がこいつを破壊するかもしれない。それにこいつ徐々に俺に対する口の悪さが増しているような気がするんだが、それは俺の気のせいか?
 だけどこれはこれまでの鬱憤を晴らすチャンスでもある!

「だけど分かっているのか?」
 気持ちを切り替えて俺はアインに視線を向けて問い掛ける。

「何がですか?」
「俺も冒険者試験を受けて見事一発で合格したんだ。つまりお前が落ちればそれは俺より劣っているって事だ」
「何を言うかと思えば。文武両道、才色兼備たるこの私が落ちるわけがないでしょ。それに試験内容を見ればどれも楽勝です。特に筆記試験に関しては満点を取れる自信があります」
 そんな俺の挑発に馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにアインは己の優秀さを饒舌に語る。

「ほう、その理由を聞いても?」
 いったいその自信はどこから来るのか聞いてやろうじゃないか。

「私にはネットワークがありますから」
「それは駄目だろ!」
 平然とそれも自信満々にカンニングしますってカミングアウトしやがったぞ。この傲慢メイドは。

「1500年前までは、この大陸で世界最高峰の技術力と軍事力を誇っていたレグウェス帝国によって造られた最高傑作であるこの私に不可能はありません」
 いや、だからね。不可能は無くてもカンニングは駄目だからね。てか人の話を聞いてますか?
 ま、どっちにしても今のお前じゃ合格は無理だろうけどな。

「なんですかその見透かしたような笑みは。まるで既に私が落ちるみたいな表情ですね」
「別に~」
「ほう、どうやら今すぐ死にたいようですね」
 そう言って殴り掛かって来る。相変わらずこの傲慢メイドは俺に対して容赦が無いな。ん?そう言えば。

「なぁ一つ聞いても良いか?」
「なに平然と攻撃を躱しながら質問してきてるんですか!」
 お前の攻撃を普通に食らたったら死ぬだろ。てかここホテルなんだからそんなに暴れたら間違いなく追い出されるだろうが!

「お前が得意とする戦闘スタイルってなんだ?」
「それがどうかしたのですか?」
「って攻撃するのやめろ!話が進まないだろうが!」
「普通に話せてるじゃないですか。屑虫の癖に」
 なんだかさっきより苛立ちを感じるんだが。

「少しでも合格率を上げるなら武器が必要だと思っただけだ!」
「………」
 俺の言葉にピタッ!と攻撃が止む。

「たまに的を得た事を言う人ですね。屑虫以下の存在の癖に」
 納得がいかないと言う表情で俺を罵倒するアイン。
 そして徐々に俺の存在が下がるのは何でだ!マジで納得がいかないんだが!
 攻撃は止んで互いに椅子とソファーに座って話を再開する。

「私の戦闘スタイルは主に銃器を使った攻撃です。ですので拳銃でもライフルでもなんでも完璧に使いこなすことが出来ます」
 ま、機械だから当たり前に考えて普通そうだよな。ってことはだ。

「今は武器が無いんだよな」
「もしもあったら貴方は今頃蜂の巣になっていたでしょう」
 そしてこのホテルから追い出されていたな。うん、今までこいつに武器を与えなくて良かった。ま、出会って二日しか経ってないけど。
 だけどそうか。今後の事を考えるならやはりこいつ専用の武器が必要なんだよな。
 そしてこいつの性格を考えるなら周りに迷惑を掛けない場所。つまりは拠点も必要となってくるわけだ。それにギルドを立ち上げようと思っている奴がずっとホテル暮らしって訳にはいかないしな。

「よし、決めた!」
「何を決めたんですか?ついに自殺することを決めたのならば私は全力でお手伝いしますよ」
 嬉々とした声音でロープを取り出すな!てか、どこにあったそのロープ。

「そんな全力の手伝いは要らねぇよ!」
「そうですか……」
 あからさまにガッカリされているのにどうして怒りしか感じないのは俺が変なのか?いや、断じて違うはずだ。きっと他の奴らだって同じな筈だ。

「今からお前の武器と拠点となる物件および必需品を買いに行くんだよ」
「ほう、貴方にしては大変素晴らしい考えです。ようやく奴隷としての自覚が芽生えてきたようですね。この買い物が終わるまで生きている事を許可します」
「いったいお前は何様なんだよ」
「マスターの最初で最後の専属メイド様です」
 これまた我儘お嬢様よりも分かり易く、危険で傲慢なメイドがこの世に居たもんだな。
 ま、そんな事はどうでも良いか。
 荷物を纏めて(ま、纏める荷物なんて殆どないけど)俺たちはホテルをチェックアウトした。

「それじゃまずはアインの武器だな」
「何故ですか、普通に考えて最初はマスターと私が住まう家探しが先です」
「おい、なんでそこに俺が含まれてないんだ?」
「何故、貴方も一緒なんですか?」
 訝しげに聞いてくるあたり本気でそう思ってやがるな。この糞メイドは。

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現在の鬼瓦人の総資産
残高8259万4750RK 
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