73 / 274
第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第七十話 屋敷に帰宅したけど
しおりを挟む
さて、次はどこに行くとするか。食べ終わったばかりだし、急激な運動はやめた方がいいよな。ま、適当に見て回るか。
「一つ聞きたいことがありますわ」
「なんだ?」
「どうして、昼食をあのお店にしたのですの?」
「理由はそこまでないな。ただイザベラの家でもそうだったが、洋食を食べる事が多いと感じたからな。たまにはあまり食べない物でも出した方が目新しさがあって良いかもって思っただけだ」
「では、どうしておにぎりの具をあれにしましたの?」
「嫌だったか?」
「いえ、どうしてなのかと思いまして」
「別にたいした理由じゃないぞ?」
「それでも構いませんわ」
「食べるなら美味しく食べたいだろ?で、今日イザベラたちと体を動かしたって言ってたからな。塩分が摂れるものが良いんじゃないかって思ってな。で尚且つ満足してもらうにはって考えた結果、あの三品になっただけだ」
「そ、そうですか」
(私が話した内容から私の状態を考えて具を選び、尚且つ楽しめるようにと……この人は私が思っている以上に他人の事を気遣っているのですわ)
満足して貰えたのは本当によかった。社会人の時に何度も接待をした甲斐があったと言う物だ。
「それで、次はどこに――あ」
「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
アンドレアの視線の先を追いかけるとゲームセンターがあった。
「入ってみたいのか?」
「そ、そんなわけありませんわ!カピストラーノ家の跡継ぎであるこの私があのような……」
めっちゃ入りたいんだな。
「誰かが見てるわけでもないし、別に良いんじゃないのか?」
「ですから私は入りたいわけでは……」
言葉に迫力を感じないんだが。
素直かと思ったがこういう事だと素直になれないのか。なら、
「貴族として平民の暮らしを知るのも勉強の一つだ。それに跡継ぎなら色々な事を経験した方が良いんじゃないのか?意外な事で新たな発見やアイディアが生まれるかもしれないぞ」
「た、確かにその通りですわね」
「社会見学だ。入ってみようぜ」
「あっ!引っ張らないでくださいませ!」
(殿方と手を握るなんてお父様以外では初めてですのに)
ここで立ち止まっていても始まらないからな。
「ほい、入店っと」
「もう、なんて身勝手な人ですの!」
「今日は俺に全て任せるんだろ?だったら俺が行きたい場所に連れて行くだけだ」
「むぅ……仕方がありませんわね。全て任せると言ったのは私ですし。それにこれは興味があったからではなく社会勉強です。分かっていますね!」
「勿論ですとも、お嬢様」
「絶対に馬鹿にしていますわね!」
「ほら、怒ってないで何からしたい?」
「え?そ、そうですわね……あれはなんですの?」
「シューティングゲームだな。やってみるか?」
「そ、そうですわね。勿論分かっていると思いますけどこれはすべて社会見学ですわよ!」
「はいはい」
「ちゃんと聞いていますの!」
まったく見た目は美人なのに中身は子供だな。
そんな事を思いながら俺はお金を入れる。
「ほら、始まるぞ」
「ど、どうやってしますの!」
「その銃を画面のゾンビを向けてトリガーを引くだけだ」
「分かりましたわ」
ゲームを始めて30分。
『GAME CLEAR!』
一度も敵の攻撃を食らう事無く最後までクリアしてしまった。なにこの子。本当に初めてかよ。
「案外簡単でしたわね」
最後に表示されたこのお店のランキングでナンバー1になっていた。ほんと意味が分からない。チートの友人はチートなわけ?
気がつけば俺たちを囲むように人が集まっていた。
「な、なんですの。これは!」
「お前のプレイが凄くて全員が見入ってたんだよ」
「そ、そうなのですの?」
「ああ」
すると店員が大きな何かのマスコットのぬいぐるみを渡そうとする。
「おめでとうございます」
「あ、あの……」
「受け取っとけ。それはお前への賞賛と褒賞みたいなものだ」
「そういうことなら……」
パチパチパチパチ!
嬉しそうに抱きかかえるアンドレア。それにしても変なマスコットだな。
その後俺たちは色んなゲームをして遊んだ。クレーンゲーム、音ゲー、コインゲームと大半のゲームは遊んだ。結果だけ言うなら、驚きを超えて呆れた。500RKで10個のぬいぐるみをゲットし、音ゲーでは鬼モードをパーフェクトするし、コインゲームに至ってはドル箱をいったい何箱積み上げるんだってツッコミしたくなる思いだった。絶対にアンドレアがカジノのお店に入ったら一日で出禁だろうな。正直ここがゲームセンターで良かったと思うぐらいだ。
気がつけば時間は過ぎ、空は茜色になっていた。
「そろそろ屋敷に戻るか」
「あ、あの……最後にあれがやりたいのですが……」
指差した方向に置かれていたのはプリクラだった。
「別に良いぞ」
「本当ですの!」
そんなに喜ばなくても。それにしてもプリクラか。俺が学生時代はあんなキラキラしてなかったぞ。
中に入り写真を撮る。
「これで終わりですの?」
「俺もよくは知らないけど、あとはこのペンで好きな文字やマークなんかを書き込んだり、選択すればいいみたいだな」
「凄いですわね」
まったくだ。社会人になってからプリクラをする時間も考えもなかったからな。
出来上がったプリクラをアンドレアに渡す。
「ほら」
「貰って良いのですの?」
「したかったのはアンドレアだろ。なら記念に貰っとけよ」
「そ、そうしますわ」
その後はモール前でバスに乗って帰宅した。それにしても今日は随分と遊んだな。学生らしい遊びだったけどな。前世で遊びって言ったら接待麻雀かパチンコかスロットだったし。あんまりしなかったけど。
「今日はとても楽しかったですわ」
「それは良かった」
その言葉だけで安堵だぜ。全然楽しくないってだけで死刑にされたらたまったものじゃないからな。
「またの機会があればエスコートして下さいますわよね?」
「あ、ああ。機会があればな」
これで終わりじゃないのか。なんだか自分でハードルを上げた気分だ。
少し憂鬱な気分になりながら俺とアンドレアは屋敷の扉を潜ると、ちょうどイザベラたちと出くわした。
「よ」
「イ、イザベラ様……」
「アンドレアお帰りなさい」
俺は無視ですか。
「それで今まで何してたの?」
「そ、それは………」
イザベラには知られたくない理由でもあるのか?
「ちょうど屋敷前で出くわしたからな。俺が頼み込んで遊ぶのに付き合ってくれたんだ」
「え?」
「お父様の客人の貴方にとやかく言うつもりはないわ。でもね、私の大切な友人の邪魔だけはしないで頂戴」
「分かってるよ」
「アンドレア、悪いけど陣形について少し話したいの荷物を置いたら中庭に来てくれる?」
「わ、分かりましたわ!」
それだけ言うとイザベラたちは中庭の方へと向かっていった。俺が原因とは言え、頑固というか子供だよな。
「悪いな。俺のせいで巻き込んで」
「いえ、別に貴方せいでは。それよりも私のせいでまた悪者に」
「あの程度悪者になりゃしねぇよ。それに生憎と俺はこの程度で落ち込むほどメンタルは弱くないんでな。気にしなくて良いぜ」
「ですが……」
「それより早く荷物を置いて向かった方が良いんじゃないのか?」
「そ、そうですわね!」
そう言ってアンドレアは二階にある客室に向かった。
たった一つの出来事が友人関係を破壊することはあるだろうとは思っていたが、これほどとはな。原因の渦中の俺が言えた義理じゃないか。
「遊んだし一緒に風呂入るか、銀」
「ガウッ」
銀を抱きかかえて俺たちも寝室へと向かった。
この状況になってから俺は食堂で食事をしていない。理由は勿論俺が食堂に居ると食堂の空気が異様に重たくなるからだ。それを避けて俺は自分から食堂に行くのをやめた。勿論あとでセバスが食事を持ってきてくれるから別にきにしたりはしない。俺にとって大事なのは食事があるかどうかだからな。
トントン。
お、夕食を持ってきてくれたみたいだな。
「どう――」
「入ります」
この声と傲慢な態度。
「何しに来たアスル」
「貴方に餌を持った来たに決まってるでしょ」
「俺はペットか!」
「由緒正しいルーベンハイト家で貴方のようなペットを飼うわけないでしょ」
「なら、なんだ?」
「家畜です」
「ペット以下かよ!」
ほんと、コイツと話すと無駄に疲れる。
「さっさと夕飯をおいて出て行けよ」
「言われるまでもありません」
テーブルに夕食を置く。うん、どうやら普通のサンドイッチだな。毒は入ってなさそうだ。
床にステーキを置いて俺と銀は夕食を堪能する。美味しい。相変わらず料理長のご飯は美味しいな。
「………」
「で、なんで出て行ってないんだ?」
「正直、不服極まりないないですが、私は貴方にお礼を言わなければなりません」
コイツどんだけ俺の事が嫌いなんだよ。だけど、
「お礼ってなんのことだ?」
「お嬢様を助けてくれた件です」
「知っていたのか」
「私たちカーラ姉妹はルーベンハイト家に仕える影ですので」
「なるほど。つまりは諜報活動もする暗殺者ってわけか」
「その通りです」
「で、なにか分かったのか?」
「分かっているのは、依頼主が男であるぐらいです。ただ年齢や背格好までは特定出来ていません。なにせ闇ギルドに関する情報は中々漏れませんから」
「そうなのか?」
「そう言えば貴方は無知でしたね」
心の底からの悪意を感じるのは俺だけだろうか。
「闇ギルドなる組織があること確実ですが、そのギルドがどこにあるのかまでは未だに特定出来ていないのです。またどうやって依頼を申請し、受けるのかもです」
それはもう見つけようがないだろ。前世と同じでインターネットがあるこの世界で見つけることが出来ない。それはもう亡霊としか言いようが無い。そんな組織を見つけるのは無理だ。逆に言えばイザベラの暗殺を依頼した者の性別が男であると言う事だけでも調べ上げたこいつらは影としてとても優秀だと言える。
「情報は分かった。だけど一つだけ言えることは間違いなく首謀者はまたイザベラを狙うぞ」
「それぐらい理解しています。蛆虫の貴方に言われたくはありません」
お前、俺にお礼を言いに来たんじゃないのか?
「それでは失礼します。あ、言い忘れるところでした。お嬢様を助けて頂きありがとうございました」
そう言って出て行く。全然お礼を言われた気がしないが、あいつの口から感謝の言葉が出ただけでも良しとするか。
食事を終えた俺はベッドに横になる。が、
「暇だ」
直ぐにでも寝れると思ったが全然意識が飛ぶ気配がない。
日中は結構遊んだ筈なんだがな。きっとアスルの話が気になっているせいだ。
「首謀者は男か」
イザベラを殺したいほどの憎しみを感じているとすれば考えられるのは才能の差。ぐらいだろう。どうみても時代錯誤だが、女の癖にって考えを未だに持っている奴の犯行とも考えられる。
他に考えられるとしたら学園を卒業した後だな。つまりイザベラに軍人になってもらっては困る奴の犯行。俺が知る限りアイツほど才能に恵まれた奴は居ない。銀を除いてだけど。つまりは軍人になって出世させるのが困る。となると軍の上層部の人間とも考えられるが、それなら軍に入隊したあとに事故に見せかけて殺せば良い筈。いや、イザベラ程の有名人が死んだとなれば軍の影響力が下がる危険性を考えて今殺そうとしているのか?考えられなくもないが、分かり易過ぎる気もするしな。
と、なると冒険者か?いや、一番関係が遠い職業だ。それはないか。いや、一度イザベラと手合わせをしたことのある冒険者って線もあるか。だとしてもそんな奴が闇ギルドに依頼を出してまで殺しをするとは思えないんだが。それに魔煙香の事もある。それを考えるならやはり冒険者はないな。となるとやはり軍?いや、軍でも手に入れるのは難しい筈だ。なら貴族か。だが貴族がどうしてイザベラを狙う。狙うなら普通ライオネルじゃないのか?でも最初の考えならありえるが、有名な女性の冒険者や軍人は沢山いる。イザベラを殺す理由にはならないよな。
「ああ、駄目だ!考えても答えが出てこない!」
だいたいこんな事考えるのは俺らしくないぞ!
そうだ!久々に妖精の楽園にでも行くか。この数ヶ月でもしかしたら新しい子が入っているかもしれないしな。
「一つ聞きたいことがありますわ」
「なんだ?」
「どうして、昼食をあのお店にしたのですの?」
「理由はそこまでないな。ただイザベラの家でもそうだったが、洋食を食べる事が多いと感じたからな。たまにはあまり食べない物でも出した方が目新しさがあって良いかもって思っただけだ」
「では、どうしておにぎりの具をあれにしましたの?」
「嫌だったか?」
「いえ、どうしてなのかと思いまして」
「別にたいした理由じゃないぞ?」
「それでも構いませんわ」
「食べるなら美味しく食べたいだろ?で、今日イザベラたちと体を動かしたって言ってたからな。塩分が摂れるものが良いんじゃないかって思ってな。で尚且つ満足してもらうにはって考えた結果、あの三品になっただけだ」
「そ、そうですか」
(私が話した内容から私の状態を考えて具を選び、尚且つ楽しめるようにと……この人は私が思っている以上に他人の事を気遣っているのですわ)
満足して貰えたのは本当によかった。社会人の時に何度も接待をした甲斐があったと言う物だ。
「それで、次はどこに――あ」
「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
アンドレアの視線の先を追いかけるとゲームセンターがあった。
「入ってみたいのか?」
「そ、そんなわけありませんわ!カピストラーノ家の跡継ぎであるこの私があのような……」
めっちゃ入りたいんだな。
「誰かが見てるわけでもないし、別に良いんじゃないのか?」
「ですから私は入りたいわけでは……」
言葉に迫力を感じないんだが。
素直かと思ったがこういう事だと素直になれないのか。なら、
「貴族として平民の暮らしを知るのも勉強の一つだ。それに跡継ぎなら色々な事を経験した方が良いんじゃないのか?意外な事で新たな発見やアイディアが生まれるかもしれないぞ」
「た、確かにその通りですわね」
「社会見学だ。入ってみようぜ」
「あっ!引っ張らないでくださいませ!」
(殿方と手を握るなんてお父様以外では初めてですのに)
ここで立ち止まっていても始まらないからな。
「ほい、入店っと」
「もう、なんて身勝手な人ですの!」
「今日は俺に全て任せるんだろ?だったら俺が行きたい場所に連れて行くだけだ」
「むぅ……仕方がありませんわね。全て任せると言ったのは私ですし。それにこれは興味があったからではなく社会勉強です。分かっていますね!」
「勿論ですとも、お嬢様」
「絶対に馬鹿にしていますわね!」
「ほら、怒ってないで何からしたい?」
「え?そ、そうですわね……あれはなんですの?」
「シューティングゲームだな。やってみるか?」
「そ、そうですわね。勿論分かっていると思いますけどこれはすべて社会見学ですわよ!」
「はいはい」
「ちゃんと聞いていますの!」
まったく見た目は美人なのに中身は子供だな。
そんな事を思いながら俺はお金を入れる。
「ほら、始まるぞ」
「ど、どうやってしますの!」
「その銃を画面のゾンビを向けてトリガーを引くだけだ」
「分かりましたわ」
ゲームを始めて30分。
『GAME CLEAR!』
一度も敵の攻撃を食らう事無く最後までクリアしてしまった。なにこの子。本当に初めてかよ。
「案外簡単でしたわね」
最後に表示されたこのお店のランキングでナンバー1になっていた。ほんと意味が分からない。チートの友人はチートなわけ?
気がつけば俺たちを囲むように人が集まっていた。
「な、なんですの。これは!」
「お前のプレイが凄くて全員が見入ってたんだよ」
「そ、そうなのですの?」
「ああ」
すると店員が大きな何かのマスコットのぬいぐるみを渡そうとする。
「おめでとうございます」
「あ、あの……」
「受け取っとけ。それはお前への賞賛と褒賞みたいなものだ」
「そういうことなら……」
パチパチパチパチ!
嬉しそうに抱きかかえるアンドレア。それにしても変なマスコットだな。
その後俺たちは色んなゲームをして遊んだ。クレーンゲーム、音ゲー、コインゲームと大半のゲームは遊んだ。結果だけ言うなら、驚きを超えて呆れた。500RKで10個のぬいぐるみをゲットし、音ゲーでは鬼モードをパーフェクトするし、コインゲームに至ってはドル箱をいったい何箱積み上げるんだってツッコミしたくなる思いだった。絶対にアンドレアがカジノのお店に入ったら一日で出禁だろうな。正直ここがゲームセンターで良かったと思うぐらいだ。
気がつけば時間は過ぎ、空は茜色になっていた。
「そろそろ屋敷に戻るか」
「あ、あの……最後にあれがやりたいのですが……」
指差した方向に置かれていたのはプリクラだった。
「別に良いぞ」
「本当ですの!」
そんなに喜ばなくても。それにしてもプリクラか。俺が学生時代はあんなキラキラしてなかったぞ。
中に入り写真を撮る。
「これで終わりですの?」
「俺もよくは知らないけど、あとはこのペンで好きな文字やマークなんかを書き込んだり、選択すればいいみたいだな」
「凄いですわね」
まったくだ。社会人になってからプリクラをする時間も考えもなかったからな。
出来上がったプリクラをアンドレアに渡す。
「ほら」
「貰って良いのですの?」
「したかったのはアンドレアだろ。なら記念に貰っとけよ」
「そ、そうしますわ」
その後はモール前でバスに乗って帰宅した。それにしても今日は随分と遊んだな。学生らしい遊びだったけどな。前世で遊びって言ったら接待麻雀かパチンコかスロットだったし。あんまりしなかったけど。
「今日はとても楽しかったですわ」
「それは良かった」
その言葉だけで安堵だぜ。全然楽しくないってだけで死刑にされたらたまったものじゃないからな。
「またの機会があればエスコートして下さいますわよね?」
「あ、ああ。機会があればな」
これで終わりじゃないのか。なんだか自分でハードルを上げた気分だ。
少し憂鬱な気分になりながら俺とアンドレアは屋敷の扉を潜ると、ちょうどイザベラたちと出くわした。
「よ」
「イ、イザベラ様……」
「アンドレアお帰りなさい」
俺は無視ですか。
「それで今まで何してたの?」
「そ、それは………」
イザベラには知られたくない理由でもあるのか?
「ちょうど屋敷前で出くわしたからな。俺が頼み込んで遊ぶのに付き合ってくれたんだ」
「え?」
「お父様の客人の貴方にとやかく言うつもりはないわ。でもね、私の大切な友人の邪魔だけはしないで頂戴」
「分かってるよ」
「アンドレア、悪いけど陣形について少し話したいの荷物を置いたら中庭に来てくれる?」
「わ、分かりましたわ!」
それだけ言うとイザベラたちは中庭の方へと向かっていった。俺が原因とは言え、頑固というか子供だよな。
「悪いな。俺のせいで巻き込んで」
「いえ、別に貴方せいでは。それよりも私のせいでまた悪者に」
「あの程度悪者になりゃしねぇよ。それに生憎と俺はこの程度で落ち込むほどメンタルは弱くないんでな。気にしなくて良いぜ」
「ですが……」
「それより早く荷物を置いて向かった方が良いんじゃないのか?」
「そ、そうですわね!」
そう言ってアンドレアは二階にある客室に向かった。
たった一つの出来事が友人関係を破壊することはあるだろうとは思っていたが、これほどとはな。原因の渦中の俺が言えた義理じゃないか。
「遊んだし一緒に風呂入るか、銀」
「ガウッ」
銀を抱きかかえて俺たちも寝室へと向かった。
この状況になってから俺は食堂で食事をしていない。理由は勿論俺が食堂に居ると食堂の空気が異様に重たくなるからだ。それを避けて俺は自分から食堂に行くのをやめた。勿論あとでセバスが食事を持ってきてくれるから別にきにしたりはしない。俺にとって大事なのは食事があるかどうかだからな。
トントン。
お、夕食を持ってきてくれたみたいだな。
「どう――」
「入ります」
この声と傲慢な態度。
「何しに来たアスル」
「貴方に餌を持った来たに決まってるでしょ」
「俺はペットか!」
「由緒正しいルーベンハイト家で貴方のようなペットを飼うわけないでしょ」
「なら、なんだ?」
「家畜です」
「ペット以下かよ!」
ほんと、コイツと話すと無駄に疲れる。
「さっさと夕飯をおいて出て行けよ」
「言われるまでもありません」
テーブルに夕食を置く。うん、どうやら普通のサンドイッチだな。毒は入ってなさそうだ。
床にステーキを置いて俺と銀は夕食を堪能する。美味しい。相変わらず料理長のご飯は美味しいな。
「………」
「で、なんで出て行ってないんだ?」
「正直、不服極まりないないですが、私は貴方にお礼を言わなければなりません」
コイツどんだけ俺の事が嫌いなんだよ。だけど、
「お礼ってなんのことだ?」
「お嬢様を助けてくれた件です」
「知っていたのか」
「私たちカーラ姉妹はルーベンハイト家に仕える影ですので」
「なるほど。つまりは諜報活動もする暗殺者ってわけか」
「その通りです」
「で、なにか分かったのか?」
「分かっているのは、依頼主が男であるぐらいです。ただ年齢や背格好までは特定出来ていません。なにせ闇ギルドに関する情報は中々漏れませんから」
「そうなのか?」
「そう言えば貴方は無知でしたね」
心の底からの悪意を感じるのは俺だけだろうか。
「闇ギルドなる組織があること確実ですが、そのギルドがどこにあるのかまでは未だに特定出来ていないのです。またどうやって依頼を申請し、受けるのかもです」
それはもう見つけようがないだろ。前世と同じでインターネットがあるこの世界で見つけることが出来ない。それはもう亡霊としか言いようが無い。そんな組織を見つけるのは無理だ。逆に言えばイザベラの暗殺を依頼した者の性別が男であると言う事だけでも調べ上げたこいつらは影としてとても優秀だと言える。
「情報は分かった。だけど一つだけ言えることは間違いなく首謀者はまたイザベラを狙うぞ」
「それぐらい理解しています。蛆虫の貴方に言われたくはありません」
お前、俺にお礼を言いに来たんじゃないのか?
「それでは失礼します。あ、言い忘れるところでした。お嬢様を助けて頂きありがとうございました」
そう言って出て行く。全然お礼を言われた気がしないが、あいつの口から感謝の言葉が出ただけでも良しとするか。
食事を終えた俺はベッドに横になる。が、
「暇だ」
直ぐにでも寝れると思ったが全然意識が飛ぶ気配がない。
日中は結構遊んだ筈なんだがな。きっとアスルの話が気になっているせいだ。
「首謀者は男か」
イザベラを殺したいほどの憎しみを感じているとすれば考えられるのは才能の差。ぐらいだろう。どうみても時代錯誤だが、女の癖にって考えを未だに持っている奴の犯行とも考えられる。
他に考えられるとしたら学園を卒業した後だな。つまりイザベラに軍人になってもらっては困る奴の犯行。俺が知る限りアイツほど才能に恵まれた奴は居ない。銀を除いてだけど。つまりは軍人になって出世させるのが困る。となると軍の上層部の人間とも考えられるが、それなら軍に入隊したあとに事故に見せかけて殺せば良い筈。いや、イザベラ程の有名人が死んだとなれば軍の影響力が下がる危険性を考えて今殺そうとしているのか?考えられなくもないが、分かり易過ぎる気もするしな。
と、なると冒険者か?いや、一番関係が遠い職業だ。それはないか。いや、一度イザベラと手合わせをしたことのある冒険者って線もあるか。だとしてもそんな奴が闇ギルドに依頼を出してまで殺しをするとは思えないんだが。それに魔煙香の事もある。それを考えるならやはり冒険者はないな。となるとやはり軍?いや、軍でも手に入れるのは難しい筈だ。なら貴族か。だが貴族がどうしてイザベラを狙う。狙うなら普通ライオネルじゃないのか?でも最初の考えならありえるが、有名な女性の冒険者や軍人は沢山いる。イザベラを殺す理由にはならないよな。
「ああ、駄目だ!考えても答えが出てこない!」
だいたいこんな事考えるのは俺らしくないぞ!
そうだ!久々に妖精の楽園にでも行くか。この数ヶ月でもしかしたら新しい子が入っているかもしれないしな。
0
お気に入りに追加
3,123
あなたにおすすめの小説
無人島ほのぼのサバイバル ~最強の高校生、S級美少女達と無人島に遭難したので本気出す~
絢乃
ファンタジー
【ストレスフリーの無人島生活】
修学旅行中の事故により、無人島での生活を余儀なくされる俺。
仲間はスクールカースト最上位の美少女3人組。
俺たちの漂着した無人島は決してイージーモードではない。
巨大なイノシシやワニなど、獰猛な動物がたくさん棲息している。
普通の人間なら勝つのはまず不可能だろう。
だが、俺は普通の人間とはほんの少しだけ違っていて――。
キノコを焼き、皮をなめし、魚を捌いて、土器を作る。
過酷なはずの大自然を満喫しながら、日本へ戻る方法を模索する。
美少女たちと楽しく生き抜く無人島サバイバル物語。
ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝
ちゃわん
ファンタジー
どこにでもいる普通の高校生、端溜翔太は唐突に、何の準備もなく、剣と魔法の異世界ヴィドフニルに転移した。彼が転移した先は、空に浮かんでいる…島!?帰れない、どこにも行けない。そんな中出会ったのは、一匹の妖精と…羽の生えた死にかけの少女…?。生きる目的もない、生きてててもつまらないそんな人生を送っていた少年は、少女の世話をすることで変わっていく。日本初異世界介護物語スタート!
※なろう、カクヨムにも投稿しています。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活
破滅
ファンタジー
総合ランキング3位
ファンタジー2位
HOT1位になりました!
そして、お気に入りが4000を突破致しました!
表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓
https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055
みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。
そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。
そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。
そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる!
おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる