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111・幸せになれない不幸体質な女

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 111・幸せになれない不幸体質な女


「聞いてよ、めっちゃ腹の立つ事があったんだ!」

 こんな風に迫られたら、あ、そうなの? とか言えるわけない。仕方なく学校が終わったらマックで落ち合い、可能な限り心のナイチンゲールになってあげようと思うわたしがいた。

「〇〇なんだけどさ」

「あぁ、〇〇ね、〇〇がどうしたと?」

「あいつに告白されたの」

「おぉ、そんなことが!」

 わたしはまず素直に祝福した。なぜなら、目の前にいる友人に春がやってきて、友人が腹を立てるのは春に吹く冷風って何かが気に入らないからだと先読みしたから。

「いやぁ、ムカつくんだわ」

「なにが?」

「だから〇〇が」

「え、なんで? 告白してきたんでしょう? すぐに浮気するとかそういうオチ?」

「マリー、〇〇が浮気できるほどモテると思う?」

「あ、いや……それは……」

 なにこれ、急に〇〇がすごくかわいそうって展開になった。え、なに、これってラブな話じゃないの? と、わたしはコーラとポテトと食しながら感情に少量の雨雲がかかったというイメージに縛られる。

「え、なに? 〇〇に告白されんだよね?」

「うん、昨日された」

「で、あんたはどういう風に返事したの?」

「誰がおまえなんかか付き合うか、死ねバーカ! って言ってやった」

「えぇ! ちょっと待って、そんな過激な表現を使うほどに〇〇が嫌いだったの?」

「嫌いだったったというより、軽々しく告白したのが気に入らない」

「ごめん、わたしマリーは向き合うあんたの話が見えないのですけれど、どういうことですか?」

「だってあれじゃん、わたしがブスだから、ブスだから余りモノって思っていて、余りモノだから簡単に食えるとか考えて、だから告白してきたんだと読んでいる。だからわたし、ブスはおまえが思うほど簡単じゃない! って怒りが沸いたんだ。っていうか、マリーどうしたの?」

「あ、ごめん、ちょっと頭が痛くなって……」
 
 あぁ、そうだった……とわたしはここでひとつ重要なことを思い出した。目の前の友人は普段から、自分で自分をブスって言いまくる。女同士だからわかるって言えばわかるんだ。それは自分の弱い心を守るためのシールドだって。だけど友人はそれを、〇〇に告白された時には一振りで数十人の首を斬り飛ばせるような武器へ変換しちゃったんだ。

「えっと……」

 わたしはこの一瞬において光の速度で考えた。これはどぎつい話だ、笑ってたのしくやれるモノではない。そして友人に合わせて毒気づくと、わたしの性格もまちがいなく悪くなると思った。

「あ、ごめん、ちょっと今日は調子が悪くて……」

「もしかしてブルーデー?」

「あ、まぁ……」

「そうか、ムリヤリ付き合わせてごめんね。もうお開きにしよう。マリーに話を聞いてもらって少しはスッキリしたし」

「そ、そう、じゃぁ帰ろう」

 わたしは友人と別れてひとり歩きだした時、ただいまは小説に没頭しているのであろう光と無性に話がしたくなった。で、実際に電話をかけてしまっていた。

「あ、マリーどうした?」

「光……ただいまは執筆中ですか?」

「うん、そうだけれど……」

 あぁ、光が早く電話を切りたいと思っている。小説に没頭したいからこの電話を早く終わりにしたいと思っている事がわかる。

「光……」

「なに?」

「わたしってブスだよね」

「はぁ?」

「光はわたしみたいなブスと付き合って幸せ?」

「マリー、どうしたんだよ……どこかで転んで頭でも打った?」

「答えて!」

「そんなの決まっているだろう」

「な、なに?」

「絶対にそれはないと断言するけれど、でも仮にマリーがブスってマリー本人や周りが言っても……その、おれには関係ないんだよ」

「なんで?」

「だって……お、おれの両目はマリーを魅力的としか見ないから」

「はんぅ!」

「お、おれから見ればマリーはその……まぶしい太陽とか、とってもキュートなオレンジみたいな女の子でしかないから」

「は……んぅ……」

「っていうか……電話切ってもいい? 切りたい」

「あ、ご、ごめん、ジャマしてごめん、じゃぁ!」

 わたしは電話を切った。そしてスマホをバッグの中に入れるとき、変な電話をしたことをちょっと後悔。あぁ、今のはちょっと危なかった。変な事をしているとか、これ以上続けたら不幸になるみたいな感じがあったもんね。

 あぁ、だけど……光のセリフが胸に突き当たってうれしくて苦しい。あの部分だけでも録音しておけばよかった……なんて思ったりして。
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