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50・カップルで語彙力上げという共有のたのしみ

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 50・カップルで語彙力上げという共有のたのしみ


 学校が終わってから光と散歩デートする。その時、暑い、暑い、何万回言っても収束などありえないレベルで暑い。こうなるとアイスクリームを食べたくなる。

「光、アイスクリームを食べない?」

 わたしがコンビニに立ち寄ってイートインを誘ったのは、たしかにアイスクリームを食べたいと思ったから。でも実はもうひとつ理由があって、もしかするとそっちの方が大きいかもしれない。

「よいしょっと」

 わたしは光のとなりに腰を下ろしたのだけれど、さっそくやりたいと思う事を始めた。

「おぉ、短い間なら夏に負けないって冷たさのアイスを持つと、死ぬほど暑いのもまんざら悪くないって思っちゃうねぇ」

 わたしがクレープアイスの包装を解除しながらつぶやいてみると、同じモノを同じようにやりながら光が返してきた。

「この冷たい店内にいて食べ終えるまでって短い間だけの冷えた出会い。だからこのクールな時間に感謝したい」

「おぉ、さすが……今のは光の方が上だったねぇ」

「そりゃぁ、小説家志望ですから!」

 わたしは光といっしょに語彙力上げって取り組みをするのが好きだ。こういうのをやると、光と同じたのしみを持って生きているとか、お互い同じレベル的な満足感が胸に刺さる。

「光」

「なに?」

「小説家志望の出番だよ。このクレープアイスの味わいを語りたまえ」

「そりゃぁね、このモッチモッチの触感と甘いバニラアイスの甘く滑って混ざり合うってハーモニーがね、甘い恋の基本みたいって表現を連想させるわけで、そこにクランチがふりかかっているとかまさに心の余裕。このもっちりうま! は出会いはラッキーな味わいで、ちょっと食べにくい気がしないでもないって軽い歯がゆさは、大人を止めて子どもに戻って食べるのが正解って言われているみたいな気がするねぇ。ずばりこれのおいしさはたいせつなモノを忘れた大人を凌駕するって話だね」

「うわ、よく言うね」

「あ、いや、いまのはちょっと言いすぎたかなって」

「いやいや、わたしもそれくらい言わなきゃって思った。だって言葉にこだわるのはいいなぁって思うから。なんかこう……言葉を選んだり練ったりすると、少しとはいえ有意義に生きているって思えるから」

「だよねぇ」

 きっとあれだ、何も考えず、ただ「うまい!」 としか言わなかったら、何気につまらないって感じで話のすべてが終わったのだと思う。でもこういうちょっとしたたのしみを2人で共有すると、アイスひとつ食べただけではないような充実感がこみ上げる。

「さて、また暑い外に戻ろうか……光」

「そうだね、太陽に熱せられる広大な棺おけに入ろうか」

「おぉ、うまい!」

「ぜひマリーも一言!」

「えっと……熱いオーブンに身を投じましょうか……とか」

「ブッ! 冴えないの」

「あぁ、笑うな!」

 こんな小さくかわいい時間がたまらないのであります。わたしマリーは光といっしょに語彙力は人間力だ! の営みをやり続けたいと思うのであります。
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