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大人の日本昔ばなし・「うさぎとたぬき」
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むかーし、あるところに一匹のうさぎがおった。このうさぎ、人間だったら15、6の娘っ子という年頃じゃがとにかく性根が悪かった。
そんなうさぎがある老夫婦に目を付けた。じい様もばあ様もどちらも立派と村人たちから絶賛されておって、それがうさぎには気に入らんかった。
「なーにが立派な人じゃぁ、オラそういうのは好かん!」
うさぎ、まずはじい様に化けた。そして畑仕事に精を出しておるばあ様のところへと出向いていった。
「ばあさんや、ばあさんや」
「あれまじいさん、どうしたんじゃ?」
「昼飯持って来たで」
「なんじゃ、いつもより早ぅ出来たんか?」
「そうじゃ、じゃが今日のはいつもよりうまいんじゃよ、どうじゃひとつ食うてみ」
「ふむ、見た目はふつうの握り飯みたいに見えるがのぉ」
ばあ様はじい様の作ってくれた握り飯をひとつパクっとやった。するとどうじゃ、その瞬間にムニュウっとしてどえらい悪臭が漂った。
「ぺ、ぺ、なんじゃこれはぁ……」
「きゃーはははは、食いよった、食いよった、ざまーみろ!」
「おのれ、いたずらうさぎめ……よくも騙しおったな!」
「ババアが糞食うてクソババアじゃ、ババアが糞食うてクソババアじゃ、やーいやーいクソババア、ここまでおいでぇーだ!」
とまぁ、こんな感じでいつもうさぎはいたずらばかり仕掛けておった。じゃがとうとううさぎもしくじってしもうて、ばあ様の策略にハマって捕獲されてしもうた。
「爺さんや、オラいつもどおり畑に行くで、そのうさぎで鍋でもこしらえてくれや」
「任せとけ、オラが腕に振るってうまい鍋つくってやるでな」
こうして婆さんは畑仕事に、爺さんは家でうさぎの鍋を作る用意を始めた。するとしばらくして、うさぎがシクシクと泣き出した。
「じい様、お願いじゃ許してくんろ……」
「何言うとるだ、今まで散々悪さばかりしよったくせに」
「これからはいい子になるだ、おねげぇだ」
じい様は当初うさぎを許すつもりはなかった。じゃがうさぎは何せ年頃の女子じゃぇ、泣くのが非常にうまかった。そしてうさぎはじい様に甘い話を持ちかけた。
「のうじい様、助けてくれたら……オラこれからは人間の娘として過ごすで、そのときはじい様の嫁になるで」
「なに、人間の娘に? うさぎ、おまえはいくつじゃぁ?」
「人間になったらオラは15歳くらいじゃ。しかもその……」
「なんじゃ恥ずかしがらんと言うてみ!」
「人間になったオラは乳が大きいけ……恥ずかしいんじゃ」
「なに、乳が大きいじゃと!」
じい様はすっかりうさぎの話に心を奪われてしもうた。そして別の何かで適当な料理を作ってばあ様をごまかせばええじゃろうと、そんな事まで思うてしもうた。
「よし、いま縄っこ外してやるでな……ほら、外れたぞい」
「じい様……おら何とお礼を言うてええだか」
「そんな事よりうさぎ、早よぅ変身せんか、乳の大きい人間の女子に早ぅなるんじゃ」
「わかった、今からなるで……でも恥ずかしいからちょっとあっちを向いていくんろ」
「わかった」
じい様はすっかりホクホクしながらうさぎに背中を向けた。するとうさぎ、今じゃ! とばかり近くになった杵突きを取ると天井高く飛び上がった。
「マヌケジジイ!」
ウサギは笑いながら勢いよく杵を振り下ろした。すると脳天に強烈な一撃をくらったことでじい様は気を失のうてしもうた。
「さぁこれからじゃ、おいしい鍋つくるための準備じゃ」
ウサギ、一番大きい包丁を手にすると、気絶して仰向けにじい様の喉に当て、勢いよく左右にグワっと引いた。
「ぴぎゅぅ!!」
喉から血を出しながらじい様が目を覚ます。
「ジジイがやかましいんじゃぁ!」
うさぎ、噴水ように勢いよく噴き出す返り血を浴びながら、力いっぱいに包丁をギコギコやる。その間、じい様はビクビクっと気の毒なけいれんを何回も起こすのじゃった。
「てやぁぁぁぁ!!」
うさぎが全力で包丁に力を入れると少しずつビリビリって音がし始めた。そして赤と肌色の皮膚が確実に破け広がっていき、とうとうじい様の首は切り離されてしもうた。
「さぁ、作るべや、作るべや、ジジイ鍋を作るべや」
次にうさぎはじい様の死体を解体し始めた。新鮮な内臓を取り出したら、それは横に置いておいて、今度はじい様の体を細切れにし始めた。そうしてそれらを臼で挽き、内臓を絡み合わせ団子を作り始め歌うのじゃった。
「うさぎのつくる団子はおいしいぞっと、うさぎのつくる団子はおいしいぞっと、ババア早く帰ってこい、うまい団子汁を食わせてやるでな」
それからしばらくしてばあ様が畑仕事から帰ってきた。するとニコニコ顔のじい様が、腕を振るってつくったという団子汁で迎えてくれた。
「ほぉ、これがあのウサギの団子汁か」
「そうじゃぁ、あのうさぎはやわらかくていい肉じゃったから、さぞやうまいじゃろう。ささ、遠慮せんと腹いっぱい食うてけれや」
じい様に勧められた団子汁をばあ様は食べ始めた。それは今まで食べたことのない、ねっちゃりとして奇妙な味わいに満ちておった。そして少し……なぜか身に覚えのあるようなニオイがするとも思ったのじゃった。
「じいさんや、これウサギ汁か? なんか他のを混ぜたか?」
「のう、ばあさん、おまえその団子を食うて気づかんかの?」
「なーにを気づく言うんじゃ?」
「鈍いババアじゃのぉ、ほんに鈍いクソババアじゃ」
「あ、おまえは!」
ここで笑いをこらえきれなくなったうさぎが正体を現した。ばあ様は驚いた次、じい様はどこじゃ! と聞いた。
「ババア! ジジイはおまえの中じゃ、永遠におまえといっしょになったんじゃ」
「なんじゃと……ほならこれは……」
「やーい、やーい、ババアがジジイを食いよった、ジジイ団子を食いよった、罰当たり、罰当たり、クソババアの罰当たり!」
うさぎはうれしそうな顔で歌ったあと、跳ねるようにしてその場から逃げ去ってしもうた。そして後にはじい様を食って悲しむばあ様だけが取り残されてしもうた。
「あんまりじゃぁ……なんでこないな事になったんじゃ……おら……じい様を食うてしもうた。おら、いったいどうしたらええんじゃぁ」
ばあ様は深く悲しんでおったが、その泣き声を聞いたことで一匹のたぬきがやってきた。そして泣きじゃくっておるばあ様の話を聞いた。
「なんとひどいうさぎじゃ……」
「そうじゃぁ、あのうさぎは性悪じゃぁ……」
「ばあ様、オラに任しておけ、オラが必ず仇討ちしてやるでな」
こうしてたぬきは必ずうさぎを成敗するとばあ様に約束したのじゃった。そんな事なんぞまったく知らんうさぎは、翌日も平然と笑顔で山の中を歩いておった。
「ん?」
うさぎがふっと立ち止まって前を見ると、今まで見た事のないオスのウサギが背に薪を背負って歩いておった。
「誰じゃ……あんなイケメン……オラ初めて見るだ……」
年頃で盛りなうさぎは見知らぬイケメンうさぎにすっかり心を奪われた。そしてすぐに声をかけ親しくなろうと試みるのじゃった。
「おまえさん……どこのうさぎじゃ?」
「オラか? オラはちょっと前にあっちの山から来たうさぎじゃ。あっちは色々住みにくぅなってきよったでな、もうこっちに腰を下ろすつもりじゃ」
「そうかぁ、で、薪は何に使うんじゃ?」
「オラ、自分で家を建てたんじゃ、じゃから薪が必要なんじゃ」
「家をか? おまえさん生活力があるんじゃなぁ」
タダでさえイケメンだとハァハァやっていたうさぎ、生活力があってかっこういいと思ったらもう止まらん。今すぐにでも抱いて欲しいとうずき出す。
「なぁ、おまえさん……」
「なんじゃ?」
「おまえさん……オラみたいな女子は嫌いか?」
「なんじゃ急に……」
「オラ、おまえさんに一目惚れしたんじゃ……抱いて欲しいんじゃ」
うさぎは顔を赤らめかわいい子ぶった。ところがオスうさぎはきっぱりと断ったのじゃ。そんな破廉恥なことは出来ん! 言うてな。
「なーにが破廉恥じゃぁ、オスとメスが愛しおうて何がいけんのじゃぁ」
やりたい盛りのうさぎはすっかり腹を立て、オスうさぎの前にかがむと尻を突き出した。そして抱いてくれんかったら、このまま死ぬ! とワガママを言う。
「ほ、ほなら……一回だけ……」
オスうさぎがそう言うたとき、やった! とメスうさぎはホクホクした。これでイケメンと結ばれ遊んで暮らせると顔をニヤニヤさせた。
じゃがそのとき、後ろでカチカチと音がした。なんの音じゃ? とうさぎが言うと、カチカチ山があくびをしとるんじゃろうとオスうさぎは返した。そうか……と納得したうさぎ、早く! と女をいっぱいに疼かせる。じゃがその次の瞬間、オスうさぎが大きな声で叫んだのじゃった。
「えぇぇいい!!」
うさぎ、両目を大きく開いてびっくり。なんと火のついた棒を女という穴にねじ込まれてしもうた。そうするとうさぎの体内が勢いよく焦げ始める。
「あ、おまえはたぬき!」
上から抑え込まれ動けないうさぎ、体内の火を消すことができずジタバタしながら騙されたことに気づいた。
「そうじゃぁ、オラたぬきじゃ。この性悪うさぎめ、じい様の敵じゃ、焼けて死ぬがええ」
「やめてくれ……おねげぇじゃ、やめてくれ、これからはいい子になるだから」
ボーッと女が燃えて火が燃え広がる中、うさぎは涙を流しながらやめてくれとたぬきに哀願した。じゃがたぬきは取り出した刃物でうさぎの足をすべて切り落とした。
「じい様の仇じゃ!」
たぬきはそう叫び、どんどん燃えていくうさぎの体を見つめ続けるのじゃった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なんともおそろしい断末魔じゃった。そして叫ぶことも動くこともなくなったうさぎは真っ黒こげになってしもうた。
「よし、悪いうさぎはやっつけた、急いでばあ様に報告じゃ!」
たぬきは黒焦げになったうさぎの死体をもってばあ様の家に向かった。これで一件落着と思うてホッとしておった。じゃがばあ様の家が見えたとき、たぬきはおどろきで立ち止まってしもうた。
「あ!」
なんと……ばあ様の家が燃えておる。悪いうさぎを焼き殺したの同じころ、じい様を失った悲しみに耐えきれなんだばあ様が家ごと焼身自殺をしてしもうたのじゃ。
「ばあ様……」
結局……誰も幸せにはなれんかった。誰も報われんかった。ただたださみしそうな顔をするたぬきが燃える家を見つめるだけじゃった。
そんなうさぎがある老夫婦に目を付けた。じい様もばあ様もどちらも立派と村人たちから絶賛されておって、それがうさぎには気に入らんかった。
「なーにが立派な人じゃぁ、オラそういうのは好かん!」
うさぎ、まずはじい様に化けた。そして畑仕事に精を出しておるばあ様のところへと出向いていった。
「ばあさんや、ばあさんや」
「あれまじいさん、どうしたんじゃ?」
「昼飯持って来たで」
「なんじゃ、いつもより早ぅ出来たんか?」
「そうじゃ、じゃが今日のはいつもよりうまいんじゃよ、どうじゃひとつ食うてみ」
「ふむ、見た目はふつうの握り飯みたいに見えるがのぉ」
ばあ様はじい様の作ってくれた握り飯をひとつパクっとやった。するとどうじゃ、その瞬間にムニュウっとしてどえらい悪臭が漂った。
「ぺ、ぺ、なんじゃこれはぁ……」
「きゃーはははは、食いよった、食いよった、ざまーみろ!」
「おのれ、いたずらうさぎめ……よくも騙しおったな!」
「ババアが糞食うてクソババアじゃ、ババアが糞食うてクソババアじゃ、やーいやーいクソババア、ここまでおいでぇーだ!」
とまぁ、こんな感じでいつもうさぎはいたずらばかり仕掛けておった。じゃがとうとううさぎもしくじってしもうて、ばあ様の策略にハマって捕獲されてしもうた。
「爺さんや、オラいつもどおり畑に行くで、そのうさぎで鍋でもこしらえてくれや」
「任せとけ、オラが腕に振るってうまい鍋つくってやるでな」
こうして婆さんは畑仕事に、爺さんは家でうさぎの鍋を作る用意を始めた。するとしばらくして、うさぎがシクシクと泣き出した。
「じい様、お願いじゃ許してくんろ……」
「何言うとるだ、今まで散々悪さばかりしよったくせに」
「これからはいい子になるだ、おねげぇだ」
じい様は当初うさぎを許すつもりはなかった。じゃがうさぎは何せ年頃の女子じゃぇ、泣くのが非常にうまかった。そしてうさぎはじい様に甘い話を持ちかけた。
「のうじい様、助けてくれたら……オラこれからは人間の娘として過ごすで、そのときはじい様の嫁になるで」
「なに、人間の娘に? うさぎ、おまえはいくつじゃぁ?」
「人間になったらオラは15歳くらいじゃ。しかもその……」
「なんじゃ恥ずかしがらんと言うてみ!」
「人間になったオラは乳が大きいけ……恥ずかしいんじゃ」
「なに、乳が大きいじゃと!」
じい様はすっかりうさぎの話に心を奪われてしもうた。そして別の何かで適当な料理を作ってばあ様をごまかせばええじゃろうと、そんな事まで思うてしもうた。
「よし、いま縄っこ外してやるでな……ほら、外れたぞい」
「じい様……おら何とお礼を言うてええだか」
「そんな事よりうさぎ、早よぅ変身せんか、乳の大きい人間の女子に早ぅなるんじゃ」
「わかった、今からなるで……でも恥ずかしいからちょっとあっちを向いていくんろ」
「わかった」
じい様はすっかりホクホクしながらうさぎに背中を向けた。するとうさぎ、今じゃ! とばかり近くになった杵突きを取ると天井高く飛び上がった。
「マヌケジジイ!」
ウサギは笑いながら勢いよく杵を振り下ろした。すると脳天に強烈な一撃をくらったことでじい様は気を失のうてしもうた。
「さぁこれからじゃ、おいしい鍋つくるための準備じゃ」
ウサギ、一番大きい包丁を手にすると、気絶して仰向けにじい様の喉に当て、勢いよく左右にグワっと引いた。
「ぴぎゅぅ!!」
喉から血を出しながらじい様が目を覚ます。
「ジジイがやかましいんじゃぁ!」
うさぎ、噴水ように勢いよく噴き出す返り血を浴びながら、力いっぱいに包丁をギコギコやる。その間、じい様はビクビクっと気の毒なけいれんを何回も起こすのじゃった。
「てやぁぁぁぁ!!」
うさぎが全力で包丁に力を入れると少しずつビリビリって音がし始めた。そして赤と肌色の皮膚が確実に破け広がっていき、とうとうじい様の首は切り離されてしもうた。
「さぁ、作るべや、作るべや、ジジイ鍋を作るべや」
次にうさぎはじい様の死体を解体し始めた。新鮮な内臓を取り出したら、それは横に置いておいて、今度はじい様の体を細切れにし始めた。そうしてそれらを臼で挽き、内臓を絡み合わせ団子を作り始め歌うのじゃった。
「うさぎのつくる団子はおいしいぞっと、うさぎのつくる団子はおいしいぞっと、ババア早く帰ってこい、うまい団子汁を食わせてやるでな」
それからしばらくしてばあ様が畑仕事から帰ってきた。するとニコニコ顔のじい様が、腕を振るってつくったという団子汁で迎えてくれた。
「ほぉ、これがあのウサギの団子汁か」
「そうじゃぁ、あのうさぎはやわらかくていい肉じゃったから、さぞやうまいじゃろう。ささ、遠慮せんと腹いっぱい食うてけれや」
じい様に勧められた団子汁をばあ様は食べ始めた。それは今まで食べたことのない、ねっちゃりとして奇妙な味わいに満ちておった。そして少し……なぜか身に覚えのあるようなニオイがするとも思ったのじゃった。
「じいさんや、これウサギ汁か? なんか他のを混ぜたか?」
「のう、ばあさん、おまえその団子を食うて気づかんかの?」
「なーにを気づく言うんじゃ?」
「鈍いババアじゃのぉ、ほんに鈍いクソババアじゃ」
「あ、おまえは!」
ここで笑いをこらえきれなくなったうさぎが正体を現した。ばあ様は驚いた次、じい様はどこじゃ! と聞いた。
「ババア! ジジイはおまえの中じゃ、永遠におまえといっしょになったんじゃ」
「なんじゃと……ほならこれは……」
「やーい、やーい、ババアがジジイを食いよった、ジジイ団子を食いよった、罰当たり、罰当たり、クソババアの罰当たり!」
うさぎはうれしそうな顔で歌ったあと、跳ねるようにしてその場から逃げ去ってしもうた。そして後にはじい様を食って悲しむばあ様だけが取り残されてしもうた。
「あんまりじゃぁ……なんでこないな事になったんじゃ……おら……じい様を食うてしもうた。おら、いったいどうしたらええんじゃぁ」
ばあ様は深く悲しんでおったが、その泣き声を聞いたことで一匹のたぬきがやってきた。そして泣きじゃくっておるばあ様の話を聞いた。
「なんとひどいうさぎじゃ……」
「そうじゃぁ、あのうさぎは性悪じゃぁ……」
「ばあ様、オラに任しておけ、オラが必ず仇討ちしてやるでな」
こうしてたぬきは必ずうさぎを成敗するとばあ様に約束したのじゃった。そんな事なんぞまったく知らんうさぎは、翌日も平然と笑顔で山の中を歩いておった。
「ん?」
うさぎがふっと立ち止まって前を見ると、今まで見た事のないオスのウサギが背に薪を背負って歩いておった。
「誰じゃ……あんなイケメン……オラ初めて見るだ……」
年頃で盛りなうさぎは見知らぬイケメンうさぎにすっかり心を奪われた。そしてすぐに声をかけ親しくなろうと試みるのじゃった。
「おまえさん……どこのうさぎじゃ?」
「オラか? オラはちょっと前にあっちの山から来たうさぎじゃ。あっちは色々住みにくぅなってきよったでな、もうこっちに腰を下ろすつもりじゃ」
「そうかぁ、で、薪は何に使うんじゃ?」
「オラ、自分で家を建てたんじゃ、じゃから薪が必要なんじゃ」
「家をか? おまえさん生活力があるんじゃなぁ」
タダでさえイケメンだとハァハァやっていたうさぎ、生活力があってかっこういいと思ったらもう止まらん。今すぐにでも抱いて欲しいとうずき出す。
「なぁ、おまえさん……」
「なんじゃ?」
「おまえさん……オラみたいな女子は嫌いか?」
「なんじゃ急に……」
「オラ、おまえさんに一目惚れしたんじゃ……抱いて欲しいんじゃ」
うさぎは顔を赤らめかわいい子ぶった。ところがオスうさぎはきっぱりと断ったのじゃ。そんな破廉恥なことは出来ん! 言うてな。
「なーにが破廉恥じゃぁ、オスとメスが愛しおうて何がいけんのじゃぁ」
やりたい盛りのうさぎはすっかり腹を立て、オスうさぎの前にかがむと尻を突き出した。そして抱いてくれんかったら、このまま死ぬ! とワガママを言う。
「ほ、ほなら……一回だけ……」
オスうさぎがそう言うたとき、やった! とメスうさぎはホクホクした。これでイケメンと結ばれ遊んで暮らせると顔をニヤニヤさせた。
じゃがそのとき、後ろでカチカチと音がした。なんの音じゃ? とうさぎが言うと、カチカチ山があくびをしとるんじゃろうとオスうさぎは返した。そうか……と納得したうさぎ、早く! と女をいっぱいに疼かせる。じゃがその次の瞬間、オスうさぎが大きな声で叫んだのじゃった。
「えぇぇいい!!」
うさぎ、両目を大きく開いてびっくり。なんと火のついた棒を女という穴にねじ込まれてしもうた。そうするとうさぎの体内が勢いよく焦げ始める。
「あ、おまえはたぬき!」
上から抑え込まれ動けないうさぎ、体内の火を消すことができずジタバタしながら騙されたことに気づいた。
「そうじゃぁ、オラたぬきじゃ。この性悪うさぎめ、じい様の敵じゃ、焼けて死ぬがええ」
「やめてくれ……おねげぇじゃ、やめてくれ、これからはいい子になるだから」
ボーッと女が燃えて火が燃え広がる中、うさぎは涙を流しながらやめてくれとたぬきに哀願した。じゃがたぬきは取り出した刃物でうさぎの足をすべて切り落とした。
「じい様の仇じゃ!」
たぬきはそう叫び、どんどん燃えていくうさぎの体を見つめ続けるのじゃった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なんともおそろしい断末魔じゃった。そして叫ぶことも動くこともなくなったうさぎは真っ黒こげになってしもうた。
「よし、悪いうさぎはやっつけた、急いでばあ様に報告じゃ!」
たぬきは黒焦げになったうさぎの死体をもってばあ様の家に向かった。これで一件落着と思うてホッとしておった。じゃがばあ様の家が見えたとき、たぬきはおどろきで立ち止まってしもうた。
「あ!」
なんと……ばあ様の家が燃えておる。悪いうさぎを焼き殺したの同じころ、じい様を失った悲しみに耐えきれなんだばあ様が家ごと焼身自殺をしてしもうたのじゃ。
「ばあ様……」
結局……誰も幸せにはなれんかった。誰も報われんかった。ただたださみしそうな顔をするたぬきが燃える家を見つめるだけじゃった。
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